Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第一回戦 四日目

第一回戦 四日目

 

 

 

 ――目が覚めた。休息は十分だ。

 端末を確認すれば第二暗号鍵が生成されたことがわかる。朝は、教会へ行ってパラメーターを上げる。その後はアリーナへむかう。

ライダーを連れてマイルームを出た

 

 

 

 

 朝の廊下はマスターやNPCで賑わっている。決戦の日も近づいているせいか、ざわめきも今日はより大きく聞こえる。

 そんな中、聞き覚えのある声が聞こえる。エリカ・キーストン――小動物系少女の声である。

 

「コーヘイさん!」

「何か用か?エリカ・キーストン」

「ここでは何なので、中庭まで来てください。待ってますからね~~!」

 

と、こちらの返答をきかず、トテテと走り去ってしまった。

 

「はあ……。いくしかないか」

 

 だいたい端から教会へいこうとしていたのだ。すこしの寄り道くらいいいだろう。

 

 

―――――――中庭

 

風が吹いている。木々が音をたてている。中心には噴水が。

その噴水の奥のベンチにミディアムの黒髪を揺らす少女。白い肌、細い足をぱたぱた振っている。やがてこちらに気づき、手を振り始めた。

 

「で?何のようだ」

「そのですね…。比島、という男が対戦相手でしたよね」

「ああ、そうだが。それがどうかしたか?」

「昨日、サーヴァントの真名あてを手伝ってくれたじゃないですか。だから、お礼しなきゃと思いまして。調べ回ってきたんですよ」

 

ほう、正直助けたつもりはなかったが。おもわぬ成果というやつか。

 

「比島が暴力事件や薬物事件で有名なので既にご存じだと思って、それ以外の情報をもってきました。

まず比島グループですが、元はただの製薬会社でそこから世界規模で拡大した企業です。比島 永幸――比島の祖父にあたる、この人が創始者です。色々黒い噂が絶えない所でして、新型ウイルスを開発しているとか、中国マフィアとつながりがあるとか、人体実験をしているなんて噂があるくらいです」

 

真っ黒じゃないか。なんでそんなに続いているのだろうか。

 

「でも――比島 達彦が次期当主に指名されてから、いえ、その一ヶ月前から妙なことが起こり始めます。行方不明者がどんどん出始めるんです。それも、比島の勤務していた会社から、何人も。短期間に」

「それは、奇妙だな」

「ええ。比島の情報はここまでです。あとたいした情報になるか分かりませんが、比島とすれ違ったとき、たぶんサーヴァントを罵っていたみたいで――このグリム童話の殺人鬼が!――そう言ってました」

 

グリム童話で殺人鬼?元ネタになったとかそういう話だろうか。

図書室で調べる必要がありそうだ。

 

「わざわざ、ありがとう」

「いえ!こちらこそありがとうございました!」

 

そう言うとタタタと校舎へ走っていった。

すぐにでも図書室に行きたかったが、まずは教会が先だ。

 

 

 

重い扉を押し開き、教会に入ると、そこは薄暗く、外の喧噪から遮断されている。

正面にまっすぐはしる道、それを挟むように長椅子がならんでいる。誰も座っていない。

しかし、正面に目を向けると、鮮やかな赤と青の色が目に入る。

赤髪の女性と、青髪の女性。蒼崎 青子と蒼崎 橙子である。一日目に探索している時二人に出会った。

 

「火々乃 晃平、だったな。魂の改竄にきたんだろう?」

 

魂の改竄――自身の魂とサーヴァントの魂を直結させ、マスターの魂の位階が上がれば、より直結できる――をすることでサーヴァントのパラメーターを強化することが出来る。

端末から、現在のサーヴァントのパラメーターを確認する。

ライダーのパラメーターは、筋力:A+ 耐久:C 俊敏:C 魔力:C 幸運:EX

対魔力:D 騎乗:A+ である。もっとも対魔力と騎乗スキルは、ライダーのクラスからの能力なので強化できないのだが。

 

「魔力の強化を頼みに来た」

 

ライダーにはすでに話しており、了承している。

教会の奥にある壇上へとライダーは登った。

 

「じゃあ、いくわね――――」

 

青子が空中を指で弾く。

まるでパソコンのキーボードを打っているようだ。どういう仕組みなのか。

電脳世界に干渉するデバイスとしては分かるのだが。

 

「…はい終了。改竄は無事に成功したわ」

 

暗い室内を明るく照らす極光が、ライダーを中心に放たれた。

パラメーターを確認する。魔力がBに強化されていた。

 

「…ふーん。不思議な感じね」

 

ライダーの外見に変化は見られない。当然と言ったら当然か。

 

教会を後にした。

 

 

――――――――――――図書館

 

 

朝にエリカからきいた情報によれば、敵サーヴァントはグリム童話の元ネタのようだ。グリム童話を中心に操作をすることにする。

ふむ、グリム童話といえば、『ヘンゼルとグレーテル』、『白雪姫』、『赤ずきん』などが挙げられる。が、だいたいが残酷なものをもって子供への教訓とする者が多い。

だが、殺人鬼が主題となっているのがたった一つある。

それは『青髯』である。ある青い髭を生やした金持ちの男が実は殺人鬼だった、という話である。『青髯』にはペロー版の方が詳しく描写されている。金持ちの男で元は軍人、大量殺人者。恐れられていた。城持ち――領主か?

ここまでくれば、もはや当てはまるのは一人しかいまい。

『ジル・ド・レェ』

フランスの救国の英雄にして、ジャンヌ・ダルクが死んでから、財産を散財し、黒魔術に傾倒して多くの子供を殺害している。その犠牲者は、150~800人と言われている。黒魔術を習得しているならば、海魔を召喚することにも納得できる。

彼で間違いないだろう。

 

図書室を出てアリーナへ向かう。

 

 

 

――――――――アリーナ 一の月想海第二層

 

アリーナへ入ると隣にライダーが現れる。

 

「どうやら先客がいるみたいね。マスター、どうする?」

「どこにいるか分かるか?」

「そこまでは分からないわ」

 

騎馬にのって奇襲を仕掛けようか、と考えていたのだが。

だが、騎馬にのってはライダーということがばれてしまう。

 

探索を始める。

 

 

 

途中まできた所で前方から男がやってきた。

比島とサーヴァントであるランサーである。

ランサーの真名は暴いた。が、どんな宝具を使ってくるか、検討がついていない。

 

「はんっ!誰かと思えば、国籍不明、身元不明、まさしくゴーストな火々乃君ではないかァ!」

 

何が楽しいのか、こちらを見ながらにやにやと笑っている。

 

「ズイブンこそこそ嗅ぎ回っているようじゃないかァ!」

「あまりにもアンタが臭いんでな。少しは臭いを落とすことを考えた方がいいと思うぞ。」

 

「ふむ、外道な人間を嫌っているようですな」

 

とランサーが口をはさむ。

 

「しかしィ、気づいておいでですかな?」

「なにがだ?」

 

ニヤリと笑みを浮かべ。

 

「そのサーヴァントも、我々と同類のようですが?」

「真名がわかったのか?」

「いいえ。ですが、貴方もいったでしょう?臭いと。…臭うんですよ。我々と同じ臭いが!」

 

ちらりとライダーをみれば、体が震えていた。

俺は彼女に顔を近づけ、すんすんと嗅ぐ。

 

「いや、むしろ甘くていい匂い――」

「いえ、そういう意味ではなく。」

 

真名がわかったわけじゃないと分かってがっかりした。

途中から話聴いてなかったし。

 

「――余が貴様らと、同じだと…?吐いたな!雑っ夫!」

 

 ライダーから聴いたことないほど低い声。見たことないほどの怒り。瞳はいつかみた冷酷さを見せている。

 

 最初彼女が放った声とは、思えなかった。口調まで変化を見せている。

 

「そうォ!その有様こそが!我々と同じ在り方なのですから!」

 

 明らかな挑発である。ライダーは今にも飛びかかりそうだ。

 

「おちつけ!明らかな――」

「ええ!貴女を!悪を認めないマスターが貴女を信用などするものか!今戦わせないことが何よりの証拠!」

 

 ついに、ランサーにライダーが飛びかかった。制止の声は、ランサーの罵声に消された。

 俺のライダーへの信頼が揺れた隙を突かれたのだ。

 セラフからの警告が届く。

 

「――死ぬがよい。」

 

 直上からの振り下ろし。速すぎる一撃をランサーは難なく受ける。バギィンッ、と音をたてる。しかし、一瞬のうちにライダーは体を前に滑らせ蹴りつける。ズダンッ、と重い音。直前ギリギリで槍で受けることに成功したようだが、間合いが大きくあいた。吹っ飛ばされたのだ。体勢も崩れている。

 ライダーがその隙を許すハズがない。

 

「なっ!」

 

 俺は驚いた。

 ライダーの武器――白槍が、赤く染まっていく。まるで熱を持っているように槍のまわりが歪んでいく。同時に白槍だったものが変形していく。短く、鋭く。まるでそれは、両手剣のようではないか。

 それを振り上げライダー自身の上にかかげるように持つ。剣から紅い燐光が放たれ、煌めいている。何という魔力の圧力。ジリジリ焼かれている気分だ。

 

『焼き尽くす我が憤怒』(フレア・オブ・ラース)!」

 

 極光。

 放たれたそれは、音すら置き去りにして。

 ランサーに直撃した。

 

 

 

 

 煙が晴れる。そこには、肉の盾。触手を駒に回すように、巻かれたそれは。

 ランサーを、そのマスターを、守り抜いていた。

 

 ここでセラフの強制介入がはいった。

 

「――っ!ここまでとは。しかし、クラス名はセイバーで確定のようですな。真名あても捗るというもの!」

 

 いえ、ライダーですね。

 

「なら、もうここには用はない!帰るか、ランサー!クッははっはははははっ!」

 

 そう言って消えた。

 ほんの少し敗北感をえる。

 

 ライダーをみる。震えていた。

 

「ライダー。帰るぞ。」

 

 ライダーはこちらを見ようとしない。まるで帰りたくない、とでもいうような背中。

 

「ライダー!」

 

 いらついたように声を出してしまう。彼女は振り向き着いてきたが、こちらを見ようとしないまま、顔を下に向けられたままだった。

 

 

 

 

――――マイルーム前廊下

 

 

 エリカを見つけたので話かける。

 

「エリカ!」

「ふへ!なっ何ですか!?」

「そこそこ腕の立つウィザードだと見込んで用意してほしいものがある。」

「そこそこは余計ですよ。…用意してほしいものって何ですか?」

 

 ごにょり、と耳打ちする。

 

「何する気なんですか!こんなの用意させるなんて!まあ、いいですけど…。その代わり!条件ですけど――」

「かまわん。」

「何もいってませんけど!」

「急いでるんだ!」

「……明日の昼には出来てると思いますから、食堂で。」

「ありがとう!」

 

 マイルームへ向かう。

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

 

 ライダーは、いつもの様子を失い座っている。うつむいているが。

 

「ライダー。」

 

 呼びかけるとビクッと震える。

 

「どうして何も言わない。」

「……おこってるもん。」

 

 子供か。英霊って基本大人じゃないの?

 

「そりゃそうだろ。何も言わずに、聴かずに突っ込むし。」

「……嫌いになった。」

「いや、全く。」

 

 嫌いになってたら、その場で自害させている。それだと、俺も死ぬが。

 ライダーは、ほんの少し顔をあげて。

 

「……嘘」

「…なんでそう思うんだ?」

「私、悪だもん」

「………まさか、ランサーが言ったこと鵜呑みにしたのか?」

「…飛び出しちゃったし」

「まあ、そこは怒っている」

 

と言うとしょげた。

 こいつ、めんどくせぇ!

 最初に感じてた偉大さが消えていくんだが!

 

「怖かったでしょ」

 

 体育座りをしながら彼女は言う。おそらくあの豹変した瞬間のことをいっているのだろう。

なるほど、彼女は俺に意見を聞かず飛び出したこと、豹変した姿を見せたこと。そして、俺が悪を嫌いだと勘違いしたのだ。

 

「目の前に刃物もった人がいて。こちらを殺そうとしたのなら、抵抗する。殺してでも」

 

「その行為は、悪ではある。が、それをしたからって嫌いになることはない」

 

「俺だってそうするだろうから。おまえは、彼奴らとは違う」

「ちがわない、彼奴ら私も――」

 

「違う。かつてのおまえはそうだったかもしれない。それでも――今のおまえはかつての行為を恥ている。だから違う」

 

「……これからも――」

「――ああ、一緒に戦うよ」

 

彼女が言うよりはやく。

ライダーは、ほんの少し照れて。

 

「……ありがと」

 

 

 

 

 

 

 

ライダーの調子が戻った所でこれからを考える。

 

 

「…セイバーと勘違いされたとはいえ、宝具を見せちまうなんてな」

 

俺もしらない真名を暴かれるかもしれない。

 

「……あれ、宝具じゃないわよ。一端ではあるけど」

「えっ」

「私の宝具があの程度なわけないでしょ。ただのスキルよ」

 

ひょっとしたら。すぐにライダーのマテリアルを確認する。

スキル――逸話などを利用した技のようなもの――に『焼き尽くす我が憤怒』があった。

いや、開示されていた。

 

 

「それとマスター。決戦では、宝具を開帳するわ。さっきのヤツのすごいバージョンだと思ってちょうだい」

 

それは、俺を信用してくれたということか。

 

「真名だけは、もう少しまってね」

 

 

 




このサーヴァント強くね...?



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