Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第七回戦  :『戦闘前』

 

 

 明滅する視界。連続して鳴る音。何が起こった。

 

 身体を起こしさっきから校舎を襲う、謎の衝撃に耐える。空気はぬめり気を帯びたようになり不快感を呼び起こす。

 湿った生温い風を浴びせられているようだ。

 

「これは、異界化?」

 

 試しにライダーに連絡を取ろうとするが全く通じない。

 ズガンッと凄まじい音と共に校舎の壁がはじけ飛んだ。開いただいたい二メートル大の壁穴から図太く赤黒いものが押し入ってくる。ぎしッと壁を軋ませながら一気に触手を伸ばしNPCの腹を突き刺し向いの壁に縫い止める。

 

「え?――――いぎぃぃぃッッ!」

 

 余りに一瞬のことだったからか、NPCは自分の身に起こった事を理解する前に驚愕と激痛に叫びを上げながら消滅した。

 

 触手は校舎になお突き刺さったまま、まるで植物のように校舎の壁に根を広げていく。どくん、と不自然に波打ち校舎の外へ運んでいく。

 

 状況を飲み込んだヒビノはすぐさま推測を始める。

 何をしているかなど簡単なこと。アレが根ならばすぐに思い至る。

――植物は根から栄養を得る、ならばあの触手は本体に栄養、つまりはリソースを送っているのではないだろうか。

 

 なら―――セイバーに頼もうと振り返る。

 

「――さっさと触手を切断するに限るな…セイバー!その触手をぶった―――行動早いなオイ!」

 

 言葉に出す前にセイバーは触手をぶった斬っていた。

 

「あン?なんか言ったか!」

「いや、何も!―――ッ、セイバー前みろ!前!」

 

 セイバーの斬った断面からぐぽりと音を出し、泡が連なるように増殖して()()()()()。触手と言うより、蝕腕とでもいうべき物が生えたのだ。形状はまるで人間の腕のよう。そしてそれをセイバーに振り下ろした。

 

「――って、んだこりゃ!?」

 

 振り向いたセイバーは驚きながらも、咄嗟に避け事なきを得る。

 セイバーからすれば、先程の一撃で仕留めたつもりだったのだが、まさかの再生して腕である。しかも人間の手が付いている。

 校舎からは至る所から悲鳴が響き渡る。NPCが襲われて居るのだ。

 

「随分と悪趣味な……ん?まさかッ」

 

 ヒビノは一つの推論へ至った。むしろ至らない方がおかしかった。どうして自分は――襲撃をかけた触手が一本だけだと思ったのか。

 

 推論を裏付けるように階上から悲鳴が聞こえてくる。ヒビノは折り鶴を飛ばし校舎各地の情報を得させる。

 

「最悪だな、予想通り何本も校舎に侵入してやがる!この階だけじゃなかった」

 

 総勢四十四本検知した。しかも幾多に枝が裂けるように分かれ、より効率的に食い散らかそうとしている。増殖と複合を繰り返す触手。何故リソースを集めたがるのかは分からないが、現状は最悪を示している。このままでは―――一日も持つまい。持って三時間、いやそれ以下と結論づけた。

 

「この階だけじゃ、ない?―――っ、マスター!」

「ま、待てセイバー!今お前に行かれたら俺が死ぬ!」

「死ね!」

「酷くない!?それが飯おごってやったヤツにする仕打ちか!?」

「…知らねえな」

 

 ヒビノは全力で走りそうとしたセイバーを止めようとする。なにせ彼は命が掛かっているので。セイバーもまたマスターの所へいち早く駆けつけるために。

 しかし素っ気なく振られ、あわや死へのカウントダウン。だが、ここで引く男ならとうの昔に死んでいるだろう。

 

「じゃあ―――取引だ!」

「応える通りがない!」

「ある――!このままお前が俺を放置し、俺が死ねばライダーはどうすると思う!」

 

 念話は繋がらないが、魔力供給(パス)は繋がっている。

 

「ライダーは図書室、つまりお前のマスターと一緒に居る。俺が死んだと分かったら――必ずお前のマスターを殺すぞ」

「……チッ」

「それに、さっきから連絡取れない。まあ、ここら辺一帯が異界化してるからだと思うがな。だいたいお前が早急に必要な―――今の状況なら必ずお前のマスターは令呪で呼び寄せているはずだ。だがそうなっていない――ということは、だ。今令呪は届かない状況下にある。だが、パスは繋がったまま。つまり生きている」

「……で取引ってのは?オレらにメリットがあるんだろうな」

「ありあり大あり。お前達は俺のサーヴァント―――ライダーの真名にたどり着けていないな。そこで、だ。俺達の目的は一応は合致している。即ち、お前はマスターに合いたい。俺はライダーの所まで生きてたどり着きたい」

「あー……つまりアレか?お前のお守りしろって?で、見返りはライダーの真名か?」

「……ヒントじゃだめか?」

「駄目だな。なにせこっちはテメェの情報の正確さが信用できねぇ。ヒントなんて曖昧なものじゃな。正当な英雄サマってんだから真名をアイツに言わせろ。それでいいぜ」

「わかった。ライダーから真名を自分で言わせればいいんだな……高い出費に、真名暴露か。アレ、これライダーに折檻されるレベルなのでは……?オマケにライダーの従ってたデートも出来ていないのに、セイバーに一方的に奢らされたとは言え、ばれたら――――――――死ぬな」

 

 ヒビノがなにやらブツブツと言った後に悟った目をし始めたが、セイバーは気にすることもなく先陣を切って歩ていく。

 

 

 

 

 

 階を上がれば其処は――――

 

「うげっ、気持ち悪ッ!」

 

 通路一面に肉が張付いており、それから先の階は肉で塞がれていた。オマケに酷い異臭にセイバーとてたまったものではなく思わず鼻をつまむほどだ。図書室はこの階にある。セイバーとヒビノは併走し廊下を突き進んだ。

 

「くっせぇ………鼻曲がるなこれ」

 

 不気味に脈動し、校舎のリソースを平らげに掛かっているようだ。さながら胃の中である。

 

「なるほど、搾取するより飲み込んで消化しようって根端か。校舎だけじゃない、ここに居るAIも。そこらのNPCならともかく運営AIならそれなりに蓄えているだろうからな」

「それをしてどうなるってンだ?」

「しるか。目的は分からん。が、そうだな、予想に過ぎないが……」

 

 そこで、少し間を置いて口を開いた。

 

「あの魔神は恐らく、身体を得ようとしている」

「身体?もう肉柱っていう身体があったのにか?」

「……最後、ヤツがどうなったかみたか?」

 

 問われ、セイバーは思い出す。ヤツ―――魔神が人型の形に変わったことを。

 

「人間を模した身体……だが、何処か無機質だったぞ。まるでそこらの敵性プログラムみたいによ。あんな身体にする意味が分からん。最後に放ったあの魔術式?なりのリソースに裂いた方が合理的だろうに」

「どっちかと言えば人型になるための一つの工程――(さなぎ)とでも言おうか。孵化して―――受肉、まあ、擬似的なもの――それこそサーヴァントのように擬似生命として復活しようという腹だろうよ。確かに、人型にわざわざ変わる理由はサッパリわからん」

 

 だが、とヒビノは付け足した。

 

「魔術式を起動させるには破格のリソースが必要だろうよ―――アイツはライダーの攻撃の直後に形態を変更し、莫大なエネルギーと共に魔術式を起動させた。

 その莫大なエネルギーは一体何処から調達した?」

 

「すでにそれくらいのエネルギー量は持っていた……とも考えられるが、最初から形態を変えるつもりなら最初の遭遇戦では変わってたはずだもんな」

「ライダーの宝具は尋常じゃない、それこそ世界の半分を焼き尽くせる代物だ。エネルギーに不足はない。むしろパンパンに膨れあがったはずだ。いや、だからこそ()()()()()

 

 それこそがあの魔術式の本来の狙い。サーヴァントを倒すのにちょうど良かったと言うだけ。ライダーの宝具を受ける前に魔神は何らかの魔術でエネルギーを吸収した。

 

「となると自身の変体する熱量を回収するのが目的でわざわざあそこに出てきたのか……」

 

 その上リソースを吸い上げていると言う事実を考えれば。

 

「人型に成られたら終わり、そう考えるべき――」

「オイ、思考に沈むのもいいけどよ、着いたぜ―――図書室によ」

 

 走って居る内に目的の場所へと着いていた。しかし―――

 

「何処にもいねえじゃねえか!マスターは何処行った!?」

「そも図書室に居続けるとは行ってないし、俺が分かるわけ……!」

 

 室内を見渡した後、室外に出て、この場所が図書室であることを確認する。

 

 この室内もまた、触手に侵食を受け醜悪さに磨きをかけていたが廊下よりもましだった。ちらほらと本棚や、机、イスなどが無傷で残っている―――中央近くになればなるほど、といったように。

 

 そして、剪断、断面が焦げていることから溶断をくらったものと推測できる触手が落ちている。

 

「なるほど……焼き切れば、断面ごと焼き固まって再生させないのか。それに」

 

 そう言って天井を見上げる。セイバーもまたヒビノの視線を追う様にして見上げた。そこには――焼き焦げた穴。

 

「天井をぶち抜いて屋上に脱出したみたいだな。よかったなセイバー、お前のマスターも無事らしい」

 

 焦げた穴の奥からは――普通に考えれば、青い電子の空が見えるはずだが―――赤黒い空、いや、肉がうねっている。

 

「セイバー……屋上に行く。お前は跳ぶなりしていけるよな?」

 

 セイバーは返答をせず、屋上に向って跳躍した。

 

 ヒビノはそれを見送った後、大量の折り鶴を地面へ放ち、羽ばたかせ盛り上げる。そうして身体を屋上まで一気に持ち上げる。

 

 よっ、と屋上に降り立つと其処には―――予想通りライダーとセイバーのマスター――エリカがいた。

 

 襲い来る触手に真紅の剣でライダーは切り払っていく。

 

「あーもうっ!うっとうしい!!」

 

 悪態をつきながら次々と襲いかかる触手に対応している。

 

「マスター!大丈夫か!?怪我してないか!?」

「あっ、セイバー!無事だったのね、良かった……」

 

 セイバーが自分のマスターを見つけるやいなや、笑みを浮かべ駆け出す。ライダーも自身のマスターが屋上にたどり着いた事をしり、ほんの少し不満そうな顔をして素早く駆け寄った。

 

「……無事で何よりよ、マスター。貴方ならココにたどり着くって信じてた」

「――襲撃が外からのモノなら、外にこそ原因がある。壁を突き破るように触手が生えてきたからな。何もないところから出現すると言うのはあり得ない。この状況を何とかするなら外で迎え打つべきだと思っていたが……ライダーが外で迎撃しているのは予想外だった。エリカが側に居る以上図書室で籠もっていると思っていた」

「その穴から来たのなら見たでしょう、図書室にいたら長物は扱えないし。もっと苦戦していたわ……まあ、あの子、セイバーと一緒に来るとは思わなかったケド」

 

 だから、ライダーは天井を貫いてきたのだ。迎撃しやすく、己がマスターなら必ず来るだろう場所で迎え打っていたのだ。ヒビノが自らの推測を元に屋上にたどり着だろうと予測していたのだ。

 

「……で、どうするの?この現状に対する策は何か思いついている?」

「まあな……見回ってきた所感も混じっているが、現状、校舎はこの異界化と触手の侵攻を受けてリソースを奪われ続けている。このまま何もしなければ、一時間もあれば飲み込まれるだろう。端々でリソースを奪われないようAIが抵抗しているようだが…苦しいだろう」

 

 校舎が飲み込まれる。即ち、今回の聖杯戦争の破綻を示している。そんな事になってしまえば、願いを叶えることもまた出来なくなってしまう。それだけは避けなくてはならない。

 

「そこで、だ。彼女達の協力が必要だ。ライダー、触手の迎撃を頼む」

 

 すぐそこで、攻撃を仕掛けてくる触手を切り払っているセイバーに声を掛け、作戦を伝える。説明をする間、ライダーに触手の迎撃をしてもらった。

 

「エリカ……今の現状は把握しているか」

「はい、一応は」

「知っての通り現状は逼迫し続けている。あの触手は――」

「ンなベラベラ喋ってる場合か?さっさと用件を言え。話はそれからだ」

「…ふ、そうだな」

 

 そうヒビノは言葉を切った。

 

「――では、告げよう。君たちは、魔神名乗る何者か。コイツを討伐して貰いたい。魔神は言峰の情報によれば、アリーナに未だ居るらしい。熔解させながら、地下へ向っているようだが、いつもの場所から行けるだろう」

「その口ぶりだと、私達だけで倒せ…と言うことですよね。何故、コーヘイさんは一緒に戦わないんですか?」

 

 強力な宝具を扱うライダー。それを従えているマスター。それも、優勝候補と噂されていた男が、ライダーを率いて戦えばいいではないか。むしろ、一緒に戦えば勝率が上がる。

 

 それをしない意味がエリカには分からなかった。

 

「…触手は今も後者のリソースをむさぼっている。これは、誰かが止めなくてはならない。お前のセイバーより、俺のライダーの方が向いていると言うだけだ」

 

 図書館で行われた攻防。それから判断した。

 

 ライダーに斬られた触手の断面は焼き固まっており、それ以上再生させなかった。触手に再生した痕跡がなかったのだ。ライダーは触手には効果的なのだ。

 

「だが、時間が無い。対処している間に、魔神が身体を完成し、次の行動(アクション)を決定される前に倒さ無くてはならない―――躯体が完成する前に倒せ。なに、触手が片付いたらすぐに向う。約束もあることだしな」

 

 これを受けない理由はエリカにはなかった。うなずき了承する。

 

「あっ、そうだった約束!」

 

 と、いきなりセイバーが声を挙げた。

 

「……約束?」

「アイツの護衛料ってヤツさ。オイ!さっさと言え!」

「…沈黙こそ金だったか。だいたいそっちのマスターだってうちのサーヴァントに守られてただろうが。魔神を倒した後じゃだめか?」

「駄目だ。男に二言はなし、約束は守んねぇならこっちも…」

 

 はあ、とため息をつく。同時に、ライダーが攻撃を仕掛けてきた触手全てを焼き切ってマスターの元まで帰ってきた。

 

「――ライダー、真名を彼奴らに明かしてくれるか?」

「はぁ……事が事だから経緯は後で聞くけど覚悟しといてね、マスター?」

 

 セイバーらの方へ向き、ライダーは少しばかり威圧する。場が凍ったと錯覚させる殺気と共に口を開いた。

 

 

 

「我が名は―――チンギス・ハン!世界の半分を支配し、陵辱し、略奪せしめ、名を隅々まで行き渡らせた大王である。此度はライダーのクラスにて現界した。ふん……余の名乗りを聞いたのだ、無駄にせぬようにな」

 

 

 

 強い殺気。こちら今にも食い殺そうと腹を空かせた狼か。圧倒的な力は、テュポーン戦で目の当たりにした。侵略王の名に恥じぬ苛烈さを示していた。

 

 

 

 




どう見てもラスボスにしか見えない主人公。経過的にエリカの方がEXTRA主人公している(主に強敵と戦うフラグ的な意味で)


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