Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

59 / 149
よかったな。ハッピーエンドだ。(自爆コマンド打ち込まれたライダーからは目逸らし)


機械仕掛けの夢:Happy End

 

 奔る銀の線。交差する度に飛び散る火花。

 

「チ、メイガスにしちゃあ、なかなかの槍さばきじゃあねぇか――!」

 

 セイバーは豪雨じみた剣閃をリリスへ浴びせる。

 リリスはその手にした白槍を、押されているからか、苦い顔をしながら、しかし防ぎきっている。

 

「お褒めにあずかり、どうもっ――!」

 

 足を狙った剣閃を軽く飛んで躱し、長槍を振り下ろす。セイバーが振り下ろされた長槍を防ぎ、バンッと爆薬が弾けるような音を立てる。

 

「オオオッ――!」

 

 リリスは己が髄力をこれでもかとこめ、セイバーを押し飛ばす。

 

 セイバーは、純粋な英霊。リリスと言えば、アルテミット・ワンとして変成はしたものの、元は魔術師であり人間である。

 

 かつてヒビノコウヘイという人間の頃に槍術自体を己の武術として磨いたことは一度としてない。しかし、持ち前の卓越した推測能力でもって――例えば、セイバーの足運びや、腕の動き、重心の移動などに常に気を配ることで何とか形にしていた。

 

 だが、元からあった地の差は簡単に埋まるモノではない。

 

「ふ―――っ!」

 

 リリスを切り裂かんと深く踏み込み、叩き降ろすように斬りつけた。

 セイバーはただ髄力の差でおしまけたのではない。そも、アルテミット・ワンに髄力勝負をしかける馬鹿などいない。わざと自分から距離をとって、完全に振り下ろした隙を突くつもりだったのだ。

 

 しかし、それはリリスの想像の上をゆくモノではない。

 

「予想通り――推測済みだ、モードレッド――!」

 

 振り下ろした白槍を勢いそのままに地面に突き立てる形で止める。

 

「遮れ――!」

 

 途端地面から、白い雷と共に巨大な土塊でできた腕が現れセイバーからリリスの姿を隠す。

 

 そしてそれだけに終わらず、巨大な土塊の腕は辺り一帯を薙払うべく振るわれた。

 

 だが、それは――セイバーにとっては何ら障害とならない。巨大な土塊の腕がせまろうが、確かな質量を持っていようが関係無い。()()()()叩っ()()()()()()()()()()

 

 しかし、叩っ切ろうと剣先を振り下ろし始めた刹那、身体が強烈な不快感を示した。

 

 まるで、それこそが、その行動が彼の策の内だと訴えるかのように。

 

「チ―――――」

 

 セイバーは舌打ち一つして、軽く跳んで土塊の腕を踏みつけ駆け上がりさらに跳んで避ける。

 すると、敵を捕らえ損ねた土塊の腕はドンッと内部から弾ける形で爆発し吹き飛んだ―――もし、勢いのままに叩き斬っていたら丸焦げになっていたかもしれない。

 

 身体が赴くまま、着地し周りを見渡してリリスの姿を探すが見当たらない。

 

「いやー、まいった。流石は直感持ち。ま、これでしまいだ――!」

 

 ぼう、とセイバーの足下が白くほのかに輝き、周り覆い隠す様に壁が競り出てセイバーを包み込む。

 魔力が土塊のドームの中に収束し始め、輝き爆散した。

 

「グ―――――ッ」

「ああ、完璧。そのやたらかっこいい鎧はこれでおじゃんだ」

 

 リリスは、真っ向勝負ではセイバーに勝てない。英雄に凡人がかなう理由など運以外にない。だが、相手を自分の、凡人の域まで落とし込めればどうだろうか。自分に腕がないなら、相手の腕も使わせなければ良い。相手の方が賢いなら、酒を仕込んで判断を鈍らせろ。技術が上ならば――。

 

 負ける可能性は万に一つも無いと確信するリリスではあるが、その慢心が万の一を呼び寄せかねないことを知っている。そう言う意味では賢者でもあった。

 ゆえに、相対するものには必ず自分が勝つように策を張り巡らす。考え付く限りの敗北をさけるために全霊をつくす。自分がリスクを冒すことがあってはならないとすら。徹底的に敗北の要因をナクしてから進む。石橋は叩いて渡るものなのだ。

 

 セイバーの鎧を剥ぐ。面倒な物理防御に、魔術に対してもかなりの防御力を誇っている鎧はなくなった。

 

 ならば次は―――。

 

「クソ―――ッ」

「悪態一つで変わる物もなし。ならば諦め救いを受け入れろ、セイバー。もはや、お前に勝利は――」

「ぬかしてろ、タコ!」

 

 たとえ堅固な鎧を剥ごうとも、屈強なその(意志)をへし折ったわけではない。

 

 セイバーは剥げた鎧など気にも止めず、剣を地面に突き刺し魔力を一気に放出する。

 地面がめくり上がり、彼岸花を散らしていく。衝撃波は斬撃となってリリスに牙を立てる。

 

「無力を知れ――」

 

 殺到する魔力の牙をリリスは何のこともなげに白槍で切り払う。

 

 だが、セイバーの狙いは別。切り払われることは予想の内。宙に舞う土埃こそセイバーの真の狙いである。

 土埃を舞い上げ、リリスの視界を奪い一気に肉迫する――。

 

「あー、言い忘れたんだが」

 

 そうリリスは言葉をこぼすと、背後から接近するリリスからは土埃で見えないはずのセイバーに向って、くるりと身体を返し、足を突き出した。

 突然突き出された足に反応できず、セイバーの腹に突き刺さり、身体がボールのように軽々吹き飛ばされる。

 

「視界を封じようと無駄だ。咲き誇る彼岸花は、その実、触覚、視覚と同じ働きをしていてね。たとえ、えぐり取ったところで――そら、足下を見てみろ」

 

 セイバーが吐き気を訴える身体を起こしながら、視線を下に移せば――抉ったはずの地面から、彼岸花が再び咲き誇っていた。散った花びらなどなかったかのように。

 

「どれだけ抉ろうと、切り裂こうと無駄。俺の心象に彼岸花が絶えることなどない」

 

 視界はふさげない。純粋な剣技で挑もうとも、リリスの固有結界の侵食状況から考えて――あと三分程度と時間が無い。そも、リリスが付き合う気が無いだろう。

 

 ――だが、そこで諦める気は、セイバーにも、ましてそのマスターであるエリカにもなかった。

 

 エリカは懐からある物を取り出した。それを握りしめ、リリスからは分からないようにする。

 

 それは第二回戦の折、リリスがヒビノコウヘイと名乗っていた頃、渡されたもの。即席のトラップ。小さな箱状に収められているもの。あのアサシンの急襲がなければ、使っていたものだ。

 

「この野郎――!」

 

 セイバーの何処か焦って斬りかかる風を演じて貰い、隙を窺う。乱雑な剣技でもって相手の注意を引く。

 

「どうした、セイバー。剣筋が乱雑だぞ、焦るにしても随分適当だな?」

「さっさとぶった切られろ!」

「はいはい。……ま、あと少しで完全にムーンセルの演算能力を手に入れる。それまでの――」

 エリカに対して背を向けた。セイバーに完全に意識を寄せた。さっきまで、何をしようとマスターの力を決して侮らなかった。注意を怠った。あと少し。ムーンセルの演算能力を吸収するコトが確実になったからだろうか。あるいは迫った理想の実現に心が浮いたか。

 

 ―――隙が出来た。

 

 彼岸花が視覚であろうが問題は無い。どんな生き物も、突発的な自体には弱い物である。対応しようとしても、セイバーが剣技を乱雑な物から清廉したものへ変化させたならばどうだろうか。

 

 エリカは、紙で出来た箱をリリスへ投げつけた。同時にセイバーが剣閃を激しくする。

 

「なにを――?うおっ」

 

 振りかえる暇など与えない。

 放り投げたトラップは放物線を描き――リリスへと当たった。

 

 箱から大量の鎖が噴き出て、リリスへ絡みつき動きを止める。それは―――セイバーを前にしては、致命的なことだった。

 

「これは―――二回戦の時の?エリカに渡した――ッ!?」

「その強さにあぐらをかいた傲慢さがテメェの敗因だ――!」

「――――しまっ」

 

 慌てて拘束を力ずくで解こうにも遅い。セイバーの魔力が剣へ集中する。それは――セイバーの究極の一。荒れ狂う憎悪を刀に這わし纏わせ、剣の切っ先へと集めていく。

 

「テメェには過ぎた一撃だ―――!『我が麗しき父への叛逆(クラレント・ブラッドアーサー)』!!」

「ぐ―――ガァァァァァ――!!」

 

 ゼロ距離から放たれる赤雷の極光がリリスへ直撃する。

 

 激しい魔力の奔流に流され、リリスの身体は光の中に消える。燦然と輝く王剣(クラレント)に魔力をたたき込み、その宝具の増幅能力をつかって放たれる一撃。

 

 セイバーの出せる――――最大の一撃。

 

 

 

 

「……で、もういいかな。やられる演技も楽じゃない」

 

 

 ――――だと言うのに、リリスには効かなかった。

 リリスは赤雷の極光のなかで軽く手を振って魔力の奔流を霧散させた。

 

「――――な」

 

 セイバーの驚きたじろぐ。その隙を縫うようにリリスは、体勢を低くして地面を滑るように超速で接近した。

 

「っ―――この!」

 

 近づいてきたリリスに気がつき、剣を振り下ろして応戦しようとするが―――リリスは腕を身体の前で十字にクロスし振り下ろされる剣を受けとめ、思いっきり腕を跳ね上げる形で、セイバーの腹をがら空きにする。

 跳ね上げた腕―――それも肘で、セイバーのがら空きになった腹を打ち付ける。付け焼き刃なものではなく堂に入った一撃だった。セイバーの身体が吹き飛ばされてもんどり打つ。

 

「ガッ――かはっ」

「やっぱ慣れない得物使うより、殴った方が早いな。まあ、せっかくの宝具だし―――」

 

 内蔵を暴打され、吐き気とともに激痛がセイバーを襲う。あのセイバーが立てなくなる程だ。額に汗が浮かび、表情をかつて無いほど歪めている。腹を押さえて、地面に片手と膝をついていた。

 

 さっきの一撃は、セイバーの孔を穿つものだった。生体に流れる生命エネルギー―――即ち、経絡の要所を付いたのだ。急所経穴を突いたのである。内蔵を掻き出されるような激痛が起こり、三日後には死に至る、とのコトだが流石はサーヴァントか。あるいは、リリスの練度不足か。

 セイバーが気づくよしはないが、今セイバーは魔力放出が使え無くなっている。むしろ、それこそがリリスの狙い。殺すつもりは、元よりない。だが、避けられるのは困る、と言う訳だ。

 

「―――一発撃っとくか」

 

 せっかくだからと、軽い調子で白槍を構える。オーディンの邪魔が入ろうが問題は無い。モードレッドの持つ燦然と輝く王剣と同じ理屈だ。一分の――グングニルをグングニルたらしめる能力が使えないだけ。北欧の魔法の槍としての力は残っている。

 

「―――では、擬似宝具開帳。分かち穿つ――!目標は四!その叛心を手折る時だ―――!『大神宣言(グングニル)』!!」

 

 白槍に魔力が集中し放たれ、白い稲妻のような軌道を描く。その先にはまともに動くことの出来ないセイバー。このまま突き進めば、あの殺意の奔流にセイバーが飲み込まれることは予想に難くない。

 

「させない――!」

 

 それを分かっていて見過ごすマスターがどこに居るのか。エリカはそうはさせまいと壁をハッキングで築く。固有結界の中とは言え、未だ電子空間の中である。

 

 完全に防ぐことはできなくとも、威力の大幅な減衰が期待出来る。そう考えての質量、構造も整った壁だった。

 

 だが。

 

「な―――軌道が!?」

 

 放たれた白い稲妻が途中で四つに分岐した上に―――、壁を避けて、セイバーへと殺到した。なんとかセイバーも避けようと、魔力放出の反作用で身体を跳ね飛ばすように避けようとしたが、白い稲妻は目標を見失う事無く軌道を修正した。

 

 もはやこうなっては、セイバーに避けれる通りはない。

 

「アアアアアアァアアアァ―――――!!!」

 

 絶叫。白き稲妻は、セイバーの四肢を撃ち抜いたのだ。もはや、腹に打たれた激痛など目ではない痛み。気を失わないほうがおかしいほどだ。

 

 どちゃり、とセイバーの身体は落ちた。

 

 白槍は元の持ち主の手に帰還する。

 

 

 

 

 ――――――決着は着いてしまった。

 

 エリカ達の敗北である。

 

「だから、言っただろうに。遊びだと」

 

 言葉に違いはなく、文字通り遊びだったのだ。自分が負けることがない。そう分かっていたから戦ったのだ。

 

「―――さて、幕引きだ。もう反抗は出来ない。………お前も救われる、お前の願いは此処に叶う」

 

 セイバーに歩み寄り、四肢の骨ごと穿たれたセイバーの首を掴んで高く持ち上げる。

 

「っ―――ぐぁ」

「……君に幸あれ、モードレッド。君の夢は現実となる。少し早いが、人類に先駆けて体験してくるといい」

 

 セイバーの身体が虚空に沈み始め――――そのまま、消えた。

 

「安心しろ。殺してはいない」

 

 エリカにむけて声を掛ける。

 

 エリカは身体をその恐怖に耐えるためか、振るわせていた。セイバーが、己のサーヴァントがいなくなったことで、絶えていた恐れが噴き出たのだ。しかし、膝をつかないだけ褒めるべきか。常人ならば発狂している。

 

 それでも―――問わねばならない。そんな理由で恐怖に呑まれないのが彼女だった。

 

「……なんで、ライダーさんを自害させたんですか?あのヒトは貴方のことを認めていたはず。なのにあんな殺し方……!でも、私達は生かして救うだなんて……!」

「ふむ……?なるほど、君は多くの勘違いをしている」

「――勘違い…?一体なにが」

「彼女はきっと止めるだろうからね。たとえ、俺に好意を覚えていようが。それは違うと言える人さ。まさか……、俺がライダーを信用出来ないから殺したとでも言う気か?ライダーは必ず俺の前に立ちふさがるとも。そう()()()()()()()()()()()なかったんだ」

 

 きっと自分の夢には恭順しない。彼女はそんな夢には溺れない。間違いを正せる―――確かにヒビノコウヘイと絆を結んだ少女だったのだ。

 信じていたからこそ、殺すしかなかった。誰よりもその人のなりを知っていたのだから。

 

「―――俺は彼女が言うようないい人ではないさ。善い人ならば、死にゆく誰かを放置するなどありえない。まして、救わなかったなどありえない……!」

 

 一瞬、彼は表情を悔恨に歪めたようにエリカには見えた。

 

「……全ては俺の計画の内。誤算など一分としてない。覚えているか?……テュポーンのことを」

「忘れるわけがありません。…唯でさえ歪んだ戦争なのに、もっと理不尽な――」

 

 何十名でもって迎え打ったのに、敗北を喫する程の相手だった。そこまで、エリカは思い至って、はっとした。

 

「まさか……!」

 

 その声は震えている。先程のリリスの発言とかみ合わせても成り立つあることが頭に思い浮かんだのだ。

 

「そのまさかだとも。あの惨劇もッ!魔神柱の襲撃もッ!魔人も全てッ!――――俺の計画の内だ!」

 

 エリカは今自分が冷たい氷上の上に立っている錯覚を覚えた。第三回戦のさなか突然襲来したテュポーンの存在。

 現れ、実際に戦ったとき余りの強さに絶望すらした。だが、その絶望の中で、声を張り上げて撤退を指示する一人の男―――ヒビノコウヘイに、その時に憧れを明確に抱いたのに。

 

 それが、欺瞞に満ちたもの(マッチポンプ)だったのだ。エリカが受けた衝撃は計り知れない。

 

「そ、そんな……、う、うそですよね?」

「ハハハハハハ―――おかしなことを言う。俺が今までお前に嘘を言ったことはないぞ。それに今更嘘を言って何になる」

 

 事実は言っても真実は言わなかったかもしれないが、と言って笑った。

 エリカの心に恐怖が染みいってくる。

 

 では―――私達は何のために?

 

 全部目の前の男に利用されていたのだ。そう言う行動をすれば、信頼を得れると知っていたから。

 

「――――ほら、人間(いい人)らしかったろう?」

 

 ――人間の皮を被っていただけなのだ。

 

 ことここに至って初めて、目の前の存在に絶望した。もう―――彼女の心に火は灯らない。

 

 心が折れた。何を信じればいいのか分からなかった。

 

 

 

 だが、そんなエリカの様子を気に懸ける様子はリリスにはない。

 

「―――祈りを、救いを指し示そう。私は人類にとっての悪である」

 

 リリスは、自身の胸の前に白槍をまっすぐにして持った。

 

 光が、何もかもが、集中する。彼が人生を懸けて完成させた魔術に注がれる。

 

「我が心理!人類史はこの槍に収束する!正しき編纂とともに君たちは完全な幸福というアートグラフ変貌する!

 全ての人類を大樹として束ねよう!描くは我が夢!あらゆる救いへの究極の一!

 遍く全ての人類よ!希望を抱け!己が真理を知れ!さぁ、救世の時だ!

 

 しかして讃えるがいい――――我が名は、リリス!

 

 理想(ユメ)へ至る救世主(ハングドマン)、ARCHETYPE:Lilithである!」

 

 

 

 ―――――――止めるものは、何処にもいない。

 

 

 

「――――これをもって終幕である!『都合の善い物語(デウス・エクス・マキナ)』!!」

 

 

 

 機械仕掛けの夢が動き出す―――。

 




もっとうまく行く人生を。誰かが思い描いたIFを。
―――君たちに、幸あれ。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。