リアルが忙しくて...(FGOぽちぽち)
“
愛しみと憎しみは本来、別のもの。
それが一つのものとして語られる時、これらをつなげる感情が不可欠になる。
――――狂気だ。
狂おしいほど愛している。狂おしいほど憎んでいる。
他人への想いがこの域まで達した時、
……とかく、一目惚れとは暴力のようなもの。
する方は幸福だが、される方には不意打ちだ。
***
がらり、と扉が開けられる。
岸波が生徒会室に入ってきた。
俺は軽い挨拶をする。
室内は軽やかなキーボードを叩く音がする。
無論、それらは視覚、聴覚に変換された互換翻訳にすぎない。本来ウィザードのハッキングだが、生徒会室ではこのように全員に開示されている……らしい。俺はウィザードではないので分からんが。
「おはようございます白野さん。今回……いえ、昨夜はよく眠れましたか?」
レオは岸波にそう尋ねた。岸波はそれによく眠れたと言葉を返す。
昨日。
ラニのレリーフが解除されたあと、岸波は奥地へ移動した。そこでは、BBが――ムーンセルの外壁を削っている姿。
岸波は、それを止めようとしたが――新たに二人のサーヴァントが現れたそうだ。
サーヴァント以上のハイ・サーヴァント。彼女の側面を解除したもの――即ち、アルタ―エゴだと名乗ったらしい。
え? お前なにしてたの? いやほら、まだ絶好の裏切りタイミングじゃないからさ。まあ、岸波が入った瞬間にバリアが形成されてその解除に時間が掛かったのもある。
とかく、我々は振り出しに戻ったのだ。
レオは、起き抜けの岸波の顔から学生寮の雰囲気を想起していた。
それに凜は追随し、提案する。
「あら。なんだったら食堂でも作る?メモリに余裕があればだけど。持ち回りで食事当番決めて」
「食堂ねぇ……わるくない。むしろいい。兵站はあればあるほど良いってモンだし」
遠坂の案に頷き、ちらりと己のサーヴァントを見て少し考えてみた。
そういえば、このサーヴァントの料理スキルはいかほどのものか。
錬金術は台所から生まれた、という言葉があるように料理は魔術や科学的要素をたっぷりと含んでいる。
そう考えるなら、このサーヴァントの料理スキルもそこそこあるのでは?
まあ、俺にはないがな!
魔法使いが真っ当な飯をつくれると思ったら大間違いだ。過程をかなりすっ飛ばしたものが出来るぞい。魚なら捌けるが、問題は料理の方で……。
俺には料理のセンスはないとだけ言っておこう。一度、メイドに犠牲者第一号として食べて貰ったが感想は“味は悪くないのに見た目と食感が天と地のレベルで離れていて――おえっ”といって、女性の名状しがたきものを噴きだしていた。
虹色のスープが出来た時点で察してたけどね。
それからというもの舌はそれなりに肥えてるので、俺はもっぱら食べ専である。
「いい提案ですね。脳に刺激を取り入れることで作業の効率化を図るのは、合理的です。余裕があったら是非検討しましょう。ああ、そうなるとシェフスキルの有無も問題ですね。ガウェインはどうです?」
レオはガウェインに話を振った。
ガウェインは首を静かに振って答えた。
「残念ながら、騎士の勤めに調理は含まれてはいないのです。それに私は菜食主義ですので……肉や油を多用した調理は不得手ですよ」
ほう、ベジタリアンか。
少し意外に感じた。騎士、男。そう続いたら肉を食べまくる――みたなイメージがあったのだが。
「兄さんのカレーはある意味絶品でしたね。確かまだ未処分……余っていましたから、この後ミス遠坂にもごちそうしましょう。コーヘイさんもどうですか?」
「カレー? ばりばりの定番ね……私はどっちかっていうと中華だけど、ま、それほど言うならいただくわ」
「カレー……まあ、好みではあるけど、遠慮しとく」
俺には分かる。あの優しい笑みの裏には何かあるに違いない。
さっき未処分とか言ってたし。含みを感じる言い方だったし。
「……ぬう。さすがの小生も食事に関してはサッパリでな。五殻粥しか作れぬ故、期待するな」
僧とあらば、精進料理とかあるだろうに。まあ、作ると食うは別か。
「お、ちょっとは落ち着いたみたいね。口元にやけているわよ、岸波くん」
岸波にも、このふわっとした余裕ある空気が染み渡ったようだ。張り詰めた空気は個人の性能を落としかねない。
これくらいがちょうど良いのだ。
「失礼。ラニ=Ⅷですが、入室の許可を」
随分と律儀なことを言う。迷宮の中でのやり取りで抱いた印象は霞と消えた。
「どうぞお入り下さい。みなさん揃っていますよ」
レオの促しもあり、扉はがらりと開かれ、ラニが入室した。
しかし、その装いは迷宮で見たものと違う。
黒い旧校舎の学生服を着ているのだ。これには岸波も驚いたらしい。
―――その格好でも、履いてないんだろうか?
そんな事を考えたら、ラニから睨み付けられた。
***
生徒会にラニが加わり戦力は一層整った。
またBBのハッキングことBBチャンネルに強制招待をくらった。人を馬鹿にしたような笑い方をするのは、あれだな……好きな人の気を引きたくて悪戯する小学生男児のようなもの、と俺は思っている。
そして生徒会で話し合われたことの一つに記憶がある。
ムーンセルのAIはデータを消去できないという絶対の規律があるらしい。故に自分達の記憶はどこかに必ずあるということらしい。
ならばいい。消去されてない事が分かっただけでも収穫はあった。
「――記憶、ですか」
かすかに憂を帯びた声でキャスターは呟いた。
ベッドの上で腰掛け、ゆったりとした仕草は洗煉されていた。憂をこめた表情が色っぽく感じる。
「貴方は、記憶を取り戻したいですか?」
「当然。俺は自分を知りたいさ」
記憶――正直、絶対に取り戻さなくてはならない、というわけではないが、分からないままでは気持ち悪いのも事実。
記憶がもどれば自ずとキャスターの狙いも分かるだろう。
俺は椅子に座りながらふぅ、と息を吐いた。
―――最近、けだるさを感じている。
体が重いのだ。何をするにしても。
精神の疲弊によるものか、あるいは肉体によるものか。
桜に頼んで軽くメディカルチェックをして貰ったかが、どちらも異常なしらしい。
疲れがとれていないような。疲労感というには足りない程度。しかし、肉体に異常はない。奇妙なことだ。
***
……サクラ迷宮も七階層にたどり着いた。
迷宮の資材となっているのは少女の心とのこと。BBがそう言っていた。電脳世界ならではと言ったところか。
岸波と生徒会のやり取りを聞くと、この迷宮のどこかに圧縮データが残されているらしい。しかも周りに大きな影響を与えているらしい。
この世界では情報が質量として認識される。空間に影響を与えるほどの情報が圧縮されている可能性がある。解析すれば、この迷宮について何か分かるかもしれない。
生徒会は岸波にそのを回収を命じた。
今、岸波の目の前には黒いキューブがある。
それを手に取ろうと――岸波は手を伸ばすがとても重かったらしくうんともすんとも言わなかった。
サーヴァントであるセイバーも持ち上げようと挑戦するが――持ち上がらない。
小さなキューブだけにかなりシュールである。
「……セイバーでも持ち上げられないとなると、高密度の圧縮データ、ということになりますね……」
「サーヴァントですら持ち上げられないデータ? どういうことだってばよ」
「リンとラニの解析待ちですね」
ラニがコピーによる回収を提案し、岸波に手をあてるように言う。
データの回収が始まる。
『…………アドレス、解析しました。データのダウンロードまで残り―――――十分?』
――何だって? 十分もかかる? 霊子回線を使ってダウンロードしているのに?
『……ちょっと。借り物とはいえ、こっちも擬似霊子の回線を使っているのよ? それで十分もかかるだなんて、どんな―――』
そう遠坂が言葉を続けようとしたとき、悪寒が走った。
急いで水晶体に映される範囲を拡大し索敵する。
こつ。こつ。こつ。
「―――なっ」
それが現れたことは手短だが聞いていた。しかし、ここまで暴力的な重圧を発するものだったとは……。
―――アルタ―エゴ。
俺は初めてソレを目にした。
攻撃意志はないのに殺意の高い爪があるせいで、より歪なものに見える。
『それにしても、すさまじい凶器よな。ただならぬ。まったくもってただならぬ』
セイバーがそう言った。
俺もその言葉に頷く。
――――――なんという。暴力的な――――。
「……なんという、凶悪な胸……! こいつは、魔的だぞ……!」
「……………」
戦慄する俺をキャスターがすごく残念そうな目で見つめてきた。よせやい、照れるだろ。
怪しい音に乗せられる子供がごとく……その胸に目線が誘われる。まさしく魔的な胸っ。魔笛だけに!
パッションリップと名乗ったそのアルタ―エゴは、無駄にでかい金属質の爪に豊満な胸、対して腰つきは細い。随分先鋭的なファッションをしている。
そんなことを考えればさらにキャスターから氷点下の目線。
『……凶器ってどっち?』
『あの巨大な爪と胸だな! うむ、どちらも派手でよい! 余の好みだ!』
あ、やべ。あのセイバーと話会うわ。絶対美少女好きだぞ、アイツ。
***
アルタ―エゴは自分の名前を紹介して帰って行った。
俺達は一度生徒会に帰投した。
アルタ―エゴがどっか行ってしまった上に、回収したデータの解凍がおわったとの知らせが入ったからだ。
まあ、解凍は終わったものの解析はまだ、との事だったが。
しかし、データは無残にもぐちゃぐちゃにされ、まさしくダストデータと呼ぶべき代物だったそうだ。
ゴミ箱にデータを捨てるにしてもいつか使えるときが来たときの為に取り出せるようになっているはずなのだが、破損したデータとして残しているのはおかしいと遠坂は言っていた。
***
それからというもの。やれかくれんぼだ、鬼ごっこだと幼女を追いかける岸波。
どうやら幼女は表のマスターだったらしく、岸波達とは面識があったらしい。
迷宮の奥、追いかけた先ではアルタ―エゴ―――パッションリップ。
しかし、どういうことか。
幼女の口からいじめと聞いて駆けつけてみれば。
パッションリップは黒いドレスをきた幼女の前で座り込んでいる。
『やめ……やめてください……どうして、言うこと聞いてくれないんですか……?』
『聞くハズなんてないじゃない。
『そんな……わたし、あんまり走れないし……このフロア、狭くてすぐ壁に引っかかるからあなたたちを呼んだのに……』
だいたい事情が読めてきた。
幼女は厳しく鋭利な言葉でリップを責め立てる。彼女がどんなにやめてと言っても聞く気は起こさない。
そこにもう一人―――黒い幼女そっくりの幼女が現れて、あろうことか―――何処にでもあるような石をリップの胸の中にねじ込んだ。
乳房の間の谷間。無造作にねじあけて、入らなくなったゴミを次々に入れていく。
その光景を見てセイバーはこう口にした。
『なんと、幼子と侮ったか……あの巨峰をかように揉みしだくとは、なんたる大胆な指使い。うむ、芸術性を刺激されたぞっ。余も負けてはいられんなっ!』
どこで張り合っているんだセイバー。ていうかこの光景で芸術性を刺激されるとか……ギリシャ系の芸術肌なのか?
日本人も大概だが、古代ギリシャも大概。ギリシャ神話が大いに物語っている。
鳩と交わったエピソードがあるのは、ギリシャぐらいのものである。
幼女はパッションリップの胸のなかにアイテムを押し込んでいく。あの谷間には一体何が―――男の夢だけではないだろう。
『あはは、入った入った! 胸にゴミ箱があるだなんて、なんて便利な体なのかしら!』
ほう、ゴミ箱とな。
幼女達は執拗にリップに辛らつな言葉を投げかける。―――少し、異常だと感じた。
岸波が待て、と声を掛けた。さすがに見過ごせなかったらしい。まあ、幼女に声をかけたのだが。
しかし、それは今回悪手だったようだぞ、岸波。
『あの………………助けて、くれたんですか?』
岸波にそのつもりはなかったとしても、彼女にはそう見えている。いや、見えてしまった。
岸波が二の句を告げる前にパッションリップが言った。
『あ、あの……ありがとう、ございました……嬉しい……すごく、嬉しいです……』
おい、いやな予感がするぞ。
これ、カメを助けたら竜宮城に連れて行かれるルートと見た。
泣き崩れていたパッションリップは健気に立ち上がり、岸波を見つめている。その目は潤み―――そう、まるで恋を知った乙女の相貌。AIに惚れられるなんてすげーなぁ()。
『あ、あの……本当なら、ここまで来た人は、誰であれ潰せって言われてるんですけど……センパイ―――白野さんは、わたしの……に潰されたいですか?』
え? 何だって?(難聴)
別に。はっきりと。言わせたいとか思ってないヨ? 赤くなった羞恥の顔を堪能しようとか思ってないゾ?
『……潰すって、どこで?』
岸波は男らしく、まっすぐとパッションリップに目を合わせて質問した。俺の岸波への好感度が 5アップ。
恥ずかしいそうにリップは視線をそらした。
『え……だ、だから……あの……わたしの……わたしの、ですね……』
岸波は厳しく問い詰めていく。
潰すだの挟むだの、誠にけしからんとばかり。一体何で、どのように行う気なのか、と。
視線が―――呼吸する度に揺れる胸に吸い込まれる。
『で、ですから……その……わたし、の……』
そこで生徒会から通信が入った。
『ふふふ。レオ、ラニ、学級裁判の用意をして。セクハラで訴えるから、アイツ』
『了解です。これ以上ないほどの検事ソフトを用意しましょう』
『ではボクは男性陣を代表して弁護側に。白野さんの気持ちは大変分かります。ファイトです。人間としてどうかと思いますが、もっと核心をつついてください』
学級裁判ときくと白黒の熊型ロボットが思い出されるんだが。うぷぷ~みたいな笑い方をするヤツ―――あれ、なんて言ったけ?
岸波の死体が発見されました~ってだみ声で言いたい俺がいる。
パッションリップを岸波はより厳しく問い詰めついに吐かせた。
『は、はいぃぃい………! そ、その、わたしの……には、秘密があって……! ごめんなさい―――圧縮したデータなら、何でも仕舞える
――秘密。彼女はいま、秘密と公言した。
―――それは胸にゴミ箱がついているという事実から発生したもの。彼女自身が恥ずかしいと思う事実の一つ。すなわち―――SG。
途端。彼女の胸から赤い―――SGの光が漏れ出す。
岸波の体が空をかけるように飛び、SGを抜き出した。
アルタ―エゴは、遠坂やラニとは違う。
たかだか、一つ二つのSGを抜かれた程度では消滅しない。
このまま戦闘になるか――――そう身構えていたが、彼女は帰ろうとしていた。
なぜ、とセイバーが呼び止めれば、守るものがないからとリップは答えた。
『……センパイ。さっきは助けてくれてありがとうございました。このご恩は忘れません。―――絶対に。何をされても、忘れません、から』
――うぇ。
今ぞぞって背筋に悪寒が走った。絶対にのところ気持ち入りすぎじゃないか?
何よりも―――熱く浮いたような表情を浮かべる彼女を見ていると、狂気を感じたのだ。無垢故のそれなのか。
AIははたして人の醜悪な一面に耐えられるのか。
どこかの哲学者の言葉が頭によぎった。
ラ「はい、コーヘイ」
火「なんじゃこりゃ...チョコ? ああ――もうそんな季節か。...ところで、これ食えんの? ちゃんと味見してある?」
ラ「殺すわよ? ―――食べれるはz...食べれるわよ。なんか突然動いたりするけど」
火「なにそれこわい」