ついに四日目の朝が来た。いや、もう明後日というか昼なんじゃが。
「えっとコレは―――すみません、よく分かりません」
ふむ、エリカでもか。
昨日渡されたフリッピーディスクの様なものをウィザードの視点からなんなのか聞きに来ていた。
「まあ、正確には高度な暗号化が施されていて解除が出来なくなっています。時間を掛ければ何とかごり押し出来るかも知れませんけど……」
言外にそんな時間はないと目が言っていた。まあ、手を抜くことが出来ない相手と戦うことになるのだ。当然だろう。
「ああ、相談に乗ってくれてありがとう」
「すみません……たいしたことも出来ずに」
「構わん。害を与えてくる代物で無いことが分かっただけでも十分だ――ああ、それと」
少しだけ聞くべきか否か迷ったが聞くことにした。
「石野と会わなかったか?」
「石野さんとですか?―――いいえ、会っていませんけど」
「そうか、分かった。ありがとう」
一礼し去って行くエリカを見届けていると懐から突然聞き慣れた無機質な音がなった――第二暗号鍵が生成されたのだ。
石野を探したが、結局見つからなかった。故にエリカに聞いてみたのだが……。して
一体どこへ行ったのか。
「心配し過ぎよ、マスター」
「心配なんざしてないさ」
ライダーが霊体化を解いて出現する。まさかの俺が心配していると思ったようだ。いつか敵になる相手故に、もう少しドライだと思ったのだが。
「仮にも石野だって勝ち抜いたマスターだ――しかも征服王の。簡単にゃやられないさ」
「……劣勢だとは思っているのね。貴方は征服王を高く買っていた様と記憶してるんだけど?」
「だからこそだ――マスターが顔面蒼白で走り回る事態だ。何かあったと考えるほうが当然だろう」
「征服王がマスターを一人にするとか考えられないし――結局それ何なのかしらね?」
「分からん」
コレを俺に渡すことにどんな意味があったのだろうか?言い終わるとライダーは再び霊体化した。
「おや、そこにいるのはコーヘイ殿ではないか?」
後ろからの声に振り返ればそこにいたのは―――。
「ジャック・フロイネン――何用だ?」
ランサーのマスターであるジャック・フロイネンであった。少しばかり警戒の色が出てしまった。この老人の刺し差しさを感じる独特の雰囲気にあてられたのだ。俺の知っている
「そう警戒するな、ライダーのマスター」
「俺の対戦相手が聞いているかも知れんと言うのに、ウチのサーヴァントのクラスを喋るだなんてな。警戒するなというほうが無理というものだ」
「ああ――それは悪かったな。気が回らなかったのう」
声色態度共に全く悪びれていない。完全にわざとだ。
「ハッ――よく言うぜ」
「お前さんこそ、随分ワシの対戦相手に肩入れしているようだが?」
「かのランサーは有名に尽きる。弱点なぞすぐに突き止められるだろうに」
「ふんッ、お主が勝手にあの場で真名をバラしおっただろうが!」
「ああ――そんなこともあったなあー忘れてたわ」
「白々しいヤツじゃな」
ここでお返しとばかりに真名を出さなかったのは、ただの俺に対する配慮かあるいは真名に至れなかったのか。恐らく後者だろう。
「落ち着けよ、マスター。挑発のために話かけておいて、口げんかして負けてんだよ」
「ぐぬぬ……まだ負けておらんわ」
霊体化を解いて現れたのは青いランサー。ケルト神話における大英雄である彼がマスターであるジャック・フロイネンを諫める。そしてならとばかりにジャック・フロイネンに提案をした。
「はあ―――ならよ。言葉は言葉でも
はあ?今こっちにことわりもなくとんでもねえ提案しなかったか?
「そいつは名案だランサー!!ならばすぐさま準備をしよう――!」
ジャック・フロイネンは空中にパソコンを出現させコードを叩いていく――。
やばいっ―――急いで飛び退いたが――――。
空間が歪む。次に感じたのは浮遊感。
まるで落下しているような感覚に晒された後―――目を開けば世界は一変していた。
見慣れた廊下は透き通った無機質さがむき出しの―――まるで
「ここは――?」
「ここならセラフに感知されないんだったな」
「その通りだランサー。権限をハッキングして作った即席のフィールドだ。まあもって十分程度だが――お前にはそれで十分だろう?」
途端ランサーの殺気が膨れあがった。大気が振動したかと錯覚するほどの濃厚なそれ。それに応えるようにライダーが霊体化を解き現れる。
「ああ―――あのライダーは一度見た頃から
「まさしく戦闘狂ってヤツか……ッ!コレだからケルトは!ライダー構えろ――戯れ程度とばかりにこんなガチフィールドを作る連中だ。手は抜くな!」
「言うまでも無いぞ――余に楯突いたのだ。戯れですますものか」
「戯れとは言ってくれるじゃねえかライダー―――いいぜ聞いてやる。お前一体何処の英霊だ?」
「ふっ、貴方ほどの英雄ならば名乗ること事もやぶさかではないが―――その白々しさを濃縮したようなマスターがいたのではな」
「テメエのマスターも似たようなものだと思うけどな――」
「――時間がもったいないだろう?さっさとやれ、ランサー!」
チ、時間を出来るだけ時間を伸ばしたかったが―――もし、かのゲイ・ボルクならば撃たれたらそこで終了だ。防ぎようがない。
「そりゃそうだな―――全力で行くぜ、覚悟しやがれ!」
くるりと槍を回し構える青いランサー。
「ほう――名は名乗れんが、この武芸によって応えるとしよう―――!」
――――――Sword,or Deasth
膨れあがった殺気がぶつかり合い大気が震え出す――ここまでのモノは初めてかもしれない。対峙したのは何の奇遇か――赤と青。相対する彩のぶつかり合い。対して得物はどちらも紅と来た。
今回ばかりは端っからライダーは得物を真紅の剣にかえ、本気モードのようだ。
張り詰めた殺気が弾けた。
ランサーの姿が消える―――ライダーも追う様に姿を消す。
激しい剣戟を交し、一端お互いのマスターの前に姿を現す。
「さすがと言うべきか――かなり力を入れたのだがな」
ライダーの目線の先には無傷のランサーが。
「――その躯体からは考えられねえ程の馬鹿力じゃねえか。凌ぐのも一苦労だ」
「そう言いながら傷一つついていないのだがな」
ライダーは構えを直す。口ぶりから感じる余裕さとは裏腹に額には汗が見える。
「――残り七分ってところだ凌げるか?」
「凌ぐ方法はあるぞ――宝具を使う余裕があればだがな……マスター」
「ンだ?改まって」
「――弓をつかう許可がほしい」
―――それは即ち彼女にとっての全力の証明。
「構わない、全力で戦え――!」
口元に笑みを浮かべ――その手に弓を出現させる。
「フハハハハ!すまぬ――ランサーよ。全力と言いながら自身の最もとする得物を使っていなかった」
「あん?その弓が本当のお前の武器って事かよ――ハッ、大層な代物じゃねえか。一体どんな素材で出来てんだそれ?」
「この弓はかの獣神から奪いせしめしもの。何で出来ているかなど分からん―――が、この弓をこそ生前は愛し、使ってきた」
圧倒される。ライダーの放つ確実に殺すというプレッシャーにただただ圧倒させられる。マスターである俺でさえここまで緊張させられるだから相手は想像するまでもない。
―――だが、そんな威圧感のなかで青いランサーは獰猛に笑ってみせた。
「いいねえ!やっぱ英雄ったぁ、こうで無くちゃあな!」
笑いながら距離をとり、姿勢を低くしする。まるでクラウチングスタートのような体勢。
「俺の宝具は知っているな!」
「ゲイ・ボルク――一撃必倒の権能にすら近い強力な一撃、因果逆転の呪いを持っていると聞いている」
「おうとも―――だがまあ、槍ってのはこう言う使い方もある」
「なるほど――アレを使うかランサー」
ぎしり――とランサーの持つ槍から握りしめられたが故の音がなる。
対するライダーは弓を持ったまま――真紅の剣に魔力を集めていく。宝具を撃つつもりなのか?
弓で交戦する姿は未だかつて見たことはない。
「行くぞ。この一撃、手向けとして受け取るがいい―――――!」
瞬間、一気に跳躍。弓のように身体を大きく反らせ――あのフォームはテュポーン戦でみた対軍宝具――。
ライダーはその様子を見届けながら真紅の剣を―――
は?え――そう使うの?
「跳躍した時点で貴方の負けだランサー。飛んでいるものを落とせぬなど、余の縁あるものに聞かれれば笑われる故な――正面から撃ち貫くまで」
真紅の矢へと変貌した『
え?――マジで?打ち出すの?そう言う宝具なの?
「『
ケルトの光神のもつ『
ライダーは片膝をつき――ランサーに向って弓を構えている。幻想的な意匠の施された長弓。ぎちりと軋むほど引き絞られた弓に真紅の矢をつがえている。空間が軋んでいく。
「吹き飛ばせ――『
共にはなたれた宝具は唸りを上げ、空間を裂き、砕きながら――――。
轟音。閃光。
一瞬で視界が塗り替えられた。あまりのそれに思わず目をつぶったがそれでもなお光が網膜に焼け付いてくる。
――――一体どれくらい立ったろうか。やっと悲鳴を挙げていた聴覚が戻ってきた。視覚はまだぼやけている。
「さすが―――大英雄クー・フーリン。感服するほかない――よもや凌ぎきられるとは」
「ホント――テメエこそ何処の英霊だ?テメエとこれ以上戦えねえってのが残念でならねえぜ」
ライダーとランサーのやり取りが聞こえる。視界も徐々に戻ってきた。ここは―――廊下?どうやら戻ってきたようだ。
「何という一撃か、余波だけでフィールドを崩壊させかけるとはな」
「しかし――これで仕事は果たしたなマスター」
仕事――?
「ふ、コーヘイ殿よ。我々は同盟を組んでいる中でね。少々欲しいものがあったので対価とばかりに貴方のサーヴァントに対する情報が欲しかったのさ」
「同盟――?まさか―――ヴェル・マージンとか」
「さよう」
てことはこの戦った情報はそのまま流れていくってことか。下手打ったなこりゃ。
「貴方が倒れるまでの無期限の同盟さ――もっとも、もう二人だけなのだがね」
「俺が――?」
「なんだ知らないのか?テュポーン戦以来、貴方のことを優勝候補とする噂が広がっていることを」
んなことになっていたのか。まさか最近他のマスターとあんまり会うことがないのは――意図的に避けられていたのか!?
では、とジャック・フロイネンは何処かへと去って行った。
アリーナ前に向って廊下を歩いていると、そこには何故か言峰がいた。
「順調に歩んでいるかね?」
しかも話しかけてきた。このなんとも言えないこちらを完全に嗤っているかのような精神を逆撫でする声。絶対裏ボスとか似合うよ。
「一体何のようだ?」
「何、ちょっとした通知だよ。君たちもそろそろ、単純な探索だけでは飽きてきたかと思ってね。私から、少し違う趣向を用意させて貰った」
「はあ?」
――ぜってえろくでもないヤツだよーこれ。
そう直感するのは当然だった。当然だよね?
「なに、単純な話だ。この試合、君たちマスターに特別ルールを一つ追加させて貰う。それぞれのマスターには、別のルールを追加しているのだが―――」
少し考え込む様子をみせ―――。
「そうだな、君は「
「ハンティング?」
「
「で?報酬はなんか出るのか?」
「まあ、そうせかすな。この追加ルールだが、六日間、その勝者には対戦相手の戦闘データを一つ、開示しようと思う」
マジか――なんという太っ腹ぶりか。だが同時にこちらの情報が漏れる可能性がある。正直乗る気はしないが――乗らなくてはならない理由がある。俺達はキャスターの真名が分かっていないのだから。
「どうだね?悪くない報酬ではないかな?」
「ああ――悪くない。その提案に乗る」
「では、アリーナに向いたまえ。勝負は第二層で行われる手はずになっている。君の相手は既に、狩りを始めているはずだ」
もう遅れを取ってるってことか。言峰は言い終わるとアリーナがある方へ向い歩いて行った。
「あの神父も余計なことをしてくれるものね―――でも、狩りと来ましたか。ええ、私の面目跋扈ってヤツね!狩りなんて得意中の得意だし。でね……マスター頼みがあるんだけど――馬使っていい?」
「……いいぞ。どうせライダーってばれてるだろうし。ばれるだろうし」
ライダーとともにアリーナへと急いだ。
「しかしライダー―――弓は禁止な」
「えー」
「えー、じゃない」
「分かったわよ」
使ったら絶対ばれるだろうが!
青ランサーとの戦闘、ライダーの弓としての宝具使用回。
地味にランサーの使う槍に所以するグングニル、ライダーのレーヴァテインという北欧敵つながりもあってやりたかった戦闘。
......別にランサーとかけた訳じゃないよ?ホントだよ?