Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第三回戦 『栄罪虚心』
第三回戦 一日目


第三回戦 一日目

 

 

 いつものように目を覚ます。

 端末から無機質な電子音がなり、三回戦の始まりを告げる。

 ――対戦者が発表されたようだ。

 既に起きていたライダーと共にマイルームを出た。

 

 

 

 

――――――二階廊下 掲示番前

 

 

掲示番の前で対戦者の名前を見る。

 対戦者の名前は――

 

アイリス・ファウス

 

と表示されていた。どうやら女性の名前の用だが、彼女が今回倒す相手のようだ。

 対戦者はこの場には来ていないようだが、アリーナにでもいったのかも知れない。

――この名が今回殺す相手

そう認識するのと同時に気分が下がる。なにせ今までまともな願いがないまま、他人の願いを踏みつけてきたのだから。

願いを見つけることは急務だと感じている。そうでなくては、勝ち残れない、生き残れない確信がある。

であるならば、早急に願いを見つけなくては。さしあたってすることは、過去を整理することだろう。自身の積み上げた年月こそに願いはあるはずで、今の自身は積み重ねた年月によって形成されたのだから。自身の基本設計を思い出すのだ。

まあ、それはマイルームに帰ってからでもすればいい。所要――地味に貯まっている経験値でライダーを強化し、アイリス・ファウスについて調べる事である。

――エリカにでも聞いてみるか。

 

 

 

――――――屋上

 

 

校舎の中を探し回り、屋上についたところでエリカの後ろ姿を見つけた。

こちらの接近に気づいたのか振り返った。

 

「あっ、コーヘイさん」

 

振り返ったエリカの目元はほんの少し赤みがかっている。

――涙を流していたようだ。

それを追求することはすまい。悼むことは悪いことではない。

彼女も生き残ったようだ。

 

「今、いいか?アイリス・ファウスについて聞きたいんだが」

「えっと、アイリス・ファウスについてですか?」

 

少し考える仕草をして

 

「たしか東欧の王国の騎士…だった気がします。何度か、テロを未然に防いだり、テロリスト関係者を大量に検挙したとか。東欧にファウスあり、と言われるくらいの名門出です」

「へぇ~、聞いた俺が言うのも何だがよく知っているな」

「何度か情報媒体経由で耳にしてましたから」

「それにしてはよく覚えているもんだ、素直にすごいと思うぞ」

 

 一回戦の時も、彼女の記憶からの情報であったことを思い出す。まるで完全記憶能力者かのようだ。学校のテストではよく役に立ちそうだ。

 

「そんなことはないですよ、デザインベビー出なら当然です」

「デザインベビー?」

 

 ――クローンの様なモノか?

 

「えっと、母はいますよ。男性側の遺伝子を改良したモノを使う、第二次製造法で私はできましたから」

 

 人間の遺伝子を改良して優秀な人間をつくると言うことが割と、この世界ではよく行われているようだ。

 純粋な試験管ベビーと言うわけではないようだ。

 

「まあ、優秀な結果を残すこと前提で作られたので、母との関係はあまり良くなくて、まともに話したことないんですよ。好きな人の精で孕んだ訳じゃないですし、国が補助金出してくれるからって、お金目的で作られたところもありますから」

 

と自嘲ぎみな笑みを浮かべる。

 そんならしくない自分に気づいたのだろう。慌てたように

 

「し、失礼します!」

 

と言って去っていった。

予想外に重い過去を持っていた。

――彼女がどんな願いをもっているのか気になった。

 

 

 

 

――――――アリーナ 三の月想海

 

 

 特に何事も無く教会でサーヴァントの耐久をBまで上げ、その後アリーナへと来ていた。

 

「サーヴァントの気配がするわ、気をつけてマスター!」

 

 隣に出現したライダーに言われ、警戒を始める。このまま探索を始めるとしよう。

 

 

 

 

中腹まで踏破した。

 側のアイテムボックスを開く。中から出てきたのは――鍋?

 しかも、大鍋。クリームシチューだの、おでん、ひいては煮物、豚汁などにも使える万能料理器具である。

 

「そんなに熱心に見つめて……料理するの?」

「いや、全くしないけど。でも美味い料理は好きなんだ、自分では作らないけど」

「グルメ家ってヤツね」

 

 しかしなんでこんなものがあるのか。

 またトラ関係の代物かもしれないな。

 そんなことを考えて、ライダーと雑談していると――

 

「――ッ、マスター……!」

 

突然ライダーが俺の前に立ち、何かを弾く。

そして遅れてくる、パンッと言う音。

――銃声だ。

 そして聞こえてくる聞き覚えのない女性の声。

 

「――ちっ、しくったか。殺しなさい!」

「了解!」

 

突っ込んでくる人影。

腰に下げた剣――サーベルだろうか――を引き抜き、ライダーへと迫る。

 ライダーは突然の奇襲に対処する。

 辺りがセラフによる警告メッセージで赤く染まる。

 

「いきなりなんて、ご挨拶ねッ!」

「悪いがマスターの指示なんでね。ここで死んでくれや」

「――断る!」

 

数回の剣戟。

最初こそ奇襲故に押されていたライダーであったが、持ち直し、今では押している。

 何度か斬り結び、体勢を崩したところを蹴たぐり、後退した。互いに向き合う形になる。

 ここで改めて相手サーヴァントの姿を確認する。

 どこか西洋の貴族めいた意匠でありながら軍服にもみえる。深緑と金のカラーが主だ。浅黒い肌で鷲鼻、髪は黒である。第二回戦のバーサーカーと比べると小柄ではあるが、大体俺と一緒くらいか。

 

「ふむ、かなりの槍裁き。さぞ高名な英霊と見受けるが」

「どうかしらね。貴方の剣術もかなりのもの――手を抜いてるのが丸わかりなくらい」

「はっはっは、少しなめてかかってしまったようだ」

「アレで本気なら、四手目には落としてたわよ。アレを凌いだ時点で分かったわ」

 

セラフの介入が行われ、戦闘が終了する。

 

「貴方が火々乃晃平ね」

「アイリス・ファウスだな?」

 

ふむ、なかなかのものをお持ちのようだ。

視線の先にはたわわに実った果実――D以上はある。

――どこかのサーヴァントとは大違いだ!

 突然の痛み。

 

「痛たたたたたって痛ッ痛いでふッライダーさん!?」

「……ふん!」

 

頬をライダーに抓られてしまった。

し、仕方ないじゃないか、あんな素晴らしいモノをみてしまっ――

殺気が飛んできたので思考を中断し、意識を切り替える。

 

 目の前に視線を移すが、相手が見つからない。どうやらライダーと一悶着している間に帰ってしまったようだ。

 

探索を再開する――不機嫌なままのライダーを連れて。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

第一暗号鍵を無事に手に入れ、マイルームへと帰還した。ライダーはいつもの場所に座りこちらを見ている――ジト目というやつをしながら。

 

「貴方ってホンット、デリカシーってもんがないわよね」

「それについてはすまぬ、男の性ってやつだ」

「はあ……そんなに胸がおっきいほうがいいの」

「欲情の対象としてはな、別に好意に繋がる訳じゃないけど」

 

 大きな胸ってヤツは男の理想郷そのものなんだよ。

 ――ここに理想郷(アヴァロン)はあったのだ。

 

「ライダーに欲情しない訳じゃない、むしろする。柔らかくしなやかな足、吸い付くようなしっとりとした肌、こぶりながらしっかりと主張する尻―――最高ですね」

 

悟った笑顔を浮かべてしまう。端からみれば気持ち悪いだけだが。それでもやはり

――理想郷(アヴァロン)はここにあったのか

 

「アヴァロン量産しすぎでしょ。入る前に拒絶され――ていうか、ただのセクハラ発言よそれ。私でも退くくらいの。……嫌じゃないけど」

 

羞恥萌え派な俺はライダーの照る顔がみたかったのだが。

 

「ま、男のそう言うのが好きなんてよく知ってるんだけどね。征服感に酔えるのは男も女も同じだけどね。ひっぱたくと悦ぶやつもいるけど」

「俺は縛られるより縛りたい派だ!」

「何て言うカミングアウトしてんのよ」

 

そんな雑談を続ける。

 出会った初日より随分話すことが多くなったように思う。あの頃はライダーをあまり信用していなかった。だってそうだろう?真名を明かさないていうのは、お前は信用出来ないと言われたも同然だからだ。ライダーの不興を買わないよう気を張っていた。

 でもこいつは――

 そこまで考えて思考をとめた。何となくそのまま思考し続けてはいけないと感じたのだ。

 

「コーヘイは小さな頃ってどんなことしてたの?」

 

そんな問いをライダーは投げかけてきた。

小さな頃小学生になる前くらいか?

 

「そうだな……結構明るいタイプって言われてたぞ。当時流行った特撮ものとか、アニメの主人公の真似とかよくしてたらしい」

「ふーん、可愛らしいころもあったのね」

「お前はどうなんだよ?怖い物とかあって泣いたりしてたんじゃないか?」

「……あったわ」

 

 ああいう風には言ったが、本当にあるとは思わなかった。

 しかし、このライダーが怖い物ねぇ。

 

「――犬よ」

「いぬ?」

「そうよ、犬よ。昔、ものすごく怖くて、いつも父に助けてもらってた。家族からはよくからかわれていたわ」

「ほーう」

「む、昔のことよ!今はもう大丈夫よ!」

 

 ええ~、ホントでござるか~?

と煽りたくなったが自重した。

 

「そ、それより、見つかったの願い?」

「いいや」

 

 整理をしたところでとてもじゃないが願いと呼べるものはない。幼少の頃の将来の夢など科学者である。参考にはならない。

ま、そんな夢には原動力となる何かがあるはずだが、幼少の夢故にそれはなかった。

 例えば、医者になるということが夢のヤツは、医者になることだけが目的ではなくて、医者になって人を助けるのが目的である。

 幼少の頃の夢は学校の宿題に合わせて考えたようなもので、なにがしたかった訳でもないのだ。

 

「自分がどうしたいのかってのがあまり思い浮かばなくてさ」

「……印象的なコトって何か無かったの?なにか親から貰ったものだとか」

 

 ――親から貰ったモノ?

 思考を巡らせる、沈んだ記憶を浮かび上がらせる。

――――己の始りの起源を

 

 

それは――己の名を自覚したときに他ならない。

 

 

***

 

 魔術師として鍛錬を始め、ほんの少しした頃。

 学校にも祖父の家にも自分の両親の家から通っていた。

 そんなある日のこと。

 学校の先生からこんな宿題がでた。

 『自分の名前の由来をきいて来なさい』

 日本では名は体を表すという言葉がある。名に願いを込めるのだ。

 この宿題が、どこか今まで流されるように生きてきた自分にとって一つの転機になったのは事実だ。

 家に帰って母親に自分の名前の由来を聞く。

 聞かれた母は微笑んでこう言う。

 

「コーヘイの名前の由来はね――神様からとったの」

 

曰く『晃平』という名前には、『晃』つまり日光――太陽の意味があり、『平』――全ての人間を平等に照らし出し、平穏に幸せを見つけてほしいとの願いが込められていた。

 それを聞いたとき、世界が燃えるように鮮明に見えた。

――自身の生まれた意味を知ったのだ

 その日、俺という人間が生まれたのだ。

 

 

 この出来事は自分にとって大きな希望になった。理想を得たのだ。

 

 

 だが、同時に絶望を――地獄を知るコトとなった。

 




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