Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第四回戦 『欲望廃棄』
第四回戦 一日目


 

 

***

 

 真紅の華が咲き乱れている。

 風に揺れる花弁。赤い海のようでどこか不安定さを感じる。鼻腔をくすぐる匂いは痺れをおこす甘い匂い。

 そんな彼岸花の咲き乱れる海に不可解なものが――突き刺さっている。

 それはまるで巨大な柱。

 それには幾重にも裂け目が走っている。そこから十字の瞳孔が開いた赤い目がこちらを凝視している。

 まるで認めたくないとばかりに――こちらを震えた目で見ていた。

 

「なんて形容するべきなんだコレ……?男性器って呼べばいいのか?」

 

 それは答えない。ベージュ色ゆえにどうしても男のアレにしか見えないんだが。

 しかし、困った物だ。答えないとなると――排除しなくては成らない。

 

「悪いがこの景色は俺の…この世におけるオアシスなんだよ。男性器生やしておくわけにはいかね―――」

「――なぜ、なぜだ」

 

 震えるソレが俺に問いかけてくる。さっきから何かにおびえているようだが、まさか俺に恐怖しているわけではあるまいに。

 

「なぜ、わたしを救ったのだ。あのまま瓦解、自己崩壊を起こしたままにすれば――」

「――助けて、そう言ったのはお前だろ」

「な、に……?なぜだなぜだなぜだッ!」

「自分で勝手に崩壊しそうになってんじゃねえよ。悪ぃが自分で自分を廃棄すんのやめてくんね?俺のトラウマにささるんで、それともそういう目的かお前」

 

 頭をぼりぼりかきながらチンピラのように絡んで相手に冷静さを取り戻させる。

 

「――人間の欲望、感情をただただ無駄と断じたお前が、自己の崩壊を望むとはね」

「そんなハズは――――」

「なんだ、ガラになく恥でも覚えたか?ああ――なるほど『再起』でも考えたか、欲望を否定したお前がッ!」

 

 だとしたらこんな間抜けな話もあるまい。■■■ともあろうものがなんと情けないものか。理解し得ぬものとみながら、最後の最期でそれとは喜劇そのものではないか。

 

「ことのつまり――羨んだな」

「――――!」

 

 声にならない絶叫が響く。

 反応が弱くなったところで――自己を取り戻して貰った所で。

 

「てめぇの問いに答えていなかったな…まあ、助けた理由だがさっき言った通りお前の声が聞こえたからだ。お前はあらゆるものを廃棄してきたらしいが、どうせ捨てるんなら俺に寄越せよ、その命」

 

 そろそろ起きるからじゃあな、と手を振って別れようとするが。

 

「――■■■」

「ああ……お前の名か、またな■■■。今度会うときは男性器から姿、変えとけよ」

 

 意識が浮上していく―――。

 

 

***

 

 

「俺って一体なんなのォォォォ!!」

 

 目が覚めたのと同時にそう叫んだ。

 いつも見た夢ではあるが、懐かしくもあるが、何というかずれている。

 具体的に言うといつの日に見たのか覚えていないからだと思うが。

 

 

 

――――――一階廊下

 

 目覚めは悪いが、やらなくてはならない事がある。

 取り敢えずだが、まずは対戦者の確認だ。

 一週間、特に何も無かった。煉獄麻婆ラーメンを食わされたぐらいでそれ以外は基本、部屋で折り紙をありったけ折っていた。なに?ハッキングはどうした、だって?

――あんなもん出来るわけねェだろうがァァ!!

 大体あんなのプログラムC言語からやるようなもの、つまり――サッパリ分からん。

 聞こうにも参加者は基本敵だから聞けないし。

 精々なんのコードか、ハッキングが行われたかどうかしか分からん。素材をハッキングして入手とか余りにも出来ん。部屋の改造ができない――つまり、工房が作れない。

 俺に出来ることなんて常に折り紙折ることだけである。

 なんやかんやで掲示板の前にたどり着く。

 

 掲示板には対戦者の名前――ロージス・エネルベイ

 

(あからさまにほっとしたわね、同盟者の一人じゃなくて)

(うるせい!)

 

 安心などしていない。別に昨日、不安で眠れなかったわけじゃないから。心配しすぎて寝付き悪かったわけじゃないから。

 

(男のツンデレとか誰得なのかしら)

 

 そんなライダーのあきれた声を無視するように足を速める。

 行く場所など決まっている。

――アリーナだ。

 

 

 

 

――――――アリーナ 四の月想海

 

 

「ふーん、敵いないようよ」

「じゃあ、馬使って走り抜けるか?」

「いいわね!のったわッ!」

「――もしかしてrideとかけた?」

「ふふっ…あなたなら分かってくれると思ったわ、マスター。あと藤村先生から頼まれたこともあるし、早急に踏破してしまいましょう?」

「ああ」

 

 そう言ってライダーの出現させた馬に乗る。

 走り出す馬上から感じる風が心地よい。

 走り出して数分もすれば中腹が見えてくる。

 

―――背を奔る悪寒。

 おそらくライダーも感づいたのだろう。

 

「ぐぇ」

 

 急に馬を止め俺の襟首を掴み素早く降りる。ドシャッと地面に叩きつけられる。

 

「何しやがんだテ――ッ」

 

 ギギギ…と言う音、襲ってきた襲撃者とライダーが鍔競り合っているのだ。

 

「■■■――!!」

「いッきなり、奇襲だなんてやってくれるわね!」

 

 力押しし盛り上がった敵の身体を蹴たぐって吹っ飛ばす。

 辺りがセラフからの警告で赤く染まる。

――サーヴァントってことか!?いくらなんでも異色すぎやしねぇか。

 目を引くのは、その霧。黒い霧は敵の身体を完全に包み込み、辛うじて人型であるとしか分からない。おまけに毛皮のようなむしろ獣?としか思えない。

 先程から何度もライダーに向って攻撃を仕掛けている。

――まるで獣、バーサーカーのようだ。

 

拳戟の冴えと言うよりは獣がそのまま拳を叩きつけに来ているといっていい。砲弾をぶつけたかのような音が響く。

 

「マスター――!」

 

 ライダーの声に応じるように掌に握ったいくつか――20程の折り鶴を投げつける様にして飛ばしていく。

 折り鶴がそれ自身で羽ばたき飛んでいく――そして爆発。

 ライダーから距離をとる様に離れ、それを追撃するように追っていき爆発させるが――。

 

「うっそだろ、オイ!」

 

 ぐちゃりと身体の形を変えたのだ。――まるで不定形かのようで、空中を滑るように避けていく。人型では出来ない動き――そして煙を裂くように矢が飛んできた。

 魔力でできた矢が何発も放たれてくる――それをライダーは片っ端から落としていくが裁ききれなかった矢がライダーの身体を傷つけていく。

 そんな攻防が五分と続いたあとに、セラフからの強制介入が行われた。

 

 相手サーヴァント?は中腹から最奥まで続く道を封鎖するように立っている。

 

「通す気はなさそうだな」

「はあ…はあ……そう、みたいね」

「大丈夫か?」

「なんとかね、スゴイパワーよ、あれ。まっとうなサーヴァントじゃない――魔人よ。二回戦のバーサーカーの威力を凌駕していたわ」

「なんでこう、怪物と俺は縁があるのか」

 

 自分の運というやつを恨む。敵サーヴァントはこっちを見たまま動く気配がない。

 本当に通す気は無いようだ。

 

「はあ……出直すか」

「ええ、そうしましょう」

 

そう言って振り返って帰ろうとしたところで足が止まった。

――何か違和感がある。

 突然足を止めた俺を怪訝そうな顔でライダーは見てくるが、気にせず違和感のもとを探る。

 ―――見つけた。

 あのサーヴァントもどきの足下に何かが落ちている。―――水だろうか?ほんの少しだけだが落ちている。

 たったそれだけが俺には違和感あるものと写った。

 

 

 

 

――――――図書館

 

 

 いつもより早く出てきた俺は少し情報を調べることにした。

 まずは対戦相手のマスターについてである。

 都合良く廊下でエリカを見つけたので図書室に引っ張り込んだ。

 

「な、なんですか!?」

「ちょっと聞きたいことがあるんだが」

「いきなり過ぎ――これからアリーナに行こうと思ってたんですよ!!」

「あとで、何か埋め合わせするからさ」

 

 こほん、と咳をして。

 

「……で?何が聞きたいんですか?」

「ロージス・エネルベイについてだ」

「ん?彼ですか?彼は確か聖堂教会所属の神父の一人だったと思います。たしかなんか不祥事を起こして破門されたとかなんとか。詳しいことはわかりませんが。」

「ありがとう、助かった」

「感謝してくれるんなら、真顔じゃなくて笑顔でですね――っていない!!」

 

 何か言っていたようだが、ロージスに関係なさそうなのでもう一つの調べ物を始めることにした。

 いつか俺にライダーが尋ねた名前。アミーだったか。

 俺の記憶を見たと言っていた。忘れた可能性もあるが、俺は人間にたいしてのその名を知らない。

 アミーと言う存在は聞いたことがあるのだが。しかし信じられない。いや信じたくないと言うべきか。ライダーの発言が本当なら俺は―――。

 

「あら?ライダーのマスター、火々乃さんでは?」

「ん?」

 

 背後から声を掛けられたので振り返ると、燃えるような金髪をもった女性――シリンである。

 

「こんな所で奇遇ですね、なにかお探しでも?」

「ああ……なあ、エミーって聞いたら何を思い浮かべる?」

「そうですね、私の国だと―――悪魔の名でしょうか」

「やっぱりか」

「それがなにか?」

「いや、それ自体はなんともない。で、頼みたい事があるんだが」

「なんですか?」

「グレイプニル譲ってくれないか?」

「いいですよ。はい、どうぞ」

「あ、これはどうも……って軽ッ」

 

 軽くひょいっと渡してきた。そんなに軽く扱っていい物ではないと思うが。

 

「いえいえ、あの日お礼をし損ねてしまったので」

「いやー、悪いな」

「いえいえ、では」

 

 その言葉を最後に去って行った。

 いなくなった所で、アミーに関する書籍を確認する。ま、魔術師なら誰でも知っている名だが。

『ゲーティア』『ミュンヘン降霊術手引き書』『悪魔の偽王国』でその名が見られる――すなわち、アミーとは悪魔の名なのだ。

 序列58の地獄の大総裁であり、「欺瞞」「裏切り」「悪意」「誹謗」などの悪事を司り、敵に流言飛語を飛ばすのを得意としているのだとか。

 悪魔学における重要なファクターも担っているので魔術師には縁が深い。

 かのソロモン王が召喚したとされる魔神の集団『ソロモン七十二柱』の一柱なのだ。

 悪魔自体は第六架空要素と呼ばれている。人間の願いにとりつき、その願いを歪んだ方法で成就せんとする存在。それが悪魔である。

 その悪魔と関わったかもしれない、その時点でもはやさじを投げるしかない。

 いまの俺ではどうすることも出来ないし、結局どういうことか分からん。

 分からない事だらけだ。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

 一通り調べ終わった後、マイルームへ帰ってきた。

 軽く情報の整理でもするか。

 いつものようにどっかりと腰を落ち着けたライダーに質問する。

 

「あのサーヴァントのクラスは何だと思う?」

「あれは……バーサーカーとしか言い様がないわね。あの攻撃力は第二回戦のバーサーカー以上の腕力を持っていたわ。次に移動の仕方」

「ああ――あれは確かに異常だったな」

 

 俺の折り鶴を避ける、あの飛び方まるでムササビのように滑空するがごとき飛び方だった。人型では出来ない動きだ。それこそサーヴァントではなく、使い魔か何かかと言われたほうが納得ができるほどだ。

 だが、その考えを否定する出来事があった。それは―――。

 

「――セラフの介入」

「その通りだ、ライダー。それこそがアレがサーヴァントである証拠なんだ」

 

 辺りを赤く染める警告はいつも通りだった。

 

「あの理性の消失したかのような叫び声はまさしくバーサーカーだった」

「でも……」

「どうした、ライダー。何か気になることでもあるのか?」

 

 ほんの少し躊躇したかのような様子をみせ。

 

「ええ、それがアレの攻撃を受けた時、近くで顔を見たのだけど――毛皮で覆われていたわ。いえ、毛皮をかぶってる?ような印象を受けたわ」

「って事は、あの黒い霧――隠匿性もその毛皮による効果なら剥がせるかも知れないな」

「どうするの?」

「キャスターのマスター、シリンから鎖――グレイプニルを受け取っただろ。動きぐらいは止めれるだろうと思って貰っといて正解だったか。アレの化けの皮を剥がせそうだぜ。どんな面構えをしてんのかとくと拝んでやらぁ」

 

 

 

 

 情報の整理をし終わり、明日に備えて床につく。

 

 しかし、悪魔が関わってくるか。

 

 ――最悪だ。

 

 アミーがどう関わったのか分からんし、未だに推測の一つもつかん――いや、ついてはいるが、突拍子もないし、動機も分からん。

 おそらくだが、今朝見たあの夢が関わっているのかもしれん。

 夢の中で、おそらく俺はあの男性器――アミーを助けている。

 つまり――どういうことだってばよ。

 俺は助けて何がしたかったんだ?

 その何かをした結果ここにいる?

 時空移動であれば――第二魔法『平行世界の運営』などが考えられるが、俺はそんな魔法を使うことは出来ないのだから。

 疑問だけが膨れあがっていく。このままでは決着はつかないだろう。

 

 

 

 ホント何やってんだ俺は。

 




悪魔とか地雷でしかないんじゃが。

バーサーカー?の正体は勿論正体はあのサーヴァントです()

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