「や、エリカ。元気かね?」
「……今度はなんですか、コーヘイさん?」
俺の姿を見るなり、あまり好ましくない顔をしやがった。確かに胡散臭い笑顔を浮かべていたかもしれないが、あんまりではないだろうか、その反応は。
購買で軽く買い物をして藤村先生にカニ玉を届けた後、こうしてエリカに話に来ていた。
「頼みたいことがあってね」
「……一応、聞くだけ聞きますけど何ですか?」
「――マスター同士で戦うようにするためにはどうすればいい?もしハッキングでどうにか出来るならそのコードでも貰おうかと思ってね」
「―――っ、あるにはありますけど……」
返された言葉は震えていた。おびえる要素などドコにもないようだが。
決戦の際、マスター同士の戦闘は出来ない。代理戦争である以上原則サーヴァント同士の戦闘だけで、マスターはその援護という形を取らなくてはならない。
もしハッキング出来るなら――俺がマスターを直接殺せるようになる。
突如、エリカの隣に彼女のサーヴァント――モードレッドが現れた。まるで彼女を守ろうとするかのように。
「オイ―――殺気漏れてンぞ」
「――ああ。すまない」
「大丈夫よ、セイバー……コードですけど、渡すには条件があります」
「……言ってみろ」
「コーヘイさんは三回戦、アリシアさんと戦いましたよね。サーヴァントの真名を教えてください」
「生憎だが、俺もあのサーヴァントの真名には――」
「だったら一緒に探してください。これが私の提示する条件です」
随分とこいつも変わったように思う。瞳が揺れていない。芯が出来ている。
――願いを見つけたか。
俺の答えは―――。
*
――――――図書館
(で、結局受けることにしたと)
「うるせーぞ、アーチャー」
そう、結局俺は受けることにしたのだ。まだアリーナの準備が出来ていないらしく、第二暗号鍵の生成がなされていないようだ。故に暇だからつきあっただけで、というか受けないとコード手に入らないし。
「つーか、フランス元帥なんていすぎんだろうが、絞り込めねぇだろうが」
「分かったことはそれくらい何ですから仕方ないじゃないですか。むしろ出身地域が分かっただけでも、重要だと思うんですけど」
横合いから顔を突っ込んでくるエリカ。おまけに口までとがらせている。
「フランス元帥っていえば、ジル・ド・レェもそうだったな。他になんか言ってなかったか?」
「そう…ですね。包囲戦はきつかっただの何だのくらい?ですかね」
「包囲戦ねぇ」
包囲戦?フランスで?そんなの何かあっただろうか?
フランス史を開き調べてみるが、かなり多くの包囲戦が行われている。
『パリ包囲戦』『オルレアン包囲戦』『ラ・ロシェル包囲戦』『カレー包囲戦』『モー包囲戦』など挙げれば切りが無い。
うち始めの二つは、かの有名なジャンヌ・ダルクや、ジル・ド・レェが参戦している。
ラ・ロシェルや、モー、カレーはどの時代でも基本奪われたり取り返されたりと何度も包囲されている。
あのサーヴァントの武装はサーベルとマスケット銃。さらにマスケット銃の取り扱いが上手く、さらにサーベルの扱いも上手かった(ライダー談)らしい。
武装から鑑みるに、集点は大航海時代と考えられる。つまりルネサンス時代――16、17世紀の英雄だろう。
十七世紀の包囲戦コレもまた多いのだがあえて挙げるのなら、『ラ・ロシェル包囲戦』だろうか。フランス内戦――キリスト教におけるプロテスタント派に寄るモノだったと記憶している。その頃の有名な英雄といったら、やはりルイ十三世だろうか。
「ルイ十三世はどうだ?」
「ルイ十三世――太陽王の父ですよね?なら面影が似ていそうですがあのサーヴァントは浅黒い肌をしてたので考えにくいんですよね。当時の王室は血統を重視していたと思いますし」
「なるほどね―――あっ」
唐突に閃いた。フランスで有名な話があるではないか。誰もが知っている。日本でも放送されていたものが。それも十七世紀を舞台としたもの。
それは―――。
「――三銃士だ」
「え?」
急いで、三銃士――アレクサンドロ・デュマ・ペールが書いた物語を探す。
すぐに見つけ、エリカの隣で開き見せる。
「浅黒い肌、鷲鼻で背が低いと言ったらこの男しかいない。それもモデルになった男シャルル・ダルタニアン。しかし、包囲戦にこいつは参加していない――が、アレクサンドロ・デュマ・ペールが書いた物語では、ラ・ロシェル包囲戦に参加するために10歳年を改竄している。こいつなら全ての説明がつく」
「――確かにこの人なら!!」
ぱあっと顔を明るくして、エリカは興奮したように声を出した。すぐにそんな自分を恥じたのか、顔を俯けてしまったが。
「ま、本当にそうかは分からんが。で、真名は暴いたがコードキャストは貰えるのか?」
「はい。ですが、ええと、何かに付与する形になると思います。それに付与するにも一日欲しいです」
「なら……この刀に付与してくれ」
取り敢えず、日本刀を渡す。
「に、日本刀ですか……えっと、たぶん出来ると思います」
「じゃ、頼んだ」
「待ってください!」
呼び止められた。振り返らずに、なんだ、とだけ返す。
「何か、あったんですか……?」
おそるおそるといった風で聞いてきた。それに答えれずにいるとーー。
「何かないと、そんな――」
「何もねぇよ、ホントに何もない。ただサーヴァントの真名を開かすのにそのハッキングコードが欲しかっただけだ。今回はマスターが一筋縄ではいけない。あっちはこっちにハッキングで一方的に攻撃してきたんだ。その仕返しをしたいってだけさ」
当然嘘である。そんな事実はないが、一見筋が立っているようにみえるはずだ。どうか騙されてほしい。
そんな願いをくみ取ってくれたのか。
「分かりました、どう言ったところで話してくれないんですね……コードは付与します。でも、一回限りです。いいですよね?」
「……ああ、構わん」
違法を使ってでも、あの敵マスターには勝ちたいのだ。全力をもって殺しにいくだけである。もはや敵マスターは人には戻れないだろうから。
*
――――――アリーナ
エリカと図書館で別れたあと、第二暗号鍵の生成がされたと報告が携帯端末機からなされた。なのでアリーナに来た次第である。
「アーチャー、敵はアリーナに来ているか?」
「いや……気配は感じない。エネミーも倒された様子がない。まだ来てないようだな」
「いないのなら都合がいい、さっさと中腹までいこう。先手を取りに行く」
「了解した」
効果的に配置されたエネミーをアーチャーと共に撃破していく。
中腹まで来た所で、地面にサーヴァントようのトラップ――いつかエリカに渡したのと同タイプの代物を設置する。俺たちが帰ってくる前にかかっていれば嫌がらせになる。恐ろしいのは、サーヴァントであるアーチャーに気取らせずに奇襲を仕掛け、とらえてしまう素早さと圧倒的な力だ。
俺たちは最奥にたどり着き、無事に第二暗号鍵を手に入れた。しかし途中で妙なアイテムを見つけた――フカヒレである。
なんで、迷宮にフカヒレがあるのさ。しかも調理済み。おそらくというか十中八九、あの先生だろう。
中腹まで戻ってきたがかかっている様子はない。
ならば来るまで、と待つことにした。
数分もすればアーチャーが敵マスターを眼で視認したようで――。
「来たぞ」
「よく見えたな――サーヴァントはつれているか分かるか?」
じー、と目を凝らすようにして探っているが。
「いや、分からん――気配も察知できん」
「……なるほどね。気配を隠せる宝具をもっているのか、あるいはそう言うスキルか。そろそろ来るな」
そろそろと通路端に隠れ様子を見る。ついでに仕込みのために持ってきた千羽鶴――いや、万羽鶴か、を通路にひしめくように雑ではあるが広げておく。小麦粉もあるな。
少々にやけてしまうが真顔へ切り替える。
「仕込みは万全だ」
奴らが踏み込んだときが勝負だ。
「―――今だ」
ばんっとアーチャーが自慢の俊足でアリーナの中腹へと奔る。まるで疾風そのもの。
同時に敵サーヴァントが引っかかった。
―――予想通りにマスターの近くにいたようだ。
いくら身体を隠そうが、重さは隠せまい。加重を感じれば即座に発動するブービートラップ型なのだ。
そして、スキルを解いたのか、サーヴァントの姿が出現する。
「んなッッ!!」
「――貰った!!」
アーチャーが弓を構え撃つ。
初撃にて三発――それぞれの矢は直線で敵サーヴァントへ向う。が、防がれた。敵マスター――ロージス・エネルベイの援護である。
チ、その程度の知能はあったか。
ロージスはコードキャストなのか大量の魔力障壁が展開されたのだ――想定済みだ。
「いけ――!」
相手からみれば、廊下の奥から夥しい数の折り鶴が飛んでくる。紙の津波のように感じるものもいるかも知れない。
ばたばたと色取りの多い折り紙が飛んでいく様は壮観。まさしく彩の鉄砲水である。
持ってきた総量は破格の四万である――。
彩の暴力が魔力障壁へ叩きつけられる。そしてこの魔術の特徴は、同士に爆発させると威力が跳ね上がる点にある。つまり――魔力障壁は無残に破棄される。
そこで折り鶴を上空へ上げ視界を良くする。
「――お前か、ロージス・エネルベイと言うのは」
セラフからの警告が響き渡り、アリーナを赤く染める。
「如何にも…私がロージスだが――そういう君は、火々乃晃平だな。ふむ、しかし――」
そう言葉を切り、アーチャーへ視線を向ける。そして嘲笑ってこう口にする。
「なぜ――アタランテが君のサーヴァントとなっているのかね?」
「捨てる神あれば、何とやらだ――捨てたのはテメェだろ?」
「ほう……これは少しなめてしまっていたようだ」
こんな会話をしている間もアーチャーは敵サーヴァントと戦闘している。敵サーヴァントの周り、渦を描くようにして鶴を飛ばす。それによって相手サーヴァントからアーチャーを隠す――ジャミングとしている。
「お前に舐められるとか寒気がするんで、二度と言うな――!」
「――ふっ、我がサーヴァントよ。いつまで手こずってるッ!雑魚に構うなッ!」
「アーチャー、全力で仕留めにいけ……!」
サーヴァント同士の戦闘は激化していく。敵サーヴァントは、サーベル?いや、ククリナイフというヤツで自分の周りから飛んでくる矢を切り払っていく。
だが、アタランテとて伊達にアーチャーの名を冠してはいない。
正確無慈悲なその攻撃は相手に慣れを覚えさせることはない。たとえ覚えたとしても次に放たれる強力な一撃に体勢を崩され、遂には、膝を射貫かれる。
「―――うぐ――ッ」
「なるほど、周りのモノが邪魔なのか――周りのもの吹き飛ばせ!!」
「はッ、遅ェよ。指示がッ!殺すきかッ!!」
瞬間、敵サーヴァントに向って収縮する魔力――宝具か!?
「退けッ、アーチャー!!」
しゅっと俺の前に退いてくるアーチャー。
途端、敵サーヴァントの中心で魔力が吹き荒れた――そして囲む折り紙が吹き飛ばされる。どうせ駄目にされるならと、全部爆発させる。
噴煙の中から出て来る――一艘の船。
「は?」
帆船でありながら、現代のヨット、いやクルーザーほどのデカさを持った木造の船。
しかもよく見れば、こっちに砲塔が向いてる様な―――。
「アーチャー撃ち落とせ…!」
ズドンと放たれた砲弾をアーチャーはにげもなく、撃ち落として見せる。全部で四発飛んできたが、全段撃ち落とした。
「はっはあッ!!悪いがここでおさらばさせて貰うぜ!!」
敵サーヴァントはそのまま船にマスターであるロージスを乗せ、そのまま去って行った。
しかし、妙な形の船だったな。二本のマストを持っていたが、軍艦――ルネサンス時代に発展したようなキャラベル船と比べればかなり小さめであった。大砲積んでたけど。
一体何者なのだろうか、あのサーヴァントは。
「どうする、コーヘイ」
「俺たちも撤退だ」
*
――――――マイルーム
「お帰りなさい、マスター」
帰ってくるなり、妙にテンションの高いライダーが出迎えてくれた。
「ご飯にする?お風呂にする?それとも……きゃーー!」
ウゼぇ。
「いきなりどうしたんだ、ライダー?」
「一度やってみたかったから、やってみたんだけど。どうだった?」
地味に反応を気にしているようだ。ふむ……ここは―――。
「予想以上にうざく感じた」
誠実に答えるを選ぶぜ。アーチャーは何ということを、とばかり呆れたような表情をしているが。
「うーん、シリンがこうすると一発で落ちるって言ってたんだけどなあ」
「一体ドコのって、シリン――ってことはライダー外にでたのか!?」
「あっ」
「はい、逃げない。お説教タイムだこのヤロー!」
「――ふっ、ふふ」
「何笑ってんだよ、アーチャー」
「本当に仲いい事だと思ってな」
そう言って笑う彼女の横顔は――儚げで。
美人は何をやっても様になるから困る――そう、思わないかね?
この敵サーヴァント誰か分かるんだろうか。
本来、キーワードは三つ必要なのに二つあれば、三つ目のキーワードを探し合っててしまう主人公。無駄に高い推理力だけなら某主人公にも劣らない......はず。