―――その女に自由は無かった。
生まれた頃から役目を課せられていた。偉大なる父の子。正当なる跡継ぎであるが―――巫女としての役目を求められ、それが当然だと女は頷いた。
ただ、巫女として役目を全うしようと生きた。女は聡明だったからだ。望まれるままに、求められるままに。
―――■に対しての嫉妬があったかどうかは定かではない。いや、おそらく何も感じてはいなかったのだろう。
その女は、親を敬愛し、巫女としての役割に誇りを持っていたのだから。
―――しかし。
巫女になってからというもの―――ずっと一人。白い神殿の中。
求められるままに、巫女の役目を果たすため――自由は必要としない。不満はない。
ああ、だがしかし。その女に赦されたコトが在ったとするならば。
星々を眺め、歌を歌うくらい。
―――あるとき、女がいつものように空を見上げていると。
二つの流星が欠けた月をまたぐように海へ落ちていくのが見えた。
女は無意識のうちに呟いた。女に積もったナニカがそうさせたのだ。
「―――――――」
呟いてから思う。それは叶うことの無い願いだ。叶うことの無い私の――たった一つの望み。
役目でもない。お求められたわけでもない。それでも―――言わなくては今の自分が溶けて消えるような、消えてしまうような気がしたのだ。
誰に言うことのなかった、それを確かに女は呟いた。
――――それは
女は知らぬ。自分が願いを懸けたものは―――何千年と前に砕けた残骸が地球に引かれ落ちてきたものだと。
―――歓ぶが良い女よ!遠い未来でその運命は出会ったのだから!―――だから、最後まで離さないことだ。その運命には限りがある。一度離せば、お前の望みは永遠に叶わない。
ふ、まあ。
――さあ、精々足掻くがいい!
――――――――その女を!その女の運命に愚かしくも
偉業を成すがいい。大いなる邪悪を断つときだ。
――――■■■■■ですら、完全には仕留めれなかった残骸を、呪いを断つときである!
*
――目を覚ます。
ぱちり、と瞼を開き周りの視認を始め、データを脳に取り込む。
「なんか……暑いな。空調機器でも壊れたのか…?」
上半身だけを起こして、周りを確認する。―――つーか、マイルームに空調とかあんの?
見渡すと自分の右隣に違和感を憶え、そこに注視する。
―――明らかに、おかしい。
というか、完全に
最初っから、違和感向きだしだったけどね!
――となると、そこで寝ていたはずの
いやな予感がこの時点でマッハである。だが、もう何となく分かっている。そうあって欲しくないと思ったからか。周りの違和感を探す。
奥、変化なし。天井、変化なし。
―――と、ならば。
もっこりとした我が布団。下半身から伝わってくる違和感。熱の源泉。
―――――がばり、と布団を剥ぐと。
見えたのは、白銀の髪。あっ(察し)
次に見えるのは、ナイスなボディ。肌色である。
裸体で、キャスターは俺の隣ですやすやと眠っていた。
「―――――――――――――――――――」
……………………あ、R-18の線ぶっ超えた―――!
もはや、アルプスどころか、アレ?富士山の山登りしてたら、頂上に着いたら此処エレベストだったことに気づいた、みたいな衝撃が俺を襲った。何を言っているかわからないが(以下略)。
やべーよ、これどうすんの。どうしたらいいの?どうするべきなの?(混乱・錯乱)
そこまで、混乱してふと気づく。
――おれ、服着てんな、と。
服を着ているのに、裸プロレスをすることがあるだろうか。いや、ない。
服に乱れは無い。つまり―――いたしてない。
――――。
「おい、キャスター―――」
と、起こそうとすると左手がうまく動かないことに気づく。
視線を腕に辿らせると―――、キャスターの手が絡みついていた。
剥がそうと思ったが――。
――そこに情欲はなく。まるで――庇護を求める子供ものような。
そう思ったが最後。俺には振り払うことが出来なかった。
はぁ……、しかたない。
*
「……ん…」
と、やっとキャスターは目を覚ました。
きょとんと、まだ眠いけども。と言った顔でぼんやりと俺の顔を見た。
「やっと目が覚めたか、眠り姫?」
「――――――――、?」
「すいませんキザりました、似合ってないのは重々承知でございましたので、その無垢顔で『なにやってのコイツ』みたいな顔はやめていただけると嬉しいのですが」
「……これは?」
そういって、キャスターは俺と繋がれた手を振る。
「いや、お前がつないだんだろ?俺の寝床に入り込んでな」
「…………私が…?」
心底不思議そうな顔で、俺と繋がれた手をみて首を傾げた。
――無意識だったのか?
「……暑いから、そろそろ離しても良いか?」
「あっ、はい」
今まで見てきたキャスターとは思えないような仕草―――ほんのりと頬を赤くして恥ずかしがっていた。
指先が、離れるときは名残惜しそうな顔すらしていた。
今日のキャスターは妙に楚々としている。
眉をいつものように八の字にして考えているようだが――。
「そろそろ、服着て貰えませんかね?キャスターさん」
やたら妖艶な身体をしているから目のやり所に困る。
キャスターは、目線を降ろして身体を確認して曰く。
「……襲ってない?」
「襲うか!色ぼけキャスター!」
「男なのに?本当に男ですか?」
「男ですよ、紛れもなく!」
「……ひょっとして、
「違うわ!」
何故、襲わなかっただけでここまで言われなくてはならないのか。
ていうか、お前に襲われた時のこと憶えていますよねぇ?ひょっとしてからかわれて―――いや、ないな。この目は不思議だから尋ねているって顔だ!
「……ヘタレ?」
「――――かはっ」
純粋な目で、強烈な言葉を吐き出した。俺の心に大ダメージ。というか、さっきから幼子のような雰囲気なんだけど。いつものエロ賢いキャスターさんは何処に?打算ありありの彼女は?
「―――キャスター、はやく服を着ろ。生徒会から呼び出しが入ってる」
それも、結構前から。
「……本当に、変な人」
誰が、変な人だ!お前の周りの人は襲う襲われるが普通なのか!?そっちの方が変な人だろう!変態的な意味で!
*
生徒会室へ急いでむかう。キャスターを起こさなかったのはまずかったか。急ぎの件ならば――ちょいと待たせすぎたかもしれん。
少し走れば、生徒会の扉の前までたどり着いた。
ガラリ、と扉を開け中に入る。
「わりぃ、寝坊したわ」
そんな、軽い調子で入ったの、だ――が――。
目の前では、ちょっとした異常な光景が広がっていた。
見開かれた岸波の目は、目の前にいる女性をしっかりととらえている。身体を動かして抵抗しているが逆に女性らしい身体を近くさせられる悪循環。
―――完全に舌入ってますね。
「な、何をしている貴様ら!?」
そう、ユリウスが言う声が聞こえる。
俺は距離を取りつつ、レオから見て左の席に座ってその情事を見た。
抱きつかれてキスされてるだけですけどね。
「これは流石に予想外です!兄さん、録画の準備を!早く早く!4カメですよ、4カメ!」
と、レオは興奮した物言いである。それでいいのか生徒会長。
「公衆の面前で、なんと大胆な……ああ、腰に回した手は白鳥の羽ばたきか、聖木を抱きしめる大蛇のうねりか……」
「あるいは、捕食する女郎蜘蛛か……抵抗すればするほど女の柔らかさを感じる羽目になる、岸波ガンバー」
状況は読めないが取り敢えず応援しておく。あと、ガウェイン、お前それでも名高き円卓の騎士かね?
桜はその行為を真っ赤になってチラチラと見ている。
―――止めないってことは、健康に影響しない行為のようだ。
やがて終わったのか、キアラが拘束を緩める。
飛ぶように岸波は離れた。
「んっ……ふう、お待たせいたしました。
あー、ナルホド。よりによってこの人を頼ったのか。
恐らく五停心観とは、あの壁?扉?を破るハッキングコードの受け渡しでも行ったのだろう。
「な、ななな、なななななな…………!」
そう魚のように口をぱくぱくさせ、こちらに振り向く岸波。どうやら今何が起こったのか説明してほしいようだ。
レオはニコニコ顔で親指を立て、ユリウスは露骨に目をそらす。ガウェインはキアラに一礼し、「結構なお点前でした」などとほざいている始末。
え?俺?勿論、鼻をほじって無関心を気取りましたとも。生憎他人の情事をのぞく趣味はないので。
「色々ありがとうございますキアラさん。これで白野さんに新しいスキルが付属されたのですね」
「はい。白野さんが抵抗するものですから、あやうく失敗するところでしたが」
なにいけしゃあしゃあと言ってるのか。
「心の壁があるという事は、その大本である女性は救いを求めているということ。あとは白野さんの頑張り次第ですわ」
「……ふん。具体的に、どう頑張ってもらうのだ?」
「それはそれ、もう元気いっぱいに暴れていただければ。
女の子が喜ぶこと、嫌がること、嬉しいこと、怖がること―――――何であれ、彼女達を悦ばせれば良いのです。
そうして心が裸になった時、五停心観を宿した白野さんの目は容赦なく花を散らしましょう」
要は心の弱点見つけろ、てわけだ。
「あとは桜さんの仕事です。白野さんが手にした“秘密”をシールドに転送して壁を解く……それにも新しい術式が必要となります。桜さん。先ほど、機能拡張はできるとおっしゃいましたね?」
「……は、はい。それが皆さんの手助けになるのでしたら、特例として許されると思います」
「では、桜さんには五停心観の残りの部分を受け入れてもらいます」
「白野さんにお譲りしたのはあくまで一部。貴方には術式の大本を組み込みます」
ということで、桜の同意を受けて保健室にいった。インストールさせるには裸になって貰わなくてはならないらしい。
少し、彼女らが気になるようで岸波は。
視線をを生徒会室の入り口扉の方に向けた。
「いけません、岸波さん。弾したるもの気になるのは分かりますが、ここは自重すべきかと」
比較的紳士的なガウェインが行動を止めた。
「そうですよ白野さん。口元からよこしまな考えがバレバレです。ここはおとなしく待っていましょう」
おお、以外に食いつきそうなレオが止めに入った。
「まあ、ボクはお手洗いに行きますけど。少し紅茶を飲み過ぎたようですね」
と、がたりと席を立った。お前もかい!まあ、飲み過ぎちゃったらね、仕方ないね。
「レオ。お言葉ですが、貴方はここ数時間紅茶はおろか水分らしきものを一切摂取していませんが」
ガウェインの忠告に足を止める羽目になった。嘘だったらしい。
「ははは。ガウェインは細かいですね。お手洗いは勘違いでした。実は、借りた本を返しに図書室に行く用事が、」
とレオの言い訳が続こうとした時、ふいにがらりと扉が開く音がした。ユリウスが扉の前に移動していた。
「会長の手を煩わせるまでもない。様子はオレが見てこよう」
「そんな、兄さん。なんだってこんな時にだけ気が利くんです?」
「汚れ仕事はオレの管轄だ。購買室前で待機し、異常があるようなら保健室をノックし、中を窺う」
「見事だ。まさに紳士の対応です。ユリウス、よろしくお願いします。……まだレオには刺激が強すぎる恐れがありますからね。詳しい話は後ほど、私だけに」
おい、ガウェイン。
「ああ、それはずるい!兄さんもボクもそう年齢は変わりません!R15までならOKです」
お前、14じゃなかったけ?
「……おまえたち、オレのことをなんだと思っていたんだ?オレは本当に様子を見てくるだけだ。良い機会だから言っておく。
生徒会秘書の名にかけて不埒な行為を見つけ次第処罰する。そのつもりでいろ」
そういって、生徒会室から出て行った。
「くっ……なんという堅物なのか!あの物言い、ランスロットを思い出します!」
「ユリウス兄さん……職務に忠実な人だと知ってはいましたが、ここまでとは……ボクの失敗です。申し訳ありません、白野さん」
しばらく男の会話を楽しんだ(性嗜好について)。
がらり、と扉が開いてキアラと桜が入ってくる。
「お待たせしました。桜さんへのインストールは滞りなく……おや?
ふふ、今度は楽しげな空気ですのね。男性だけの密会になると、心は男の子に戻るのですね。微笑ましいばかりです」
ほとんどエロ会話だったけどな。女性サーヴァントも連れてるというのに。
「桜は大丈夫なのか?」
「はい、特に問題はありません。心を理解することは出来ませんが、シールドの解析力は格段に向上しました」
では、と言ってキアラは帰っていった。
ふう、やっと心がいくらか和らぐ。アレは苦手だ。
火「俺の寝床なんども入り込まれる件」
ラ「あ~分かる分かる。マスターの側ってなんか安心するのよね~。なんて言うか――我が家の実家感?」
火「喜んでいいのか分からない」