Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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日常:八月十三日

 

 

 ――幸福。幸せ。禍福。

 

 アリストテレスは『ニコマコス倫理学』において、 幸福とはだれもが求める目標であると定義した。

 だが、幸福というのは千差万別。誰しもが求めたからこそ、全体に通じる幸福は見つからない。

 

 ――満足、安心、豊富。

 

 個々が満足する、安心する、豊かである。幸福を追求するなら、そんな世界にたどり着くんだろう。

 オレの時代でも、その流れはあった。

 “幸福あれ”とオレは口にした。それは間違いでなく、善悪の秤もない。善悪を超えたところに幸福はある。

 だからオレは、多くの人間に幸福を与えた。

 

 流星が落ちてきた。オレはそれを手に取った。“俺”ならわかるだろう? それは“願望機”だ。強力なエネルギーで構成されたナニカだった。人智を越えた物体だった。

 手に取った瞬間に、オレの手の中でそれは剣の形をとった。

 

 ――万人の『幸福でありたい』という願いが束ねられた。

 

 それはただの祈りだ。

 万人に幸福であって欲しいとオレも願っていた。その剣はそれを叶える力を持っていた。

 余人はその剣を美しいと謳い、王である貴方にこそ相応しいと口にした。

 

 腹を満たせるだけの食料を。いとなみを護る力を。豊穣を約束し、人々の求めに答え続けた。

 

 ――だが、オレは気づかなかった。その願いの危うさに。

 幸福でありたいというのは、誰もが抱きうるもので誰もが抱いてもいい願いだ。それを叶え続けることが、悲劇を呼んだ。

 

 幾年の月日を得て、オレは北欧すら統べるようになった。

 その日、オレはその危うさに気がついた。

 

 あの時代(封建)ではしかたないことだが、豊かさとは土地の広さに直結する。水と食料がなければ人は生きていけない。国が成立する前提だ。

 土地が広くなるということは支配する人間も増える。それも戦争によって領土が増えたのだから功績として領土は配分せねばならない。

 それまでの戦争でオレは負けたことがない。常勝の王。だが、勝ちすぎた。

 上手く勝てば、死ぬ人間もすくない。富は増えるが、富を分けるべき人間も増える。封建制の限界がきたのだ。何せ北欧を征した以上領土を広げうる場所が大きく減ったのだ。

 北欧は別に肥沃な土地ではない。生きていくのは難しくないが、満足にはほど遠い。数多くの魔獣も現れる以上、不満を感じない民は少なくなった。

 

 土地は配分するもの。親が死ねば、子は親の土地を受け継ぐが、子が二人三人と増えれば言わずもがな。恩貸地制から派生したこの精度の欠陥。人が増えれば増えるほど個人が持てる富は少なくなる。

 ああ、だが。

 彼らは己がまとまりのうちでは争わなかった。争えなかった。かつて苦楽をともにした仲間であったうえに、もし奪い合いをすれば──富は別のものに収奪され分配される。諸侯は幸福を得続けた人間であったが無能ではない。

 

 彼らが──幸福であり続けたい、という願いを抱くのはもはや必然あり、その手段を考えつくのは当然だった。

 

 外に得るものが無いならば、目を向けるべきは内側だ。

 

 当時の土地の支配量を考えてみよう。オレ(ロット王)はカレドニア、オーキニー、ノルウェーを支配した。

 彼の王(アーサー王)は、ブリタニアの内紛を征し、ガリアも支配したばかり。常勝とはいえ彼の王はオレ以上に戦争を行っている。疲弊は確かにあった。

 支配量は既に互角。地位も互角。いや、むしろ――。

 オレはアーサー王の騎士として立場を得ていたが、そんなものは無用な戦争を回避する手段でしかない。そもそも、オレはアーサー王がブリテンの王として立つ前に、先王ウーサーの娘を貰い、オークニーの王とウーサー王は縁戚となった。実質的な婚姻同盟であるが、ピクト人と戦いを見越した同盟関係であった。それでいて、その後のお互いの領地を手に入れるための正当な支配権でもある。我が父は、彼に息子がいるとは聞いていなかったのだから。

 まさか、ウーサーの息子を名乗る男が現れるとはオレも予想してなかったさ。

 ブリテンで聖剣の引っこ抜きあいごっこがあったとは聞いていたが、そんな遊びにかまける余裕なしと内政を進めていたせいで、面白イベントを――じゃない……、見逃した。

 

 顛末は、黒幕(マーリン)から聞いたが“なんてことをしやがったんだ!”って憤慨したね。 おかげでうちの妻の機嫌は氷点下を迎えて大変だったんだから。ほら、“婚姻同盟”として彼女を迎えたのに、その価値が失われてしまって……いや、そんな事抜きに愛してはいたんだが……彼女は気にしててね。はぁ……思い出すだけで……じゃなかった、コレは、今はイイんだ、うん。

 

 結局、ブリテンの正当に統治する権利は二分された。

 ロット王、アーサー王の戦いは避けられない。ただでさえ蛮族の襲撃に悩まされているのに。だから、彼の王の騎士になった。いやはや妻の機嫌もかなり悪くなったけどね。その時点じゃ人材もそろってないから攻め取っても統治は出来なかったろう。……ピクト人を殲滅できたわけじゃなかったし。他の国からも襲撃くるしね。

 まあ、円卓に加われた利もあった。頭頑固な生涯の友にも会えたし、使えるべき主君にも会えた。

 

 ――しかし、それでも火種が消えたわけじゃなかった。

 

 円卓の騎士になったとは言え、オレ達は同格だった。その結果があの戦いだ。

 アーサーが即位してそう間もない頃に、オレは叛逆を起こした。

 

 “幸福でありたい”が故に犠牲を容認したのだ。

 より豊かでありたい、認められたい、幸せにしたい。

 欲するものは与えられん。ならば、──正当な王ですらない彼を討つのは容易だ。

 

 ──もう戦争は止められなくなった。オレは問題を先延ばしにしていただけだった。

 やがて、彼の王も似た理由で滅んでしまうのだろうと悟った。

 

 だが、抵抗は許された。

 

 蛮族は消え失せたわけではない。反乱分子も消え失せたわけではない。我が国に生きる民を愛すが故に止められないが──抵抗は出来る。ブリテンの滅びは避けられないだろうが、今一度延命はできるだろう。

 彼の王を完成させるために、オレは死ぬことを選んだ。結局、この大戦争はオレの命無くしては続かない。さらば、オレは己が命を利用する。

 ちょうど良い反乱分子をかき集め、11の王がオレに跪く。

 

『王よ、我らに命を! 貴方こそが騎士王に相応しい!』

 

 

 

 ──“剣よ、ここへ。祈りよ、束ねられよ。”

 

 

 これも祈りが束ねられた結果の一つだ。

 

 マーリンがガラにもなく本気で妨害しやがったせいで、俺の剣はどっか行ってしまったし、幻惑までもろに受けて、あのざまだ。

 死んだら、妻は憎悪に燃えるし、息子らは復讐の道具に使われるしで、……ガウェインぐらいか。オレのこと覚えているのは。だからかねぇ、ガウェインを完全に引き込まなかったのは。

 

 彼の王の円卓は、オレのせいで罅が入って割れた。原因はオレにある。

 彼の王に落ち度はなく、我が家族にも落ち度はない。

 全てオレの責任だ。

 家族を選べなかったオレの責任だ。

 

「……なんで家族を選ばなかった。お前なら選べたはずだ」

「オレは王だ。王には責任がある。支配するものとして、率いるものとしての責任が。……アーサーは人の余地を残して理想の王となった。オレは、そうあれなかった。理想だけ先ばしって何もかも取りこぼした。それだけだよ」

 

 

 ──以上の功績によりオレは選ばれた。

 

 “俺”もまた選ばれている。その座はオレ達にしか至れない。

 

 

 

***

 

 

 

 意識が浮上する。頭はぼやけ、思考はおぼつかない。

 

 ──体も重い。もう少し眠っていよう。

 

 体が揺さぶられているような気がするが気のせいにしておこう。

 

 

 

「おい。 早く起きんか。 ──おーい、コウヘイ! ……ここまで眠りが深いとはな。どれ一発──」

 

 

 ──死ぬ。

 

 俺の直感A(未実装)が振り下ろされるナニカを瞼越しに観測する。

 振り下ろされるより早く瞼を開き、起きたことをアピールした。

 

 視界にいっぱいに広がる黒い──金属物。

 

「……ちっ、起きたか」

「今舌打ちしやがったよ、このサーヴァント……つか今何時だよ。って、まだ7時じゃねーか。オラァもっと寝たいんだ邪魔すんなよ」

 

 今日の4時に帰って寝て、3時間で起こすヤツがどこにいるんだ……ってここにいたわぁ。もうやだこのサーヴァント。

 

「起きないのなら――ここで永遠に眠りにつくか?」

「うんーーー! よく寝たぁ! いやぁ、良い朝だなスカサハ!」

「なら、さっさと着替えろ。食事を用意してある。食べるなら早く降りてこい、私の気が変わらんうちにな。」

 

 ホントに遊びがないなこの女。

 

 “言うことはいった。もう用はない。”といった様子で廊下に出ようとしたが立ち止まり、彼女は顔だけ振り替えるようにして俺を横目に見た。

 

「……なんだよ? まさか、今気が変わったとかいわないよな?」

「……お前は────いや、なんでもない」

 

 一体何を言おうとしたのかは分からなかったが、何か悲しそうな顔していたのが気になった。

 

 結局何も言わず、彼女は下に降りていった。

 

 

 ──“剣よ、ここへ。祈りよ、束ねられよ。”

 

 そう軽く呟いた瞬間、輝く剣を幻視した。

 

 

 

***

 

 

 

 着替えた後、階下に降りて食事に手を付けた。

 

 今日も叉上手い。焼かれたサンドイッチなんて初めて食べたがなかなかイケる。ホットサンドと呼称されるらしい。味のレパートリーも俺好みだ。

 ……なんか、少しずつ胃袋を掴まれているような気がして、気が気でないが、ホントに味がいい。胃袋には逆らえない。三大欲求にもそう書いてある。

 

「……お主、以外に健啖家だったのだな。以前はそこまで食べていなかったような気がするが、これほどとは少々驚いたぞ」

「そりゃ、昨日は結構ハードだったからな。食欲も邁進する。おまけにどうかと思うほど上手い。……なんで、売れ残ってんのお前?」

「はぁ……、ずけずけと気にしていることを言いよってからに」

「そう睨むな睨むな。逝き遅れてざまぁとか思ってるだけだから」

「なお悪いわ、たわけ者め」

 

 もしゃもしゃとほおばりながら、テレビを見る。

 ニュースには悲惨な状況も流れていれば、特に興味のない政治家のスキャンダルなんかも流れている。なお今日の俺の運勢は最低だった。

 

 スカサハはもう食べ終わったらしく、コーヒーを優雅に飲んでいる。……いつツッコもうか考えて居たが、コイツはなんで俺の服を着こなしているんだろうか。俺よりかっこよく着こなしやがって。非常に怒りづらい。

 

「………………」

「で、その目はなんだよ。なんか言いたいことがあるなら機嫌の良い今のうちに言っておけ。ああ、内容にもよるがね」

 

 さっきから意味ありげに見てくるから、思わず自分から切り出してしまった。

 

「──悪い、夢をみたのか?」

「あん?」

「……随分とうなされていたようだったからな」

「うなされていた男にとどめ差そうと思ったのお前。オレが言うのも何だが、ドチクショウだな!」

「気絶すれば夢も途切れる」

「息の根も止まるんですがそれは」

「ちっ、うだうだ五月蠅いな。さっさと答えろ」

「…………、はぁ。まあ良い夢ではなかったかな」

「内容は?」

 

 なんだこいつ。

 なんかいつもより積極的に感じるのは何故か。あれですか。オレのうなされている姿を見て愉悦&オレの夢の内容を見て愉悦ってところかね。

 

「……早く答えろ」

「なんで、そんなに聞きたいんだよ。……お前、趣味悪いぞ? あとオレ、紅茶ないし玉露派なんじゃが」

「いいから。……精神の図太そうなお前がうなされるほどだ。さぞ怖い夢でも──」

 

 手に持ったコーヒーに目を落とし、軽く外に傾けるようにしてマグカップを持つ。そして彼女が言い終わるより早く、言葉を口にした。

 

「──自分(テメェ)のユメを見た」

「──っ!」

 

 スカサハの体がぴくりと震えたのが、コーヒーの水面を通して見れた。

 痛いほどの沈黙がオレ達の間に流れる。

 ……ふむ。

 オレ、死んでないな。うん。ちょっとした賭けだったがうまく行ったらしい。

 

「……私は───」

「……ああ、()()()()()()()()()()()()()()()言って置くけど、今のテメェって言葉は自分、つまりオレ自身のことを指しているからな?」

「は?」

「いや、ホントいやな夢だったよ。思い出したくもねぇことを思い出すような……それでいて懐かしくてしかたないような」

「お、お主っ……!」

 

 嘘は言ってない。騙していない。お前が勘違いしただけだとスカサハに視線を向ける。

 

「俺は君に嘘をつけない。それは君がよく知っているはずだろう。もし、約束が破れれば君が気づかないハズがない。──勘違いで殺さないでくれよ?」

「………………」

 

 スカサハは驚きから一転、不機嫌ジト目を繰出してきた! 俺の愉悦ポイントが3上昇した! スカサハの俺への評価が2落ちた!

 

「ふん。なら話はここまで──」

「そんなに見られたくなかったのかよ、お前の記憶?」

「…………ただ、どんな夢をみたのか気になっただけだ。いや、……ここは腹正しいが私の負けか」

 

 今にも立ち上がりそうだったスカサハはそのまま席に座って、俺と目を合わせてきた。人形めいた目をしているが、俺はあまり嫌いではない。“未来の俺”ならいざ知らず。

 

「……認めたくないが、お主は勇気を示した。なら答えねばならん」

 

 ……勇気ねぇ。どっちかっていうと実験って気分だったんだが。

 

「聞きたかっただけだ。お前が、私の夢をみて──どう思ったのか」

「……? へんなヤツだな。自分の記録の感想を聞きたがるなんて」

 

 俺なんて自分の記憶とか見られた暁には悶絶死する自信がある……あれ? よく考えたら、俺のサーヴァントって俺の記憶見てるんじゃ……いや、疑問にするなおれ。ここで死ぬわけにはいかん。一応シリアスしてるんだ今。

 

「私については知っているだろうさ、逸話としてならばな。だが、私から見た記憶を見る、ということはお前と認識を共にするということでもある。記憶を見たお主の評価なら、一考には値する」

「……なるほど」

 

 誰かの評価ってのは結局、上っ面の評価でしかない以上気にもしないし、する理由にもならないが、自分の見た記憶から得た評価ならば受け入れざるを得ないってことか。

 

「……なんだ、その目は」

 

 つい感心して彼女を眺めてしまう。

 

「いや、なに。アンタにも可愛いとこあったんだなって。俺お前のこと嫌いだったけど、今のアンタは好きになれる」

 

 完成しきった存在は嫌いだが、なに。この女はまだ完成していないらしい。王者の気質を持ちながら、決してそれだけの才気ではない。性根が魔物を思わせるほど(こころ)が死んでいたから忌諱していたが、いまだ精神(こころ)までは死んでない。

 

「ま、お前の記憶を見た時は感想を話させてもらうさ。 ……何をお前は積み重ねたのか、俺も興味が出てきた」

「──ガラでもないことを口にして恥ずかしくないのか?」

 

 恥とは自覚しなければ恥ずかしくないのさ!

 …………、からかわれないように彼女を背にするように立って自分の部屋に向う。理由は用意した。

 

「じゃあ、今からお前の夢見るから起こすなよー──」

「──待て」

 

 はいオワタ。

 

「“試練”だ。何、今日ワシは機嫌が良いのでな。ワシ自ら稽古を付けてやろう。──喜べ小僧。可愛いワシからの手ほどきじゃ」

 

 ほぼ死刑宣告である。

 というか歳考えろよ。きつすぎるわ。

 

 

 




「ヒロインRX! 再び参上したわ!」
「前ツッコまなかったけど、何も隠れてないしRXはどうかとも思う。つーかなに? 覆面ライダーにでもはまった?」
「貴方はシャドームーン!」
「間違ってないけど間違ってるな。本編に出れないからって俺を殺しに来るのやめろよ。痛いんだぞアレ。」
「そう...ゴルゴムに改造されてしまったのね。戦わなければ生き残れない! さあ剣をとりなさい!」
「平成まで混ぜるのか...あと話聞かないなお前。いつものことだけどさ」
「リボルケイン!」
「いや、それレーヴァテイン! ってこっちに振り回すな!」
「死になさい! 私の八つ当たりで!」
「そう何度も何度も死ぬものか! 出会え、キャスター! キャスター!? お前の夫殺され科かってんぞ! ...ん、なんだこの書き置き?」

『アヴァロンに帰らせて貰います。どうか灰に成ってください』

「へー、夫ね。へー。」
「ふっ。俺が、相手だッRXッ! 俺はサタンサーベルをーーあれ? 呼び出せない? あれなんだ、この書き置き?」

『隠しちゃった!☆! 君の友人より愛を込めて』

「ま、マ゛ーリ゛ン゛!! アイツ、絶対ぶっころ――」
「へー。愛を込めてね。へー」
「まった。君は勘違いしている。それはよくない。少なくともアレとセットやだ――」
「死ね!」

 
――ヒビノは死んだ。


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