Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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対テュポーン戦前

第三回戦 四日目

 

 

 保健室にはベッドが至るところに敷き詰められている。患者のうめき声は多い。

 

「意識不明の重体が11名、重傷は5名、軽傷とは言え昏睡状態なのが6名。やってくれましたね……おかげで休む暇がありません、どう責任とってくれるんですか?」

「責任?なら――あのゴリラ、征服王に言え。俺が連れて帰ったのは二人ぐらいだろうが、九分の一だけだろうが」

「その征服王さんがいないから貴方にいってるんです」

「で?どうなんだ――治りそうか?」

 

 あの後壮絶な撤退戦の後に負傷者を保健室に運び込こんでいた。それから一日たった現在、程度を聞くため、保健室を訪れているというわけだ。疲労からかカレンからはいつもの強力な毒舌がとんでこない。AIって疲労すんの?

 

「未だに意識の戻ってない人が十人近く――呪いを感知しました。アリーナに出現したエネミーによるものですね、正直現段階ではなんとも言えません」

「アレからの呪いって情報が聞けただけでも十分だ……倒せば治る可能性はあるってわけだ」

「可能性はあるかと……ただ倒すならさっさと倒してください。わたしの仕事を減らすために」

「努力はするさ」

 

 保健室を出る。

 しかし、呪いか。

 かけた大本を倒さない限り治ることはないだろう。

 

 

 

――――――廊下

 

 廊下には悲壮感がひしめいている。……二回戦を突破したマスター達でさえ、諦めを抱かせる程の絶望があったのだ。いくら報酬がよかったところであれでは釣り合うまい。

 圧倒的な戦力差があったのだ。ダメージを与えても修復される――不死性を持っていたのだから。

 だが、ダメージ事態は通っていた―――ならば、修復させる余地を与えなければいいのだ。

 

 図書館へと急ぐ。

 

 

 

 

――――――図書館

 

 

 そこには俺のサーヴァントを含め、計八騎のサーヴァント、そしてそのマスター七人がそろっていた。ていうかなんで全員霊体化解いてんの?

 十中八九目の前で仁王立ちしているサーヴァント――

 

「やっときおったか、我らを集めた小僧が」

 

 そう口にするのは、征服王――ライダーである。

 

「――無事な上に協力してくれそうなメンバーを片っ端から誘っただけだ」

「倒す方法がある、と聞かされたのだが?」

 

 そう口にするのはバーサーカーを従わせるマスターである。おまけにバーサーカーには本来あり得ない理性の瞳、会話も目撃した。

 

「ああ、確かにそうだ、そう言った。でも、それが何かなんて分かってんだろ」

「――修復をさせる前にぶっ潰す、簡単な話だろ」

 

 そう口にするのはエリカのサーヴァント――セイバーである。

 

「それは単純明快で分かりやすいな、吾も協力しよう」

 

 そう口にするのは、深緑の衣服を纏ったアーチャーである。

 

「しかし、実際できるのですか?そこまでの攻撃が」

 

 そう口にするのは、白装の衣を身につけたキャスターである。

 

「できるメンバーを集めたんだろ、そういう目してるぜアイツ」

 

 そう口にするのは、青く群青のラインの入った全身タイツもとい鎧を着たランサーである。

 

「つーか、ただ一斉攻撃して終わりって訳じゃないんだろ?ま、マスターが助けられた手前協力しますがね」

 

 そう口にするのは、隻眼で黒いの衣、腰に差した刀――おそらく日本刀を所持しているアサシンである。足には具足をつけている。

 アサシンからの疑問に答える。

 

「ああ、おそらく殺し方には順序がある」

「順序?」

「かつて最高神は腕、羽、頭の順で破壊していた。つまりそう破壊していくことで殺せるだろう」

「攻撃はどう考えてる、少なくとも対軍宝具クラスの威力が必要だろ」

 

 バーサーカーなのに鋭い意見が飛んでくる。

 

「その通りだ、だから――このメンバーを選んだのさ」

 

 にやりと笑ってやる。緊張感が走るつまり俺は――

 

「――俺たちの真名に気づいているってことだな」

 

 そう言ったことに等しいのだから。

 

「そう言うランサーは分かりやすい赤枝――ゲイ・ボルクを扱いルーン魔術に長けたのは一人だけ……すなわち、クー・フーリン」

「――ほう」

「まことか!?」

 

 征服王のテンションがあがる。

 他のマスターは何故分かったといった顔だ、いやサーヴァントもか。

 俺は助ける際に戦闘する姿を見ているのだ。

 容姿からも判断しやすい。真名がわかったからこそ集めたのだ。

 強い殺気、ばらされる前に始末しようという考えのようだ。

―――ならば、先手を打つまで。

 

「そう殺気をむけるアサシンも分かりやすい。アンタの刀、見る機会があってね。なにせ天下五剣の一つだ――その名も三池典太。隻眼とあらば唯一人――柳生十兵衛」

「――フンッ」

 

 チンッと言う音。アサシンのマスターが抑えてくれたらしい。

 

「とまあ、ここにいるサーヴァントの真名は全部わかる。こっからは一気にいくぞ。セイバーは、円卓の騎士にして反逆の騎士モードレッド、アーチャーは麗しのアタランテ、ライダーは言うまでも無くイスカンダル、バーサーカーは理性持ちの時点で語源――ベルセルク、キャスターは第五エクシエル使い――パラケルスス。相違ないか?」

 

 一斉にバラし、反応を窺う。……間違っていないようだ。

 

「ただの小僧とは思っていなかったが……どうだ?余の軍門に降り、共に聖杯を狙うというのは」

「それも悪くなさそうだが、断らせて貰う」

「――ほう、それは何故だ。譲れぬ待望でもあるのか?」

「俺の後ろから殺気飛んでるの気づいて言ってるだろ――俺のサーヴァントが怖いからだ」

 

 なるほどすべての英霊が霊体化を解いてるのは、こんな風にイスカンダルが口説いて回ったのだろう。

 俺の後ろから霊体化を解いてライダーが現れる。

 

「私のマスターに色目使わないでちょうだい、征服王」

「おとりを務めおったライダーか、とんだものと契約したものだ。して、真名は何という?」

「申し訳ないけど、明かせないわ。だってマスターにすら明かしてないんですもの」

「なんと」

 

 本当かとイスカンダルは目で問うてきたので肯定した。

 

「妙な主従もいたものだなあ」

 

と呆れ顔の征服王。そして征服王のマスターが問いを放った。

 

「……なあ、倒す順序はわかった。でも、とどめは誰が刺すんだ?」

 

 マスター達が同調するように頷く。とどめを刺したものに報酬は送られるのだから気になるのは当然だろう。

 そこにも一手打ってある。

 

「俺のサーヴァント――ライダーは対国、対界宝具持ちだ。火力は十分だろう」

「………はあ!?」

「――なるほど、やってくれたな」

 

 何かに気づいたようにランサーのマスターが声をだす。

 

「もうこの場にいる時点で、お前の提案に乗らざるをえないわけだ」

「あン?どういうことだ、ランサーのマスター?」

「簡単な話だ、セイバー・モードレッド。そのマスターはこう言ったはずだ。此処には対軍宝具持ちしか集めてないと。……対軍じゃ、せいぜいパーツを削るくらいしか役に立たないとも言外に言っていた。実質――とどめをさせるのはそのライダーだけなんだよ」

 

 ついで補足とばかりに苦い顔をしたエリカが口を開く。

 

「それに聖杯戦争を行うには、必ずエネミー――テュポーンを倒さなきゃなりません。ここにいる全員はサーヴァントの真名を知っています……つまり共犯者何です」

「ああ、嫌なら帰ればいい。ま、他のマスターが許すか分からないけど」

 

 すなわち疑心を張り巡らし合うこの状況をつくる。普通ならデメリットにしかならないが今回ばかりは有利に働く。なにせ誰が裏切っても成功しないが故に、全員参加させることが目的なのだから。そして参加したからには宝具を開帳しなくてはならない――そうしなければ倒せないのだから。倒せなければ聖杯戦争が再び行われることもない。どうしても叶えたい願いがあるから参加したはずである彼らに、ここに来て俺の話を聞いた時点で選択肢はない。だが、あえて―――

 

「ま、いきなりだしな、決める猶予はやる。明日の昼までに決めて図書室に集合、でいいな」

 

 そう言って図書館を後にする。うまく行けばいいのだが。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

 マイルームに帰還をするとどっと疲れが出てきた。

 仮にも英霊の前で挑発したのだ、緊張感で胃液が出かけるほどだった。

 

「策成れり、となるかねぇ」

「それは分からないけど、きっとくるでしょう。いえ、参加せざるを得ないはず」

「なんか条件を提案してくるかもしれんが」

「……なんにせよ明日になれば分かるわ」

 

 そう言ってライダーは、酒瓶を出す。

 

「……まさか、飲む気か?」

「ええ、いっぱいやらない?」

「いや、遠慮しておく……俺、酒弱いの忘れてたわ」

「あら、残念」

 

 とくとくとお猪口に酒をついでいく。

 ぐいっとあおって飲むライダー。

 

「……で?勝算はあるの?順序があえば殺せるだなんて嘘でしょう?」

「――やっぱ気づいてたか」

 

 ライダーの指摘通り順序さえ合えば殺せるってのは嘘だ。

 そんな逸話ないしな。

 

「ま、半分は嘘にはならない」

「どういうこと?」

「殺せるのは本当なんだ……前、言峰がNPCが消えただとか言ってたろ。んで、俺も調べたのよ」

「確か、いろんな所を歩いては、床をさすってたけど……あれと関係あるの?」

「ああ、下位NPC、消えたNPCがいたところを聞き込みから割り出して、実際に言ってみたら、魔術痕――こっちで言うならハッキングの痕が残っていた。おそらく特定の場所に飛ばすようなもの…穴を作って落としたと考えればいい」

「つまり……今回の件と関わりがある」

「そのとおりだライダー……あの怪物は消えたNPCその者だ」

「え?」

 

 ライダーは想定外の言葉を聞いたからか驚きの表情。

 俺は説明を続ける。

 

「消えたNPCは全員で六人だ。右腕、左腕、右肩の蛇50、左肩の蛇50、頭から胴体、腿から下の大蛇……そのすべてから消えたはずのNPCの反応があった―――NPCを改造したのさ。ま、それをしたのが何者なのかわからんが」

「……そんなこと――」

「生きたものを改造するなんてよく見た技術だ――少なくとも下手人は英霊クラス、それもトップサーヴァントだろう。犯人をつきとめる術はない」

 

 なんでそこまで分かっていたのに嘘をついたのか――簡単なこと。

 嘘の次に出てきた真実と思えるものには疑いをかけない。あえて疑いをつくったのだ。

 他のマスターが嘘に気づくのも想定ずみ。信憑性を増やすための作業だ。

 こんな事実、突拍子ない事だしな。

 

「しかも、あれ、パチモンだし。本物のテュポーンだったらあらゆる怪物の祖、勝てるわけないが、実際は偽物だ」

 

 セラフでの仕組みが関わってくる。本人とアバターの関係と言うべきか。

 本来、こちら――地上の魔術師は魂をデータ化しアバターに込める。

 言うなれば、水の入ったペットボトルがあったとして、ペットボトルが身体、水が魂だとする。なら、アバターにこめると言うことはただ中身を別の瓶にでも移し替えたということだ。

 テュポーンもどきは、それに近い製法だった。NPCを瓶とするなら、でかい酒樽に改変、接合しその中に地球における海を突っ込んだような製法である。

 水を入れすぎた水風船といったほうがいいかもしれない。莫大なエネルギーを保持し維持しなくてはならない、ならば――多くのリソースをもつサーヴァントを捕食しようとしていたのだ。

 

「てことは、別に宝具撃たせることはないんじゃない?削りきればいいんだし」

 

 ライダーの言うことはもっともではある。しかし――

 

「いっただろ、樽に海を突っ込んだものだって」

「時間がかかりすぎるってことね」

「そうだ」

 

 少なくとも七日間ぶっ通しで戦わなくてはならないだろう。

全員のサーヴァントが参加するならいざ知らず、初戦の戦いからほとんどの英霊が参加したにもかかわらず敗戦を余儀なくされたのは、単に戦いにくいからだろう。なにせできるだけ宝具は使いたくなかったろうし。

 

 

 

「ところでもう願いは決まったの?」

 

唐突に、ライダーがそんな問いを投げかけてきた。頬は酒に酔ったせいか赤く染まっている。

 

「まあな、簡単なことだったよ」

「ふ~ん、で?」

「俺にとって人間てのは嫌悪の対象でもあるけど同時に愛する対象でもあったんだ」

 

 虐待死することになったあの子を恋いし愛した事実は変わらない。人間が持つおぞましさ醜悪さも変わらない。

 それでも――彼女には

 

「幸せになって欲しかっただけなんだ、それだけなんだよ」

 

 そう、唯それだけ。彼女の未来が、ハッピーエンドってものが見たかっただけ。

 あれだけ辛い思いをしていたのだから、幸せになる権利もあるだろう。

 勝手に見た理想(ゆめ)が残酷な現実に裏切られたというだけだ。

 

「俺の願いは――人間に幸せになってほしい」

 

 人類ではなく人間に。

 人間は善も悪も持ち合わせている。

 それでも――善を選べる人間に幸せを掴んでほしい。

 

「でも、この願いは聖杯で叶える気はないんだ。だって叶えようがないし。全人類に幸福になってほしい訳じゃないから」

 

 ライダーはほんの少し不機嫌だった。

 

「……なんで不機嫌そうなんだ?」

「貴方の初恋を語られて面白いと思う人がいると思う?」

 

 言われてみれば道理である。

 思い出してみれば恥ずかしいことをのたまったような気がしてきた。

 ライダーは赤い顔をして眠気がきたのかゴロリと横になった。

 

「……ならなおさらよ」

 

 そう言って向こう側に寝返りをうった。

 ごにょり、と言われたせいで聞き取れなかった。

 

 




対テュポーン戦、何処かの金ぴか王がいれば一人で事足りる案件

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