Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第五回戦 五日目

 

 

――――――アリーナ 五の月想海

 

 

 アリーナに立ち入れば―――濃厚な霧。なんだコレ?オマケに霧には濃い魔力を感じる。

 

「見えな―――まさかッ!!」

 

 急いで、昨日、大枚と言うほどではないがそれなりの金額のした魔術礼装―――遠見の水晶玉が起動はするが、マップが見えなっていた。

 つまり―――。

 

「――ジャミングか!」

 

 マップにはノイズが走り使いものにならない。

 

「この霧の中、マップも見れないんじゃ馬も使え無い―――それが狙いね!やってくれるじゃない……!」

 

 ぎりっと歯ぎしりが聞こえてきそうなほど表情を歪めたライダー。オウフ、烈火がごとき怒りが垣間見える。

 

「この霧があるってことはキャスターは既に来て戦闘している頃だろう。ご丁寧に霧が深すぎて掲示板が見えないが」

「さっさと動くに限るってことね」

「接敵した瞬間から攻撃スキルをぶっぱして少ない時間で決着をつけるしかない」

 

 霧とか、昨日見た夢を思い出しちまうじゃねぇか。

 

「もう――宝具解放してエリアごと薙払えば……!」

「早まるなライダー!三百円あげるから!」

 

 

 

 

 しゃがんで作業していたキャスターが作業を終えたのか立ち上がった。

 

「むっ、ライダー陣営も来たようだぞマスター」

「想定より早いわね……昨日設置した魔術印をすべて起動したのよね?」

「ああ―――すべて起動した。魔力の霧でお得意の馬も使え無いだろうよ」

 

 キャスターの魔力の乗った霧。その効果は一寸先まで見えない、マップの確認が出来ないだけではなく―――あらゆる魔術――コードキャストの使用が出来なくなる。

 

「ふ、これが使い物にならないとか笑われてた陣地作成の力よ!フハ、フハハハハ!」

「でも―――決戦では使え無いわよね?」

「鼻を折るのが得意だなマスター……」

 

 罵倒されたにもかかわらず――キャスターの顔は恍惚。

 

「きもっ」

「――かはっ、何という強力な…!だが――イイ……!」

 

 キャスターの被虐的(クソマゾっぷり)は今に始まったことではないが――やはり気持ち悪い。今すぐ足蹴にしてしまいたいが――今はまだ。

 

「ふざけてないで――さっさとやるわよキャスター」

「ああ、せっかくの策だ。無駄にする気はない」

 

 すぐさま立ち上がりきりりとした表情をみせる。普段はどうしようもないほど三枚目であるが、戦闘に即せば二枚目にはなるのだ。やるときはやってくれる男なのだ。

 再び進むべき道をキャスターとみる。道さきは深い霧の中。

 

「ねえ―――キャスター?」

「なんだマスター?」

「深い霧を作って相手の動きを阻害したのはいいんだけど」

「ふむ?」

「これって私達には影響無いわよね?」

「………」

「フンっ」

「あべしッッ――!!」

 

 思わず蹴ってしまったが私は悪くない。地図が見れないと言うことはお得意の空間転移も使え無いじゃないか!

 

 

 

 

「……地図あるなら先に言いなさいよ」

「アハハハ、悪い悪い。ついマスターから殴られたくて」

「…きも」

 

 キャスターがそんなドM発言をしたのは私のプライドを守るためだろう。私のような性格の矮小さで生き残ってこれたのはすべてキャスターのおかげだ。悪いはずの私を当たり前のように許してくる。

 そんなキャスターのことが―――大っ嫌いだ。

 

「そう不機嫌な顔をしないでくれ―――それ敵だぞ、指示を頼む」

「分かったわ」

 

 私には分不相応な信頼をこのキャスターひょいっと預けてくる。軽薄な顔をして。腹立ったしいったらありゃしない。

 

 ―――きっとコイツは私の心など考えた事などないのだろう。

 

 目の前には鳥の形をした敵対プログラム(エネミー)

 キャスターに指示を飛ばす。

 

「キャスター!時間勝負だから――魔力に糸目つけず端から全力で!」

「了解した――マスター!」

 

 キャスターは空間転移でエネミーに接近するとそのまま殴りつけ、手の平からゼロ距離魔力ビーム。

 

「これなら避けられない」

 

 キャスターの一撃で消滅するエネミー。やはり何度見てもキャスターの扱う魔術はスゴイものだ。

 

「マスター掴まれ――予想より早い。ここまで勝ち上がってきたってだけはあるか」

 

 キャスターにしがみつく。キャスターは瞬間的に空間転移をし、また目の前には――ブロック形のエネミーがいる。

 

「防御が堅いタイプね―――キャスター!防御を崩してぶっぱよ」

「あい分かった―――!」

 

 空間転移で接近し蹴りをいれ、崩れたところを腕を構え魔力弾を撃ち込みスタンさせ魔力ビームを打ち込む。あえなく、エネミーは霧散した。

 

 やはりこの英霊は高位の英霊だ。いつもひょうひょうとしていて、駄目人間を装って居るが。

 あのマスターは神域のそれだと言っていたし。

 

「ふう、見事な指示だ。分かりやすい」

 

 にやっと笑ってこちらに振り向くキャスター。

 

 そう私は()()()()ヴァ()()()()()()を知らないのだ。

 

 

 

 

「これで―――終わりッ!」

 

 ズガンとエネミーを真紅の剣で打ち据えて消滅させる。これで―――三体目だ。

 あと一体だ――!

 

「今回はこっちに運が向いてるみたいよマスター――!あれを見て!」

 

 ライダーが嬉々として指さす方向にはぼんやりとながら光って動くものが―――エネミーだ。

 

 光るものに近寄ってみれば其処には―――エネミー。

 

 

「でかっっ!!!」

 

 エネミーではあるが、完全に迷宮のボスのような威圧感を放ってくるモノだ。

 

「ねえ、これまさか―――!」

「ああ――キャスターのトラップだろう!」

「■■■■■――――!」

 

 唸るような叫び声が迷宮に響きわたる。

 

「とんだ送り土産ね――!」

 

 ライダーの悪態に応えるかのように拳を振り上げ振り下ろしてくる。

 

「はっ、その程度―――遅すぎよ!」

 

 ふり降ろされた拳は避けられ、地面にあたり衝撃を与える。

 

「人型って事を後悔するのね――あの世でな!!」

 

 真紅の剣を燃え盛らせエネミーの首スパンと溶断する。地味に手際が良い。

 

「ま、大きい敵とは戦い慣れてるからね――忘れた?私、神だって倒してるんだけど」

 

 消滅するエネミーの肩から地面に降り立って俺の隣に立って言う。

 

「チ、しけてるわね――ソレ込めて罠ってことね」

 

 ライダーの口ぶりからは経験値が入らなかったことがうかがえる。

 そんなライダーとやり取りをしていると――――ビーと音が迷宮に鳴り響いた。

 

「――ッ!あそこだ、ライダー!」

 

 上空の見つけた、点数を表示する掲示板の位置を指さし教える。

 

 そこには結果が表示されている――――。

 

 結果は――――――3対4。

 

「――――負けたか、って――落ち着けライダー!」

 

 急いでライダーをなだめにかかる。なにせ今にも宝具――『全て灼き滅ぼす勝利の剣(レーヴァテイン)』をぶっぱしにかかるっていたのだ。

 

「は・な・し・て!燃えるわよ、マスター!」

「なら、お前が止めれば良い話だろ!頼むココでぶっぱすんのは――」

「おいおいなんの騒ぎだ?あれか、負け犬の遠吠えってやつか」

 

 その嘲笑の声が聞こえた瞬間、ライダーの手を離す。

 

「――やれ、ライダー」

「セイヤッ!!」

「え、ちょおま――」

 

 ライダーの剣先から放たれた極光が迷宮を焼きながら膨大な熱量と質量がキャスターにぶち当たる。

 

 む、頭にとっさにある言葉が浮かんだが飲み込んだ。俺がフラグを立てるわけには行かない。

 

「―――やったかッ!!」

「ライダー、それフラグッ!!」

 

 お前が言うんかい!

 

「――いきなり、これはなあ。私はともかくマスターが死んでしまうじゃないか!」

 

 そこには健在なキャスターがいた――あれ?マスターは?

 何処にも見当たらないが。

 

「強制退出させた――そりゃそうだろう?そんな対界宝具級のもの、受ける盾など――他の大英雄ならいざ知らず私のような非力な魔術師では防ぎようがないし」

 

 では、外にマスターが待っているのでねと言って姿が消えた。

 

「――完敗ね。アイツの身体―次元違いにでもおいてるのかと思ったけど……そうじゃなかったみたい」

「レーヴァテインは次元すら超えて届くほどの代物なのに、ってことだな」

「ええ」

「でもお前それ、相手に当てて確かためみたいな口ぶりだけど、八つ当たりで撃とうとしたよね?」

「細かいことは気にしないで」

「えぇ……」

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

 ライダーは帰ってきたからもどこか元気がない――負けたことがよっぽどショックだったようだ。

 ここは話で意識を逸らすしかないな。

 

「はあ―――ライダー」

「なに?負け犬になんか用?」

 

 ライダーにしては珍しいネガティブ発言。

 思ったより傷は深いようだ。自慢の一撃も効かなかったのも影響しているだろう。

 そんなライダーに尋ねるように声をかける。

 

「――何度敗北の目を見ても立ち上がって、最後には勝って見せた。多くの臣下はそんな偉大な背中に惹かれてついてきたんだ。君らしく、テムジンらしく決戦で勝てば良い……だろ?お前は負け犬なんかじゃないさ」

 

 少しだけ考える仕草をして。

 

「でも貴方真名分かってないんでしょ?」

「――ぐぇ」

 

 痛いところを突かれた。まだキャスターの真名は分かっていない。

 

「そ、それは――絶対真名暴いて見せるから!」

「ふーん……競争に負けて情報が足りないのに?」

「そ、それでも――!」

「分かったわ」

 

 そうライダーは言葉を切って続けた。

 

「そう言うマスターの言葉を信じるわ―――約束よ?」

 

 彼女は悪戯っぽく笑みを浮かべている。その顔に俺は―――。

 

「ああ――約束だ」

「じゃ、この話はここでおしまい!明日やることも多いでしょうし―――さっさと寝るとしましょう」

 

 そう言って俺の腰掛けるベッドにごろんと寝転んだ。

 俺をしたから見上げる目を何気なしに見つめてしまう。綺麗な臙脂色の瞳を。

 

「な~に~?私に見ぼれちゃった?」

 

 何処かで同じ言葉を聞いた覚え――デジャヴが。

 

「お前の臙脂色の瞳が綺麗だったもんで」

「この目が?へぇ~変な物好きも居るモノね―――私は嫌いだけど」

 

 おう、地雷だったでござる。

 あからさまにライダーが不機嫌になった。これはいかん。

 

「なんでそんなに嫌いなんだ?」

「……だいたい血の色じゃない。受け入れるのなんて血の繋がった家族ぐらいよ」

 

 まあだいたい想像できる。たった一人だけ目の色が違うだなんて神秘的か不気味か。どっちに取られるかなど分かりやすい。

 

「臙脂色は日本じゃ高貴な色として親しまれてるんだけどな」

「ふ~ん」

 

 臙脂色は古来日本では口紅の色――高貴なものしか出来ない代物だった。特に燕の国で作られた化粧紅はブランド化されるほど非常に優れていた。

 

「それに有名な歌にもなってるぐらいだ。臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ 春のおもひのさかりの命、ってな」

「綺麗な詩だけど…どう言う意味なの」

「ああ、これはな――」

 

 と頭に現代語訳した文を思い浮かべ、思わず赤面した。なんてことを俺はライダーに言おうとしていたのか。

 

「明日も早いさっさと寝るに限るな」

「ええ!!ちょ、なんで!?なんでそんなに顔赤くしてるのーー!?答えなさい――!」

 

 聞こえない聞こえない。何も聞こえない。

 そのまま意識を無理矢理フェードアウトさせた。魔術師ならこれくらいかたてまにできるのさ――!

 

 

 




臙脂色は誰にかたらむ血のゆらぎ 春のおもひのさかりの命
与謝野晶子の詩です。

ちなみに現代語訳すると

(貴方のことを思うほど)血潮がゆらぎ青春の思いが高まって燃え盛ったつ程。そんな臙脂色の思いを誰に/貴方以外に受け止められましょうか。

って感じ。

簡単に言えば

 貴方の全てに恋してます


これには流石の主人公も赤面してしまうでしょう。思わず口から出てきた告白文だからね、是非もないネ!

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