水着イベントワクワクします。
――目を覚ます。
いつものようにライダーと今日の計画を打ち立てる。
「今日はあのサーヴァントもどきの化けの皮がはがすってことでいいのよね」
「ああ、アレがなんなのか突き止めるためにな。姿がさっぱり分からん以上推測の立てようがないし、それに……いや、なんでもない」
まさかあのサーヴァントもどきーーバーサーカーと思われるものに理性があった、とは言えない。いくら弓をあの精度、ライダーが裁ききれないほどの精度であったが、単に連射速度が速かっただけかもしれない、そう思ったのだ。
それに気になることがもう一つ―――。
「コーヘイ、貴方は結局聖杯をどうするつもりなの?」
思索にふけていたら、そんな質問をライダーはしてきた。
聖杯の使用方法――まあ、自分がどういう存在なのかを知る。前にそう伝えたような気がするが、ソンなことを聞きたい訳ではないのだろう。
変な顔でもしていたのか、ライダーが自分の質問に対しての補足を行う。
「貴方が聖杯で自分の存在――どこから来ただとか知りたいのは分かっているわ。私が聞きたいのは、それを知ってどうするの?ってところよ」
正直そこはあんまり考えていなかったが、もし、この世界が俺にとっての異世界ならば元の世界に帰る。
自分に対しての推論は二つある。
一つは、現代からこの世界に飛ばされた、平行世界に来ているのではないかということ。
二つ目は、この人格――パーソナルが作られたものでないかと言うこと。
正直に言えば、パーソナルへの懐疑はもう殆ど残ってはいない。自分とこの世界の齟齬とでも言うべきずれが俺に懐疑を抱かせたのだが、平行世界から飛ばされてきたほうが説明がつく、いやついてないけど。ついて欲しいが正しいといっていい。そうじゃないとSAN値が削れる。
「そうだな……異世界の住人だったなら元の世界に帰る、もし俺がどこにもいない存在なら――そうだな、聖杯に入った時点で消去されるかもしれんが受肉でもするか?地上、ろくなことが無いらしいが」
「そう……決まってないならそれでもいいわ」
*
――――――アリーナ
昨日の再戦のためにアリーナに来た。
「――あのサーヴァントもどきはこのアリーナにもういるようね」
俺ですら感づける程の濃厚な殺気がアリーナに満ちている。
「行けそうか、ライダー?」
「昨日は奇襲されたのだから、今日は奇襲し返さない?」
「ああ、それで―――ッ」
「マスターッ!」
針の様に鋭い殺気。視界はしから尋常ではない速度で接近してくる――!
これでは、鎖――グレイプニルを使う前に殺される―――。
「させるか――!」
すんでの所で、ライダーが間に入る。
白槍で防御の型を取り防いでみせた。が、その脇からバーサーカー?の攻撃――蹴りによって吹っ飛ばされる。
「――ぅぐ、しまっ、マスター避けてッ」
無理言うなよッ!
蹴りの反動で跳躍した体勢のままこちらを殴ろうと拳を放とうとしているバーサーカー?このままなら俺は木っ端微塵になって死にいたるだろう。
――だが、間に合った。
「■■■ッ――■■」
ジャリリリリと鳴る音。バーサーカー?の身体にギチリと食い込み動きを止め、拘束した――白銀の鎖。
「グレイプニル、奇襲が間に合わなくて残念だったな。間に合ってたら確実に死んでいた、はあ……本気で死ぬと思った」
ぎちぎちと鎖をならして抵抗するようにバーサーカーは動いているが、軋みはするものの壊れそうにはない。なにせ制作者は錬金術で有名なパラケルススの作ったものだ。その名だけで十分な保証がある。
「それじゃあ……こっちを苦しめてくれた、たいそうな御尊顔てヤツを見せて貰おうかね!?」
話ながらサーヴァントの頭、そこにへばりつくように被せられたかのようなそれを引っ張るが――何コレ気持ちわるッ!
手探りで探っていけば肩口を中心に広がっている事がわかる。
なんだか生暖かくてぬめってるし、肩口まで毛皮が続いているようで。
地味に肌も露出している?妙な感触。オマケに堅い骨みたいのまである始末。
「■■■■■―――!」
「うるせェェェ!耳元で叫ぶなっての!ふんっ……ぐぎぎぎ」
ここまでやって何の成果もありませんでしたァァなんていえるか!
より力を、魔術によってブーストをかけて引っ張る。ぬちりと少し毛皮を剥がすことに成功する。
「ちょ、マスター!?大丈夫なの!?」
ライダーが叫ぶ声には応えられない。
痛ッ!
手の平に痛みが走る――侵食!?呪いの類い、妄執から生まれたか!
じりじりと痛みが徐々に強くなっていくが生憎呪いの類いには縁がある。防護魔術を発動させそれ以上の侵食を食い止めつつ作業をする。
普段の俺なら一度撤退を選ぶだろうが、このときばかりはアドレナリンが分泌されたせいか、ムキになって剥がそうとしていた。
「オー――ラァァァァ!!」
そしてついに剥がすことに成功した。そして高揚した気分のままバーサーカー?をみるが――気分が瞬時地に落ちた。
最初に見て飛来したのは困惑――なにせ、見たことがある顔なのだ。何処かですれ違ったとかではなく、見たことがある――同盟メンバーの一人のサーヴァントなのだ。
対戦相手の名はロージス・エネルベイであり同盟メンバーの一人ではない。
では誰なのか―――同盟者ライン・スヴァイスのサーヴァントである。すなわち―――。
「――何やってんだ、アーチャー」
「………」
アーチャーは黙したまま何も喋らない。頬をつたう涙が悲壮さを際立たせる。
鎖は役目を終え崩れていく。
ライダーは、身動きしないアーチャーが俺を殺すと思ったのか、俺の前に守ろうと立とうとするが……俺はそれを静止した。
「マスター?」
「もう、アーチャーに戦う力はない」
おそらくライダーも分かっていたが、リスクにさらす訳にもいかないと考えて前に出ようとしたのだろう。アーチャーの構成している擬似霊子がこぼれ落ち、崩れはじめる。無理な宝具使用に霊基が耐えられなかったのだ。
アーチャーはもう立つことも出来ないようで鎖から解放された時から座り込んだままだった。
奪い取った猪の皮だろうか――の毛皮は消え失せた。
アーチャーの肩を掴み揺さぶる。
「なんでテメェがここにいやがる……!答えろ、アーチャー…!」
アーチャーは堰が切れたようにぽつりぽつりと言葉を落とす。
それは衝撃的な内容だった。
***
「随分と遅かったじゃないか――アーチャー?」
アーチャー――私はずっと探し続けていた――己がマスターを。
私の眼前には、白カソック姿の男がいた。その男の近くにはサーヴァントの気配はない。部屋の中は変に磯臭く、青臭い臭いで満ちていた。
糞の臭いもまたしている――悪臭には違いないが。
「貴様ッ!!我がマスターはどこだ―――!」
「おお、怖い怖い。飢えた獣ほど恐ろしいと言うが全く道理だな。しかし、ふむ……アーチャー、いやアタランテよ。お前なら攫われたマスターなど見捨てると思ったのだが――どういう心変わりだ?」
「黙れッ!ご託はいい、我がマスターはどこだと聞いている―――!」
「獣に人の解せる所以などあるはずもないか」
その男の嘲笑を見たからか。
私はその首を締め上げようと走り出す―――。
「答えろ―――!」
しかし、横合いから殴り飛ばされた。
アーチャーの意識の外側からサーヴァントの襲撃。極めつけはそのサーヴァントの接近に全く気づかなかったことだ。
そしてそのままサーヴァントによる拘束にあったのだ。
「ぅぐ」
「くふふふふ、さすがは我がマスター、いや我らのマスターと言い換えるべきかッ!!」
「どういう、意味だ――」
まるで、その口ぶりでは、目の前の醜悪な男こそが私のマスターと言っているようではないか。
「フフッ、見るが言い」
「そんな――それは―」
赤い参加者の証、それを六画所持している事もそうだが、それ以上に自分と目の前の男にパスがつながっていることに驚いた。令呪が奪われている?なら、私のマスターは――。
「そうだ、私がお前のマスターだ」
「マスターよ、さすがだ!前から狙っていたとはいえ、離れた一瞬の隙をついて攫ってしまうなど……管理者権限をハッキングして独房――いや、調教部屋とでも言いかれる場所に変えてしまうとは」
「ふ…ふざけるなァ!!」
「ふむ、躾がなってはいないな。まあ、駒程度にはなるか……女など何の使い方がある。唯の孕み袋でしかないではないか。だらしがない、唾棄すべきものだ」
嘲笑しながら、醜悪な男は奥を指さす。
鉄格子――牢の奥には、鎖で男、少年がつながれている。
「た、助けて――アーチャー」
半身には白濁したもので汚されて、其処まで認識した頃でそれまでの絶望を吹き飛ばす憤怒が吹き荒れた。
なんとか拘束から逃れようとするが、びくともしない。
「たったDの筋力ではな、近くでみればなかなか可愛い顔してるじゃないか」
「男こそ至高、貴様ら女など見るだけで吐き気がする。さっさと消してしまおう。絶望した顔も楽しめた事だしな」
「マスターに、ラインに、何をしたァ!!」
「答える必要があるか、雌猫め。では、さよならだ――令呪を持って命ず。宝具
「ぐッッ」
令呪によっての命令。逆らうことも出来ずに宝具を発動させ、毛皮をかぶる。
身体が変調する。
「さらに重ねて命ず。私の対戦相手、火々乃晃平を殺せ。最期の令呪を持って命ず。四の月想海の第一層へ跳躍せよ」
身体が意に反し、跳躍の体勢をとる。
「これはこれで史実通りというやつか。ふはは、お前には大切なモノは何一つ守れなかったということだ……なあ、ライダー」
「全くその通り、さすがはマスターはぶれないな。男娼しか好まない癖には少し思うところがあるが、どうせ捨てるなら、俺にくれればよかったじゃないか」
「陵辱するにも令呪が足りん、そんな余裕もない」
「ってアンタはお楽しみタイムが減るのが嫌なだけ――」
その声を最期に身体がその場から消失し、アリーナに来ていた。
***
彼女から事情を聞き終えた。相手――ロージス・エネルベイはかなり倒錯的な趣味をしているようだ。
「――んだよ、そりゃ……ってオイ!!」
ぐらりと身体が床に横たえられる。アーチャーの身体から依然として擬似霊子が零れ、いまにも消えてしまいそうだった。身体を抱き上げる。
「魔力切れね、昨日から宝具つけながら居続けらそうもなるわ。マスターからの魔力も無い、と言うか切られているわね」
「魔力さえあれば―――なんとかなるか?」
「自己修復は出来るようになると思うけど――助けるつもりなの?」
「――こいつには復讐の権利と義務がある」
そう言ってアーチャーを抱え、リターンクリスタルを使用して迷宮から出る。
*
抱えたアーチャーをあまり揺らさないように気をつけて走る。目指す先は保健室――角を曲がればすぐ其処である。
ガラリと扉をあけて、ライダーに外で待っている用告げる。
どたどたと入り込んでベッドにアーチャーを寝かす。
「いきなりなんの用ですか、駄犬」
「悪いが今すぐ保健室から出てくれないか――後で麻婆おごるから、これ、前麻婆。食べようとして取っといたヤツだ。いまはこれで我慢してくれ」
「私はまだ了承してませんが――」
「んなこと言ってる場合じゃない、頼む――」
カレンに癪だが、頭を垂れる。ここからはカレンの顔はうかがい知れないが―――。
「はあ……貴方の安い頭を下げられても困るだけ、と言いたいところですが――健康管理AIとしてしなくてはいけないことが先程セラフから発令されたので、私がいない間お留守番お願いしますね。犬なら出来るでしょう?あとついでに、麻婆…五皿お願いしますね?」
「ああ、助かる」
扉を閉める音と共に、寝かせたアーチャーに近づき、馬乗りになる。
魔術回路のスイッチを入れる。
より極端に、冷静に。同時に認識を増やしていく。心音、体温、そして身体を流れる擬似霊子のラインまで。どこにあるかは確認した。
後は自らのバイパスを無理矢理につなげるだけ。
「どうせ、意識取り戻しているだろ。なんか言われる前に言っとくとな……これは俺の復讐でもある、なにせ俺の盟友に手を出したんだからな。日本には弔い合戦ってものがあるのさ――協力して貰うぜ、アーチャー」
自身の波長をコントロールし、接続を開始する。
狙うは霊核。直接干渉し『不安定』にさせればパスをつなげることなどたやすい。皮肉なことに元々呪いを主体にした大家だっただけに、この手のことは得意なのだ―――――。
*
小一時間、修復、再生を重ねる。
パスを通すことは出来たが、予想以上に擬似霊子が流失してしまったようだ。無理をせず、戦うことはできるが、宝具を撃てるまで回復するには三日は必要だ。おまけに一回宝具を使用すれば、身体が崩壊するというおまけ付き。予想以上に身体の構造がぐちゃぐちゃに引き回されていた。あの宝具を使うだけで耐えがたい激痛、それこそ身体のなかのあちこちを爆竹で破裂させられる様なモノだ。
改めて横たわっている、アーチャーの顔を見る。髪は無造作に伸ばされ、貴人ごとき滑らかさは欠片もないが、野性美とでも言うべきか自然に満ちた美しさを持っている。飾り立てられたそれでなく、ありのままの姿――なるほど多くの求婚者が出る訳だ。
「………ん」
アーチャーが薄目を開ける。どうやら目覚めたようだ。
アーチャーは身体を起こしてこちらに向き、俺と自身の身体を見比べるように認識する。瞬間、ずりッとベッドを挟んで距離をとり、赤面した顔のまま、ぎりりと弓を構え―――。
「って、おおあアァァァァァア!!」
急いで回避行動をとる。ズドンと俺がいた場所を貫いていく矢――しかも魔力構成されたマジのヤツ。
「ばかッ、お前殺すkィィィ!!」
続いて二発目の矢。今度は頭をすれすれで飛んできた。
ドカンと壁に突き刺さる。
さすがの物音に異常を感じたライダーが入室してくる。
たっ助かった――。
ライダーはとことこと俺に近づいてきている、顔は影になって見えないが――ここまでくれば安心、アーチャーの攻撃も防いでくれるだろう。
「ふんっ」
バキッ!!と飛んだ音を聞く。視界はかなりのスピードで変化し、壁にぶつかる。余りの衝撃に意識が保てない。視界は徐々に暗転し始めた。
――あとで覚えてろよ、てめーら。