Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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アガルタがついに始っちゃった。


第一回戦 七日目 決戦日

第一回戦 七日目

 

 

―――目が覚める。

決戦の前ということもあって、いままで得た情報を整理することにした。

 

 

 

 

ランサーの情報を整理する。

 

「そういえばなんでランサーなんだ?」

 

よくよく考えてみれば妙である。彼があのジル・ド・レェだとしたら、騎士――セイバーというほうがわかりやすい。だからといって、ランサーであることがおかしいというわけではないが。生前扱ったこともあるだろうし。あの海魔からしてキャスター、と考えたほうが納得できる。

 

「ええ、そうね。――宝具が逸話の集約、ということはもう話してたわよね。あのサーヴァントの宝具は何かしら?」

 

それは―――

 

「あの槍、としか考えられない。」

 

歪で紫の海魔の皮で作られた、いや、金属が飛び出していたがあれは、十字槍の先端ではないだろうか。改めて思い出してみると、白銀の十字槍に海魔のようなものが絡みついているような印象をうける。

ライダーのスキルをうけたときも、槍に巻き付いた触手が展開、とぐろを巻くようにして、盾となっていた。

 

「なら、きっとランサーで間違いはない。でも、印象がずれている、そういうことね。確かに私のようにライダーでありながら槍を使っているし、他にも宝具を保持している可能性はあるわね。英霊のどの側面を切り取ったものかが重要でしょう。」

 

「でも、ランサーの真名を暴いた時って、『青髯』の情報からよね?信頼できるの?」

 

信頼できるかといえば、確かに微妙なとこではある。もし俺なら、全く別の情報を渡す。それで脱落させるのだ。だが、リスクもある。たとえば、たとえ間違った情報を渡されながらその戦いを生き残ったとしたら、信用ガタ落ちである。利用しようと考えたなら、協力関係をつくるために、正確な情報を渡すだろう。

 

「信用できると思う。エリカが俺を利用したならな。」

 

逆にそう思わせ情報を信じこませることに重きを置いたかもしれないが。

なんにせよ、このままでは水掛け論だ。

それに――

 

「たとえ敵が何であったとしても、負けないだろう?なにせ、俺の最強のサーヴァントなんだから。」

 

少しあっけにとられたような顔をしたあと、薄く笑みを浮かべ。

 

「ええ、貴方の最強のサーヴァント。負けなんてないわ。」

 

 

――これよりは、決戦。

――命と命の奪い合い。

――生き残るのは、ただ一人。

――この先に進めるのもただ一人。

――不安はある。

――が、彼女の勝ち気な笑みをみれば。

――不安は顔を隠す。

――覚悟は、とうに出来ている。

 

マイルームの外へ歩き出す。

 

――もう、後戻りは出来ない。

 

 

 

 

――――――1階廊下

 

階段を降りた先、用具室の前に黒いカソック姿の神父――言峰が立っていた。

 

「ようこそ、決戦の地へ。身支度は全て調えたかね?扉は一つ、再びこの校舎に戻るのも一組。覚悟を決めたのなら、闘技場≪コロッセオ≫の扉を開こう。」

「覚悟はある。」

 

――決戦場へ赴く

 

「いいだろう、若き闘士よ。決戦の扉は今、開かれた。ささやかながら幸運を祈ろう。再びこの校舎に戻れる事を。そして――存分に、殺し合い給え。」

 

どう聞いても神父が言っていいセリフではない。そのアンバランスさが、不快感、不気味だと思わせるのかもしれない。

扉に二つの鍵――第一暗号鍵と第二暗号鍵がはめ込まれ、扉の封印が解かれる。

エレベーターが現れた。エレベーターの扉が開く。先は見通せない。

不安、忌諱感に煽られる。不透明な先行き。

――それでも。

エレベーターの中に、足を進めた。

 

扉がしまる。ガコン。下にさがり始める。

振り替えれば、対戦相手であるランサーと比島がいた。

そしてその間をわける壁。

 

「はんっ、やってくれたじゃないか。まさかあのあと一度もアリーナにはいってこないとはな。」

「いや、一度は行ったぞ。」

「嘘をつけェ!入ったら半日はでないハズだ。朝入ったとしてもまともに探索すれば半日かかる。」

 

まともじゃなかったから、早かったのだが。相手はいらつきを隠せない様子だ。

 

「その様子じゃ、こっちのサーヴァントの真名はわからなかったみたいだな。」

「あんな糞情報を渡しやがって!宝具からは絞れねェ、セイバーだってことしか分からねえじゃねーか!」

 

セイバーじゃないし、そもそもアレ宝具じゃないらしいし。スキルでした。

 

「そういうお前はどうなんだ。こっちのサーヴァントの真名はわかったのか!?いや、わかるハズなんてないか。」

「ジル・ド・レェ。」

「な!?」

 

ジル・ド・レェ――騎士として殺人鬼としても有名な英雄だ。あの情報がなければ、たどり着くことは難しかったかもしれない。

――しかし、疑問がある。海魔の召喚、維持についてだ。

 

「海魔はどうやって維持をした。そもそも召喚からして必要魔力が多かったハズだ。とてもじゃないが、NPCを三体潰した程度で賄えるとは思えない。」

「なんだそんなことか。魔術師のくせに頭悪いんじゃないか?簡単だろ。足りないならもってくる――予選の人間つかって魔力炉作ればいいのさ。」

「というより、予選でつい殺してしまった人間を有効利用しただけのことでしょう?」

「記憶があろうがなかろうが、やることは変わらなかった。ただそれだけだ。ま、そのおかげで、予選の時点で持ち込んだ念のための記憶の解除キーを満たしたんだがな。どうせ死ぬ命だ、有効利用してやったほうがいいだろ?」

 

なるほどそういうことか。なら犠牲になったのは5人くらいか?

 

「今俺の部屋で生きたまま喘いでるぜ。イダィィ、てな。魔力タンクとして必要だからいかしてんだ。」

「目を離せばすぐ殺そうするんですから、まいりましたよ。」

 

頭の痛くなる会話だ。さすがの俺も不快感を覚える。

 

「なるほど。快楽殺人鬼どうしでお似あいじゃない。」

 

とライダーが口をはさむ。

嘲笑を含んだ声を放った。

 

「獣ですら限度をわきまえているというのに、貴方達ときたら、まるで年中発情したウサギみたい。――気持ち悪いわ。」

「……ほう、いうではないですか。そういう貴方こそ、主人に媚びをうる雌犬の用ですぞ。……ああ、いえ失敬。雌猿のほうがにあってますな。」

「マスター殺すわ、一切のぬかりなく確実に殺すわ。」

「落ち着け。お前が激昂してどうする。どうどう。」

「馬でしたか。まさしくこれを馬鹿というのですね。日本人のセンスは目を見張るものがありますねェ。」

 

ライダーはいらだち地団駄を踏み始める始末。子供か。

 

「大丈夫よ、もう貴方の指示なしで飛びかかることはしないわ。」

 

静かにこちらをみて、そう話す。その言葉を信じるとしよう。

少し照れからか瞳がゆれていた。つい手をのばし、頭をなでてしまう。

 

―――決戦場が近づく。

程なくして、ガコン、という音とともに決戦場へとついた。

 

「そのセイバーがなんであれ、俺にも願いがあるんだ。勝たせて貰うが、恨むなよ。」

「その言葉、そっくりそのまま返させてもらう。」

 

あとセイバーじゃなくてライダーだから。

 

 

 

 

闘技場というには、殺風景で、どこか深海の沈没船の管板を思わせる。

そこに自身を含めた二組が向かい合っていた。

 

「ははっ!彼奴らも殺して部屋にオブジェに変えて、置いてやるとしようじゃないか。なあ、ランサー。」

「あれだけの魔力量です。生きたままオブジェにかえた方がよいのでは?テーブルがちょうど欲しかったところです。」

 

「生きたままテーブルとか、御免被るわ!ら……セイバー全力で倒すぞ!」

「言われなくとも当然!外道、下衆ならこの槍ものりがいいでしょう。私が最強のサーヴァントであることを照明してみせるわ!」

 

「その体、この槍で犯して差し上げましょう。この槍に鳴かされる姿が楽しみです。」

「…気持ち悪い。生憎、男なら間に合ってるの。文字通り灰にするわ。…目の前から失せろ。」

 

ランサー歓喜の声を響かせ、ライダーは低く冷酷な声をだす。

どうやらライダーは、戦闘モードに入ると冷酷なキャラに変化するようだ。

 

 

――Sword,or Dearh

 

 

「その首、罪も相まって重たいだろう。余が切り落としてやろう。」

「それは、貴女にも言えるのでは?背徳の味をご存じでしょうに。」

 

激突。まるでトラック同士がぶつかったような重厚な音。

ライダーは上段からの振り下ろし、ランサーはそれを頭上で受ける形だ。どこかで見た構図。

ライダーは蹴りを放とうと懐に入ろうとするが。

 

「見切ってますよ。」

 

ランサーは槍を斜めにずらし腰を前にいれ、蹴りを放つ。

リーチの差。中学生程の体躯であるライダーの蹴りよりランサーの蹴りの方が早くきまった。

 

「グッ……マスター!」

 

とたん、ランサーの蹴りを放った足が爆発する。

 

「なっ……!」

 

小規模の爆発、ダメージはほとんどないだろうが、ランサーの動きをとめる。

そして、それを見逃すライダーではない。

 

「お返しだ!」

 

ランサーの腹を切りつける。

ランサーは比島の近くまで吹っ飛ばされる。

 

「ぐぅ……やりますねぇ。」

 

ライダーがいつかした攻撃をそのままさせたのには、理由がある。一度仕掛けた攻撃ならば、なんらかの対処をするだろうと踏んでいた。ライダーに作成した鶴を持たせていたのだ。蹴りをくらった時、足につけ、俺が封入した魔力を爆発させたのだ。

 

次に仕掛けたのは、ランサーだ。

接近しての強力ななぎ払いライダーは体をかがめ避けようとするが、ライダーの頭上でランサーの槍が、ビタッ、と止まり振り下ろしてきた。ライダーは横に転がるようにして避ける。

 

「ちょこまかと……こざかしさはネズミ以上ですね。ですが!」

 

振り下ろされた槍が、グニャリと曲がりライダーを追撃した。

体は起こして、避けの体勢をとっていたが、間に合わずくらってしまう。

 

「……っ。すまぬ、ミスった。」

 

すかさず鳳凰のマフラーを起動させ、治癒のコードキャストを奔らせる。

 

「はっ!これでどうだァ!」

 

止まったライダーに霊子で構築された鎖でその場に縫い止められる。

比島がコードキャストを発動させたようだ。

 

「ええ、見事な判断です!マスターァ!!」

 

ランサーは槍を横に振るようにして槍の先――肉触手とのばしライダーに叩きつける。

 

「――グがぁっ」

 

ライダーはまともにくらって梁へ衝突する。だが、それだけで攻撃が終わるハズなく、触手がライダーへと伸び、小さな体を拘束、そしてランサーのもとへ引き寄せる。そのまま、突き刺すつもりのようだ。

 

「ライダー!」

 

ライダーをみれば、その手にしていた槍が変化し血のように紅く透き通った剣へと様代わりしている。

 

「―――っなめんな!!」

 

その剣で触手を溶断し、拘束から解き離れる。そして、勢いそのままに。

 

「『焼き尽くす我が憤怒』!!」

 

奔る炎熱。死を予感させる圧倒的な熱量。それはランサーへと向かっていく。

直撃。

しかし、ライダーは手応えを感じなかったようだ。

 

ランサーは槍先の触手をとぐろを巻くようにして盾にしていた。

あの時も触手を伸ばして盾にしていたようだ。

 

 

 

 

そんな攻防を十分はつづけただろうか。

すると比島がじれたのか。

 

「ランサーァ!そろそろ決めるぞ。宝具の開帳をしろォ!」

 

そう言うとともに拘束のコードキャストを発動させる。

 

「御意。」

 

ランサーをみれば魔力の収縮が見て取れる。

宝具を打つ気のようだ――まずい。

 

ランサーは自らに槍を突き立て叫ぶ。

 

「みよ!我が穢れ!神を否定する我が身業、我が贖罪を!『螺湮蝕堕槍』≪プレラーティーズ・イロウション・ランス≫!!!」

 

ランサーから紫の肉が噴き出る。海魔の触手だ。

噴き出た触手がランサーを絡め取る様に包んでいく。同時に耐えがたい悪臭がはなたれている。

 

「いいぞ!ランサーァ!神すら食い殺せるだろうその異様!最高だ!!」

「……な、ん、だよそれ…。」

 

あまりにも巨大、あまりにも異様。

天まで届きそうなその有り様。悪臭をも相まって。

――まるで邪神。

 

 

「アアアァアァアァァアアッァァァーーーーーー!!!!」

 

おぞましい化け物の産声。

圧倒的な魔力と質量を内包している。

これを見た者は、あまりの禍々しさ、おぞましさに狂い、絶望するだろう。

俺とて例外ではない。

――もし彼女がいなければだが。

 

「マスターどうする?宝具を打とうにも、余のチャージ、待ってくれるとは思えんぞ。」

 

拘束を外したライダーが俺の前に立ち、こちらをうかがう。

 

「チャージする時間を作ればいいんだろう?」

 

俺は懐から在る物を取り出す。

それは、二日かけて用意した合計三万の万羽鶴。

かなりの威力、持続が見込めるものだ。

 

「もって三十秒だがいけるか。」

「問題ない、むしろ多いくらいだ。」

 

 

「―――ライダー。宝具を開帳しろ。」

 

瞬間、ライダーを中心に魔力が収縮する。大気は震え、風は吹き荒ぶ。剣には、途轍もない熱が集まり始め、光をともない輝いている。ライダーの周りがこげはじめる。

ライダーのチャージを止めるため、夥しい量の触手が襲い来る。

俺は手をひろげ、あたりに鶴をばらまく。

 

「――キドウ――」

 

その言葉で一気に折り鶴が浮遊する。三万羽をこえる色取り取りの鶴が一斉に飛び立つ様はライダーも認める美しさ。空を埋める大輪。

大量に用意し、互いに魔力場を干渉させ合いより威力を底上げしている。

それをライダーを仕留めようとする触手へとぶつける。

二日もかけた大作を30秒で消費していくスタイル。

思うところがないわけではない。

次々触手を爆発させ損傷をおわせていく。修復の余地を与えない。

触手の根元に5000ほど突撃させてもぎ取る。かなりの魔力を封入したのだ。神秘の深さがあまり関係しないセラフならではといえるだろう。地上ならこうはうまく行くまい。

20秒過ぎ、折り鶴も心許なくなった頃。

しなやかでありながら、力強い声。ライダーは上段に剣を構え。

 

「――空を抜き」

 

「――地を祓う。」

 

「――その剣の名は!!」

 

「『全て灼き滅ぼす≪レーヴァ――」

 

「――勝利の剣≪――テイン≫」

 

轟音。

 

振り下ろした剣から凄まじい極光、熱線が放たれる。

邪神の様をなしていた大海魔。圧倒的な存在感が見下ろしていたと言うのに。

一瞬でそれを。守ろうとした触手諸共。耐久を上昇させるコードキャストもみえた。

だが、ライダーから放たれた暴力――光の渦はたやすく、巨大な影を飲み込んだ。

 

 

 

 

「………………よもやここまでとは。」

 

ランサーはボロボロの体で、立つのがやっとといった感じだ。

比島は、あまりのことに理解が追いついていないのか、呆然としている。

敗北したのが誰かは、誰の目でも一目瞭然である。

 

「――うあっ!?なんだこりゃァァ!消える!体がァ!な、なんでそんな―――」

 

「ああ、そうか……負けたのか。俺……。」

 

そんな声をあげた比島の、手が、足が、体が、段々と消えていこうとしている。

そばにいる、彼のサーヴァントと共に。

 

刹那、勝者と敗者、俺と比島の間に赤い壁が現れた。

「聖杯戦争で敗れた者は死ぬ。…この喪失感こそ死か。」

 

「申し訳ございません、マスター。このジル・ド・レェ、勝利を約束したにも関わらず、こんな、敗北を……。」

 

「……ココが潮時ってヤツだ。あのサーヴァントの真名がわからなかった時点で、敗北は決していた。……そもそも謝るべきは、俺だ。おまえを、キャスター、いや、セイバーとして呼んでやることが出来なかった。それに俺ァ殺人鬼。悪は滅びてなんぼってな。」

 

「しかし、貴方の、願いは、何一つまちがっていない!殺人性を、殺人衝動を治したいという願いが間違っている、はずなどないのですから…。」

 

「もういいんだ。何より俺が納得した。」

 

比島は振り返ってこちらを見た。

 

「おいっ!この俺を倒したんだ。比島グループのトップをだぞ。優勝以外認めない…からな……。」

 

そう言って比島は消失した。その魂、存在さえも。完全に。

 

「マスターは、地上で、殺した、殺してしまった被害者に、殺人癖を治したら、謝罪にいこうとなさっていたようです。マスター、貴方のような人を主人にもてて―――」

 

それを最期に狂い終えた騎士はかき消えた。

フランスの救国の英雄にして、最悪の殺人鬼。――有名すぎる悪評『青髯』。

その英雄は、最期までマスターを思っていた。

 

残ったのは、勝者のみ。

 

 

――――――聖杯戦争の一回戦は、こうして集結した。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

俺は、最期の有り様から目をそらさなかった。

それが、死にゆく者に対する礼儀だと思ったのだ。

どこか現実感を得ることができない、死。あれが電脳死なのか。

 

「コーヘイ、大丈夫?」

 

すこし、ぼーっとしていた俺のことを心配したのか、そんなことを話かけてきた。

 

「…大丈夫だよ。問題ない。もう時間も時間だ。早めに寝るとしようか。明日には、新しい対戦者が発表されるしな。」

 

 

 

 

床に入る。疲れからかすぐに眠気が襲ってきた。

 

―――比島。

―――最初の印象は最悪だった。

―――最期で印象が大きく変わった。

―――出会い方さえ良ければ友になれていたかもしれない。

―――狂気の底には、どうしようもない性があった。

―――大切な願いを俺は。

―――せめて、憶えておこう。

―――自身が殺した男のことを。その男の背徳への苦しみを。

 

 


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