Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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遅くなってすまない。
今回もヒビノ節が決まっている()


心の壁:Relief

 

 

 今回はブリーフィングなしでの探索となる。といっても探索するのはもっぱら岸波の仕事になるのだが。

 今の状況では一秒一分がおしいというもの。おそらくであは在るが、壁は残るところ2つ。四分の二のクリアにこぎ着けたのだから。

 

 遠見の水晶玉を起動させ、岸波の姿を追う。

 

 ちょっと進んだ先にあるシールドの前で岸波は何かを発見したらしく立ち止まった。

 彼の目の先では、凜が顔色悪くふらつきながら進んで行くのが見えた。

 

『今のはリンではなかったか? やけに顔色が悪かったが……』

『こちらでも確認しました。今のは凜さんの分身体です』

『サーヴァントもいないようですね。SGを入手するチャンスです。追いかけて下さい』

 

 レオの指令がとんで、岸波は足を進める。

 しかし、凜の分身体はここで何を?

 

 やはり、SGに起因する行動のようだが、さて。

 

 岸波がまたも、凜の後ろ姿を発見したようだ。

 頭をおさえ、何かに耐えるような仕草をしている凜の姿。顔色は悪く―――しかし、悪感情がない?

 

『っ、はぁ……これで何回目かしら……限界値ギリギリを行ったり来たり……』

 

 行ったり来たり? 限界値――――何を指してるんだ?

 

『あはは……寒い、目が回る……でも仕方ないわよね、命令なんだもの。命令は絶対、全部命令のせい……』

 

 命令のせい、ときたか。自分の体を犠牲に――いや、捧げてるのか? これでは女王(笑)にもなりゃしない。

 

『とにかく集めて……早く届けないと……』

 

 集めるねぇ。自分を犠牲にして、かつ限界値のあるもの……なんて思いつくのは一つぐらいしかないが。しかし、様子がおかしすぎる。

 

『やはり、このミス遠坂は様子がおかしい。こちらの侵入にも気づいていないようですね。白野さん、追跡を』

 

 岸波が追跡を開始してすぐに、凜に追いついた。

 レオの言った通り、明らかに様子がおかしい。顔は青ざめ、目はうつろだ。

 

 片手に持った注射器を、自分の腕に刺している。

 

 ――――血液か。

 

 彼女の言葉、そして――サーヴァント・ランサーの情報が結びつく。

 

『もっと……もっと血を用意するのよ、凜……ランサーがそう言ってるんだもの……マスターとして、ちゃんと、従わないと……私ってば、なんでこんな苦しいコトしてるんだろ……せっかく女王になったのに……』

 

 まったくだ。マスターはあくまでサーヴァントを従わせるものだというのに。その立ち位置を逆にしてどうするんだ。

 

『ああ、でも逆らうとあの長いのでしばかれちゃう……!』

 

 なぜか、かすかな期待を感じさせる声色で呟いている。

 ――そういや、コイツ。地上ではリーダーしてたんだっけ。

 さぞ、責任感の強い娘だったんだろうなー(棒)。

 

『あの娘ってばワガママばっかりだけど強いし……貴族だし……尻尾だし……命令を聞くのって、なんか、すごく――――――』

 

 凜はぶつぶつと独り言を繰り返している。

 が、岸波に気づいたらしく勢いよくふりむいた。

 

『岸波くん……!? い、いつからそこにいたのよ!?』

『つい先ほどからだぞ。長いのにしばかれる、悔しい、けど気持ちいい、というあたりからだ』

 

 かなり、凜を端的にセイバーは言い表した。まったくその通りだが。

 

『ほ、ほっといてちょうだい! これはただの錬金術! 貴方には関係のないコトよ!』

 

 人間の血を被れば美しくなれる魔術とかですかね?(すっとぼけ)

 

 “えーい、出会えい出会えーい!”と凜は言って、敵性プログラムを呼びつけた。岸波がそれに対処している間に逃げる算段のようだ。

 

 ―――なぜ、サーヴァントを呼ばないのか。まあ、今の彼女の精神性では真っ当に働いてくれなさそうだが。

 

 岸波は無事、エネミーを倒すことに成功した。まあ、逃げるためにつかう用とあればこけおどしなのは当然か。

 

『ミス遠坂は逃げてしまいましたか。………どうも、今回の分身は今までとは違うようですね』

『今の凜さんの反応は迷宮に残っています。周辺を探索して、是非、もう少し追い詰めてみましょう』

 

 レオの言っていた遠坂凜かませ説が濃厚になってきたな。分かり易すぎて草もはえん。

 

 リーダー性がある人は特に陥りやすい、というか生まれるものだ。遠坂凜は、それはもうまじめなリーダーだったのだろう。他の誰よりも頭を使わねばならず、責任をもたねばならなかった。聞けば年齢は17程度というじゃないか。

 それにしては出来た子だ。わかりやすいってのは論理的に生きてきた証拠だ。本来はさばさばした性格だろうよ。SGは根底に抱えたものであって、それそのものではない。表にはでない嗜好というわけだ。

 

「なるほど。そこは判る気がします。誰だってときには甘えたくなるものです。常に気をはらないといけない人ほど……それは顕著でしょう」

 

 そうキャスターが声を漏らした。

 

 岸波が探索を進めれば―――なんじゃありゃ?

 

 凜とランサーがいて――その奥にばかでかい質量を感じさせる壁あった。壁というよりは扉らしいけど。

 ―――さては、遠坂凜そのもののデータを壁にしたな?

 

 四分の一。次々とクリアしていけば、当然次に控える分身体は能力が強くなる。そう思っていたのだが、どうもそうではなかった。アレー―質量の大きい壁を本体とするならそちらに分身がもどったのだろう。

 

『解析、でました! 信じられない……シールドと同じ反応ですが規模が段違いです……! シールドが扉なら、あれは城塞そのもの……完全な“行き止まり”です…….!』

 

 SGをとりだしても壁は消えないということだろう。明らかに他と違うし。

 

 しかし、今はランサーと凜の動きに注視したほうがいいだろう。

 

『ちょっとどういうコト? 私、200リットルを要求したのだけど。なのに、用意できたのはたった10リットル?』

『わ、悪かったわね……でも、今はこれが精一杯よ……大浴場は無理でもシャワーぐらいなら……』

『言い訳は結構よ。ねぇリン? 貴方が言ったのよね? 拷問室のブタたちから搾取はやめろって』

 

 ―――岸波が言っていたように、遠坂はそんな人物ではなかったらしい。やはり、あの拷問部屋はランサーが作ったもので間違いなさそうだ。

 

 遠坂は、ランサーにやめるよう言い、やめるかわりに血液を稼ぐことを求められた結果、今の遠坂の状態と言うわけだ。

 自分の体からいくら搾り取っても200を稼ぐのは難しい。むしろ10リットルも採血できたことに驚きだ。

 

 まあ、結果としてランサーの要求は満たせなかったわけだが。

 

 そんなこんな遠坂とランサーは言い合った後、遠坂の言い訳に対し――ランサーは無情にも自身の尻尾をしならせ、まるで鞭のように遠坂に振るった。

 

『お黙りなさい――!』

『きゃあ……!』

『貴女、それでも女王なワケ!? 代わりの徴収源もないクセに! 私を養う甲斐性もないクセに!』

 

 ランサーの激しい言葉とともに鞭が振るわれる。振るわれる度に遠坂の体にはミミズ腫れが増えていく。

 口答えを許さない痛めつけ方。相手を生かさず殺さず。適切すぎる拷問術。

 

 ――――少し、苛つく。

 

 今にも、飛び出してあのランサーを殺してやりたいが―――問題はあの女だ。

 苦痛を苦痛として受け止めず、自分を許すために使っている。自分はダメなのだから痛めつけられて当然。相手の理路に沿った、自分を納得させるための生き方―――俺からすれば唾棄すべき生き方だが。唯の破滅には興味ない。

 自分を痛めつけることを望む。精神的下位になることを望む。

 精神的平等を愛する俺には理解を拒みたくなるものだ。誰かに支配されたい願望。

 

 進んで罰を受ける奴隷。言い得て妙。遠坂はサーヴァントの奴隷と成り果てた。

 

 ランサーの遠坂への攻めが苛烈になってきたところで、セイバーが見ておれぬとばかりに飛び出した。

 

『他人の事情に口を挟まないでくださる? 私とリンはこれが正しい関係なの。リンは私のために働いて、私はリンの汗で美しくなる。リンは私のために富を築いて、私はリンの涙で喉を潤す』

 

 まさしく血税。それを搾り取る。あのサーヴァントは、人を消費物と思っているのだ。

 他人の努力で喉を潤すのは、貴族の特権か。

 

『リンは私の望み すべてを叶えてくれる素敵な子よ。だから――――私も、こうやって、リンの望むことを叶えてやっているの!』

 

 やはり望んでいるのか。徹底的に管理されたいという欲求でもあるのだから。――――すなわち、あのSGの名は普段の自分とは真逆の性質を指し示す――。

 

 セイバーはランサーの尻尾を剣で防ぎ、その隙に岸波は凜の胸に手を伸ばす。

 

『――隷属のヒロイン願望だ!』

『はい、その通りだと私も思います! 凜さんはわりと、こう、打たれれば響くタイプです!』

 

 言い方はアレだが、桜は的確に言い表した。

 

『や、やだ、うそ、見ないで……! こんなの私じゃない―――――私じゃないんだってば! あ、でもちょっと気持ちいい、かも――あ、ああ、あああぁああああ!』

 

 SGを奪われるというのに、遠坂の顔は赤く高揚していた。

 

『私の心を壊せるものなら壊してみなさい。その時こそ、この借りを千倍にして叩きつけてやるからね、コンチクショー!』

 

 おうおう。なかなかの殺気。

 遠坂らしい言葉を遺して、分身体は消滅し――本体へと戻っていった。

 

『……だめです。反応、消えました。その壁の中に特殊な空間があることは計測できますが、入る手段がありません……また、凜さんの分身が崩壊した際、器を構成していた霊子はその壁に流れていきました』

『つまり、このレリーフの中にミス遠坂の本体がいる可能性が高い、という事ですね』

「岸波はいったん、旧校舎にもどって――心の専門家、キアラを呼んでこいってことだ」

 

 岸波が、少し驚いた顔で振り返る。

 

「俺は、ここを保持しておく。今は何が起こるか不確定だしな。ここは俺の任せて、さっさといけ」

「ああ、うん。わかった」

 

 岸波をせかし、旧校舎へ向わせる。

 

「……いったい、何を企んでいるんです?」

 

 キャスターが霊体化を解いて、俺の側に立つ。

 

「企んでいるとは随分なものいいじゃないか。精々監視ぐらいさ」

 

 しかし―――いや、まだ確信までにはいたらんが。

 見れば見るほど――趣味の悪い。偏屈させて、壁にするとか勝機ではない。こんな壁を設置できるとしたら――よほど、心というものに理解があるヤツなんだろう。

 

 しばらくすれば、転送装置から二つの影が出て来る。

 岸波とキアラだ。

 

「あらあら、これはヒビノさん? 貴方も迷宮探索に参加していらしたのですね?」

「…………」

「…無視、ですか。残念です。私、貴方のこと気に入っていましたのに」

「戯れ言を。いい加減にしろ、博愛主義者。―――お前の役目を果たせ」

「ふふふ、怖い人」

 

 キアラは壁を見上げて呟く。

 

「なるほど……これが迷宮内に出来た心の壁……実際に見ると悩ましいものですね」

『悩ましい、ですか……? 痛々しいや美しい、ではなく?』

『はい。本心を告げられず、自分自身の心に囚われた姿……その煩悩は生の証です。優れた精神性の持ち主でなければ、これほどの心の壁はできません』

 

 おぞましい。何がおぞましいって、本当に聖人として稼働しているのがおぞましい。

 

 勿論、遠坂の心に入るのは岸波。

 

 覚悟をキアラに問われ、彼は強いうなずきで返した。

 

 キアラは岸波を擬似霊子の階梯を小さくし、スケールダウンさせて遠坂の心にサイコダイブさせるらしい。

 

『では――――十地を逆り、仏性を写し転びましょう。法雲、善想、不動、遠行、現前、難勝、焔、明地、離垢、歓喜――――』

 

 文字通り、十地を逆さまに唱えることで――心の行く様を逆流させる。電脳体から魂の概念を一時的に分離させ、純粋な情報体に分解しているのか。

 

 実に暴力的な心の親和。親和というより融和に近い。

 

 キアラは上手く役目を果たしたらしく、岸波は壁の中に吸い込まれていった。

 

「ふう。これで、滞りなくうまく行きました。なので――――その殺意の籠もった目はやめていただきたいものですね、ヒビノさん?」

「ふん。ようが済んだならさっさと消えろ」

 

 “本当につれないお人”と呟いて、そのまま去って行った。

 

 やっと去ったか。岸波が無事にわたれたならそれでいい。

 

 ―――あとは、無事に戻ってくることを祈るだけだ。

 

 

 

 

 しばらく、レリーフの前で待っていると。

 

 妙な気配を感じた。無邪気のようで邪悪。女性的にして、媚びた声。女の毒を盛り込みまくったそれ。

 

「マスター! これは……!」

 

 キャスターが警告を発するのとともに、周りの通路が消失した。

 遠坂の意匠のレリーフも消失し、二人―――サーヴァントも数に入れれば三人が現れた。

 

「この通り、センパイには逃げる時間さえあげませんけどね?」

 

 その誰の声にも当てはまらない―――いや、該当するのが一人。しかし、それはあり得ない。なにせ、彼女はここにはいない――生徒会室にいるはず。

 

 声の出所に目を向ける。

 

 迷宮に生えた桜の樹を背にして()()は空から降りてきた。

 

 ―――――それは、黒いマントに身を包んだ少女だった。

 

 生徒会室にいるはずの健康管理AIの姿とよく似た少女。

 

 その名は―――。

 

「こんにちは。はじめまして、白野センパイ」

 

 桜。まぎれもなく桜だった。小悪魔的な笑みをして、彼女とはにつかない仕草だったとしても姿が完全に同じだ。

 

「もう後戻りはできませんが、覚悟してズタズタになってくださいね?」

 

 邪悪にくすりと笑った。

 

 ―――しかし、ちょっと言いたいことがあるというか。ラスボス(黒幕)にはちょっとほど遠く感じる要因があるというか。

 俺の目は若干半目になっていることだろう。

 

「き、君は……桜なのか……?」

「……は? 私が桜なのか、ですって……? バカにしないでください、頭のてっぺんからつま先まで違います! このわたしがあんな弱虫で性格ブスなワケないじゃないですか!

 わたしは桜であって、桜ではない存在。もう、あんな管理AIではないんです」

 

 さいですか(鼻ほじ)。同型機ってことだろうな。

 

「わたしの名前はBB。何の略称かはご想像におまかせします。ベベ、でもベイビィでも、お好きにどうぞ♡」

 

 ……………。

 すごく、練習したんだろうな。この立ち位置。やべーよ、絶対黒幕歴浅いわー。俺なら絶対そんなことしないもん。

 この演出って結局あれでしょ? 自分の存在を相手に刻みつけたいー的なヤツでしょ?

 完全に俺、巻き込まれたね。

 だって、あのBBとやらさっきから岸波しかみてないんですけど。

 そろそろ存在主張していいですか?

 

べべ(BB)だと? 雅さの足りぬ名だな」

 

 いや、それより先に言うことがあるのでは、セイバーさん?

 言ってやらないのは優しさですか? 具体的に言うとさっきからもろだしになっているアレです。

 

 ちらり、と岸波を見てみれば―――せすじが凍り付いたと言わんばかり、圧迫感感じている顔だった。

 いや、アイツもろだしですよ?(何がとは言ってやらない優しさ)

 

『もしもし、もしもし。聞こえますか、岸波さん?』

 

 レオから通信が入った。

 レオからはこちらのモニターが出来ていなかったらしい。

 

『っ! レオ、急いで転移を! 私がフォローするから早く!』

 

 遠坂がBBの威圧感から真っ先に立ち直りレオにそう意見する。BBの異常さに危機を覚えているのだろう。

 レオは遠坂に答え、桜に強制退出プログラムを起動させる。

 俺達の体を青い輪――転移術式(プログラム)が組み上がっていく。

 

「あら、もうお帰りですか? そんな急ごしらえの転移術式じゃ迷宮の壁は破れないと思いますけど……でも、判断は大正解です♡

 勝てない敵には立ち向かわない。黄色は危険、まだいけるはデッドフラグ。これに懲りたら校舎から出ないで、ずっと引きこもっていてくださいね?

 安全地帯から一歩もでないでいれば、そのうちハッピーエンドが落ちてきます。本当ですよ?」

 

 その意は?

 

「だって、どんなに待っても終りがない、なんて最高の最終回じゃないですか! 連載の引き延ばしとか大好きでしょう?」

 

 わかり合えないな(確信)

 物語はいずれ終わるから良いんだ。俺達の戦いはこれからだ!とかどこまで戦わせるんだよ。どうせ途中で面白いからって理由で殺されるキャラとか出て来るぜ?

 

 くすくす、笑い続けているが―――もろだし、みっともない! ちょっといたたまれない。

 岸波はそのBBに向って戦う意志を見せるが――遠坂は、それを止める。

 

「サーヴァントを分解して、その記憶容量を取り込んで、今じゃもう手の付けられない巨大構成体(ギガストラクチャ)、それがアイツ!」

 

 意外と黒幕してんな。もろだしのくせに。

 

 ――――世界のルールを左右できる存在、ね。

 

 BBはいくらか喋った後、掌に載った木の葉を息を吹きかけて飛ばすような仕草をして―――岸波達を強制退出させた。

 

 

 

 

 

 ――――――俺、残されたんですけど。

 

 

「ご丁寧に俺だけ、干渉して残すとか悪趣味もれてるなぁ、BB」

「ふん。128基のサーヴァントのいずれにも該当しないサーヴァントをどこからか連れ添っていてよくそんなことが言えたものですね。今度は、何をやらかす気ですか? まあ、今からわたしのリソースに代えちゃいますけど……命乞い聞いてあげないこともないですよ? やるならみっともなく―――」

 

 耳をほじる。

 俺の精神的優位に立とうなど百年あまい。購買のイチゴロールより甘い!

 

「おい、BB」

「ふふふ、さぁ思いっきり無様な命ご――」

「さっきからパンツみえてんぞ」

「え………、―――っ」

 

 BBは自分の有り様に気づくと、急いで降りて見えないよう調節した。顔を赤く染めて。

 そこで、緩んだ空気をのがさない。何か言う前に、こちらの流れに持ち込む。

 

「ずっっっと気づいていたけど? まあ、君の? 大切な? 人への印象を守ってあげたんだけどな~。これは褒賞ものだと思うんだけどな~。おや? でもさっき君、俺をリソースに代えるとか言った無かった?」

「ぐ、ぐぬぬ。でも、どうあがいても、貴方をリソースに代えることは決定事項ですけどね! 残念でした!」

「―――おい、俺をリソースにそこまでしたい理由は?」

「はぁ? 今更あなたがそんなこと―――ああ、今ヒビノさんは、記憶を失っていたんでしたっけ」

 

 ふむ。

 

「貴方がとてつもなく厄介だから、です。文字通り規格外。表でもその暴威を振るっていたそうですし、面倒になる前に処理したいと思うのは当然でしょう?」

「ふーん、なるほど。俺が無駄に強いからリソースに代えてしまいたいわけだ」

「じゃあ、判って頂いたところで――――食べちゃいますね?」

 

 そう言うと、彼女は杖を差し向け彼女の言う“食べる”という行為を行おうと―――。

 

「まった。喰われる前に交渉したい。ビジネスだ」

「交渉?ビジネス?―――ああ、もしかして金をやるから見逃して的な?」

「―――いいや。お客様(お前)の欲しがる製品があってこそ商売よ」

 

 そう言って、俺は懐をまさぐった。

 

「………いったいなにを―――え」

「これ?欲しくない?」

 

 ひらひらと紙を見せつけるように揺らす。BBの目線はそれを追っていったりきたりを繰り返している。

 彼女の琴線大打撃な代物。胸を打たぬはずはない。

 

「……今宵、ご紹介いたしますのは――――岸波白野を写した28枚!! どうせセイバー写真は入らなそうだが、これはいるんじゃないか?」

「――――な、なななななな!」

 

 おお、今にも喉から手が出そうな顔しおって。完全に我が手中よ。

 

 BBからのばされた手を躱すように動かす。

 

「おっと。俺をリソースかする以上、持ち物も吸収されちゃうなぁ」

「くっ……! ああ、もうわかりました!見逃せば良いんでしょう?」

「ふ。結論を逸るなよ、BB。ビジネスだっていったろ? Win Winであるのが好ましい」

「まどろっこしい人ですね!何ですか? 何か斡旋しろとか言うんですかぁ?」

「お前にとっても悪い話じゃないぞぅ?」

 

 それは――――一つの提案。

 口元が歪み、悪辣な笑みを浮かべてしまっていることだろう。まさか、そのために準備していたと誰も気づくまい。

 

 

「―――――俺が欲しくないか、BB? 勿論、戦力として! 壁として! お前の願いを果たすための時間稼ぎを必ず果たそう!」

「―――――――」

「ああ、俺を壁にして欲しいとか、そう言う意味じゃ無く。壁になるには勿論キャスターだよ。むしろキャスターを壁にしてくれ―――それが俺の条件よ」

 

 それは裏切りを指す。生徒会に所属していくるくせに、BBの見方になると言ったのだ。

 

「―――それは、裏切りですよ?」

「それが? 魔術師ってのは願いを叶えるのに手段なんざ選ばない――。

 で、俺の手を取る気はあるかい、BB?」

 

 そう言って手を差し出した。

 

「ふ――――ふふふふ。いいでしょう。何を考えているかは判りませんが―――ええ、その申し出受けさせて貰います」

 

 BBと俺は握手をする。お互いの望みのために手を結ぶのだ。

 

 

「――――――――裏切るタイミングは、お前に接触するときだ」

「ええ、では―――」

 

 ほら、と写真を手渡し。

 

 ――――――風に吹かれるように。強制転移をBBにしてもらい旧校舎に転移した。

 

 

 

 




火「ク―――ハハハハハハハッ!!」
ラ「し っ て た !」
火「やはり、こうでなくちゃ。ふははは!」
ラ「知らされず利用されることの決まったキャスター......コーヘイ、さすがに酷くない?」
火「―――――酷いのは、どっちだろな」
ラ「????」

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