主人公にサマーイベントでもさせようか(するとは言ってない
第二回戦 七日目 決戦日
***
雨が降りしきる中、俺は立っていた。
屋根を、壁を叩く雨の音が俺を笑うように響く。
家は暴れすぎたせいで半壊している。屋根にぽっかりと穴が開いている。
むせかえるような鉄の臭い。平手は赤く染まっている。
周りには異形が散らばり、悪臭をばらまいている。
――酷い結果だ
と俺は毒づく。まさかこんな形で約束を破ることになろうとは、人生はままならない。
よりにもよって、母と交わした『人を殺さない』という約束を。
いつか破らなくてはならないとは思っていたが、こんな風にとは思わなかった。
降りしきる雨に、頬を伝うものが混じっていく。
熱いものが冷たいものと混じっていく。
ふとすれば、背後から声が聞こえる。
後処理は思ったより面倒そうだ。
***
――目が覚めた。
特に夢を見ることもなかった。深く眠れたせいか、疲れは大分とれたように感じる。
気力は十分だ。
「気を引き締めて行きましょう」
「ああ」
「じゃあ、手始めにバーサーカーの情報の確認から始めましょう」
バーサーカーのマスターの名はレスタード・ブラッドソン、おそらく一般系に近いウィザードだろう。マスターとしての技量は、監視カメラに、使い魔――擬似エネミーの作成し扱っていたことから、相当のものだとうかがえる。
――今回殺す相手だ。
「クラスは、言わずとも分かるが、バーサーカーだな」
「ええ、あの獣のような声を聞けば誰だって思いつくわね」
にやりと口角を上げながらライダーは俺に問う。
「なら、あのバーサーカーの宝具は何だったかしら」
――無論
「白銀の短剣だろう。バーサーカーのおどろおどろしい雰囲気に似つかわしくない、煌びやかな剣だった」
最初に戦闘した際、一番違和感を生んでいた剣だ。
バーサーカーは乱暴に扱っていたが、剣自体は儚さをこちらに印象づける見た目だった。
そして、その剣にはレスターの証言からではあるが、バーサーカーにある力を付与していたと考えられる。
それは―――無敵性。
無敵性とは何処までの物か。最初に考えたのはそこだ。
一工程の魔術トラップを弾いて見せていた、だから対魔力を持っていることが分かった。
バーサーカーのクラススキルに対魔力は存在していない。
五日目、アリーナで戦闘した際、ライダーの攻撃によってかなりのダメージが入っていたがレスターの側に戻った時には、完全に回復していた。四日目の時も同様にである。
つまり、強い不死性だ。
レスターの言っていた無敵性とは、対魔力と強い不死性によって作られていた。
そして、その力を付与していたのは―――魔法の剣ケリスだ。
『ハン・トゥア物語』に登場する魔法の剣にして、魔性の剣だ。
ならばそれを使った人物がバーサーカーの正体だ。
すなわち、ハン・ジュバットとハン・トゥアだ。
しかし、一体そのどちらなのか。
「コーヘイ、迷っているようね」
「倒す方法は同じだけれど、せっかくだから決め打ちしときたい」
「――おそらくだけど、あのバーサーカーの真名は、ハン・ジェバットよ」
「……どうしてそう思った?」
「あれ、忠誠を一心に誓うタイプじゃないわ。少なくともハン・トゥアのように」
「――むしろ友人のために反逆するタイプってことか」
「ええ、反逆というより自分の心に従って行動するタイプよ」
彼女の言葉を信じるなら、あのバーサーカーの真名は――ハン・ジュバットだ。
――――ハン・ジュバット
マラッカ王国の戦士であり、物語の主人公ハン・トゥアと幼馴染みであり同時に、親友でもあった。
彼らはマレーシアの伝統武術シラットの鍛錬にはげみ、当時国王を悩ませていた海賊を退治することで名を挙げた。
ハン・トゥアは国王サルタンに忠義をつくして活躍し、ついには軍司令官にまで重用されることになる。
しかし、ハン・トゥアの破格の出世は名門貴族たちの嫉妬の的になり、国王の側室のひとりと関係を持っているといった噂をながす。
国王はこの噂を鵜呑みにし、ハン・トゥアに死刑を宣告する。
死刑をハン・トゥアは受け入れるが、宰相は殺すには惜しいと思い、ハン・トゥアを隠す。
一方、ハン・ジュバットは、死刑にされたハン・トゥアのかわりに軍司令官に任用される。
しかし、いわれのない噂によって死刑を宣告した国王やそのとりまきに、怒り、義憤を覚え反乱を起こす。
追い詰められたサルタンは、ハン・トゥアを死刑にしたことを悔やむが、宰相からハン・トゥアが生きていることを知らされる。国王はハン・トゥアにハン・ジェバットを殺すよう王命を下す。
殺されたと思っていた友人が自身を殺しにきたことを知ったハン・ジェバットの気分は推して知るべしというもの。
かくして親友同士の戦いは始まった。
七日間という死闘を繰り広げ、ケリスを奪いとられ切りつけられる。
勝敗は決したが、それでも死ねずに三日間さまよう。
その間、無関係の市民、護衛官など数千人を殺し続けていた。
彼にとってはもはや人間そのものが耐えがたい敵だったのかもしれない。
情報の整理はこれで十分だろう。
決戦の場に行こうと立ち上がりライダーに声をかける。
「いこうか、ライダー」
「ええ、勝利は貴方の手に」
口角を上げ、こちらを見上げてくる。
勝因はココに、ならば敗北などなく。
*
――――――二階廊下 用具員室前
前回と同じ文言を言峰から放たれるが聞き流し、さっさと扉を開けて貰う。
ぽっかりと暗闇が口をあけ、その中にはいる。
エレベーターの様な物が起動し、機械音を鳴らす。
ガコン。
下降が始まった。
少しして振り返れば、透けた壁の向こうには対戦相手――レスターの姿が見える。
レスターは、ゆっくりと口を開く。
「なあ、コーヘイは人を殺したことはあるか?もちろん地上でだ」
「……ある。それがどうかしたか?」
「俺はよ、ここに来るまで一人も殺したことはなかった」
一泊空けて。
「で、質問なんだがよ。俺って何処の出身だと思う?」
そんな問いを放ってきた。出身?たしかアフリカ・ベルトからの出身と聞いた人間は予想されていたような。アフリカ・ベルト――西欧財閥とテロリストとの抗争地帯だったか。
「……アフリカ・ベルト出身?」
「――それは、何でだ?」
「……黒人であることから予測した」
「やっぱそうだよな。でも残念、俺はヨーロッパ出身なんだ。しかしやっぱりアンタでもそう思うのか」
――やっぱり?
ちょっとした失望感を抱いているように見える。というか好感あったのか。
「いや、アンタとあったとき、いや話した時無視しなかったじゃないか」
「地上じゃそうはいかないぜ。何処を歩こうとも人種だけで嫌われる」
「話すヤツなんざいない、むしろいわれのない罵倒をうける」
「母親は娼婦で、俺は誰とも知らない男の種で生をうけた」
「十を超える頃に、母親は死んじまったがな」
「―――味方なんていなかったさ、いるはずないだろ」
「俺は黒人であると言う理由で嫌われてきた、たまたま祖先がうまく行って、たまたま技術が早く進歩しただけなのに……我が物面で、自分たちが偉大だと勘違いして!それ以外を一切認めようとしない!!自分と同じ文化を持ってなきゃ駄目で、肌の色も一緒じゃ無きゃいけな!南に生きるものは蛮族なんだって認識だ!」
憤怒。彼を虐げてきたものに対しての強い怒り、復讐心を感じる声。
尊厳を奪われ続けた男の憤怒だった。
「――つまり、お前の願いは」
緊張感が奔る。
やがて、レスターは口を開く。
「俺は……南北逆転、上下逆転――俺たち黒人こそが文化、科学においても上位になる!!ああ、止めてくれるなよコーヘイ!俺はもう決めたんだ!」
何故かその願いを聞いて悲しい気分になった。
これだけは、聞かなくてはならない。
「――考え直す気は無いんだな」
「ああ、彼奴らにはウンザリなんだ、同じ思いを味合わせてやらなきゃ気がすまねぇんだよ!!」
決戦場が近づいてくる。
ズンッという音とともに、エレベーターが止まった。
――到着したようだ。
*
決戦場は海に呑まれた神殿。
海流によってか否か壊れた残骸が転がる。
――すなわち、かつての文明の足跡、思い出されることもなくなった確かにあった場所。
決戦場で向かい合う。
「アンタのことは殺したくないが――悪く思うなよ」
「――お前もな」
ほんの少しの迷いを振り切る。
「ここで決めるぞ、バーサーカーァ!」
「■■■■■―――!」
対して――
「ライダー、勝利を」
「ええ、勝利を貴方に」
バーサーカーは唸り声を高らかに。
ライダーはそれに相対するように冷酷な目を、殺気を向ける。
「■■■■―――――!!!」
「躾のなってない狂犬ね、噛みつく前に――余が殺してやろう!」
――Sword,or Dearth
「切りがいがありそうだな!親友に殺された反逆者よ!!」
「■■■■■――!!」
衝撃。
英霊同士の衝突。神話の再現。
少ししないうちに十合は切り結ぶ。
「バーサーカーの真名にたどり着いたってのか!!」
レスターは驚きの声を上げる。
「■■■■■――!」
バーサーカーの剣撃。ライダーはいなして斬りつけるが傷は瞬時にふさがっていく
やはり短剣ケリスを奪わなくては致命傷は与えられない。
「ライダー、手はず通りだ!!」
複数の折り鶴を投げつけると同時にライダーが、バーサーカーの周りをグルグルと回り始める。――狙いは短剣だ。
放たれた折り鶴、総勢十八機はバーサーカーの周りを飛び回る。
バーサーカーは気にも止めない。対魔力をもっているからだろう。
しかし、それをすり抜け、呪術による爆発ダメージがバーサーカーを襲う。
「■■■■―――!」
さすがのバーサーカーもいらついたのか、ケリスで叩き落とそうし始める。
バーサーカーに隙が生じる。
鶴を急降下させ地面につける、円になるように。
瞬間、折り鶴から擬似霊子で構築された鎖がバーサーカーの身体を拘束した。
もって三秒だが、それだけの隙があれば、十分だ!!
ライダーがバーサーカーの腕、腱を破断し、緩んだ手からケリスを奪い取る。
そしてバーサーカーの胸に突き刺した。
拘束がとける。短剣ケリスが地に落ち霧散した。
――勝ったのか?
何故か、身体の中からまだだと警告が走る。
レスターを見れば、地面に手をつき、泣いていた。
「――クソォォ!!こんな、こんなところで、終わりなのかよ!バーサーカーァ!へ、返事しろよォ!」
バーサーカーは倒れたまま返事をしない。
ライダーはこちらに小走りで寄ってきた。
「勝敗は決したわ。行きましょう――――っ!」
――寒気。
殺気。下手したらバーサーカー以上の――
バーサーカーの方を見る。
「びーびー、びーびー、泣いてんじゃねえよクソ餓鬼。おら、泣き止め」
そう言ってレスターの頭に手をのせ撫でつけている人物。長身の褐色男性。
紛れもなく――
「ば、バーサーカー?な、ななんで?お、お前死んで、死んでなかったのか?」
「ばーか、マテリアル、ちゃんと読んだのか?俺は一度ケリス刺されて死んで、何の因果か、ケリスが俺を生き返らせちまったんだ。ま、そのあと逃げてその先で自害したんだがな。」
つまり――
「完全復活だ。ほら、立ていつまで泣いてんだ。俺のマスターだろ」
「………勝率は薄いぞ」
「なら諦めんのか?ていうか、それ俺にきくかね」
「勝って、勝ってくれ!!」
「あいよ!それでいいんだぜ、マスター!」
バーサーカーだった者。
それが、こちらに歩いてくる。
「悪いね、待たせちまった」
「いや、まさか仕留められなかったとはな」
答えたのはライダーだ。
バーサーカーより洗練された殺意。
しかし、狂気はまるで感じない。
「剣がなくなったら、クラスがセイバーに強制変更とかネタにしかならねぇよ」
「ほう、そう言いながら諦めていないようだが?」
「マスターが諦めて無ねぇんだ。なら、俺が諦めるいかねぇだろ。つーか、さっきはよくも罵倒してくれやがったな、覚悟しろよ」
「――貴公に勝ち目があると?」
「愚問だな無くても、不敵に笑って立ち上がるのが俺たちってヤツだろう?」
「ふっ……違いない。貴公はよほどマスターを好いているらしい」
「そいつぁ、お前さんもだろ。それにマスターはアイツ…トゥアに似てんだよ。あいつも小さい頃から、よく泣いてたんだぜ?」
ライダーとバーサーカーもといセイバーはお互い中央近くに立ち、見合う。
言いしれようのない緊張感が場を支配していた。
「俺は、テメエのマスターのために」
「余は、我がマスターのために」
「「コロスッ!!」」
拳と真紅の剣がぶつかる。大気が弾け飛ぶ。
素早く第二撃――下からすくい上げるように拳が迫るがライダーは剣でいなす。
セイバーは素早く身体を引き、第三撃――上からの一撃。
当然、ライダーは防ぐ構えをとる。
が、フェイク。
ライダーは守りが薄い下半身を蹴りつけられる。
「――ぐっ!」
よろめいたライダーにセイバーのソバットが突き刺さる。
「お返し、だってな!」
「――なめんなっ!!」
衝撃を空中で回転して着地して殺し、急速接近して斬りつけるが防がれる。
そのまま鍔競り合いをするが――
「セイバー!!」
「――やれば出来るじゃないか、マスター!!」
均衡が崩れ、ライダーの体勢が崩れる。
――筋力強化か!
コードキャストで筋力強化を施したようだ。
そして、追撃をセイバーが放つ。
しかし―――
「起動―――炎ッ!!」
折り鶴を大量に飛ばしてぶつけ、爆発させていく。
「――ちっ!邪魔だっ!!」
後退しながら折り鶴が爆発する前に叩き落としていく。
ライダーも後退した。
「マスター、セイバーは余より、近接がうまいようだ。しかも動きも素早いと来た、宝具を打つ時間はなさそうだぞ」
一回戦のジルに対して使ったように大量の折り鶴を持っていれば、時間稼ぎはできるが、生憎のこり30程度しか持っていない。
「ライダーが言うほどとはな、さすがセイバーというべきか。最優の名は伊達じゃないようだ。ま、もっとも剣じゃなくて拳の用だが」
「なにどや顔してんだテメェ!ぜんっぜん上手くねぇんだよ!!おい、ライダー。お前からも――」
「ふっ、ふふ、そ、そうだぞ、ふっ、うまく、ふはははっ、だ、だめだ、ははははっ!」
「やっぱ主従てヤツか、笑いの壺まで一緒かよ!!」
セイバーが地面を蹴って突っ込んでくる。
「一発行くぞォ!!」
同時にライダーも地面を蹴って接近する。
中央で激突する。
ライダーの横薙を身をかがめかわし接近する。
構えて――
「一撃必倒、虚ろに沈めェ!――『
バーサーカーは腰をいれて正拳突きのような形で掌を放つ。
ライダーは真紅の剣を白槍へと変化させ、攻撃を受け止める。
「――ぐぅ」
防いでも衝撃からか後ろに飛ばされる。
「一撃が駄目なら、もう一発ッ!!」
再び、同じ構えをとって、体勢の崩れたライダーに迫る。
――ここだっ!
「ライダー!!」
ライダーは白槍を再び真紅の剣へと換え、片足を後ろにおき力をいれて衝撃を殺し身体をとめる。剣先はセイバーに向けたままで。
瞬間、剣先から強い光が明滅する――カメラのフラッシュのように。
「――くっ、光!?」
隙を生じたのを悟ってか、セイバーは防御の構えを取ろうとするが――
ライダーはすでに懐にいる。
「――遅い!!」
一閃。
静けさが辺りを包む。
やがてセイバーが言葉を紡ぐ。
「――見事」
崩れ落ちるセイバー。
立ったままのライダー。
―――勝敗は此処に決した。
赤い壁が現れる。
勝敗を明確にした。
「――っは、すまねぇな、マスター。あんな大事吐きながら、負けちまった」
セイバーは生きも絶え絶えのようだ。
レスターは涙をぬぐって言う。
「……お前のせいじゃない、俺がひとえに弱かっただけだ」
「…………ホントに似てるわ、アイツと」
「……お前の本当の願いには気づけたか?」
「――ああ、おかげ様でな」
「俺は逆転なんて、同胞が見下す姿なんて見たくなかった、たったそれだけだったんだな」
「――平等。真の平等が欲しかった、だけなんだな」
「最後にこんなことに気づくなん、て――」
その言葉を最後に、レスターは消失した。
分解されつつあるセイバーも口を開く。
「レスター、お前との旅路悪くなかったぜ。機会があるならまたもう一度――」
セイバーもまたマスターを追う様に消失した。
―――第二回戦が終了した。
*
――――――マイルーム
マイルームに帰還した。
そしてまたインテリアが増え、殺風景な景色にも彩りが加わった。
タイガー植木がまた部屋に入るなり、変わったのだ。
しかしこの妙に大きい植木に入った紫紺の花はなんだろうか。
一緒に入っている白い花も形違うし、分からん。
「あ、それ?スカビオサね。紫のほうよ」
「じゃ、白いのは」
「エーデルワイス」
「へぇ~、綺麗なもんだな」
「でしょ?」
ちょっとした雑談をした。
しばらく他愛ない話に華を咲かしたあと、ライダーは俺に質問をした。
「貴方……願いは見つかった?」
「……俺の願いは自分がどこからきたのか、なぜここにいるのか知るコト―――」
「――それは貴方の現状からくるしたいことでしょう?」
ばっさりと俺の願いを斬った。
それは俺の願いではないと。
「貴方の願いはそんなモノではないわ」
断言。何かしらの根拠がなくてはこうは言えまい。
ぜひ、根拠を聞きたいが――
「特に根拠はないけど」
「ないのかよ!?」
「強いて言うなら勘よ!」
む、思わずツッコんでしまった。
明日には三回戦が始まる。備えて眠ることにした。
*
――ライダーは、俺は願いをもっていないと言った。
――ほんの少しの憤りと大きな納得
――俺の願い
――ライダーはああ茶化したが、おそらく本当に気づいているのだろう
――俺には分からない俺の願いってヤツを
――そしてそれは、自身で見つけなくてならない
いつもにもまして長い...!
EXTRAの世界線て殺伐としてますけど実際問題は今とあんま変わんなそう。
てことから、今回敵マスターの設定は出来ました。
ライダーの真名ばれたようなもんじゃけど、感想ネタバレはやめてください