Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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爆死した(もはや何も言うまい)



第五回戦 二日目

 

 腫れ上がった顔で,頭を地面にすりつける。

 

 

「マジすいませんした。ちょっと調子乗ってました」

 

 なに?昨日の結果?今の姿見ればわかるだろ?土下座だよ土下座外交中だよ!言うまでも無く第一次くすぐり戦争は唯の暴力によって敗北の目をみた。

 

「え?なんて?私よく聞こえなかったわ?」

 

 いつも以上に低い声色で俺の頭を裸足で踏みながら見下ろしてくる。超怖ぇえ――!そろそろ許してください。かれこれ半日は土下座をしている。もう夜明けちゃったんじゃが。

 

「いや、ほんと、マジで。ぶん殴られたおかげで目、覚めましたってホント勘弁してください」

 

 ぐりぐりと足で踏みつけられつつこうなった経緯を思い出す。

 

 

***

 

 

「ふはははは!」

 

 高らかに勝利の笑い声をあげる。ライダーは笑い疲れ、体を引くつかせ、顔は赤く高揚している。妖艶さの目立つ様子をなしているが―――。

 

「ん……ふっ、はあ、は、ふう」

 

 ふむ、少々やりすぎたやもしれん。ライダーはのそりっと体を起こして体を震わせ始めた。

 

「おーい、大丈夫か―――ぶべらっ!!」

 

 いきなり視界が反転し、壁に頭をぶつける。おまけに、頬がものすごく痛い。もしかしなくても殴られたようだ。

 

「痛って!!」

 

「―――やってくれたわね。マスター?」

 

あっ、やばいと思い土下座をし冒頭に繋がる。

 

 

 

「フンっ、次はないわよ」

 

 ははー、とひれ伏し許しを得る。

 そんなこんなで許しを得たところで、今回の計画を打ち立てる。

 

「でだ、結局アリーナの一層を攻略したわけだが……割りと普通に行けたな。特別に何もなく」

「ええ、そうね。何か仕掛けてたと聞いてたんだけど?」

「あー、まあな。念のために仕掛けたであろうエリアを調べてみたんだが……特に何もなかった。痕跡一つなかったよ」

 

 あのキャスター陣営がアリーナから帰った後、ゆっくりとアリーナを踏破した。その際、キャスターが仕掛けたとされるエリアをくまなく調査したのだが、何の成果も得られなかった。

 

「それに、あれほどの力を持つキャスターが何もしなかったとは考えにくい」

 

 なにせ空間を跳躍してみせたのだ。さも当然のように。

 あのマスターもまた、驚嘆している様子はなかった。見慣れているのか、あるいはそれができて当然と思える英雄なのか。

 まあ、おそらく両方だろうが。キャスターとそのマスターの信頼は厚いと言って良いだろう。そうでなくては空間跳躍魔術に体を預けるなんて出来っこないのだ。

 

 

 

 

―――――食堂 購買

 

 

 現状ではキャスターがアリーナで何をしたのかはわからずじまいということで、ライダーの好んでいたロールケーキの買いだめが切れたので再び買いだめをしに来た。

 

「ふむ、焼きそばパンもついでに買ってくか」

(あっ、いちごタルト!)

「はいはい、買いますよっと」

 

 購買で買い物をしていると、背後から声を掛けられた。

 

「おっ、コーヘイじゃないか。君も勝ち残ったんだな…ってなんか眠そうだな」

 

 恐らく眠れてない故、鏡で確認していないが隈でも出来ていたのだろう。

 振り向くとその正体は――石野、征服王のマスターであった。こっちに手を軽く振りながら近づいてきた。

 

「何のようだ?」

「まあ、そう邪険にしないでくれよ―――お前にとっても価値ある話だと思うぜ?」

 

 価値ある話?

 

「俺の第三回戦の相手は――ヴェル・マージンだ」

「のった……で、なにが欲しい?」

「話の早い奴は嫌いじゃないぜ……とまあ、俺からの頼みは―――」

 

 頼みは?

 

「――金を貸してくれ」

「―――――――」

 

 あまりに切実な様子で言ってきたので思わず絶句した。

 時計塔にいたころ、金がなくて世知辛い世の中を生きた記憶が脳裏によぎる。貸すこと自体はやぶさかではないが――問題は金額だ。

 

「……いくら?」

「ざっと…….八万PPT」

「はあ―――」

 

 八万PPT。

 一応持ち合わせはあるもののそれを買えば、ほとんど有り金がゼロになってしまう。なぜセラフにはギャンブルがないのか。そこでなら一攫千金だというのに(なお当たるとは言ってない)

 

「ヴェル・マージンの情報はどんなのがあるんだ?出身とかサーヴァントの情報とか」

「出身は勿論、サーヴァントの情報もだ」

 

 ふむ、どうしたものか。

 

(良いんじゃない?情報は多ければ多いほどいいし)

 

 ライダーの賛成もあって提案を受けることにした。

 

「ほらよ、八万PPTだ」

「お~~!恩にきるよ火々乃!……で、ヴェル・マージンの情報だったな――」

 

 こほんっと咳を一つ挟み話し出した。

 

「ヴェル・マージンはそのファミリーネームから分かるように、西欧財閥の有力貴族出身だ。ま、結婚してたと思うから本名はヴェル・アナストリアだが……今回は個人としての参加ってことだろう」

 

 は?結婚してるのか?

 男が嫌いと公言していたのに結婚していたとは……むしろ結婚生活でなにかあったと見るべきか。

 

「サーヴァントのクラスは恐らくだがキャスターだ。ま、そんなことはもう掴んでるだろう?だが、この情報はまだ知らないだろう」

 

 自信ありげに、胸を張る石野。そこで言葉を止め、もったいぶって口を開いた。

 

「あのキャスターはキリストが嫌いらしいぜ。キリスト関係か、あるいは宗教で巻き込まれた英雄か何かだろうよ」

「……キリスト教が嫌いねぇ」

 

 キリスト教に縁のある英雄――確かに高くはあったが重要な情報には違いない。

 しかし、キリスト教関連の英雄・英傑は山ほどいる。キリストを嫌うにしても、宗教戦争だとか、イスラム教とかが関係してくるだろうし。

 

「ま、俺から提供できる情報はこんな所だ。んじゃ、見当を祈るぜ」

 

 石野はそう言って去っていった。

 

 

 

 

――――――アリーナ

 

 

 石野と別れた後、例によって藤村大河と遭遇し頼み事を受けアリーナに来ていた。隣には霊体化を解いたライダーが立っている。

 

「サーヴァントはアリーナにいるか分かるか?ライダー」

「サーヴァントの気配は感じないわ」

「じゃ、軽く資金稼ぎをしますか」

 

 ライダーに馬を召喚して貰って同乗し、アリーナを駆け抜けていく。

 かつてはしがみつくだけで精一杯だったが今となってはこのロデオにも楽しみを見いだせてすらいる。

 

 通路を塞ぐように配置されているエネミーをバッタバタとなぎ倒し馬で踏みつけ轢きひき殺せないものには斬りつけ、抹殺していく。

 

 そうして幾多のエネミーを惨殺しながら踏破していくと突然ライダーが振り返った。

 

「マスター!やつら来たみたいよ!」

「ってことは、あっちにも俺たちがいることはばれているハズ……馬を消してくれ。降りて奇襲には対処する」

 

 相手は空間跳躍ができるのなら、それを利用しないとは考えられない。

 馬を使用したところが見られれば、クラスに感づいてしまうかもしれない。故にライダーに馬を消させた。

 

 すぐに空間を歪ませ、キャスター陣営が現れる。

 

「先手必勝よ、仕掛けなさいキャスター!」

「というわけだ。会ってそうそうに言うのもなんだがココで死ね!」

 

 言うやいなや魔力弾を放ってくる。出会い頭の奇襲。

 だが、こちらも襲撃を予想していたが故に防ぐことに成功する。瞬間、セラフの警告によって赤く辺りが染め上げられた。

 

「はッ、そんな雑な攻撃で余に奇襲が通じるとでも――!」

 

 難なく切り払い防ぎきり、お返しとばかりに斬りつける。が、さすがはキャスター、ライダーの攻撃をひらりと躱し魔術を叩きつけるように放つ。高速神言だろうか。明らかにな三節以上の魔術を行使してきた。

 

「チ、様子見としけ込む訳にはいかなそうだな――」

 

 ライダーは白槍を真紅の剣へと変えて、構え直す。

 

「真紅の剣…!なるほど、そう言う仕組み――ッ」

 

 キャスターが言い終わる前に斬りかかる。それを体勢を変えて避けきるキャスターであったが、後ろから迫る俺の折り鶴に気づかず――。

 

「やらせないわ!」

 

 マスターがコードキャストを使用し、折り鶴をピンポイントで打ち抜いた。中々の技量である。

 

「あっと――助かったぜマスター」

「しっかりしなさい。キャスター」

 

「悪い、隙作れなかった」

「よい。あちらも中々の手練れだ」

 

 さすがというべきか。伊達に第五回戦を勝ち抜いたマスターではないと言うことだ。

 素早く体勢を直したキャスターを見据えるライダー。

 空気が張り詰めていくのと同時に――ライダーの姿が消えた。

 

 大気が裂ける音とともにキャスターの隣に出現し、斬りかかる。金属の競り合う音が聞こえたかと思えばキャスターの眼前には魔術によって魔力で編まれた障壁が姿を現していた。

 

「――ンだッそのスピードは…!」

 

 そうキャスターが毒づくのも無理はない。目で追うことが出来ない速度で動き回り、縦横無尽に攻撃を仕掛けているのだ。俺も其処までの速度を出してライダーが戦うのは初めて見た。

 

 キャスターの張った障壁がライダーの攻撃に合えあせて展開されるが、次第に攻撃速度について行けず壊れ始める。

 

「――ぐっ――!」

 

 ついに魔法障壁が砕け散り、キャスターにライダーの一撃が入る――。

 

「――――んな!?」

 

 ライダーの目が驚愕で見開かれる。何故ならキャスターが笑っていたから。いやそうではなく――。

 

「くは―――ははっは」

 

 俺の見間違いでなければ―――()()()()()()()()()()()見えた。

 

「残念だったな!俺は無敵なんだわ。ま、もう少し騙しておく予定だったんだがな。強すぎるだろお前」

「無敵って――いくら何でもそれは駄目でしょう!?攻撃がすり抜けるだなんて……!」

 

 やはり攻撃はキャスターには当たらずすり抜けたようだ。

 

 ちょうどセラフからの介入が入り、戦闘が強制的に終了した。

 

「攻撃が文字通り入らないとかありかよ」

「それはこっちのセリフだ。一体なんのクラスだそのサーヴァントは」

「セイバー――ってわけじゃなさそうだしね。ま、すぐに突き止めてみせるわ」

 

 そう言ってリターンクリスタルでアリーナから退散していった。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

「今日はお疲れ様、ライダー。お前あんなに早く動けたんだな」

「ちょっとした魔力ブーストを使っただけよ。それに言ったでしょ本気を出して戦うって」

 

 アリーナから帰還し、マイルームで休息をとる。

 

「……それにしても透過なんてね。ずるくない?」

「まったくだ。攻撃が効かない無敵性とかずるいにもほどがあるだろ……」

 

 あのキャスターはまさかの無敵性保持者だった。しかも攻撃が当たらないタイプの。

 

「ま、攻撃が効かない英雄でキリスト教関連でもあるときたらだいぶ絞れるんじゃない?」

「ああ、確かにそうなんだがな……」

「なにか気になる事でもあるの?」

「――妙に自信ありげだったのが気になる」

 

 無敵性――攻撃が当たらないというふざけたものであったが恐らく其処まで行くと何かしらの宝具であると考えられるが――だからこそ、キャスターの態度が気になった。この聖杯戦争を戦いぬいたなら、真名の重要さが分かっているはず。なのに、まるで真名は明かされないとばかりの態度であった。

 

「私みたいに、宝具が真名と直結しないタイプなのかしら」

「調べなきゃ分からんがたぶんそうだろうな」

 

 情報の整理もそのままに、昨日から寝てないせいで襲ってくる眠気にさらされ、話題を切り上げ床に入る。

 

「―――なんで布団のなかに入ってこようとするんだよ」

「いいじゃない。減るモンじゃないし」

「まあ、いいや。おやすみライダー」

 

 もはや眠気に耐えられず、布団のなかで眠りにつく。まるで泥になったかのように意識が沈んでいく。急速に意識がフェイドアウトしていくことにちょっとした恐怖を感じながら。

 瞼を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 悲願/彼岸 の果てに何もなくとも

 

 歩かなければならない

 

 この想いが唯の脅迫観念だったとしても

 

 

――もう誰も見捨られない

 

 

 

 

 報われる事の無いヒガンバナが咲いている

 




 ま た 無 敵 持ち か

 一体このキャスター何者なんだ?
 まあ、意外に分かりやすいかも知れませんが

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