Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

41 / 149
主人公の在り方――歪すぎて草も生えねえ。ろくな死に方しないタイプじゃないか(誰がそうしたのかという事実から目逸らし)


第六回戦 『矛盾混線』
第六回戦 一日目


 

 

  希望から生じる人類が抱く願い

 

 すなわち―――救いであり、救済

 

 救いの在り方、何を持って救いとするかは人それぞれ――千差万別である

 

 多くの貨幣こそ救いとする者もいれば、過多の快楽こそ救いとする者も居る

 

 苦しみから逃れることを至上の救いとする者もいれば、苦しみを得ることこそを至上の救いとする者もいる

 

 このように幾多に別れたる救いではあるが、根幹を成しているのは唯一つである

 

  すなわち―――幸福に対する観念

 

 であるならば―――全人類の幸福など見え透いたものはなかろうか

 

 叶える事自体に大きく時間が掛かり、現実ではしにくいものの時間さえあれば、あるいは―――。

 

 なんにせよ叶えられるモノでしかない

 

***

 

 

「ご褒美ィ?」

「そう、ご褒美よ!」

 

 目覚め、朝食をとって開口一番にライダーより放たれた言葉。それは俺の脳内を疑問符で覆い尽くすには、混沌に落とすには十分だった。

 

 いきなりなんだろうかと思考を軽く巡らせば、思い当たるのは唯一つしかない―――というかそれ以外にはないだろう。

 

「まあ、第五回戦の決戦ではよく頑張ってくれたし、やぶさかではないが…」

 

五回戦の決戦では、長い時間キャスターの猛攻を一人で凌いで貰っていた。俺が思考にふけっている間にライダーが倒される可能性もあったのだ。どちらが倒れていても勝利することは出来なかった。

 

 さっき述べたように、ライダーの功績を考えれば褒美を与えるのはやぶさかではない。問題は、わざわざ改まって褒美を要求してくる点にある。つまり面倒なことを要求してくると考えられるのだ。

 

 おまけにさっきからライダーの顔は心なしか赤く茹で蛸と見違えるがごとくである。よほどの羞恥心を煽るような提案をしてくるに違いない。

 なにせ彼女―――チンギス・ハンはオルド、つまりは西洋で言うハレムのようなもの、後宮を造って女に情念を燃やした英雄である。女が女をとはなんとも百合百合しい展開かと笑うことはできない。なにせ後継者を造っているのだし。よく分からんが男性器でも生やしたのだろう。魔術的なアプローチで。出来ないこともないし。

 そんな彼女が顔を赤く、照れるような内容のものを褒美として要求してくる―――想像するだけで気恥ずかしい。一体なにを要求されるのだろうか?

 

「何が欲しいんだ、ライダー?」

「えっと……その…えへへ……」

 

 口にするのがためらわれるのか、顔の赤さは増していき、爆発する五秒前ともとれる程。気恥ずかしさが俺にまで伝播てくる。

 

「ええ、言うわよ私…!すぅー……はー…」

 

 もにょった後に深呼吸をし始めた。だから何を言うつもりなのか。

 

「………ひ、」

「ひ?」

 

 いや、ひって何よ。全然思いつかんのじゃが。ひから始まる言葉は何なのか?俺の知らない何かのお菓子と言う可能性も……?

 

「ひ…膝枕……お願いしても、良いかしら…?」

「はあ、なるほど膝枕ね……膝枕!?」

 

 予想外の言葉が飛び出てきた。しかもよりによって膝枕とか。その手のものはし飽きたといっても過言でもないであろうあのチンギス・ハンが膝枕!?改めて考えても、ライダーから出てきた言葉が違和感を持っている。

 

「こ、こんな反応されるから言うの嫌だったのよ!」

 

 視線をライダーに移せば顔を赤くし、額を地面にこすりつけるようにしながらゴロゴロと悶えている。

 

「…はあ、構わないよライダー」

「ふえっ」

 

 顔を上げ濡れた瞳でこちらを見てくるライダー。

 

「というかこれくらいお安いご用だ」

 

 あのライダー――チンギス・ハンからそんな言葉が出てきたことこそ、驚いたとはいえ、今までのライダーを見ていればおかしくもない要求だった。

 

 むしろその程度で済んだことに喜ぶべきか。大金を使う訳でもないのだし。この身一つしか必要としないのだから。

 

「そら、さっさと頭をのっけろ。午後からは対戦者も決まれば、探索にも出なくいといけないんだから、ゆったりと出来る時間は限られてるぞ」

「じゃ、じゃあ失礼して…」

 

 ライダーは俺の膝の上に頭を乗っける。そしてこう呟いた。

 

「……なんかちょっと違うわね…コーヘイ、もちょっと膝さげてくれない?」

 

 小柄なライダーでは俺の膝は少々高すぎたらしい。というか膝枕されて起きながらなんとふてぶてしい態度か。

 

 言われるままに正座の体勢からあぐらをかく様に座る。これで高さは解消されたことだろう。

 

「うん、ちょうど」

 

 今度は寝心地良さそうに頬を緩め始めた。ゆるりとしている様にはあくびをする猫の様。かわいげと愛嬌に満ちている。

 緩められた頬を撫でつければくすぐったそうに表情を変化させる。

 

「む、なんだか手慣れてる感じがするわね……」

「人間でこんなことをしたのは後にも先にもお前だけだ」

 

 猫?なら家にもいるのでよく撫でつけている。なお甘噛みが酷すぎて、手をよく傷めているのだが。

 

 そんなこんなでライダーを膝枕し続けること幾ばくか。ライダーを撫でつけながら、俺は眠気に誘われて、舟をこぎ始めた。

 が、俺が眠りに落ちることを妨げるかのように無機質な音が携帯端末から鳴り響く。

 

 日常は陰りをみせ非日常がこちらを覗く。

 

「まどろむ時間はもうお終いみたいだライダー。起きろ」

「ふゅにゅっ」

 

 既にすやぁとばかりに夢の世界に旅立っていたライダーを起こす。今回の対戦相手を確認しなくてはならない。

 

 二階の掲示板に急がなくては。

 

 

 

 

 もうここへ来るのは何度目だろうか。

 掲示板にはいつも通りに自分の対戦相手の名が載せられている。

 

 マスター:ジョージ・トレイセン

  決戦場:六の月想海

 

 此度の相手はどのような相手だろうか。

 

「ほう――お前が今回の俺の対戦相手か」

 

 背後から掛かる声に警戒を引き上げながらくるりと身体を返し、相手を見る。

 

 その男の躯体はがっしりとして西洋の砦を思わせる巨漢。瞳は暗く、魔術師(人でなし)の残酷非道を行ってきた者特有の目をしていた。

 漂わせた雰囲気から、歴戦のそれ、戦場で生き抜いた人間の持つ険呑さ。

 

 ギョロリと見下ろすその目はまるで死んだ魚のような色のない目だ。

 

「ギャクス・ホリックの名にかけて、此度はこの戦地に聖杯をとりに来た次第である。その隙の無い相貌。さぞ名のある者だとお見受けするが?」

「何処にでもいる魔術師風情さ。たいした肩書きなんて持っちゃいない」

 

 まあ、メイガスですが。嘘は言ってない。

 

「ふむ、卿のようなものがねぇ。にわかには信じがたいが―――卿はサイバーゴーストなのか?」

「は?」

 

 サイバーゴースト?幽霊?この俺が?

 

「何処をどう探しても卿の情報だけが見当たらない。このムーンセルのなかでさえ。そも魔術師(ウィザード)である以上情報は少しは出ようというものであるのに」

 

 だからサイバーゴーストではないかだと?

 それは()()()()()

 

「俺はサイバーゴーストじゃない、あいにくだがな」

「フン、その根拠は?」

「お前に言う必要があるか?」

 

 いらつきを少し表情に示したが瞬時に怒りを収め平然とした。

 

「まあいい。出てこい()()()()

「はい」

 

 いきなりクラスをばらした…だと?

 

 マスターに応じ、アサシンと思われる()()が現れる。

 瑞々しくしなやかな躯体。褐色の肌を覆う黒衣は身体にぴったりと張り付いていて、均整のとれた肉体。外見からして、十代後半だろうか。しかし目を引くのは―――。

 

「仮面―――?」

 

 そう仮面。髑髏の仮面を被っているのだ。それはアサシンということの証明でもある。

 

「このサーヴァントこそ我輩のサーヴァント・アサシンである。卿を殺す、女である」

「……自慢か?」

「は?」

 

 肉体面からして―――これ以上は考えまい。いつの間にかライダーが霊体化を解いていることだしネ!しかも凄まじい鋭い目でこっちを見てくるしネッッ!

 

「お、おいっライダー、落ち着け、な!」

「だ、誰のせいで…っ」

「別にお前の胸がどうとか言ってないだろうが―――はぅあ!?」

 

 まさかの蹴り。

 横合いから蹴飛ばされた俺の体はもんどり打ちながら吹っ飛ばされていく。

 

「奴等――馬鹿なのか?」

 

 一連のライダーとのやり取りに呆れたような仕草をして、アリーナへと踵を返す。

 

「行くぞ、アサシン」

「はい」

 

 去って行くマスター――ジョージ・トレイセンの背中を見ながら思考を巡らせる。

 

 ふむ。

 

「やはり妙だな」

「妙なのは今の貴方の格好だと思うんだけど。分かってるの、今の自分の格好?でんぐり返しを失敗したような形になってるのよ」

 

 アサシンであることをバラすメリットがサッパリだ。あの宣誓布告では暗殺してやると言っている様なものであり、そうさせないよう警戒させてしまうのだが。故にアサシン出あることバラす意味が分からない。暗殺者の長所を潰すような行為だ。

 

「あれぇ?聞いてる、マスター?そろそろ周囲(NPC)の視線が気になるんだけど」

 

 むしろ逆か?

 あえて警戒させることに意味があるのか?油断を突くのではなく。警戒させることに。

 だとすれば何だ?どの面で多くの利益がでる?

 

 議題を頭の中で浮かべては消費していく。

 

―――べしんっ。

 

 頭への衝撃(インパクト)。ついで揺れる視界。叩かれたと認識した途端に痛みが走る。

 

「何すんだ、ライダー」

「また思索の海に溺れてたわよ」

 

 抗議の念を視線にこめるが、参上からして俺のほうが分が悪い事に気づいた。

 ライダーの言うとおりである。思索するよりも行動しなくては。

 既に第一暗号鍵は生成されていることは携帯端末を通して知っている。

 

「じゃあ行くとするかライダー」

「その体勢のまま行く気?せめて立ち上がって言いなさいよ」

「おおうっいつの間に!」

「いつの間に!っじゃないわよ!気づいてなかったの!?」

 

 

 

 

――――――アリーナ 六の月想海

 

 

「マスター、彼ら来てるみたいよ」

「そうか…暗殺に注意ってどうしたもんか」

「私が居るから大丈夫よ。貴方の隣にいる限り、暗殺なんてしようが無いでしょうし」

 

 それもそうだ。このアリーナでしか暗殺する機会はなさそうなものだが、サーヴァントが居る限り、暗殺が不可能であろう。

 しかし、少しは用心しておくとしよう。アサシンで殺すと彼が宣言したと言うのもあるが――もし、考えにくい事だが、ライダーが何らかの形で俺の側に居なくなるとしたら――?

 

 そのときこそデッドエンドだ。

 

「頼んだぞ、ライダー」

「ふふん、任せなさい!」

 

 自身ありげに張られたない胸――ぐほっ。

 

「ふん!」

 

 今度は腹パンか――!蹴りだと思って防御しようと構えたのに、すり抜けられた!

 英霊の一撃をもろくらったのだが。おえ。死んだらどうするのか。

 

「死なないわよ。加減ぐらいするし。加減しなかったら――私筋力Aなのよ。木っ端微塵になるわよ」

 

 いや、木っ端微塵じゃすまんじゃろそれ。

 

「ぐ――マッピングしながらいつも通り調査すればいいさ」

 

 ライダーの痛烈な一撃から生じた痛みがまだ残っているものの迷宮の調査を優先する。

 

 

 

 

 あらかたのマッピングを埋め、エネミーをそこそこ倒したとき突然ライダーが振り向いた。何かに気づいたようだ。

 

「……マスター奴等帰ったみたいよ」

 

 ん?

 それは英霊の気配が消えたという事だろうか?

 しかし今回の対戦相手のサーヴァントはアサシン。であるならば、気配遮断をしていると考えられるが―――。

 

「こっちにリターンクリスタルを見せつけながら悠々として消えてったわ」

「ん?」

「皇帝特権で千里眼を使って見ていたのよ」

「ああ、なるほど。となると今日は戦うつもりがないのか」

 

 ライダーの見ている方向を同じく視線をむけた後、第一暗号鍵のある方向へ視線を移動させる。

 

「むう、アッサリと帰ってしまうなんてつまんないわね。ま、私のマスターに危害が及ばないのはいい事だけど」

「さっさと第一暗号鍵(プライマリトリガー)を手に入れるとしよう」

 

 数分ほど道なりに進めば迷宮の最奥に到着したが―――暗号鍵があるであろう部屋の前で立ち往生するはめになった。

 

「扉ね――しっかり閉まっているわ。宝具でこじ開けることも出来なくはないと思うけど――」

 

 そう、扉。無理な改竄のせいかボロボロではあるが扉――侵入者を拒むと言う最低限の働きをして見せた。俺ではこの扉を打ち破ることは出来ない。

 どうするかとライダーが目で判断を仰いできた。勿論―――。

 

「宝具を開帳しろライダー」

「ええ!『全て灼き滅ぼす勝利の剣』(レーヴァテイン)!!」

 

 アッサリと放たれる対界宝具。こんなにぽいぽいと撃って良いものか?いや、良くないよな。扉はぐずぐずに崩れ壊れてしまった。まあ耐えたら耐えたでびっくりなのだが。

 

「―――ぐぅ」

 

 突然の苦悶の声。まごう事なき隣から聞こえてきたそれ。

 ライダーの声だ。

 

「オイっ、どうし―――」

 

 ライダーの苦悶の声につい動揺してしまいライダーの肩に手を置き解析魔術をかけてしまう。すれば―――苦悶を浮かばせる原因が分かった。

 ライダーの小さな躯体にいくつかの澱が見られる。しかもこれは笑って済まされるものではない。なにせ体に鉄釘をいくつか刺したまま戦っている様なものだ。その激痛たるや想像に難くない。

 今でこそ、ライダーは額に玉のような汗を浮かべているのだが、前々、それも初戦からずっと苦痛を受けてきた証明に他ならない。この澱はこの日から出来たものではない。それこそ蓄積されたものだ。

 であるならばどうしてそこまで澱、歪みが出来てしまったのはもはや一つしか思いつかない。

 

 

それは――『全て灼き滅ぼす勝利の剣』(レーヴァテイン)だろう。

 

 

 考えてみればわかる。仮にもあの宝具は対界宝具。そうバカスカうてるものではない。何らかの形でライダーに負担を重く押しつけたのは明白だ。

 

 第一暗号鍵を素早くとり、ライダーを抱えてリターンクリスタルを使用し、迷宮を脱出する。

 

 ライダーは苦悶に濡れた表情で、意識すら弱っている。今朝の膝枕は自身の疲れを無意識に知っていたのかも知れない。

 

 はやくマイルームに運び込まなくては。ていうかここで倒れるか普通!?アサシンに出会ったらどうするんだ。

 

 

 俺は内心恐々としながらマイルームへ走って向った。

 

 

 




 お、おれは悪くねぇ。主人公がこうなったのは俺のせいじゃない!全部...っ、全部...っ!最初につけた魔術師設定がいけないんだッ!
 主人公だって言っていたよ...魔術師は人でなしだって!ああ、そうさ!そうなったよ(謎の逆ギレ)

こっから主人公少しづつ本性が顕し始める。
 ひょっとしたら愉悦できるかも...?

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。