Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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酷いシステムに戦慄を隠せない主人公達編。


遠坂MPS:Money Ghost

 

 

 職員室にあるマイルームに帰ってきた。

 ベッドにキャスターを誘導し、座らせ自分はイスを作って座った。

 

「……どうしてNPCを助けたりしたのです?アレはマスターですらないAI、助けたところで意味はありません」

 

 キャスターは俺の行動をそう断じた。

 

「下手をすれば貴方が死んでいました……分かっていますか?」

「分かっていなかったらただのバカじゃねぇか」

「そうではないかと申し上げました」

 

 叱責の意が少し込められているように感じた。

 

「―――NPCだろうと、あの地獄、監獄の中から運良く逃げ出せたヤツだ。ランサーの遊びの際中に目を盗んで逃げだしてきたのだろう。

 そんな風に、()()()()()()()()()。NPCのくせに声高に生存を吠えた!―――ふはははっ!

 ただのNPCなら見捨てたさ。だが、俺はあれを命として認識した。だから、消えたくないという願いを叶えた」

「そんな、理由で……?」

「それだけじゃ無い。俺は―――目の前で消えようとする命を見捨てれない。もし、見捨てるようなことがあったとしたら、それは俺じゃない」

「――――――っ、そう……ですか。貴方は――バカなんですね。それも相当の」

「まあな」

「褒めてません」

「照れてねぇよ!」

 

 それは。その願いは―――俺を示す、譲れない望み。今度こそは取りこぼすまいと掲げた祈り。キャスターは俺をバカと評したが、実際その通りだ。かなり突発的なものだったと自覚している。だから、俺は一つのものを救うのにかなり計画的行動するよう心がけているのだが。

 

「………できれば、ですが」

「あん? なんだ、キャスター」

「……ああいうことは、やめていただけると助かります」

 

 キャスターは少し顔を背けるように下げてそう言った。声色からはかるい困惑のようなものを感じる。

 

「………あんなことをされると、こう、何というか。胸の裡が、かき回されるような、気分になるので」

 

 それはつまり―――心配、っていう意味だろうか?

 

「―――たぶん、同じ事が目の前で起こったら、繰り返すと思うぞ」

「それなら―――私が着いていけば、問題ないですね?」

「まあ――――」

「問題無いですね?」

「ないです」

 

 なんだ、この押しの強さは!

 

 まあ、それはそれとしてキャスターには聞いて起きたいことがある。

 あの塔で見たモノに対しての反応だ。あの場で口にさせるのはまずいと思って無理矢理切ったが。

 その時に浮かべたキャスターの顔は―――。

 

「あの、塔についてですか?―――ええ、素晴らしい発想かと。無力なマスターとNPCから永続的にデータを抜き出す。そして、その無力さを自覚させて反抗させる気を失わせる。犬の――いえ、ブタの躾に近いモノです。実に効率が良い。ストレス発散もかねているようですから―――二度美味しい」

 

 ―――余りにも凶悪だ。残酷な笑みを作るのは――キャスターその人とはかけ離れた側面のよう。

 俺ですら、背筋に悪寒が奔る。人を人として見ていない――――悪魔か、あるいは。

 

「もうすこし、私が手を加えるなら―――太ももを切り落として、焼きごてを当てます。逃げ出せないようにして、血をとめ、かつ激痛を与える。ふふっ、泣き叫んで許しを請う姿が思い浮かびます」

 

 ――魔女か。

 声は熱を上げ、熱に浮ついた少女のように目を潤ませ頬を高揚させる姿は――恋に焦がれる女のようだ。焦がれている先が拷問され悲鳴を挙げる誰かの姿でなければ、微笑ましいのだが。

 しかし。

 俺の顔をちらりと見て、その熱情をぴたりと止めた。

 

「―――しかし、貴方はそれを望んでないようですし。私も自重いたします」

「……そうしてくれると助かる。俺も……自害を命じたくはないんでな」

「あらあら、怖い顔。ふふ、貴方も魔術師―――いざとなれば、大切なモノだろうと切り捨てる残酷な人でしょうに」

 

 嗜虐を秘めた笑み。

 朝の無垢さを見せた少女のような面から一変した残酷さをむき出しにした女性――魔女としての面を顕にした。

 

「…まあな、否定はしないよ。俺は、いざとなったら切り捨てるさ」

「私がその切り捨てる誰かにならないよう頑張りますね」

 

 ふふ、と笑うキャスターだった。

 女性が持つ二面性をまざまざと見せつけられたような感覚だった。

 

 

 

 

 生徒会室の中に入って扉近くで立っておく。

 

 生徒会の方針を話し合いが行われようとしているのだ。昨日のSGの件やその他もろもろを話合わなくてはなるまい。

 

「おはようございます。それでは全員そろったところで今後の方針を話し合いましょう」

 

 口火を切ったのはレオだ。

 

「まずはミス遠坂について。彼女は自分の事を欲身(エゴ)と呼んでいました」

 

 エゴねぇ。エゴ――エゴイズムの略。エゴとは自我そのものを指すものだが、欲身と打ったからには利己主義という意味として考えたほうがいい。

 自分の欲望をこそを優先する在り方というわけだ。

 

 ――――だが、解せぬ。黒幕の真意が全くわからん。

 月の女王とか遠坂はほざいていたが、黒幕にはほど遠い。精々がかませであろう。統治する力も目的も半端すぎる。

 国の王と名乗った割には随分と雑だ。レオもそれは分かっていることだろう。―――聞くところによればハーウェイ家の跡取りで、王という在り方を望まれたようだし。完成された気質を彼からは感じる。レオが月の王名乗ったならば、俺は疑問を抱かなかっただろう。

 

「サクラの話ではあのミス遠坂は本体から流失したコピー……電脳魔のようなものなのでしょう」

「電脳魔……魔術師(ウィザード)が使役する使い魔、小鬼の類いだな」

 

 ほう、俺の人形に近いものか。

 

「……事は予想以上に厄介なようです。今は少しずつでも分身を攻略していく事が近道かもしれません。

 次にサクラ迷宮について。

 シールドの奥に新たな階層が確認されています。これより下の階層は表側に通じているとみていいでしょう。なぜなら―――」

「遠坂凜が守っていたから、だな。ヤツは月の裏側から出さないと宣言した。であるなら、道が塞がれていた理由はひとつ。あの迷宮が外に通じているからだ」

 

 ―――なるほど。そう言う考え方か。

 

「はい。それが論理的帰結というものです。……まあ、何故ミス遠坂がこんな凶行に及んだのか?その経緯は以前として不明ですが……確かな事は、彼女は我々の知っている遠坂凜とは違う、と言うことです」

 

 あそこまで、残念、ではなかったらしい。俺には全く思いだせんが。

 

 俺は―――レオも、ユリウスも、遠坂も、憶えていない。え?岸波?アイツ影薄そうだから憶えてないのは当然なので、除外である。……だというのに、彼らは俺を知っている。それは、俺が彼ら相手に聖杯戦争を戦ったと言うことだ。知らなければ―――俺は完全な異分子である事が決定的になると言うのに。そうであるならば―――。

 ま、俺を危険視して念入りに記憶を奪う――ないな。

 

「そうでしょうか? レディ・リンは聖杯戦争でも我々の最大の敵でした。今回の凶行も、レオを打倒するための作戦かもしれません。彼女は合理主義者でした。マスターたちから魔力を奪い、自ら強化することも辞さないのでは?」

「……いや、凜は、そんなことしない…」

 

 ――岸波は、遠坂凜に強い信頼を持っているようだ。

 

「ボクも同感です。ミス遠坂に限って、そんな事は絶対似ないと断言します」

「ほう。俺は、遠坂がそう言う手段を取る可能性を捨てられないが……」

「私も状況的にはイーブンに思えますけど…」

 

 レオがそこまで言い切るのは何か確かな根拠があったからだろう。

 

「簡単ですよ。ボクはある意味、誰よりもミス遠坂を信用していますから。彼女は正気を失っています。何らかの方法で正気に戻したい。それが今後の生徒会の方針です。異論のある人はいますか?」

 

 異論は無い。彼女のウィザードとしての能力は相当高いそうだし、正気に戻して戦力としてつかいたいという事だろう。有能な人材はどんな手でも使って手に入れるべきだ……三国志にもそう書いてある。

 誰も異論は無いようだ。

 

「では、次のオペレーションはミス遠坂と接触し、彼女の言動から何があったのかを探る事になります。ですが……白野さんのサーヴァントとランサーの実力差はまだ埋められません」

 

 岸波はその記憶の喪失、サーヴァントの経験リセットでかなり弱体化しているらしい。

 実際、終始ランサーには押され気味だった。

 

「ボクは会長ですから、おいそれと生徒会から動けません」

「それ理由じゃなくね?」

「ですので、しばらくは撤退を基本にして、サクラ迷宮で経験を積みましょう」

 

 会長が席を外すことと戦闘に参加できないことはイコールではないと思うのだが。

 

「……そうだな。せめてもう一人、まともに戦えるサーヴァントがいればいいのだが」

「あと一人いれば、俺も迷宮探索に精をだせる。俺のサーヴァントも隠し手、補助には持ってこいだが、キャスターのクラスからして援護の方が上手い。直接手を下す、戦闘特化のサーヴァントがいるならいいが……ないものねだりは良くない」

 

 そう言った直後。

 

「あれ? 用務員室のジナコさん、サーヴァントと契約していますよ?」

 

 と、桜が言った。――え?いんの?

 ユリウスとガウェインが目をむくように驚愕した。

 あと、誰かが口に含んだコーラを噴く音とかが聞こえた。

 

「というか、ジナコって誰――」

「あわわ、思わぬ展開にコーラが布団に……!っていうか桜さん、なんてコト言うッスか!?」

 

 俺の疑問はジナコとやらの抗議にかき消された。

 

「人の装備をチクるなんてプライバシーの侵害ッス!」

 

 確かに、一理あるがAIにそれを求めるのは酷というものでは?

 

「おや。盗み聞きはプライバシーの侵害ではないと?」

 

 レオの正論破。

 

「サーヴァントを持ってるなら貴重な戦力だな」

「ええ。白野さん。至急ジナコさんをここに連れてきてください」

「わかった。言ってくる」

 

 そう言って、走って用務員室に向っていった。

 

 

 どうやら、勧誘は無理だったらしい。

 というわけで、再び迷宮探索が始まった―――。

 昨日と同じく、主探索を岸波、援護を俺、といった形である。岸波は迷宮の奥へと進んでいく。

 

「―――――――カルナが、外れサーヴァント……? そいつはあれか?バカなんだな?」

 

 俺は、岸波からそのジナコやらのことを聞いて、若干、というかかなり呆れていた。

 マハーバーラタに描かれる施しの英雄。並の英雄とは比べものにはならない大英雄。それこそ、英雄王と言うべきギルガメッシュにすら匹敵するだろう英雄である。

 それを、外れ?もはや、呆れるしかあるまい。

 召喚に成功しただけで勝ち確のようなチートオブチートだと思うのだが……それを外れってお前……。

 

「マスター。何故、貴方がしょげているのです」

「そりゃ、お前。あのカルナだよ?マハーバーラタの中じゃ一番好きなキャラなんだよ。それを……外れって」

 

 俺は子供の頃から本を読むのが好きだった。俺にとって伝説や叙事詩なんかは、人間は分からんが、物語はその人間を分かりやすくし描かれた教本だった。

 マハーバーラタも読んだ本の一つにあってかなりお気に入りの部類に入っている。その中の登場人物は言うまでもなく、気に入っている。

 言うなれば、ファンだ。

 

「あとで、握手してもらいに行こ……」

 

 俺はそう堅く決心した。

 そう決意して、落ち込んだ気分を盛り上げ再び遠見の水晶玉に目を向けると――岸波が遠坂と向き合っていた。

 

「やっぱり来たわね。ホント、人の話を聞かないんだから」

「凜……!」

「でも、今回に限って許してあげる。というか注文通りの行動、ありがとう。岸波君くんはそうでなくっちゃね」

「む……? なぜ礼を言う、リン? もしや正気に戻りたいと、我が奏者に助けを求めに来たのか?」

 

 絶対ないな。そんなタマには見えない。エゴに囚われた存在なら、そんなコトはしない。するとしたら―――悲劇ヒロイン願望持ちとかだ。

 

「あいかわらず目障りなサーヴァントね。うるさいからここでヘコましてもいいんだけど……まあ、大事なお客様ですし?その元気、今回は私のために使ってもらおうかしら」

 

 と言うと遠坂は迷宮の奥へと続く道のど真ん中にそれなりに強力そうなエネミーを出現させた。まあ、キャスターの敵ではないだろうが……わざわざ此処で見せつけるように出したってことは、何かしらのトラップを仕掛けているのかもしれない。

 

「待ってください。白野さんからの映像で解析したところその敵性プログラムは特別製です。戦闘は極力避けて下さい」

「へぇ、今の声ってレオ?あいつも旧校舎に放り込まれたんだ。ま、どうでもいいけど。レオの言う通り、コイツはかなり手強いわよ。今の岸波くんのサーヴァントじゃ倒すのは難しいかもね」

 

 礼装さえ整えれば岸波でも勝てると思うのだが……ひょっとして、これもエゴを元にした行動なのでは?

 

 今回は助けてあげると遠坂はいって―――何かを通路脇に設置した。外見は―――ATM?に近いような。

 

「楽をしたかったらそこにお金を振り込みなさい。名付けて―――遠坂マネーイズパワーシステム!」

 

 と、自信ありげに言う遠坂。

 俺は、この時点ですでに遠坂のエゴを察し―――目が半眼、所謂ジト目になってしまう。

 

「遠坂マネーイズパワーシステム! よ!」

 

 あまりの酷さに岸波のサーヴァントも絶句している。というか、生徒会メンバーの全員が絶句した。

 

「あのかた……遠坂さんは、その……すみません、やっぱり形容するのはかわいそうです」

 

 キャスターが自重を超え、遠慮を覚える始末。憐憫の目をキャスターは向けた。

 

「あ、兄さん、お茶を入れてくれますか? 渋くて熱いのを。ちょっと気分を変えたいので」

 

 やはり、レオは大物のようだ(確信)。

 

「ふふふ………あまりの恐ろしさに声もでないようね。私はこれで失礼するわ」

 

 恐ろしい()。新手の兵器だなコレ。

 

 なぜか勝ちを確信したような高笑いをしながら、去って言った。

 岸波はあっけにとられたのか、凜が去って行くのを見届けていた。

 

 

 

 どうやら、エネミーを倒して稼ごうと動いていたが、エネミーからとれるサクラメントは雀の涙。オマケに、アイテムボックスには何も入れていないという徹底ぶり。

 

「で? お前は俺に借りに来たのか岸波。まあ、貸したいのは山々なんだが……知ってるか?こっちじゃPTTが換金が出来ないだぜ?」

 

 ははは、と虚ろに笑えば岸波も察してくれたようだ。

 これで頑固にせがまれることは無いだろう。

 ――――計画通り。

 

 と、にやけてしまうのを無理矢理抑え。

 

「というわけで、金は貸せな―――」

「……おかしいですね。確かマスターは、購買に手持ちの礼装を売り払ってそれなりの金銭を得ていたように思うのですが」

 

 ――――――――ぶ、ブルータス!お前もか!

 

 はっ、とキャスターの顔を見れば―――悪意見え見えの顔で微笑んでいる。にゃ、にゃろー!わざとか!わざとなのか!

 

「ヒビノ……、貸したくないならそう言ってくれば……」

「ええい…!妙に哀しそうな演技をやめろ! わかった分かった。貸すよ。手始めに……100,000smでいいな」

「えっ、こんなに……!?」

「当然、0.01程度の利子が付くが必ず返せよ。俺にとっても生命線だからな」

「あ、ありがとう。必ず返すよ…!」

 

 そう岸波は喜んで、校舎側に走っていった。

 

 ―――――――なんで、そっち?

 

 礼装でも買いに行ったのだろうか?

 しかし。

 岸波より―――今は、キャスターだ。

 キャスターに先ほどの裏切りの抗議を目線で送る。

 

「ふふ、随分と良心的な利子ですね」

 

 と悪戯っぽく笑んでいる。

 お前のせいで貸すことになったんだが。

 

「でも、気づいていますか?ここ、日が落ちないことに」

「それが?」

「一日が終わるという概念がないんです。この領域では」

 

 ――――あ。

 

「利子、とれませんよ?」

 

 

 




火「取り立て不可避」
ラ「遠坂MPS、恐ろしい子...!」
火「レオにいたってはヤミ金だし。お金の借り貸しは計画的にってな」



このキャスターにすら憐れまれる遠坂。

ひょっとして、キャスターの真名分かった人いるのでは...?
それなりにヒント出ちゃってるからなー()

まあ、それでも彼らの旅路を楽しんでくれたら嬉しい。

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