Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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対テュポーン戦 決戦

 

 

「――ここにいるってことは全員参加ってことでいいんだよな」

 

 図書室の中はいつもより薄暗く感じる。

 見渡せば前回集めたマスターがそろい踏みしていた。誰一人欠けていない。

 全員がそろっていた。

 ところで、と征服王が口を開く。

 

「この集まりに名前などあるのか?」

「同盟の名前ってことか?」

「さよう」

「特に考えていなかったが……対テュポーン同盟でいいんじゃないか?」

「ふむ、何のひねりもないが――だそうだぞ、マスター?」

 

 にたりと笑ってみせる征服王はマスターへと目を向ける。

 

「征服王がマスター、石野義允。対テュポーン同盟に参加を表明する!」

 

 なるほどこういうことがしたかったらしい。

 すると、小さな背、白色の髪をもった少年が前に進み出る。

 

「アーチャーがマスター、ライン・スヴァイス。対テュポーン同盟に参加を表明します」

 

 続いて壮年の赤い髪をもった爺さんが進み出る。と言うかどっかで見たことあるな。

 ひょっとして予選の時か?

 来ている服――軍服に見覚えがある。

 

「ランサーがマスター、ジャック・フロイネン。対テュポーン同盟に参加を表明する、ほほっ」

 

 続いて小動物系少女――エリカが前に進み出る。

 

「セイバーがマスター、エリカ・キーストン。対テュポーン同盟に参加します!」

 

 長身で金糸の髪を持つ女性が前に出る。

「キャスターのマスター、シリン・トヴァルよ。対テュポーン同盟に参加するわ。よろしくね」

 

 黒い服につり目、いかにもヤのつく集団にいそうな強面の男が口を開く。

 

「アサシンがマスター、平賀土市だ。対テュポーン同盟に参加する」

 

 茶髪にどこか気障ったらしいホストのような雰囲気を醸し出す男が前に出る。

 

「バーサーカーのマスター、ロック・ネイザー。対テュポーン同盟に参加する。よろしくな」

 

 これで全ての参加者が参加することになる。

 ここで参加者を代表してか、征服王のマスター――石野が提案を俺に投げかけた。

 

「俺たちは参加することには賛成だが、とどめをさす君が大きすぎる利を得るのが気にくわない」

 

 なるほど、条件をつけたいってことか。

 

「俺たちが提案するのは唯一つ、令呪を使用することだ」

「……ま、構わない。宝具を使う際に一画の令呪を使用する」

 

 当然といえば当然か。唯でさえ、四回戦の無条件進出が決まってしまうのだからこれ以上のアドバンテージは与えられないということだろう。俺だってそーする。

 むしろ想定範囲内だ。もっと厳しい条件付けも覚悟していたのだが。

 

「もう異論は無いようだな。なら、作戦会議と行こうか」

 

 昨日、ライダーに明かした事実を伝える。しかし、いくら何でも昨日明かしたことをそのまま伝えるわけではない。昨日、アリーナにいって威力偵察をした結果分かった事実として公表したのだ。

 

「――ふむ、聞けば聞くほどやっかいだな。パチモン――偽物ではあるが30近くの英霊を撤退に追い込んだ怪物でもある」

「その時は、互いに警戒したまんまだろ。だからこそ誰も宝具を撃たなかったし」

「それはそうなんだがなあ」

「なにか不安でもあるのか?征服王」

「腕を潰すのは楽々出来るだろうが……100の竜はどうする?」

「竜殺しが其処にいるだろう?バーサーカーには竜の頭を片っ端から潰して貰う。その隙に気配遮断したアサシンで付け根まで走る。―――もともとNPCだって言う話はしたよな?彼奴らにもサーヴァントで言う霊核のようなものを持ってる。それを壊せばひとまず再生はされない、それを狙う」

「アサシンの腕の見せ所だな」

「バーサーカーできるか?」

「ハッ、誰に言ってんだ!足りねーほどだよ」

 

 NPCの構造については他のマスターも知っているだろう。いや、マスターとしてのアバターを使っている以上俺より詳しいかもしれない。

 

「あのでか物に六個の霊核ねぇ、こいつは苦戦しそうだな」

「そう言うランサーには怪物全体のヘイト稼ぎをして貰う」

「ほほう、良かったじゃないかランサー。君好みの戦場じゃないか、んん?」

「……マスター、最近あの糞神父に似てきやがったぞ」

「おっと、それは気をつけておこう」

「……はあ」

 

 ランサーのため息にはそこはかとない哀愁が漂っていた。どうやらマスターに苦労しているようだ。

 

「アーチャーは全体の援護だ。おもにランサーの援護を頼む」

「心得た」

「はい!任せてください!!」

 

 やけに張り切っている白髪なマスターと対照的にアーチャーは冷静沈着である。

 

「では、私はどうしましょうか?」

「キャスターには、あの怪物の拘束――道具作成のスキルを使って生成して欲しいんだが、出来そうか?」

「ええ、というかもう作ってきています。後で発表しようと思っていたのですが――」

 

 そう言ってキャスターは鎖?のようなものを取り出した。白銀にしていくつか色がにじみ出ていて美しさを伴わせている。

 

「それは?」

「――グレイプニル、ですよ」

 

―――!?

 一同は驚きに包まれた。グレイプニルとは北欧の逸話のものだったような気がするのだが、かのパラケルススとは縁がないようにも思うのだが。

 

「まあ、概念礼装として確立したものですので逸話に出て来るものそのものではありませんが、テュポーンはギリシャ神話においてあらゆる怪物の父、ならば強い『獣性』を持っていることでしょう。数分は止められますよ」

 

 グレイプニルとは北欧神話の中で登場する魔法の紐――足枷であり、有名なフェンリルを捕縛した逸話を持っている。主神オーディンを食い殺すフェンリルでさえ、つなぎ止められた代物である。キャスターの言葉を信用するなら『獣性』の強いテュポーンは拘束からは逃れられないだろう。ランクダウンしているとはいえ、性能は折り紙付きということだ。

 

「マジでか……なら拘束を成功させた後に宝具撃って腕をちぎってくれ」

「ふふっ……分かりました」

「頑張りましょう、キャスター」

 

 そしてライダー――征服王へ向き直る。

 

「余には一体何をさせる気だ?」

「アサシンが来るまで片方の肩のヘイトを請け負ってもらう。空を自由に駆け巡れるんだ、これを利用しない手はない。ついでとばかりに撃破してくれてもいいぞ」

「ほほう、ならやってみせるのが英雄というものよ」

「――ひょっとするけど俺も同伴?」

「当然であろう」

「おうふ」

 

 この主従もかなり苦労しているようだ。特に戦闘ロデオとか死ねるしネ!

 

「――で?オレはどうすりゃいいんだ?」

「セイバーは頭部の破壊――ていうか目玉切ってこい」

「目玉?」

「なるほど――テュポーンには目から火を放つという逸話があるからですね」

「その通りだ、拘束したあとに攻撃を仕掛けるのがベストだろう」

 

 

 これをもって作戦会議は終了した。

 待っているのは決戦のみである。

 

 

 

 

――――――特設アリーナ

 

 

 中央にはどでかい塊――テュポーンが鎮座した。

 こちらのサーヴァントでも感知したのか、巨大な身体を動かしこちらにたいして殺気を放ってくる。

 

「対テュポーン同盟――作戦開始ッ!!」

 

 俺の声とともに一斉にサーヴァントたちが駆け出す。

 先手を打ったのは――ランサー。

 

「ハッ!!一番槍はランサーがしなくてどうするってんだ!!」

 

 その言葉と同時に跳躍し槍を投槍の体勢、弓のようにしならせて全力の一槍が放たれる。魔力の収縮――宝具を発動する気だ。

 

『突き穿つ死翔の槍』(ゲイ・ボルク)!!!」

 

 赤の一閃が幾千もの棘に分裂し、巨体へと直撃する。

 怪物は巨体をうねらして痛みに悶えるが――

 

「■■―――ッ、■■■■!!!」

 

――拳を突き出す。

 が、ランサーにはあえなく回避されてしまった。

 おまけに、キャスターは例の鎖を発動させようとしている―――。

 

「行きなさい!グレイプニル――!」

 

 キャスターから放たれた鎖はまるで蛇――自由意志を持っているかのように空中を移動して怪物へと巻き付いた。

 怪物はもがくが身体を完全に拘束した鎖はきしむ音は立てるものの全くびくともしない。

 しかし、怪物の身体は拘束したが、肩の100の竜は拘束されていない。

 竜を持ってランサーを排除しようと動かすが―――。

 

「オレを無視しようなんざァッ、ナメテンじゃッ、ねえぞ!!」

 

 一ひねりとはまさしくこのことか。バーサーカーが向ってくる竜の頭を片っ端から叩き落とす――。

 そのバーサーカーを狙うように一際大きめの竜の顎が開き熱が貯まっていく――しかし、それをアーチャーは見逃さず、放った矢で竜の目玉を射貫いた。

 そして苦しみ悶える竜に向ってバーサーカーは拳を構える――魔力の収縮、宝具の発動――。

 

源流闘争(グレンデル・バスター)!!」

 

 ぶちゃり。

 そんな音と共に竜の頭が木っ端微塵に潰された。

 そしてそんなやりとりがある間にアサシンは付け根にたどり着いたようで――。

 

「竜を斬ったことはさすがにないが蛇ならば、『活人剣』――!」

 

 剣筋が現れたかと思うと怪物の肩の付け根が崩れ落ちた。

 

「■■■■■――!■■■■ッッ!!」

「alalalalalalala――――!!」

「ライダー!!宝具の開帳を!!!」

「わかっとるわい!!『神威の車輪』(ゴルディアス・ホイール)!!!」

 

 雷牛にひかれ、雷撃を纏った粉砕器のごとく、ことごとく立ちふさがる竜を粉砕し踏破していく。

 

「フハハハハハッ――!!ついでに付け根も踏破していくぞ!!マスターしっかりと捕まっておけよ!!!」

「ぎゃぁあぁぁっぁあぁ―――!!」

「ふはははあはは!!『遙かなる蹂躙制覇』(ヴィア・エクスプグナティオ)!!!!」

 

 実に楽しそうに空を踏破していく征服王。まさしく雷神ゼウスが顕現したがごとくの雷撃を纏いながら突進していく。ついには―――付け根まで破壊されてしまった。

 同時にキャスターが宝具を放つ。

 

『元素使いの魔剣』(ソード・オブ・パラケルスス)!」

 

四種のエレメンタルと完全に同期させた一撃が怪物に直撃する――。

これにはテュポーンとはいえたまらず叫び声をあげ、のたうつ。

腕はずるりと焼け落ちた。

しかし、攻勢は止まらない。

 

「アーチャーお願いします!!」

「ふっ、任せろマスター。『訴状の矢文』《ポイボス・カタストロフェ》!!」

 

豪雨。矢による豪雨が怪物の腕――残った左腕に集中するように落ちていく。

ドドドドドッという音と共に怪物の腕はずたずたにされていく――。

 

「ぶっ込みいくぞ!!――これこそは、わが父を滅ぼし邪剣。『我が麗しき父への反逆』(クラレント・ブラッドアーサー)!」

 

 いつの間にか怪物の顔の前まで駆け上がっていたセイバーの持つ剣が禍々しい赤黒い魔力によって染まり、形も酷く歪んだ災厄の魔剣となり振りかぶる――。

剣の切っ先から直線上の赤雷が放たれた。

 まあ、怪物は当然避けられない、眼前だし。顔面を文字通り吹き飛ばした。

 

「――令呪によって命ず。ライダー、宝具の開帳を――!」

「ええ、全力をとくと見なさい!」

 

 ライダーは白槍を真紅の剣へと変える。同時に夥しい魔力と熱が収縮していく。

 それをライダーは身体の前に構え、振り上げる格好をとる。

 

「空を貫き――地を祓うその剣の名は!!『全て灼き滅ぼす勝利の剣』(レーヴァテイン)!!!」

 

 令呪によって強化された宝具。巨人スルトの炎と同一視されながらそれ以上の威力を持つとされるもの――。

 すなわち――世界の半分を焼き尽くしても余りが出る程の威力、熱量を吐き出す代物。

 文字通り世界を灼き滅ぼす魔剣――――!

 振り下ろされた剣先から凄まじい極光、轟音、熱線が放たれる。

 他のサーヴァントは巻き添えを食らわないよう既に撤退している。

 

 巨大な怪物テュポーンは自身を束縛する鎖を引きちぎるが―――もう遅い。

 ライダーから放たれた光、暴力そのものに怪物はあっさりと呑まれ叫ぶ間もなく消し飛んだ―――。

 

 ここに対テュポーン戦が終わりを告げた。

 

 

 

 

 俺の左手に鈍い痛みが奔る。

 

「これで――令呪の補充は終了した、よもやお前が打ち倒すとはな。私個人、少々意外だと思ったが、なにか気分の変化でもあったのかね?」

「どういう意味だ、そりゃあ」

「私と同類のようなものかと思っていたのだがね?」

「誰が外道神父と同じだ!?」

 

 左手の令呪が三画に戻った。

 しかし、これからの聖杯戦争は、一体どうなるのだろうか。俺は先に勝利することが決まっているが、気になりはする。

 要は終わったとばかりに持ち場に帰ろうとする言峰だが振り返って――。

 

「ああ、言い忘れていたが、今回の戦いで参加者が8名犠牲になっている。よって異例ではあるが、対テュポーン同盟に参加したメンバーは自動的に繰り上げになる。唯一つの有利条件を薄めるはめになるとは……ははっザマァ――!」

 

 そう嘲笑って、持ち場へと消えていった。

――糞が。

 少しのいらつきを押し殺し、マイルームに帰って寝ることにした。

 




ライダーの宝具を撃つイメージは、青セイバーの宝具モーションと大体同じです。

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