ロキ・ファミリアに父親がいるのは間違っているだろうか 作:ユキシア
「お父様って入団当初からそんなに強かったんですね……」
ガレスから父親である秋夜の入団当時の話を聞いてルフェルは目を丸くした。
「あやつは特別じゃ。特に抜刀術に関してはあやつの右に出る者はおらなんだ。儂たちですら目視することもかなわん音越えの抜刀術じゃったよ」
「そんなに……」
「鍔が鳴る音が聞こえた時は既に敵を倒している事から神々は秋夜に【鍔鳴り】の二つ名を送ったんじゃ」
当時、【ランクアップ】を果たした時に与えられた秋夜の二つ名に秋夜はもう少しいい二つ名がよかったと愚痴を言っておったことを思い出したガレスはそれを頭の片隅に放り投げる。
父親の話を聞いてルフェルは改めて秋夜の剣術の凄さに驚いた。
だけど一つだけ腑に落ちない点があった。
「……お父様の左腕はいったいどうして無くなってしまったんですか?」
ルフェルは幼い頃に興味本位で聞いたことはあったが、適当にはぐらかされてまともに答えを教えて貰っていない。
ガレスの話を聞くまではダンジョンの不慮の事故で無くなったと思っていたが、それだけの実力者である父親がそう簡単に左腕を失うとは思えない。
その問いにガレスは神妙な顔で髭を擦る。
「……儂等のせいなんじゃ。あやつの左腕を犠牲に儂等は助かった」
それは秋夜を含めてフィン達全員がLv.2に【ランクアップ】を果たして多少名が知れ渡たった頃。
「ダンジョン探索ご苦労さん!今日は飲めや!乾杯!」
とある酒場でダンジョン帰りにロキに連れられて酒場にやってきたフィン達はそれぞれの飲み物を持って一つのテーブルで小さな宴を開いていた。
「よし、ガレス!飲み比べしようぜ!」
「おう!望むところじゃ」
「うちもやるで!」
秋夜、ガレス、ロキはジョッキをぶつけて一気に酒を口の中に入れていく。
微笑を浮かべながら自分のペースで飲んでいくフィン、酒を口にしないリヴェリアは飲み比べをする三人に声を飛ばす。
「三人共酒もほどほどにしておけ。後で誰が面倒を見ると思っている」
「安心しろってリヴェ。面倒を受け持つのはリヴェとフィンの役目だからな」
「それのどこに安心する要素があるというのだ!?」
「やれやれ……」
秋夜の言葉に怒鳴るリヴェリアと苦笑を浮かべるフィン。
それでも秋夜達は酒を飲むのは止めない。
秋夜が【ロキ・ファミリア】に入団してから数多くの冒険を重ねてきたが、秋夜とリヴェリアの関係は変わらなかった。
生真面目なリヴェリアを調子よくからかう秋夜。
時折リヴェリアとガレスのいざこざがあるが、それは秋夜が上手いこと言い包めて二人のいざこざは極端に減った。
だが、リヴェリアは秋夜にからかわれるようになって心労はむしろ増えただろう。
【ロキ・ファミリア】が結成されたから数年が立つが団員は増えることなくまだ四人。
ロキが街中で
それが理由で
それでも何年も共に冒険をしてきた四人はLv.2でも上位の実力を持ち合わせている。
ばらばらの種族でもロキを含めて五人は互いに強い信頼関係を築き上げている。
「ぷは!どうだ、ガレス!?ロキ!?そろそろギブアップしたらどうだ!?」
「抜かせ!この程度で儂は潰れぬぞ!」
「うちもまだまだ行けるで!」
もう何杯目になるかわからないほど飲み比べを続ける三人にリヴェリアはこれ以上は飲ませまいともう一度声をかける。
直後――――ばしゃ!と。
秋夜は突然水浸しになった。
「悪い悪い、手が滑っちまった」
秋夜の後ろで空になったジョッキを片手に哄笑を浮かべる大柄な
「おい!その子供!秋夜にいきなりなにすんや!?」
楽しく子と酒を飲んでいたロキが秋夜を酒浸しにした男性の
「悪いって言ってるだろう?女神様……おいおい、本当に女神かよ?男神の間違いじゃねえか?」
「むきぃぃいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいいぶち殺す!!」
「やめい!お前が暴れてどうする!?」
キレるロキを羽交い締めで止めるガレス。
「……いったいどういう了見だい?突然こんなことをされる覚えは僕達も秋夜にもないと思うんだけど?」
冷静に語るも所々怒気が籠っているフィンも突然の仕打ちに怒りが隠せれないでいる。
同じテーブルに座っているリヴェリアも鋭い視線を男達に向けていると男は嘲笑いながらフィンの言葉に答えた。
「なぁに、洗礼ってやつだ。最近調子の乗っているお前等に先輩である俺達が忠告してやってんのさ。調子に乗るのも大概にしろってな」
「調子に乗った覚えはないと思うけど?」
あくまで冷静に語るフィン。
「矮小の
「おいおい、ダスダさん。あんたとこんな奴等を一緒にしたら可哀相ですよ」
「そうですぜ、こいつらもこいつらなりに頑張ってるんすから」
「違いねえ、ハハハハハハハハハハハハハハハハハ!!」
「ほう、それじゃその力馬鹿のドワーフの力を試してみるか?」
我慢していたガレスは遂に限界を迎えて拳を握るとフィンとリヴェリアも静かに席を立って臨戦態勢を取る。
ダスダはそれを見て嘲笑して得物を手に取ろうとした瞬間。
「まぁまぁ、待てって」
ダスダとフィン達の間に秋夜が割って入った。
「どくんじゃ秋夜!一発ぶん殴らんと気が収まらん!!」
「落ち着けよ、ガレス。ここはダンジョンじゃなくて酒を飲む場所だぞ?酒を飲めばその怒りもどっか飛んで行くって」
怒るガレスを宥めようとする秋夜にフィン達も必死に怒りを抑えようとする。
相手はLv.3の冒険者。
ここで先に手を出して喧騒でも起こせばその責任は先に手を出した【ロキ・ファミリア】に課せられる。
向こうはあくまで挑発しただけ。
ここは秋夜に免じて怒りを呑み込もうとする。
だが、ダスダの拳は秋夜の側頭部を捕えて殴り飛ばす。
「おいおい、とんだ腰抜けだな【鍔鳴り】。その腰にある立派なものを抜いたらどうだ?」
「秋夜!」
「貴様、よくも私達の仲間を!」
「もう我慢ならん!!」
仲間がやられて怒りが頂点に達したフィン達は得物を手に持ってダスダ達と一触即発状態になる。
「止めろ!!」
怒声が酒場に響き渡り、その制止の声にフィン達の動きが止まる。
「フィン、リヴェ、ガレス………手を出すな」
頭から血を流しながらも仲間に制止の言葉を送る秋夜にダスダは笑った。
「ハハハハ!利口じゃねえか、【鍔鳴り】。かなわねぇ敵に対して立ち向かわない。弱い奴が身を守るみっともねえ決断だ」
ダスダの言葉に悔やむフィン達にダスダは踵を返して店を出て行く。
「あばよ、腰抜け【ファミリア】ども」
興が冷めたのか酒場を後にしていくダスダ達にフィン達は秋夜のもとに駆け出すとリヴェリアはすぐに魔法で治療する。
「……秋夜、どうしてだ?お前は悔しくないのか?」
魔法で治療しながらリヴェリアは続ける。
「お前にはプライドというものはないのか?お前の剣技なら勝てなくとも一矢報いることぐらい出来たはずだ」
「………」
悔しそうに表情を歪ませながら問いかけるリヴェリアに秋夜は何も答えない。
それを見てリヴェリアは。
「………見損なった。私は貴様を心底見損なったぞ」
軽蔑するかのように秋夜に告げた。
フィンもガレスもその言葉に否定も肯定も取らなかった。
「………」
険悪な雰囲気のなかでロキだけは秋夜の肩に手を置いた。
「ありがとな」
酒場の騒動から数日後にギルドでガレスはある
「これに行くぞ!!」
見せてきた依頼は今までのより三つ下の階層19階層の依頼だった。
四人の実力は既にLv.3に近い為に19階層でも注意を怠ることがなければ何とか達成できる依頼だった。
「……そうだね、今の僕達ならちょうどいいかもしれないね」
リーダーを務めているフィンも特に否定せずに依頼を受けようと思ったが秋夜が三人に声をかけた。
「まだ早いんじゃねえか?少なくとも誰かがLv.3になってからでも遅くはないだろう?」
安全確保で依頼のランクを下げようと告げる秋夜にリヴェリアは冷たい声音で話す。
「だったら貴様は残っていろ。私達だけでも十分に終わらせれる依頼だ」
「そういうわけにもいかないだろう?俺はもう少し実力をつけてから」
「もういい、貴様とは話にならん」
ばっさりと切り捨てるリヴェリアにやれやれと息を吐く秋夜。
フィンもガレスもいつもと違う二人に何とも言えない。
酒場の一件以来、リヴェリアは秋夜に冷たくなった。
パーティーメンバーとしてはわだかまりはなくしたいフィンだが、どうすることもできない。
「秋夜、僕もこの依頼を受けようと思っている。だけど無理してまで君を連れては行かない」
チームワークを乱すわけにもいかないフィンはリーダーとしてその事を告げると秋夜は納得はできないがフィン達だけを行かせるわけにもいかずしぶしぶ納得して依頼を受ける。
上層、中層、一度18階層で休息を取ってから19階層に足を運んだフィン達だが、多少苦戦はあってもこれといった問題はなく無事に依頼を達成した。
「ふぅ、これならもっと早く来ておくべきじゃったか……」
「この階層でも私の魔法は通用するな」
この階層で十分な手応えを感じた二人に秋夜は先ほどから親指を見ているフィンに声をかける。
「フィン、どうした?」
「……親指が疼く。何かあるんじゃないかな?」
フィンの言葉に周囲を見渡す秋夜だが、周囲のモンスターは粗方倒して今は周囲にモンスターはいない。
一体何がと考えていると別の通路から大量のモンスターを引き連れたダスダ達がやってきた。
「いかん!『
別の冒険者にモンスターを押し付ける
ダスダはフィン達に大量のモンスターを押しつけてきた。
「クソッ!」
悪態を吐きながら刀を抜刀してモンスターと応戦する秋夜達。
だが、数が数の為に防戦一方を強いられる秋夜達は最後の頼みの綱であるリヴェリアの魔法に縋る。
詠唱を行うリヴェリアを守ろうとする秋夜達だが、一体のモンスターが三人の横を通り過ぎてリヴェリアに向かってその大口を開けた。
「――――――ッ!」
溜めた魔力が大きすぎる為に回避ができないリヴェリアは死の覚悟を固めて眼を閉じた。
だが、いつまで経っても痛みが襲って来ないリヴェリアは目を開ける。
「無事か……リヴェ」
「秋夜………」
そこにはモンスターに左腕を噛み千切られ、右手に持った刀でモンスターを突き刺している秋夜の姿があった。
身を挺してリヴェリアを守った秋夜は刀を振ってモンスターを切り裂くと小さく息を吐いてスキルを口にする。
「修羅妖光」
その瞬間、終夜の瞳は赤く光り、咆哮を上げる。
「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッッ!!」
一人の修羅がここに姿を現した。