――――――四の月想海 二層
―――HUNTING――Enemey hunting――
「もうキャスター陣営は参加してるみたいね――跳躍魔術、空間転移されるとあまり勝ち目がないわ!」
ライダーの出現させた馬に乗る。同乗したライダーの腰に手を回し身体を固定する。
「弓が使え無いんじゃかっ飛ばしてくしかないわね」
「構わない―――レッツロデオタイムってヤツだ。ハハハ――ハゥッ!?」
これから起こることに乾いた笑いをこぼしていたが急発進した馬に引っ張られて――急激な加速に舌をかみそうになった。
顔面に叩きつけられる風。風圧でまともに息が出来なくなる。
こ、このままではまずい。全く関係無いところで死ぬゥ!
即座にライダーの背中に顔を移動させることで生存を果たした。
「あいつらもう来たみたい。キャスターちゃっちゃとやっちゃって!」
「だからやってんだよ―――てあっち馬つかってんぞ!ズル!」
遠くの方でずるい、卑怯だと声が聞こえる。ふはは、負け犬の遠吠えは心地良いな!
「そこー―ッ!まずは一つ」
視界をライダーの背から背後――頭上へ目を向ける。其処には、スコアボードが出来ていた。どうやら――相手は既に二体を屠っているようだ。あっ三つになった。
「ほらさっさと跳躍する!」
「あいよって言うか俺の扱い雑になってきてないかマスター?」
「
「やっべ、あちらさんもう二体目としたのかよ!掴まれマスター!一気に飛ぶぞ!」
テンションの上がったライダーの背で遠見の水晶玉を起動する。コイツは有名な礼装の一つ。使い方事態は俺でさえ知っているが――今回は使用が変わっており、なんと魔力を流し込むだけで使えるのだ!内蔵されたコードキャストが発動するという簡単な仕組みだ――それをもってライダーのナビゲーションをする。
「次の角を左だ!其処にエネミーがいる!!」
「分かったわ―――ハッ」
この階層から地味にエネミーが堅くなっており、馬上アタックでも一撃では倒せなくなってきた。故、いちいち馬を止め数回の攻防をし、倒したら乗るという手間をしている。
まあそれでも歩いて戦うよりは遙かに早いペースなのだが。
「よーし、次行くぞマスターってあっち早!もう二体ってやべえあと一体じゃねえかってあいつらが戦闘してるエネミーで最後か!!」
「やられたわね――ライダーをあんなふうに有効に使って見せるだなんて――盲点だったわ」
だが三体目を倒したところで、迷宮に無機質なアラーム音が鳴り響いた。
どうやら終了したらしい。
得点は―――――。
「こっちが三で、相手が四。ふんっ。はやく来ていたのが功を奏したようね!」
ライダー の 負けず嫌い が 発動した。
「かなり早いペースだったんだが……惜しかったな。まあ、ランサーとの戦闘で疲れていたっていうのもあるし。よくやったよライダー」
「むぅ~~~!はあ―――悔しいけど、明日もあることだし。というか弓だったら全部――四体すぐに倒せたし!」
でも貴方一手目からスキル使ってましたよね?
途中でまともに戦うことが面倒くさくなったようなでスキル一辺倒の戦いかたをし始めた。
「あによ!その目は!」
「いや?何でもないぞ」
遠くの方でキャスター陣営が――。
「いいー!?まだ早くなんのかよ?」
「空間跳躍より早く行動してるってこと?」
「いや、それはない。マスターを連れてるんだ。そんな速度で移動してみろ、あの馬なんの加護もついちゃいないんだぞ?死ぬわ」
「単に処理速度が異常ってことね……さすがブラックホースと呼ばれるだけはあるってことかしら」
「今回は俺たちのほうが早くついたから優位だったモノの――」
「魂の改竄に行きましょう――それなりに経験値は貯まったのだし。火力の違いがここで効いてきたようだし」
行きましょうと言って迷宮から離脱する。
ライダーの方にむき直す。
「ライダー。俺たちも帰るとしようか」
「ええ、正直疲れたわ」
リターンクリスタルを使用し迷宮から撤退する。
*
――――――マイルーム
「づ~か~れ~た~」
帰ってくるなり、そんなことを言ってベットに倒れ込んだ。う゛~~と唸っている。かなり疲れていたようだ。流石の俺もあれだけ健闘したライダーにむちを打つようなまねはしない。
「すー、すー」
なんと。もう寝息を立てているだと!?某青狸に出て来る眼鏡の少年より早いのではないのだろうか?
「ま、ホントよくやってくれたよ」
健やかな寝顔。ふむ、普通に可愛らしい。すこし長めのまつげも綺麗に整った顔を引き立たせている―――チャームポイントというやつだろうか。童顔でありながらちょっとしたオトナめいた仕草とか普段目にするとどきっとしたりする。特に髪を軽くかき上げる仕草とか。本人の前では言わないが。
なんとなしに寝る気が起きなかったので、購買で買った紅茶を入れて呑む。世の中にはやれコーヒー派だのなんだのいるが―――ブラックコーヒーを好んでのむヤツの気が知れないね(周りに敵を作る行為)。アレただの泥水じゃん。あんな苦いものを美味しいとかいって飲むやつって絶対高二病とかかかってたヤツだぜ(厚い偏見)。ちょっとかっこよく見せようとしてオトナの味とかいって飲んでんだぜあれ?どこら辺がオトナの味なんだか。
ふむ、厚く語ってしまったが何にせよコーヒーより紅茶だわ。え?お前日本人だろ?茶のめ茶って?
確かに抹茶は苦いながらも其処にほんのりと主張しすぎないくらいの甘さがあって良いのだが――場所を選ぶんだよな。茶室じゃないと飲む気おきないんだよね。
「ふう」
柔らかく感じさせる甘さ。茶葉から引き立つこの香り。ふうー↑↑たまんねー!やっぱ紅茶キメないと。人間なら。
身体的に良い感じに落ち着いてきた。これならすぐに眠れるだろう。
「つーかなんで俺のベットでガン寝?お前のベットで寝ろや」
視線をライダーのベットがあった場所に目を向けると―――。
「アレ?コイツのベットどこにいったんだ?」
其処には戸棚がいつの間にか配置されておりライダーのベッドがなくなっていた。藤村大河から貰ったトラグッズが所狭しと並べられている。
前回のタイガークエスト略してトラクエで貰った写真立てに目が言った。その写真には
思わず手にとって見入ってしまう。
どうやら写真の設定がもらった当時のマスターとその主従が並んで写るようにしていたらしく、その時はアーチャー――アタランテとも契約していたので写ってしまっているのだ。
写真立てを戻して寝る。まあ、勿論ライダーと同じのベットだが。もう慣れたモノのあの体温の高さは何とかして欲しくもある。
抗議は明日にでもと床に潜り込み眠りにつく。
瞼を閉じれば睡魔が襲いかかってきて―――――。
***
深い深い森の中。前は見づらく周りはうかがい知れないほど薄暗い。そんな中を颯爽と走っていく。周りがうかがい知れないとしても目標とする物はある。目の前を小さい光を漏らしながら浮かんでいる俺の
「はッなせよ!」
いちいち
「父さんと母さんがまだッ!!」
「ウッセエな!!なんで俺がンでこんなコトしてんのか――お前が一番知っているだろうが!?」
「そ、それは……でも!!」
「でもだ、こうだもねえんだよ!!俺ァ――テメエの両親に頼まれてこんなことやってんだ!護衛兼運び屋って――ああもう畜生!!」
後ろから鉄芯――短め鋭く尖ったものがこちらの脳天めがけて飛んでくるのを視認し、避ける。避けられた鉄芯は木々にドドドと音を立てて突き刺さった。
心臓が早鐘を打ち始める。額からは汗がにじむ。なお足は止めないとまらない。この状況から分かるように、絶賛追っ手に襲われ中なのだ。
「ほーらァ!!お前が大声叫ぶからァァァ――!」
がっちりと男らしく肩を掴んでくれているもの全く嬉しくない。
「つーかお前も曲がりなりにも
「ないよ!まだぜんっぜん教えて貰ってないんだ!!」
「ねーのか―――よ!!」
返答とともに振り返って黒鍵(自爆礼装として改造済み)を投合し牽制――ついでに爆破させる。
「ああっもったいない!!」
「金に糸目つけてたら殺されるわ!」
***
「……いい加減泣き止めって」
ぐすっと泣き止む様子を見せない小学6年生。まあ無理も無いか。
「お前を安全な所まで届けろってのが俺の仕事なんだ――悪く思うな。なんせもう代金の支払いは済んでる」
なにせ利権はたんまり貰っている。主に一級霊地の利用権とか貰った。ひゃっほい。
「お前は俺の――『火々乃家』預かりとなるってのは、もう説明したよな」
少年――
「しっかし、分家とはいえ『霧谷家』が標的にされるなんてなあ――一体何をしたんだ。本家の方からの襲撃とか相当なんだが」
あの異常な追跡者――ホムンクルスどもに追われる。両親のほうが標的だと思ったのだが――どうやら両親はあくまでついでに襲撃されたようだ。であればコイツには奴等がこぞって手に入れたい何かがあるのだろう。これは貧乏くじひいたかもしれん。
「テメエの本家『水条家』の考えなんざさっぱりだし。お前なんか固有魔術でも持ってんの?」
「………」
「黙りか……ま、いいや。あっちでの生活はなかなかいいと思うぞ。無駄に顔の整ったメイドもいるし――何より飯が美味い。口は悪いが――あれは唯一つの良いところだな」
本人の前では絶対に言わないが。
水条家―――平安中期からある名門も名門だ。ちなみに火々乃家の本家は炎浄家という呪術家系だ。陰陽道も収めていたのだとか。水条家と同年代に出来た家だ。何でも当時の帝が陰陽師の家系を一気に五分してしまったのだとか。陰陽道における五行にそって分けられ当時のトップ五人が指名されたのが家の成り立ちなのだとか。
「なあ……あんたって頼めば何だってしてくれんのか?」
「あ?んなわけねえだろ。一体何処情報だそれ」
「炎浄さん」
「まさかの本家のクソ野郎だと……!?」
いつかの時ただ働きしたのが徒になったか。
「頼む……ッ!母さんと父さんを助けてくれ!!」
跪き頭を地面に擦りつける――土下座をし始めた。
「――駄目だ」
「なんで!?」
「俺が受けた依頼はお前を運ぶことそれ以外は求められてない。契約にもそう書いてある」
まあ、即席の依頼書故、ギアスロールのような強制力があるものではないが。
「金なら助けてくれたらなんとかする!!」
「お前の案件を受けるって小田それ以上に俺がお前の本家のゴタゴタに介入――『水条家』と敵対することになるってことだ」
「―――っ」
たとえ小6だろうが魔術師として生きるならと親から教わっているはずだ。基本敵に本家の人間は化け物揃いだ。逆らう危険性、横やりを入れる危険性がわからぬはずもない。
「なら―――オレひとりでなんとかする!」
「は?んなことさせるわけ―――」
妙な行動をさせまいと立ち上がり押さえ込もうとするが――――――優哉は懐に手を入れ何か――鉱物を俺に投げつけた。む、無駄に神秘の宿ったエメラ――。
突如として目の前が白く染まった。
続いて耳に強烈な刺激。爆音によって耳がやらられたようだ。
即席の閃光弾と言うわけだ。錬金術によるものか。鉱物に魔力を入れ途中で変成・変質させたと言うわけだ。即座に破れた鼓膜を魔術回路を起動し、魔術刻印を酷使して治癒を施す。
「チ、もう居やがらねえ」
辺りを見渡しても優哉の姿がない。何処行った―――まあ、十中八九親の元だろう。空を見上げれば満天の星空。皮肉にも今の気分とは反対に美しい。
だいたい契約――アイツを安全な所に連れて行くとはいったもののギアスロールで誓約した訳ではないのだから、いくらでも反故にできる。というか護衛対象が戻るなんて想定外だ。自分の命より大切なもんなんてあるもんかね?
「やめだ、やめ。もう契約金はたんまり貰ってるんだ。水条家に喧嘩売るとか考えられないし。ずらかるに限る」
決めた。むしろ反故にしたのはアイツじゃね?護衛対象じゃなくなったとも考えられるし。
そう俺は考えて帰路に向って走り出した。
***
「いや~まさか自分から戻ってくるなんて、探す手間が省けたってもんだ。なあガキッッ!」
「う゛ぇっっっ」
黒いスーツに青いワイシャツを着た男――
「優哉!!よせ!」
「攻撃してきたのはコイツだろ?」
優哉の父親―――霧谷亮二が地面に氷の針で縫い止められたまま吠え立てる。まるで無視の標本がごとく、手足が貫かれている。
「つーかそんな形でまだ動けんのかよ―――まー、雑魚ったって魔術師ってことか」
軽薄な笑みを浮かべながら、そうあれかしと人を当たり前のように嘲笑してみせる。
ついでとばかりに優哉の頭を踏みつける。
「―――なんでこうなったとか考えてんだろう?なあ!」
「痛゛ッ」
嘲笑する顔を崩さずしゃがみ、優哉の耳元で囁く。
「この状況は全部お前のせいなんだぜ。お前が狙われた理由なんて唯一つさ――作れるらしいじゃねえか――――魔術卵《エンブリオ》ってやつを自由にな。ああ――自由には作れなかったんだけ?まあ何にせよ作れるんだろ?」
「――――!?」
「あ?なんで知ってるかって顔だな――家の中なら監視の目が行き届いてないと本気で思ったのか?馬鹿が」
監視の方法などいくらでもある。それこそ魔術師ともなれば幾多に―――高位の魔術師となれば言うまでも無いだろう。
例えば―――優哉の懐に
「つーかお前にとっても悪くない話なんだぜ?自由に作れるようにしてやろうってんだから―――ま、廃人になるかも知れないが」
異能レベルのソレを強化するとなれば――簡単な強化法として薬漬けにすることだ。よくある改造方法の一つだ。
「ぅぁ―――」
「じゃ、貰っていくぜ」
もはや言葉がしゃべれぬ程傷ついた優哉の頭を鷲づかみし持って行こうとる。
「や、やめ―――」
ズンッ。何かの爆発音だろうか。振動とともに音が響く。
ズンッ。またも振動とともに音が響く。
ズンッ。音が近づいてくる。水条もそちら――音の出所であろう方向をみる。其処にはコンクリの壁。
「なんだ―――?」
ドカンッと砲台でも打ち込んだかと思うような爆発音とともに水条の
「
瞬間、振り向き様に水条自身の近く、空間に大量の氷で出来た針を展開し射出する。
炸裂音が響き渡るが―――。
「――――?」
氷針を放った下手人は首を傾げる。
煙が晴れた其処には――――
「音が聞こえないなんざ――――間抜け――!!」
「genne――」
「オッせェェ――!!」
いつの間にかぽっかりと開いた壁から黒い影が逼迫し水条を斬りつけた―――。
「チッ、腐っても魔術師か」
ぼとり、と水条のものと思われる腕が落ちる。
「あ、貴方は――」
****
音もなく壁を崩した方法は唯一つ―――置換魔術によって劣化交換し、小突いて砂の城のように崩した。それだけである。
俺は優哉の懐に仕込んだ魔術刻印を付加したものを取り出し、鼻をかむ。
「ぶえっくしっ―――やっと鼻がすっきりした」
「正気かッッ貴様ッ!分家風情の貴様が―――」
「何故ったぁ言われてもなあ―――まあ、そこの生意気なガキのせいだ」
と俺は霧谷優哉に指を差す。奇襲とともについでに殺してしまおうと思って居たのだが
避けられてしまった―――まあ、狙ったのは優哉を掴んだ腕だったので目論見通りの結果が出たと言えるだろう。
「大丈夫か?」
「な――なんで?」
「なんでってこたあねぇだろ。
愛刀―――もはや魔改装し過ぎて妖刀と化したそれをひっさげてここに来ていた。魔術刻印を地金のほうに施したそれ。振るうだけで魔術がぶっぱ出来ます、はい。イギリス紳士で言う杖みたいなもの。アレヤバい仕掛けがあるんだぜ。初めて聞いたときびっくりした。
「で、でも――本家の人間と戦うのはごめんだって」
「細けえこったあいいんだよ。炎浄のおっさんに文句言われるのが嫌だっただけだっつうの」
本家の――炎浄家から何言われるか。憂鬱がかさむ。
「ま――ガキはあんま気にすんな」
「解せん―――貴様曲がりなりとも魔術師だろうがッ、私の家に楯突くと言うことがどういうことか―――」
「分かってるさ―――ウッセエな。ていうかお前、家お得意の修検道つかえや。なんで西欧式?」
「あんなだせえ魔術習得するやつなんかいるものか――!!」
「……お前の妹は習得していたと思うが?唯単に習得出来なかっただけだろうが」
水条家は有数の日本の魔術師の名家である。そんな所に喧嘩を売ったならば基本縁ある魔術師全てを敵にまわすことになる。そこは炎浄のオッサンにガンバって貰うことにする。
「な、なにを言って」
「この魔術も――俺が言うのもなんだが雑すぎねえ?ホントに留学した――そういやしてなかったな悪ぃ悪ぃ―――唯の西洋かぶれだったってわけだ」
「きっ貴様―――ッ」
怒り心頭といった面持ち。さらにたたみかける。前調べは十分だ――主にメイドにやらせたが。
「しかもお前――最近次期当主の座を降ろされそうって話が上がってるそうじゃないか」
「な――」
「つーか水条でありながら主流魔術が西欧魔術な時点でオワコンじゃね?」
修検道学べや修検道。天狗系魔術とか見たかったのに。
特殊な魔術、いや異能か?を持つ優哉を使って実験結果を出さなくては魔術刻印の継承権ごとなくす可能性があった。故の犯行だろう。
「チ、さっさと出てこい
しかし、何も起こらない。
だって全員斬り殺したしね。廊下に残骸が転がってるよ―――下手人俺だけど。
何が起こったのか想像に至ったらしくこちらをにらみつけ―――――。
「死ねッッ!」
瞬間的に水条から打ち出された氷針を刀で打ち払う。だが打ち払った氷針が砕けるのと同時に水蒸気へと変わり、部屋の中を霧で溢れさせる。
水条の気配が水蒸気の発生とともに薄れていく。
少しは頭も回るようだ。
四方八方から飛んでくる氷針を打ち払い、足下に倒れ伏したままの優哉を担ぎ―――部屋から広い所に向って逃亡する。廊下の先まで霧が出ていて、視界が悪い。地下から地上の部屋に向って走り抜ける。同じ分家なのにこっちの方が家がでかい―――解せぬ。
「鬼ごっこはココまでだな」
「お前が鬼?嗤わせんなよ」
目的の場所に着いた時点で全ての外界に通じる通路が氷の壁によって塞がれる。霧を使ったのは、自身を補足させないようにするためだけではなく、即席の自身の魔術工房へと作り替えるためか。
俺の周りに幾多の人影が現れる。その内の一人は水条で、その他は氷の人形、いやゴーレム。もっとも俺の知ってるゴーレム使いのものよりは劣化品であるようだが。
「ど、どうすんだよ……このままじゃ」
退路はなく敵に囲まれる。絶望的な状況に優哉からは悲観の声が漏れる。
「―――オイ。これからお前が目にする物事を誰にも言わないって約束出来るか――?」
「え?」
突然の提案に疑問符が浮かび俺の目を見てくる。
再度優哉に目で問いかける。
「わ、分かった。誰にも言わない」
「その言葉ちゃんと守れよ」
「相談は終わったか―――?」
余裕綽々といった表情でこちらをにやつきながら見ている。
「ああ―――終わった」
「ハッ――――ならさっさと死ねェ!!」
何十体かのゴーレムがこちらへと氷の武器を構え突撃してくる。何という無駄な。
恐らく目の前に姿を見せている水条は本物ではない。だが―――この部屋にいるのは確実だろう。あの男の性格上俺たちが倒される姿を直に見たいはずだ。
俺は左手を開き相手に手の平を見せるようにして己の前に掲げ、右手で手首を押さえる。
「《アミー》出番だ!ありったけの魔力を使え―――!」
『了承――――演算式をそちらに送る』
「何をしようと―――」
「うわァァアアアア!」
迫り来る氷塊に悲鳴を挙げる優哉。まあまだ小学生なら無理もないが。しかし目は見開いたまま。
俺は思わず笑みをこぼし、
「焼き尽くせ―――『擬似■■焼却式』!!!」
屋内が光の中に消えた。
***
「ぁッぐぁ――――」
「まだ生きてるなんてな―――悪く言ってすまなかったな。アンタは立派な魔術師だ」
部屋の中が炎に包まれる―――まあ屋根が吹っ飛んでしまっているので部屋と呼べるかは分からないが。
焼けただれながらも芋虫のように這って逃げようとする魔術師。
「やめ、ろ―――くるな」
「そうもいかん――これも契約の内さ―――お前の両親からの」
そう告げると途端絶望した表情になる水条――いや、水条だったものか。
「今回の一件―――テメエの首で水条家は許すそうだ。てなわけだ、恨むならお前の親を恨め」
「やめ―」
スパンと首を切る。ゴロリと転がった頭をひっつかみ、魔術処理を施した首入れにいれ、しまう。
俺の傍らでは―――優哉が放心していた。
「おい―――終わったぞ」
「――――っ」
声を掛けながらついでに優哉の身体を治癒魔術で回復させる。回復するやいなや優哉は走り去ってしまった。きっと親のもとへ行ったのだろう。
水条家の人達もこちらに来ている事だろう。
空をみればしらみ始め、暁が目映く瞳に映った。
これ、殆ど閑話じゃね?