Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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ついに主人公のサーヴァントの真名が判明!


第四回戦 六日目

 

「――で?」

「ん?」

 

 目が覚ましてから、エリカから違法コードの付加された日本刀を受け取りマイルームへ帰還してから、唐突にライダーが口を開いた。

 

「私の真名は分かったの?」

「ああ、まあな」

 

 ライダーの真名についてはもう分かっている。北欧の神造剣であり、スルトの炎と同一視される支配の剣――レーヴァテインを保持し扱った英雄は―――。

 

「お前の真名は――チンギス・ハンだな?」

「…………」

 

 俺は確信を持ってその名を告げる。ライダーは沈黙しながらも、にやついている。

 

「む?待て、コーヘイ。ライダーの真名はアラー=アッディーン=ムハンマドではなかったのか?」

「あら、聞き覚えのある名前ね」

「確かに、アラー=アッディーン=ムハンマドがレーヴァテインを雛形とした支配の剣を保持していて実際に振るっていたのは事実だろう。だが、それこそセイバーとしては考えられるが――ライダーのクラス適性は薄い」

 

 ライダーは以前に本来なら別のクラスでの召喚されるとも言っていた。そしてそれはレーヴァテインとは別の理由であると言っていた。おそらく―――。

 

「お前が本来召喚される場合、最も多いクラスは――アーチャーだな」

「ふふっ。ええ、その通りよ。ライダーのクラスより、アーチャーとしての方が純粋に知られているもの」

 

 チンギス・ハンの逸話には、『獣の神』マニ・ハーンという神族を殺して、その神が持っていた弓を手に入れたという物がある。神殺しをなした最後の英雄と呼べる。

 チンギス・ハンは13世紀初頭から中期まで駆け抜けた英雄だ。

 激動を極める13世紀を境に、獣と人間の立ち位置が決まる。獣によって人間が殺されることが少なくなっていったのだ。獣は人間にとって恐れるものではない、と知らしめたのだ。

 

 だが、最も有名なのはかのモンゴル大帝国を築き上げた英雄であることだ。

 人類の半数を支配し、後世ではユーラシア大陸の半分以上を支配した国の建国者。

 最初こそ苦節にまみれていたものの、建国してからは領土を精力的に拡大し現在のモンゴルと中国上部から、中央アジアまで拡大した。

 政治においても、あらゆる有用な人間を登用し、制服した土地に優れた政治基盤があればこれを利用した。

 なんにせよ、偉大な逸話には事欠かさない英雄であり、人類にとっても大きな転換期を持っている。

 

「アラー=アッディーン=ムハンマドはチンギス・ハンに滅ぼされた国の王だ。その時に、支配の剣を略奪したんだろう?」

「ええ、その通りよ……余にたてついて起きながら滅ぼされぬものがあるものか」

 

 ライダーの雰囲気が豹変する。少女のものから皇帝のものへと。

 息が詰まるほど――冷酷な視線をこちらに向けてくる。

 

「余と七年も戦い続けられたところは素直に賞賛はするがな。レーヴァテインはその時入手したもの。まあ、使い方は分からなかったが美麗ではあったので持ち帰ったが」

 

 モンゴル帝国は世界最強と称されるモンゴル騎馬軍団を持っていた。裏切りには厳しく、裏切った国は文字通り焦土と化した。『チンギス・ハンは破壊し、ティムールは建設した』

という言葉は有名だ。都市ごと殲滅する戦法をよくとっていたのだ。

 

「ふ、そう構えるなマスター。ぶっちゃけるけど私はチンギス・ハンでもあるけど――」

「――テムジンでもあるって言いたいんだろ」

「テムジン…幼名のことか」

「むぅ~~~なんで私のセリフを取るのよ」

「なんとなく?」

 

 ライダーの纏った雰囲気が少女のものへと戻る。

 

「本来はこの私――テムジンじゃなくて、チンギス・ハンがアーチャーとして召喚されるはず何だけど、どういうわけか私の方が召喚されたのよ。たぶんムーンセル側からの干渉ね」

 ん?どういうことだろうか?

 

「えっとね、私が貴方の召喚に応じたっていうより、未来の私が応じて召喚されようとしたら今の私が召喚されることになったのよ。まあ、セラフが未来の私を召喚させまいとした結果でしょうね……なんか危険視されてるみたいだし」

「危険視されるてるのか……」

 

 困惑しかない。セラフに危険視されるサーヴァントってなに?そんなにヤバいやつなのウチのサーヴァント!?

 

「まあ、対界宝具もってる時点で相当ヤバいと思うんだが……」

 

 

*

 

 

「で、真名はテムジンと言うことでいいんだよな」

「ええ、そうよ」

 

 

 見かけによらないとはまさにこのことか。改めてライダー――テムジンを見てみる。

 褐色を基本の色として金糸が編み込まれており、中華と日本の意匠をと入り込み合わせたような服―――ぶっちゃければ、改造されたチャイナドレスのようなものだ。

 髪は茶髪でハーフアップに纏められている。瞳は臙脂色――黒みをおびた深く艶やかな紅色。

 

 じー、と見ていたからか。ライダーが顔を赤らめ、照れ始めたので視線を逸らした。

 俺にまで気恥ずかしさが襲ってくる。

 俺はその気恥ずかしさから逃げるように、魔術の前準備、折紙を折り始めた。

 

 

 

 

―――――アリーナ

 

 

 魔術の前準備で発狂しそうになったので(強調)、気晴らしにアリーナに来ていた。

 

「明らかな罠にかかりに行く必要はなかったのではないか」

「うるせい」

 

 腰にかけた日本刀を揺らしながら、アリーナをアーチャーと共に歩いて行く。こちらでも使えることが分かっている魔術である、折鶴を飛ばして巡回させる。

 

「気配はないが、念のためだ」

 

 アーチャーに気づかれず潜伏しているという可能性もある。ロージス・エネルベイのサーヴァントがライダーであり、バルバロスだと言うことは分かっているもののアーチャーに気づかれずに奇襲を仕掛けれたのは何故なのか分かっていないからだ。

 

 ロージス・エネルベイが残したプレゼントがあるかどうかは分からんが、トラップであるのは間違いないだろう。

 

 数分も迷宮を探索していくと中腹の広い場所の中心にナニカが見えた。

 

「なんだ、ありゃ?」

「む?何か柱のようなものだな」

 

 近づいてみる。一応周りにトラップが仕掛けられてないか見た後で、調べる――。

 

「これは――ッ」

 

 ()()で構成されたオブジェクトだ。指先から感じる生暖かな皮膚の感触がそう教える。おまけにまだ()()()()()()。丁寧に改造されている。そしてその素材に使われたのは―――。

 

「まさかっ、我がマスターなのか――?」

 

 震えた声で聞いてくるアーチャーに無言で頷き肯定する。

 正確には、もう二人とアーチャーのマスター―――ライン・スヴァイスによって構成されている。

 声も出すことは叶わないが、脳と言っていいかは分からないがデータが存在する。この肉柱は彼らの身体となっているのは確かで、無理矢理魂を突っ込んだのだろう。

 自我が存在するかは不明。

 

「コーヘイ……治せるか?」

「――無理だ。ここまでされると魂とソレが癒着している。おまけに一つのものに三つの魂をぶち込んでる。サルベージするにしても、もはや自分の形も憶えていないだろうから代わりのアバターを用意しようが帰ってこない」

 

 淡々と事実だけを口にする。自身だけの見解であり、他のマスターに頼ればあるいは――。

 

「楽にさせてやってくれ」

「……いいのか?」

「ああ、別れは済ませた。改造されても――言葉はわかるのだろう?」

 

 そう言うアーチャーの顔を覗くことは出来ない。

 

「ああ」

 

 この肉柱の構成は結局アバターを違法改造されたものでしかない。

 ならば――直接斬り殺せばいい。アーチャーの手で殺させることも出来るが――それは酷という物だ。

 日本刀を鞘からするりと抜いていく。

 

「嫌なことに、介錯は得意だ。ロージスは俺が必ず殺す――だから、安心して行きやがれ」

 

 肉柱を横ばいに一閃。切った線から噴き出るように血潮(データ)が霧散していく――。

 

 

 残ったのは、後味の悪さだけだった。

 

 

 

 

 

 それからアーチャーと無言でマイルームへ帰った。

 その日の夜、俺は夢を見ることとなった。

 

 

***

 

 

―――視点は低め――誰かの目線。

 

 

 幸せものだったか?

 そう尋ねられても、答えることが僕は出きなかった。

 何故ならおおよその僕の人生において幸せを感じる余裕はなかったのだ。

 物心つく頃には両親はいなかった。

 僕はいわゆる戦争孤児というヤツで、国連のなんとか機関とかに保護された。

 それから僕を引き取りたいって人が出てきて、所謂養子と言うヤツにされた。

 優しかったのは最初だけ。

 引き取ろうとしたのも僕に魔術回路が存在することが分かったから。

 

 でも――引き取ってくれた養父には他にも子供がいたんだ。

 その子達は魔術回路が発現しなかったらしい。

 後は想像がつくだろう?

 

 そんな日常から抜け出したくて、聖杯戦争に参加したんだ。

 生きるだけの、生かされるだけの苦痛から逃げたんだ。

 

 

 

―――この身体は何処かに向って奔っている。見覚えのある――アリーナ様な場所。

―――奥に見えるのは、いつぞやの場所だ

 

 

 

 魔力の風、あり得ない物の到来。

 人間の形をしながら人間ではないもの――英霊。

 

 自然に無造作に伸ばされた髪。野性の美しさを携えて現れた者。

 

「クラス・アーチャーにて現界した」

 

 服は気品ある緑色のもので纏められている。周りを視線で見渡し、僕を見つけ――。

 

「――汝が私を呼んだマスターか?」

 

 翡翠の瞳から放たれる視線が僕をとらえた。

 

「僕が――君のマスターだ」

 

 この日、僕は己の運命とであった。

 いや、この日から僕の運命が始まるのだ。

 

 

***

 

 

 はっと目が覚める。身体を気怠さに襲われながらも起こす。

 ――今の夢は……他でもなくライン・スヴァイスのものだ。

 

 彼のサーヴァント――アーチャーとの出会いから、彼が死ぬ瞬間までを夢に見た。

 ちらり、と寝ているアーチャーを見る。彼女は横になって向こう側をむいて寝ていてこちらから寝顔は見ることができない。

 こんな夢をみたのは、あの肉柱を切って中から噴き出たデータを浴びたからだろう。そうとしか考えられない。

 

――ライン。幸せを、愛を知らず生きてきた少年だった。愛を誰よりも渇望した少年でもあった。

 

「だが――知っていたか?お前はとうに――」

 

 誰にいうわけでもなく呟く。

 

「――幸せだった」

 

 聖杯に求めるまでもなく、運命の出会いを果たしたことで彼の願いは叶ってしまった。

 ラインの視線は常にアーチャーに向けられていた。彼女の飾らない自然体の笑みに救われてきたのだ。彼の隣にはいつも彼女がいた。何度も夢の中で見せられた。俺も見たことのない顔をお前は見続けてきたんだな、ライン。

 

彼女の語らいこそが彼が求め続けた本当の――願いだった。

 

 

 腰下で寝たふりをしているライダーの耳元に口を近づける。

 

「少し気晴らしに歩きたい……ついてきてくれるか?」

 

 頷くのを目にしてから、移動を始める。アーチャーを起こさないようにこっそりと。

 

 

 

 

 夜の中庭と言うのもなかなか風情がある。

 噴水の水の音が心地よい。

 ベンチに腰掛けてライダーにさっき見た夢を話した。

 

「マスターにそんなに思われるなんてアタランテもサーヴァント冥利に尽きるわね」

「そういうモンか…?」

「そう言うモンよ」

 

 やけにアッサリとした回答だった。

 

「なあ、ライダーよ」

「何かしら?」

「お前、裏切るヤツって嫌いだよな」

「――ええ、そうね。正確には忠誠を曲げる者だけど」

「アイツ――ラインは俺のことを純粋に慕っていた……アイツの記憶によれば、誰かに助けを求めても無視されるばかりだったらしい。だからだろうな……俺なんかを信頼した」

 

 信用ではなく信頼。それがどのような意味を持つのかは――俺だけが決める。

 

「俺は――ロージスを殺す。アイツは俺の盟友を奪った――俺の絶対的な敵になった」

「ならば――報復が必要だな?」

 

 皇帝としての顔を見せながら、不敵に笑ってみせる。

 ロージスに対しての理解は不要、交わす言葉は侮蔑のみ。

 噴き出ようとする怒りを抑え込み。

 ライダーの目を見て告げる。

 

 

 

「ああ――――力を貸せ、ライダー……!」

 

 

 

 

 祈りは終わったか

 

 不遇を嘆いたか

 

 まだ足りないと喚いたか

 

 欲は満たされないと喚いたか

 

 

 

―――『不要』だ。

 

 

 オマエヲ廃棄スル

 

 

 迎える決戦はすぐ其処に――。

 




 主人公ぶち切れ回

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