赤い刃と琥珀の槍が火花を散らす。
「――ぬっ!?」
キャスターの放った槍の重さにセイバーは虚を突かれた。
――腕ごと大きくののけぞってしまい、後ろに引かざるを得なくなる。セイバーは、素速く体勢を立て直した。
続いてランサーから放たれせまる稲妻のように鋭い一刺し。
セイバーはそれを凌ぐために剣の腹で防ぐが―――流弾の破裂するような音と共に大きく後退する。
「なんというっ――――くっ!?」
息をつく暇すらゆるさない。マシンガンのように放たれる槍にセイバーの守りはより堅く固められ―――。
「しまッ―――――」
「―――そこッ!!」
固まったが最後、ヨコ薙ぎで大きく吹き飛ばされた。セイバーが風に吹かれた塵がごとく吹き飛び―――水晶柱に激突する。
「――――がぁっッ」
セイバーの悲鳴がこだまする。
水晶柱が砕けたせいで煙が立ちこめた。
そこに勝機を見たか。
キャスターは加速し、セイバーが倒れているであろう場所に槍を突き立てんとする。
その時。
「――――――っ……よせ、キャスター! 罠だ!」
「―――――!?」
ヒビノが何かに気づき、慌ててキャスターに警鐘をならしたが―――。
煙を裂いて、水晶が飛び出してきた。
その突然さ故か。実力差にあぐらをかいたせいか。
飛び出したそれを槍で打ち払ってしまった。
キャスターであれば、ソレこそが相手の狙いであることは一目で見抜けた筈なのに。
槍で打ち払われ、砕けた水晶から激しい閃光が放たれた。
キャスターに吹き飛ばされたセイバーは、水晶柱に激突したさい、砕け宙に舞う水晶を掴み、速攻で魔術を施した。
それを、遠目ながら――実際はぼやけてしっかりとは確認できなかったが、何かしらを使用としたことはヒビノに見て取れた。故に、キャスターに伝えたが、一歩遅かったのだ。
セイバーは、自身が煙の中にいてキャスターから見えないことを利用した。
キャスターが槍で戦うことに執着せず、魔術で戦っていたらこうは行かなかっただろう。
とどめを差そうと直進することを読んだセイバーは、そこに砕けたら発光するように仕込んだ水晶を投げつけた。
セイバーの思惑通り、キャスターは罠に掛かった。
なればこそ、一撃を下すチャンスである。
「天幕よ、落ちよ!『
横一線に切り払う、セイバーのスキルによる攻撃。
キャスターの懐へとたやすく侵入し、技を放った。
直前の閃光で目を潰されたキャスターの懐へ入ることは難しくない。
しかし。
キャスターは、迫り来た刃に対して槍を素速く翻して、受け止めた。
「な、なにっ!?」
完璧に決めたと思ったセイバーから驚きの声が響く。
―――――キャスターは、女神としての一面も持っている。
アイルランドでは、破壊、殺戳、戦いの勝利をもたらす戦争の女神として讃えられている。
つまりは、予知。
あるいは、高精度の直感。
命を切り取らんとする刃を防げたのはそれが理由だった。
―――岸波白野は、思考する。
槍の使い手とは。
相手より手数で勝り、
相手の攻撃を徹底的に弾き、一瞬の隙に槍先を滑り込ませ勝利を得る。
それこそが彼らの武器である。
一死一芸はそこに極めん。
だからこそ、耐久試合において負けはない。
セイバーを従える岸波にとっては、時間こそが死に神の鎌となる。
引き延ばされれば、伸ばされるほどこちらは不利になる。
―――短期決戦だ。
岸波白野は、その結論に達した。
一方、キャスターとセイバーの戦いは膠着していた。
横殴りの雨を思わせる剣戟はキャスターを捉えるには足りない。
相手に利点を奪われている証明だった。
だが、セイバーとて押し巻けているワケではない。
生来の器用さ、卓越したセンスをもってキャスターに食らいつく。
彼女のマスター――岸波白野の観察眼が、立ちふさがる壁のほころびを見出す。
キャスターは、距離を一定で保ち、相手の疲労を蓄えさせ膝をつく一瞬を待ち続ける。
彼女のマスター――ヒビノコウヘイの推測でセイバーの綻びを見出そうとする。セイバーがキャスターの綻びをつこうとすると、決まって彼の魔術――折紙が一瞬の隙を作って防がせた。
綻びの突き合いがここまで時間をのばしている、というだけであった。
つまりは、実力が完全な互角、ということである。
だが、膠着した現実は、新たな展開を許容した。
それは、セイバーの叫び。
彼女は、自らの人生を歌い上げる。
「オリンピア・プラウデーレ! 門を開け! 独唱の幕を開けよ!」
「――――セイバー。 君の宝具の、開帳を!」
「
築かれよ、我が摩天! ここに至高の光を示せ!
我が才を見よ! 万雷の喝采を聞け! しかして讃えよ! 黄金の劇場を! 『
開かれるは、黄金の劇場。黄金の世界である。
―――なんて、きれい。
キャスターは、胸のうちでそう呟かずにはいられなかった。
豪華にして絢爛。
人類の文明の築き上げた光が、ここには満ちていた。
宙にはバラが舞い。甘く、熱く彩っている。
―――きっと、ここには多くの笑顔があったんだろう。
花を愛する心を忘れず。
歌を吟じる豊かさを忘れず。
自らを育てた者たちへの感謝を忘れず。
そんな美しいユメを描こうとした『愛』をヒビノはそこにみた。
「これは――――いいな」
感嘆を、
セイバーの真紅の大剣による燃ゆる一閃がキャスター目がけて放たれる―――!
宝具とは―――理念。思想。人生の集大成である。
その全てを見たからには、答える術はひとつしかない。
ヒビノは、キャスターに命令を下す。
「―――キャスター……! 宝具を開帳しろ」
向上補正されたセイバーの強力な一撃を防ぐには―――それしかない。
キャスターの真名は岸波白野に暴かれた通り、魔女モルガンである。
かのアーサー王伝説においてアーサーの宿敵である。
あらゆる死因を積み上げ、死においやった手腕は類を見ない。
しかし、彼女の宝具となると―――思いつくものは少ない。
逸話こそ数あれど。
ネロ・クラウディウスのように黄金劇場のようなものを建てたという逸話はなく。
クー・フーリンのようにゲイ・ボルクのように象徴的な武器もない。
いや、象徴的なものならば一つだけ。
キャスターは、宝具を開帳する。
「―――――それは、誰もが描くもの。それは、世界の裏側に沈むもの。 その煌めきに讃辞を送りましょう、華の皇帝! この光こそ、汝らが捨てた楽園と知れ!『
それは―――世界最高の守り。
誰にも犯される事なき領域である。
真名解放されたそれは、黄金の鞘から幾多のパーツへと分解し周囲に展開される。使用者をこの世界とは完全に隔絶し、“妖精卿”へと身を置かせあらゆる攻撃を遮断する。
セイバーが何を成そうと全ては無駄。コードキャストすらここには届かない。
――――――しかし。
それの正式な持ち主は、アーサー王である。
奪った彼女は使用することはできるが格落ちは免れず。
また消費魔力も膨大であった。
キャスターにとっては、ここに置いて一切の勝機は無い。
このまま戦闘を長引かせれば―――ヒビノの命はないからだ。唯でさえ、最強の護りを展開しているのだから。
―――今、一度。あと少しだけっ……!
彼女はそう願う。
彼に彼女は約束した。自分の最強を証明すると。
それだけではない。
彼女はサーヴァントの役割を。
一分とは言え、忘れてしまうくらいに。
―――この戦いに酔っていた。
槍先をセイバーに向け、魔術式を展開する。
その数は膨大。
全面攻撃ならば――――セイバーに、よけれる由縁はない。確実に殺せるのだ。
つり上がる唇をキャスターは押さえることもせず。
ついに、嵐がごとく魔力が吹き出された。
黄金の膜から一斉に放たれる極太の熱線。
それを防ぐ術を、彼らはもたない――――――――――。
激しい閃光、轟音とともに。
誰もの視界が白く、あるいは黒く塗りつぶされた。
***
――――――勝敗は、殆ど決していた。
「―――ぐぅ……!!」
セイバーが、膝をつく。
身体の至る所は焦げ付き、ボロボロだ。
誰が見ても、満身創痍であることがわかるだろう。
「――――む? 完全に、跡形もなく消し去った、いえ、消し去れる威力で放ったはずなのだが……計算をミスったか?」
キャスターは、そういぶかしげに呟いた。
―――なんて、強さ……。
キャスターの圧倒的な強さを思いしらされた。
遠近、どちらも問題無く戦えるというのだから――もし、ヒビノの体調が万全だったら、と思うと。
軽く、絶望する。
『ミューズの加護を! 至高の芸術を守りたまえ!』
膨大な魔力を感じて、急いでセイバーに『
『三度、落陽を迎えても』を発動すると、セイバーは完全に削られ切っても――それこそ身体を吹き飛ばされても復活できる。使用制限は三回までと決まっているが――それでもなかったら、負けていた。
しかし、今なお戦況は絶望的だ。
「はぁ……はぁ……ッ、キャスターを、侮った覚えはないのだがな……。ここまでの、実力差があるとは、な……」
セイバーは復活したとは言え―――ぼろぼろ。おまけに黄金劇場も解けてしまった。
対して、キャスターは無傷。
勝利、は、見えない。
―――いくら、前に進むのが取り柄の自分でも、道がないと歩いていけない。
そう、諦めがよぎった。
でも、まだ、諦めるわけにはいかない。自分は、セイバーは、まだ生きている!
「………ここまで、戦力差があるのに―――まだ、諦めませんか。 むかつきますね、オマエ」
自分の態度が気に障ったのか、キャスターは槍を持ち上げ――疾走してくる。
「くっ……そなただけは―――」
セイバーが自分の盾になろうと―――――――。
「そこ、までだ! キャスター、とまれ!」
ヒビノの静止の声で、キャスターはぴたりと止まった。
「―――なぜ、止めるのです! マスター!」
「………時間だ」
ヒビノはそう告げた。
―――時間?
「どう、いう意味だ……?」
自分とセイバーが困惑していると。
唐突に、白い閃光が広がった。
***
眩しさから閉じた瞼を開くと、そこは無機質ないつものステージ。
いや、周囲の景色は―――あのコロッセオもどきであろうものの内側の壁で出来ている。
空を見上げれば、満月。
ひょっとして、さっきのステージは……。
「―――勝負に勝って、試合に負けたってヤツだね。キャスター、見事だった……あと、もうちょい自重してくれてもよかったんやで……?」
とヒビノはキャスターに言っている。
――えっと、いろいろ説明を聞きたいのだが。
だいたい、何があったのかはわかるのだが、やはり説明はほしい。
「ああ、あのステージだが、ラニのアレで行ったろ―――ゲームステージだ。こっちの何十倍かの時間加速がある場所を、キャスターの陣地構築を流用してつくったんだ。……キャスターの趣味が結構出てたけど。
この闘技場に踏み行った瞬間に飛ばすようにしてたんだよね。
でも、改造したようなもんだから使えるのは、あっちで代替一時間くらい。いや、そんくらいもないかな。こっちじゃ十分ぐらいだけど。
最初に言った通り。表の焼き直しであることが俺にとっては重要でね。時間切れと同時に戦闘は終了って話をキャスターとはしてたんだ」
……そんな、説明なかったんだけど。
非難を込めて、ヒビノをみる。
「あのなぁ……。お前は、俺達を……キャスターを倒すのが本命なのか? ほかにやることあるだろ?」
確かに。
自分達はキャスターを倒すことそのものが目的なのではない。
迷宮の奥に行き、BBを倒すことこそが目的だ。
だがその前に、キャスターのSGで出来た心の壁をほどく必要がある。
つまり、今の自分がすることはキャスターのSGを見つけることである。
「ふん。………命拾いしましたね」
キャスターは、不機嫌そう。
しかし、彼女の言う通り、命拾いした。
あのままでは、こちらの敗色が濃厚そうだし。
まさか、あんなチート宝具を持ってたなんて。まあ、あのガウェインの母親なのだから、デタラメなのは予想はついていたが……ここまで強いなんて。
レオが警戒していたのも分かる。
「……ということだ。お前はSG探しに奔走するがいい」
「―――まぁ、私のSGなど見つけれるはずがありませんが……むだな徒労がんばってくださいな」
キャスターは嫌みましましでそう言ってきた。
しかし、そんなキャスターの反応に対してあの男は。
「え? マジでいってんの?」
と返した。
「ひょっとして……気づいておられない?」
「ナニガです……?」
「あれまー。マジカー。まじでか――」
なにやら言っている彼の口元は―――面白いものを見つけたように、邪気に満ちた笑みを顔に浮かべた。
「ふむ……アレだ。試合に岸波は勝って、勝負にキャスターは勝った。なら―――」
ちらり。とこっちをみた。
「今回は、岸波、セイバーの健闘ぶりを讃え、特別なヒントを大出血!!」
すごく、文章がおかしいです。
「ヒントをくれるというのなら、是非欲しいが……当たってる保証はあるのか?」
「ああ。―――いや、わかりやすいし」
彼は言葉を続ける。
「彼女のSGは、超分かりやすい! 何せ、今の今までずっとそのSGの断片のようなものをむしろみせつけていたからな!」
みせつけていた?
自分達が一度は、目にしているということだろうか。
「
少し、憐憫をさそう目をしている。
「キャスター。ブン殴られるのを承知で言おう。お前何歳よ」
「――――妖精に何歳とかあると思います?」
「いつから成長とまってんの?」
「二十五くらい、だったと思いますが………それが何か?」
「粗野な自分は隠したがるくせに……、そっちは見せつけるのね」
「? ? ?」
キャスターは首を傾げている。本当に、覚えがないようだ。
「第二ヒント。そのSGは好みを差している」
好み……?
余計に……よけ、いに?
――――なんか、頭によぎったような……? というか、何か忘れているような?
「ヒント、その三。オレは、無駄なことはしない」
ふむ。
「……無駄なことはしない、ということは、彼奴のアレもSGを特定する鍵になるのか……?」
セイバーはそう漏らす。
たしか――彼はボックスの中身を入れ替えたのだったか。もとの中身は愛の秘薬入りエリクサ―を入れていたらしい。
となると、入れ替えたものが鍵?
入っていたのは、キャスターが書いたと思われる手記。
―――それが、SGに関係してくる?
………ヒビノの事が、好きとか?
「む? それはもう、前回で言及しなかったか?」
確かに。となると、一体。
少しでもキャスターの情報を得ようと見ると―――頬を赤くして固まっていた。
どうやら、自分達のひそひそ話が聞こえてたらしい。
「ま、だいたいこの辺……あれ? キャスターどうした、顔赤いけど」
「なんでもありません。ありませんから、いきなり近寄らないで」
「…………、オレ、悪い事言ったか……?」
突然の拒絶に困惑するヒビノ。
前回気絶してたから、キャスターの真意は分からないのか。
拒絶された原因は、いきなりキャスターの顔をのぞき込んだことだと思います。
火「アヴァロンつかえるなら、オレに使ってやっても良いんじゃないかな、とか思ったけどやっぱ本来の持ち主じゃないと効き目が薄いらしい」
ラ「SG2ねぇ...ひょっとして」
火「おや、ライダーには分かったか?」
ラ「なんとなく...でも、本当にソレだったら―――――キャスターは赤面ですむのかしら」
火「大丈夫だろ、たぶん」