Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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やたらと重たい過去持ってる主人公。


第六回戦 三日目

 

 

 ―――遠い昔を見ている。懐かしい夢だ。

 

 中心には泣きじゃくるだけの無力な幼い()がいる。ああ―――初めて大切な人を、人間の悪意によって失った、忘れもしないあの日だ。

 

 

 あの日以来からずっと―――幻聴が耐えることはない。

 

 

 意識を途切れらせれば、助けて、助けて、と声が脳裏に響く。どうして助けれなかったのか――お前は、助けれたはずなのに。お前は、助けれる力を持っていただろうに。

 

『あの時はわからなかったんだ!彼女が―――』

 

 ―――嘘だ。お前は、見なかったようにしていたのではないか?何一つ、前兆にすら気づけなかったのか?

 

 あの子の遺影を見て―――お前は何を思ったのだ。あの子の父の悲しみを見て何を感じたのだ?

 

 強い後悔、唯それだけが押し寄せてくる。どうあがいても消えてくれない。お前()の抱く大罪だ。

 

 

 

 この世は、理不尽と不浄で溢れている―――浄土など何処にもない。そう確信するに事足りる出来事、いや、俺だけが――あの日から地獄を見ているのかもしれない。

 

 

 

 夢の中の過去の俺は――――おもむろに翡翠でできた玉晶を棚から取り出す。幾重の封印を解いて―――。

 

 それは―――先祖が株分けを――炎浄家の分家になるまで秘宝として封じ、管理していたもの――魔術卵(エンブリオ)である宝玉。蓄えられた神秘が計り知れないソレは古文書によれば―――大和朝廷――二千年前からの至宝なのだとか。

 

 ジジイでは―――火々乃胴雷では解けなかった封印。どう言うわけか、俺の魔術回路がちょうど鍵と仕手の役割を持っていたから―――俺は魔術師にされたのだから。

 

 

 取り出したソレを俺は胸の中心へと当てて―――すー、と深呼吸一つ。

 

『うぐァアアアア――――!!!』

 

 ソレを(こころ)と癒着、()()させていく。身体を―――胸を中心に、細胞の一つずつを針で抉られるような激痛―――起源が『器』、容器――物体という意味合いではなく、注ぎ込まれたもの形あるものへ変えると言う概念そのもの。例えば、茶碗に水を注ぎ込めば、底の形に沿うように。

 

 意識が何度も飛びそうになる。それでも―――それ以上の恐怖が俺にあったから、激痛に苛まれてもやめることはない。

大切な人を失った悲しみを、何処にでもあるものとして受け入れてしまう―――理不尽を理不尽として認めてしまうことに恐怖したのだ。あるいはちょっとした世界への反骨心だったかもしれない。

 彼女を失った時――飛来したのは、確かに憤怒もそうであった。が、熱のない諦観と強大な絶望もまた飛来した。それは―――自分を、あの出来事を、仕方ないものとして処理してしまいそうで、何でも無いものにしてしまいそうで―――だから恐れたのだ/諦めたくなかった。

 

 

 魔術卵との結合は、俺の起源との相性も良かったようで無事に成功した。それは魂の固定であり、実質第三魔法の劣化版と言えるものだった。心象世界も――魔術卵(エンブリオ)に縫い変えられた。故に―――あの世界。その世界は、鏡面あるいは水面か、どちらでもあるが―――地球ではない。全く別の物だ。

 

 

 

 

 俺の本当の願いは―――もう誰も失わない、他でもない誰かをも救うことだ。

 

 

 確かに俺は人類は嫌いだが―――だが、それでもと願わずにはいられないのだ。たとえソレが―――どうしようもない脅迫観念で、呪いと揶揄されるものであったとしても。

 

 

 

 

 燃料(魔力)は十分。元になり得る素材(身体)はある。後は――――炉だけが手に入らなかった。が、それもあと少しで手に入る。

 

 

 俺は勝ち残らなくてはならない。そのために―――()()()()()()()()()のだから。

 

 

 

***

 

 

 ――――目が覚めた。

 自分は何処かに寝かされていたようで天井を見上げていた。どっかで見たような天井を。

 地味にこうなった経緯がさっぱりなのだが―――これはあのセリフを言うチャンスではなかろうか。

 

 

「……知らない天―――」

「冗談を言えるぐらいならもう大丈夫ですね」

 

 

 おうふ。まさかの聞かれ―――て、カレン?

 と言うことはここは―――保健室か。

 

 むくりと身体を起こせば、傍らに霊体化を解いたライダーが抱きついてくる。

 

「良かったわ……本当に心配したのよ、マスター!」

「あ?……ああ、俺は大丈夫だよライダー」

 

 何とかライダーを引きはがす。地味に首に回された腕が首絞めてたんだよね。目覚めたのに永遠の眠りにつかされるところだった。

 

「いいえ、全然大丈夫じゃありませんよ」

「あん?どういうことだ」

「……仮にも英霊の宝具を受けたのですよ?エリカさんの一件で知っているように……失礼、馬鹿だから覚えていませんでしたね」

 

 突然の罵倒。罵倒するときにテンションあがるのはどうかと思うんですが、カレンさん?

 

 そうか――アサシンの宝具、毒を受けて運ばれてきたのか。まあ、運んだのはライダーだろうけど。だが―――よくあの状態から生きて帰ったものだな、俺。殆ど死にたいだったと――ん?なんか身の覚えのある背中を見たような?

 

「征服王……どういうわけか、彼が召喚されて貴方を守ったのよ。私だけじゃ……助けれなかったわ」

 

 そうだ、征服王!彼が助けてくれたのだった!

 

「その征服王は今――」

「恐らく死んだでしょうね。二人のサーヴァント相手だもの……魔力も殆どなさそうだし――あれで勝ってたら驚きよ」

「コホン。話の続きをしても?」

「そうね、どうぞ?」

 

 ライダーは話の邪魔にならないようにか霊体化した。

 

 しかし、二人のサーヴァントか。片方は、アサシンは検討ががついたものの――もう一方については全く情報が無い。後で、ライダーから話しを聞くとするか。

 

 ライダーといれ変わるようにカレンが話し出す。

 

「―――貴方はアサシンから毒の宝具を受けた、ここまではいいですね?なので完全な治癒、解毒はできません。もし、アサシンを倒さなければ三日以内にどんな手を尽くしても死にます」

「三日でか……」

 

 

 たった三日か。倒せば治るだけましか?

 

 

「当院としても全力を尽くしたのですが……しくしく」

「全く涙のない、無表情な顔もどうかと思うんだが?」

 

 皆目悲しいとは思っていないことがありありと伝わってくる。

 

「いえ、三パーセントは悲しいと思ってますよ?主に、処置した時間が無駄になるので」

 

 知 っ て た 。だろうとは思ってたわ!畜生!一瞬でも、お?となった自分を殴りたい。ん?……しかし、ある意味一つのツンデレだと考えることも――――。

 

「きもちわるい」

「だよなー、そんな展開あったら世界滅ぶだろうしなー」

 

 ジョークはここまでにして、立って帰ろうと地面に足を置き力を―――。

 

「うぎ――あいだッ」

 

 ――すっころんだ。ち、力が入らん。床に顔面をぶつける羽目になった。

 

「ああ、言い忘れていました。毒――というより解毒薬のせいで下半身に力が入りにくくなってますので……ふふ」

 

 ――コイツ、わざとだ。絶対に!

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

 あの後、ライダーに担がれる形でマイルームまで帰還することになった。

 

「すまん、助かった。ありがとう、ライダー」

「このくらい、どうってことないわ。もっとなにかして欲しいことない?」

「いや、ないが?」

「貴方が死にかけたのは私が勝ってな行動をしたからだもの―――何でも命じて、コーヘイ」

 

 ん?今何でもするって(以下略)

 うむ、流石にあれはギルティだと思う。迷宮のど真ん中でマスター一人放置ってのは。まあでも、彼女の理性を奪うほどの怒りに晒される理由もわかる。

 

「大事な馬を殺されたんだ。お前が怒りに飲まれるのは仕方ないって。でも…馬を失ったのは痛いな。俺も慣れてきて結構愛着が―――」

「ええっと、その、言いづらいんだけど――」

「あったんだけどな。ま、元気出せよ。あいつらの策が悪い―――」

「言いづらっ!どんどん言いづらく――ええい、ままよ。マスター!」

「なんだ、そんなに大声を出して?」

 

 むう、悲しみが天元突破してたし、馬にはかなりこだわっていたし―――大切なものを失った悲しみはよくわか―――。

 

「その、ね?起こらないで聞いて欲しいのだけど――」

 

 傷心している彼女にむち打つことがあるものか。

 

「あの馬、生きてるわ。あの程度じゃ死なないわ。本体は別の所にあって、その分け御霊みたいに―――」

「ホーッワチャア――!!」

「あいたッ―――!?」

 

 ハッ!思いっきりチョップを繰り出してしまった。

 

「じゃ、なんで俺置いてった!?死にかけたんですけど!」

「あはは……馬、死なないの忘れてた――てへっ」

「トゥース――!!!」

「いだっ、二度も叩くことないじゃない!親父にもぶたれたこと―――あいたっ」

 

 ハッ!おもいっきり(以下略)

 

 てか、復活するんかい――!ホントなんで俺を置いていったのか……忘れてたんだな!怒りも相まって!

 あと、御霊みたいで不覚にも笑ってしまいました、マル。

 

「二度もぶっ――」

「冗談はここまで――今生きてるんだからもういいよ。むしろ保健室まで運んでくれてありがとな」

 

 本当は征服王に礼を言いたいのだが―――。

 

「今回は完全に私のせい…遠慮、しなくてもいいのよ?」

「じゃあ、相手のサーヴァントの情報を教えてくれ」

 

 なぜか妖艶にセリフを言ってきたがばっさりと斬る。ふざけてる場合じゃないんで。

 

「…あのサーヴァントは全く姿を見せなかったわ。でも防御――敵マスターを狙うたびに妨害してきた―――魔力矢でね」

「なら―――サーヴァントのクラスは分かったも同然だな―――」

「ええ――相手のクラスは【アーチャー】よ!」

 

 自身満々に答えるライダー。彼女の出した答えと俺も同じだ。唯、気になる点もあるのだが。

 それは―――。

 

「―――あの石柱ね?」

「その通りだ、ライダー」

 

 妙に装飾のされたような石柱。そんなものを好きに生やせる英雄など聞いたことがない―――何かの、そう宝具などの副産物かなにかと考えたほうがいい。

 ふむ、ならば敵の宝具は――創造系と考えた方がいいのではないだろうか。

 

「創造系の宝具……国造りの権能みたいなものかしら。ええ、天井なんかにも細工してるしあれは石柱なんかじゃなかった、ただの大理石っぽかったわ」

 

 そう言えばそうだった。

 これは創造系の宝具で確定かも知れない。

 

「う~ん……分かるのはこれくらいね」

「――相手はなんか言ってなかったか……?」

「いいえ、特に何も言ってなかったけど……でも、どうして?」

 

 何かに気づいたような物言いに疑問を抱いたのか質問してきた。

 

「余りにも――策が上手すぎる。今、改めて考えてみてもできすぎだ」

 

 相手マスターがギャラン何とかって言う組織――まあ、たぶん傭兵組織だろうが。だが、いくら傭兵育ちとはいえ、ここまで策が上手いものだろか。いや、サーヴァントのほうが作戦を立てた可能性もあるのだが―――それにしても上手すぎる。

 

「何が言いたいの?」

「策ってのは、相手を知ってなんぼなのさ。なにせ罠にかけようってんだから。要はだな…相手がお前のことを知ってるってことだ」

「……私のことを?」

「真名どころか、性格をな……じゃなきゃあんな策を講じたりしない。策士ってのは成功率が高いものを選ぶ、もとい高くしたものしかしない。今のままではって考えたから罠を張るんだしな」

「…ここまでの、それも権能を操れる宝具持ちなんて覚えがないわよ?」

「てことはあっちが一方的に覚えてるって線か……」

 

 あるいは何かの偉業が拡大解釈されたとかか?

 

「なら、歴代のモンゴル皇帝とか当てはまり―――」

「それはないわよ」

「そう……って、え?」

「だって、全部把握してるもの。歴代のハーンを名乗ったものは私の直系じゃなければいけないし。それって私に誓って皇帝って座を手に入れるのよ。私が知らないはずないじゃない」

 

 噂に聞くチンギス直系統原理ってやつか。まあ後天的に神にまでなってるし……おかしくはないが、ふむ。

 

 ではモンゴル系ではないのか?ここまで彼女が否定するとなると信憑性も上がってくる。

 

「やっぱここまでね。じゃあもう一人のサーヴァント、アサシンについて考えましょう?」

「ああ、それならもう分かっているよ」

「はやっ!え?ホントに?」

 

 では、アサシンの情報を整理するとしよう。

 俺の腕がつかまれた際、奔った激痛。それは何によるモノだったか。

 

 

 

 

 ――――それは、毒だ。

 

 

 

 

 彼女の身体は毒でできていた。彼女の身体と触れたところが――毒で激痛が奔ったのだ。

 

 つまり彼女はその身体、毒でできた身体が彼女の宝具だ。

 毒の身体――それはインドに伝わる有名な逸話がある。それは幼少時から娘に少しずつ薄めたトリカブトの毒を摂取させ、徐々に濃度を上げていく。娘が美しく成長する頃にはもうその体は猛毒を帯びることになる。そしてその娘を暗殺したい王族のもとに嫁がせ、初夜を迎えた時が王の最期の時になる、というもの。確か――どこかの王族の娘だったと思うが。今回のアサシンとの接点は毒の身体だけだ。決して、王族の娘そのものではない。何せあのインパクトある髑髏面だ。どう見たって――まあ、女性らしさむき出しの体つきや、その、素朴で無垢そうな顔は好み――

 

「ますたー?」

 

 おうふ―――なんと冷血な目ッ!凍ってしまいそうだ。ライダーめ、まさか新手のNTか!

 

 ……で、どう考えても暗殺者―――噂に聞く暗殺教団としか思えない。たしかその組織名そのもの、アッサシン教団――アサシンの語源となった教団だ。当時の組織の長は『山の翁』の名を踏襲していると聞く有名なソレだろう―――即ち、ハサン・サッバーハその人だろう。

 

「――あのアサシンの真名はハサン・サッバーハ。暗殺教団の長だ」

「ええ――そのようね。私もそうじゃないかとは思っていたのよ」

 

 嘘つけ!声震えているし、じゃあさっきなんで驚いたんですかねぇ?

 

「でも……どうするの?」

「ん?何が?」

「アリーナよ。立てないのでしょう?流石に担いでいくわけにもいかないし」

 

 確かにソレについても話さなくてはならないだろう。本当は使いたく無かったが―――こうなってはどうしようもない。

 

 

 がさごそと大量の折紙を引き出してくる。

 

「身体が動かない、動かせないなら新しい―――身体を作るまでだ」

 

 あの魔術――いつも使用してる折り鶴を使ったソレにはまた一つ違った使い方がある。

 

「それってどういう…?」

 

 ライダーの疑問ももっともだ。

 

「伊達に年月を重ねてないさ。キャスターは俺の折り鶴を使った呪術を雑だなんていったがそれも当然だ。なにせ――本質を使っていないんだからな」

 

 最近のもので言えばタブレット機器――スマートフォンの多機能さがありながら通話機能しか使わないものなのだ。

 あの術式の真価は全く別の所にある。

 

「――さあ、火々乃家の血刻魔術の真価を示すとしよう―――!あっ、ライダーその紙と棚の奥に置いている刃物もってきって」

「一瞬、シリアスっぽかったのに……!」

 

 

 自分の身体(ストック)をつくるのは割と魔術師の間では常套手段だ。割と簡単にできるし。

 

 

 

 

 




 魔術師である主人公が願いを叶える―――どう考えても悪い予感がする!願いが願いだけに(すっとぼけ)

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