まさかの二回投稿でござる。
朝飯を食べ終わったあと、ライダーと情報の整理を始める。勿論――アーチャー、あのサーヴァントについてだ。
だが、アーチャーの真名に近づくには、確かめねばならない事がある。
「ライダー―――アーチャーはお前の直系の子孫か?」
「ええ――そうね、私の直系の孫の子ってところよ」
「え?本当か?」
「……本当よ、間違っていたのは史実とされているほうってだけ。たぶん、コーヘイがたどり着いた真名と変わらないわ」
史実が違う?確かに俺の思いついた英傑は直系ではなかった。
彼女が気づいたことは後で、話して貰うか。
「あのアーチャーは、ライダーのことを知っていた。でもハンを称したことはないから、ライダーには分からない」
「そうね、あの時はアーチャーの姿を見ることが出来なかったから。ハンを称してたなら――宝具を見た瞬間に看破できていたわ」
「ん?」
「チンギス統原理ってのは私の直系じゃないと、血族でないと認められないってこと。それ故に、後世で私の血族が成したことは全て私の礎より成したもの。私の功績合って成したことなの。後世の人は私の能力が、才能が子供達に受け継がれたって考えたみたい。なら――」
「逆に、後世のハーンが持っていた才能、偉業はお前の偉業そのものなのか」
どうあがいても
アーチャーがハンを称していないのは確かみたいだ。と成れば、なぜ知っていたのか。
そも宝具はどんなものであったか。
「石柱、壁、天井。アリーナを自由に操作、いや製造していた。襲撃していた後が残ったまんまだったはずだ――即ち創造系の宝具だ」
キーワードは昨日の昼頃、教会前の中庭で聞いた
「【世界の中心の王】」
そう、それこそが彼女の、アーチャーの正体―――。
「お前――ライダーと並べられることも多い。アーチャーの正体は【ティムール】だ――!」
『チンギス・ハンは破壊し、ティムールは創造した』
この言葉がアーチャー――ティムールを象徴している。
ティムールは中央アジアの英傑である。1370年にティムール朝を中央アジアに建設し、自らアミール――イスラームの指導者を名乗った。
かつてチンギス・ハンが焼き潰したサマルカンドを再建、復興し、都にした。
ティムールはチンギス・ハンの偉業を再現することをかかげ、遠征を繰り返したことでも知られている。
しかし解せない点が一つある――それはティムールはチンギス・ハンの子孫を名乗ったが、ティムール自体はそうではなかった。彼はチンギス・ハンの直系の娘をめとって婿という立場をとった人物なのだ。ティムールは直系ではない。
「そう、ティムールは直系じゃない。でも私の会ったティムールは私の血を継いでるのは確か。なら、考えられるのは一つだけ―――彼女はティムールの妻であり、アミール・ティムール・キュレゲンなのよ」
「おいおい、まさか」
「そのまさか―――彼女は夫に成り代わって偉業をなしたのよ。もっとも元の名前はもう覚えていないようだったけど」
*
アーチャーの真名を暴いた後、ライダーについて考えていた。ライダーは他のモンゴル料理を作ろうと図書館から持ってきた料理本とにらめっこしている。図書館何でもあるな、オイ。一見聖杯戦争とは関係なさそうな本まであるとは、さすがムーンセルと言うことか。
少々切り出しづらいものでもあるが、聞いてみたいとも思う。
「なぁ、ライダー。今、いいか?」
すると、ライダーはパタンと呼んでいた料理本を閉じて、応じてくれた。
「ええ、構わないわ……で、何かしら?」
聞きたい事はいくつかあるが、一番気になっている事を聞いてみることにした。
「ライダー―――お前は何で……少女の振りをしているんだ?ああ、いやちょっと語弊があるな。女性であることを疑っているんじゃなくて、性格の話だ。お前――戦闘の時、口調が男性口調になるけど
「き、気づいていたの――?いつから?」
ライダーは恥ずかしさによってか、頬を紅潮させた。
「三回戦辺りから薄々な……男性口調の方が生き生きしてたし。でも、一番の決め手は昨日の朝の言葉だ……部族長の嫡子として扱われてたってことは、少女としては過ごしてきた訳じゃない、だろ?お前の部族にとって女は物で、男は戦士なんだからな」
「その通りよ……余は、少女として生きたことはない」
どうやら俺の予測は合っていたらしい。ならば―――何故彼女は、少女として振る舞ったのだろうか?
「……憧れ、だろうか?」
「憧れ?」
にわかに信じがたい言葉だと思った。なにせ多くの女を戦利品として得て、陵辱をし尽くした者とは、思えなかった。
「――余が、多くの女と領土を、多くの財を手に入れたことも知っているな……余は幼少の頃、あらゆるものを失った」
それは、いつか見たあの夢―――彼女が敬愛する父、家族を失い、闇の中で一人で過ごした一瞬―――彼女の再起の原風景。
「それからだ……余はそれまで知らなかった、孤独を、絶望を知った。余に力が無いばかりに、女であったが故に、全てを奪われた。その後も失い続けた――――いつしか余には、ぬぐい去れない孤独、満たされることのない飢餓が根付いていた」
家族を失い、残った家族からも離反を生んだ。偉大な父が居たならば、こんなことには成らなかっただろう。ライダーに力があったなら、離ればなれになることはなかったのだと。
言うなれば――無力の罪に苛まれてきたのだ。
「魔術師に男性器を余に生やさせたのも……女を征服し、喘がせたのも、陵辱に徹したのも、余の孤独をぬぐうためだ」
四六時中女を抱いて居なければ、孤独に食いつぶされるような錯覚に晒されていたのだろう。性的な暴力は相手を屈服させたとして、征服感を満たすだろうから。
「だが……孤独は、飢餓は止まることはなかった。どれだけ女を抱こうとも、飢餓はもっとと膨れあがるばかり、孤独もただただ強くなっていく―――その時、余は悟ったのだ。余は世界を食い尽くしても止まることはないのだろうと」
「そうか――――おまえ、ずっと……寂しかったのか」
「――――ああ、きっと…そうだ。ハンを名乗った後からは、子にすら、うっとうしがられる始末。私の顔を不敬だからと畏怖し、見ようとしなくなった。笑える話だろう?子は、部下でさえも、余が純正の男だと信じているのだぞ?その頃には、女性としての体つきが目立っていたのだがな」
自嘲ぎみに彼女は言った。
「―――怒ってくれるなよ、マスター。余が少女として振る舞ったのは、主を謀ったわけではない……ある日、余の妻にこう言われたのだ『貴女は女心を知らなすぎる』って―――今、思えば皮肉な話ではあるが……余は女という生き物を正しく知らなかったのだ」
彼女はどこか遠くを懐かしむように、慈しんでいるような――――。
「女とは、複雑怪奇と思っていたが、その実男より誠実で、豊かな、彩りの多い心を持ち合わせていた。ヒステリック、怪奇に過ぎる物と何処か鼻で笑っていたものだが……それを簡単に払拭された。それは間違った、偏見ありきのものだと正面から余の妻は言ってくれたのだ。うむ、彼女が余に教えてくれなかったら自滅の一途をたどっていたことだろう」
部下すら恐れ、彼女を見ることがなかったのに、彼女の妻――恐らくはボルテ、チンギス・ハンの正室だろう――は、正面から抗議して見せた。
「何という剛胆さ、強い男すら怯える余に、だぞ―――フハハっ、思い出すと笑えてくる。その剛胆さこそ―――愛がなせると説かれたときは、まあ、目から鱗と言うヤツだった――。女の奉仕、女の胆力、女の愛の深さに献身―――それに比べ、なんと男というものの狭量さか。狭量故に、面倒くさいものとしかとらえられぬ」
耳が痛いな……。
「だからこそ、女を侮るまいと重用する事に決めた。それから、女を知るコトを心がけた。勿論、内面や流行などもだ。どういう物を好むのかすら―――自分の征服感を満たすためだけに、道具のように使った己を恥じた。だが、同時に―――女という物に、少女という物にどうしようもなく――憧れたのだ」
ライダーにとって少女象は、眩しいものに見えたに違いない。元より自分が女だったという事実もまた、それに拍車をかけたのだ。
「もしよければ―――」
「別に、口調を男の物にしろ、なんて言ってないぞ、ライダー」
「――ふえ?」
「だいたい、今更変えられても困惑するだけだ。もう俺は、いつものお前は少女としてのライダーなんだから」
そんなささやかな夢を奪うわけにはいかない。いや、したくないと言うべきか。
「よ、良いのか?其方にとっては、嘘そのものだぞ!?」
「それが?」
「お、おう。普段の其方からは、考えられぬ言葉……ほ、ほんとに良いのか?」
「くどい!さっさと元に戻れ!なんか、背筋がぞわぞわするから!」
いうやいなや、彼女は瞳に涙をため、潤ませたまま―――飛びついてきた。
「うわっ―――ぐほっ」
「余は、余はコーヘイと会えて良かったぞ――!ああ、何が相応しくないものか!余の
ミゾオチ・ヘッド・ヒット!
俺 は 悶絶 した。
しかし、ライダーはそんな俺の状態などつゆ知らず―――頭をぐりぐりと擦りつけてくる。
でも、この幸せそうな笑顔を見れば、怒る気も失せてしまう。やっぱりライダーは、こっちの方が似合っていると思うのだ。
この幸福は間違いであるはずがないのだ。
*
夜は更け、ついに四人から二人へと減る日となった。決戦にそなえ、参加者は深い眠りにつく。おのおのの願いのために。
そんな夜更けの中で―――。
「そう、こそこそと何をしている?ヒビノ・コーヘイ、いや、それは姿を借り受けているだけか――中身は全くの別だな」
「―――ふむ、
「ふん、かの魔神にそこまで言われるのは、光栄とでも言うべきかな?」
「ぬかせ――蒼崎橙子、今更何をしに来た?よもや我らの邪魔をしに来たわけか?」
「いや、なにもする気はないさ――しかし、気になる事もあってね」
ヒビノ、いや魔神アミーは警戒を抜かすことはない。彼のやるべきことは既に終えている故に。だが、同盟者に迷惑をかける訳にもいかないのだ。
「まあ、付き合えよ、魔神――だいたい魂の改竄用のAIの席に甘んじて居る時点でそんな権限をもっていないことも知っているだろう?外出するのも一苦労だ。あの神父が処理する問題さ。それに、そんな劣化品を見せられれば異議の一つくらい言わせて貰っても罰はあたらんだろ」
「……良いだろう。だが、付き合うのは、三つまでだ」
「じゃあ、一つ目。第三回戦のテュポーン戦、そこらにいたNPCを使って作成したな?」
「―――肯定だ」
第三回戦、多くの参加者に絶望を、八人の犠牲者を出したテュポーン戦はこの魔神アミーが作成したものだった。それもまた計画の一つ。それよって、邪魔な参加者を抹殺することに成功したのだ。
(同盟者ならば、籠もっていると思っていたが、まさか討伐してしまうとは考えもしなかった。頃合いを見て回収する予定だったのだが……)
続けて蒼崎橙子は質問する。
「二つ目―――貴様の最初に与えられた役割はなんだ?」
「同盟者の監視―――および、記憶の分割的返却」
「なるほど……ならテュポーンは貴様の独断だというわけか」
蒼崎橙子はふむふむと少し考え―――こう質問した。
「三つ目―――どうやって、ここに来た?」
「スライド――即ち、平行移動である」
「――それはあり得ないだろう?第二魔法を使えるわけでもあるまい」
「その通り、もはやあちらとこちらでは人理定礎が大きく異なっている。だが、我々は運が良かった」
「運が良かった?」
「
「人理が不安定?そんなことがあり得るとしたら―――大偉業じゃないか」
「それをなしたのは同盟者ではない。この世界線と我らの世界の誤差は1970年代の事象によるもの。こちらでは百年規模で人理が不安定となったことで大幅な平行移動が可能となった。未来に対してずれることも同様に。こちらの世界の1970年代にスライドし、そちらの人理をくぐり抜け、また未来にスライドした」
「チ、お前に最初に課せられた役割は記憶の返却――随分と用意周到なことだ。記憶に問題が出ることすら予想の内か。あの男は一体何をしようとしている?」
「三つまでと言ったはずだが?」
「私は邪魔をしないと確約する。ギアスロールによる誓約すら――」
「不要――蒼崎橙子はくぐり抜ける用意がある故に意味が無いと同盟者が言っていた。が、目的を話すのは、同盟者からも許可がでている。どうあがいても今の貴女には邪魔は不可能と考えたらしい」
「私の目的は、同盟者のヒビノ・コーヘイの結末を見届けること。そして同盟者の目的は
―――人類すべての救済である」
ライダーはチョロい(確信)
やっと主人公の本当の目的が出てきましたね
ああ――愉悦(恍惚)
一体何する気なんでしょうねぇ?(すっと(ry)