第二回戦 六日目
――目が覚めた。
身体を起こし、起きているライダーと今日あることを確認する。
「トラップを渡すなら早めがいいでしょうね。ま、もっともトラップを使う意味は殆どなくなったと思うけど」
「そうだな。カレンの話じゃ、エリカはもう歩けるようにはなっているだろうし。アリーナに行く前に、会わないとな」
ある程度話した後で、マイルームを出る。
*
――――――図書館
エリカを捜索するにあたって、まず始めに保健室に赴いた。そこでカレンから図書室へ向かったと聞いた。ちなみに金もせびられた。昨日、麻婆を食わせたあとに気絶していたエリカだが、一日保健室で休養をとって無事歩けるまで回復したらしい。俺が昨日言ったことを彼女のサーヴァント――セイバーが伝えたらしい。
よって彼女はココ、図書館へきているとの事だった。
扉をあけて入ると、エリカがいた。
どうやら、アサシン――加藤段蔵について調べているようだ。
近づくと、彼女はこちらに気がついて、振り向く。
「あっ、コーヘイさん」
「ほい、頼まれたトラップ」
「あっ、ありがとうございます!」
と彼女は礼を述べた。
昨日のことを少し心配して声をかける。
「昨日は大丈夫だったか?」
「……大丈夫って、何がですか?」
「いや、ほら、あの麻婆のことだが――」
「麻婆……うっ、頭が」
――記憶が消えるほどの衝撃だったのか。
恐ろしいものを生産したものだ、あのシスターもどき。
「調べ物は順調か?」
思い出させるのもためらわれたので、話題をかえる。
「ええ、あのアサシンの宝具は検討がつきました」
「それは、よかった」
「コーヘイさんは、何を調べているんです?」
「魔法の剣をもった騎士」
「魔法の剣……それでいて騎士……西洋の騎士なら――」
彼女はそう言って、アーサー王物語を差し出す。
「この中に出て来る騎士でしょうか、魔法の剣っていうより、聖剣といった方がしっくりきますけど」
エリカにバーサーカーの情報を明かした。
「格闘が得意で、無敵性、魔法の剣ですか……円卓の騎士で該当するのは――怪しいところですけど、ランスロットくらいでしょうか」
「魔法の剣のサイズは短剣だ。ランスロットの使ったアロンダイトとは違うだろう。甲冑すら―――っ」
着てないだろうと続けようとしたところで、あることに気づいた。
レスターは王国に勤めていたとは言ったが、騎士であるとは言っていない。
王国勤めなら騎士だろうと勝手に勘違いしていたのだ。
魔法の剣といったらというイメージも先行していたからか。
「悪い、バーサーカーは王国勤めなだけで、騎士ってわけじゃなさそうだ」
「王国、ですか」
図書館内で王国の戦士でそれらしいものを探す。
騎士の情報はかなり多いが、ケルトのように戦士が活躍する物もある。
それなりに調べ物を続けているとある項が、目に入る。
――民族叙事詩?
特定の民族の本質・精神を表現し、されたと信じられている物である。
そこに並べられたものを調べる。
『シヌへの物語』、『マハーバーラタ』、『ギルガメシュ叙事詩』
調べていくと、ある物語にたどり着いた。
『ハン・トゥア物語』である。
読み進めていくと、魔法の剣もでてくる。得意としてた格闘術は東南アジア伝統武術シラットからきたものと考えられる。
使用したのは三人――英雄『ハン・トゥア』、その親友にして逆賊『ハン・ジェバット』、負け知らずの戦士『アディ・プトラ』である。
王国の戦士ということならアディ・プトラは候補から外せる。
二人のうちどちらかだ。
しかし、どちらかと決め打ちすることもない。
何故なら無敵性というより不死性によるのは、魔法の剣――≪ケリス・タリン・サリ≫によるものだ。シラットに長けているのは、どちらもだ。唯一違うのは、死因だけだ。
『ハン・トゥア』は老死、『ハン・ジェバット』はケリスで刺し殺されるというもの。
おそらくどちらであったとしても、ケリスを奪って刺し殺さなくてはならないだろう。
*
――――――一階廊下
エリカとわかれて、図書館からでた後、藤村大河に会いにむかった。
魔眼殺しの眼鏡を渡しに、である。
いた。
「あ~、コーヘイ君じゃない!な~に~?わたしに会いにきてくれたの?」
――寝言は寝て吐け!
「冗~談よ、冗談。」
無意識のうちに兼を飛ばしていたようだ。
「……魔眼殺しの眼鏡を渡しにきました」
「あ!見つけてくれたの!ありがと~」
そう言ってから何かを手渡してきた。
「はい、お礼のタイガー植木よ。大切に使ってね」
と言って何処かへと去って行った。
*
――――――マイルーム
特にやり残したものもないので、マイルームに帰還した。
「明日はいよいよ決戦ね」
確認するようにライダーは言った。
俺は相づちをうち、ああ、と声を出す。
「――ええ、また殺すことになるわ」
目、強い目、多くの人間を見た目を俺に向ける。
「ああ、問題ない。覚悟なら出来ている」
「ならいいわ」
その後、少し時間をおいて――
「…貴方、人…殺したことあるわね」
冷や汗がたれる。
「――まあ、何度かは、な。魔術師をやってれば必ず直面することさ」
ライダーは間髪入れずにこう言った。
「しかも、親殺し――いえ、親族もかしら」
少し震えた。
――どうして
「どう、して、分かったんだ?ライダー」
「前、親について話してくれたことあったでしょう?疑問、というより、疑惑を持ったわ。親を大切に思っているのは感じ取れたけど、その祖父だったかしら――そっちのことを喋るとき、無自覚だったのでしょうけど、嫌悪しているのが顔に出てたわよ」
「うまく、隠せたと思ってたんだけどな」
「実際、魔術の話をまくし立てられたせいか、その時は対して気にならなかったわ。でも、両親については余り話そうとしない――悲しそうだった。」
ライダーは続ける。
「何かあった、よっぽどのことがあったと考えたわ。第一回戦――比島の行為には怒りを顕にしたわ。でも、殺すこと自体は否定しなかった。ま、メイガスだったなら考えられなくともないわ。」
ライダー一泊おいて――
「――似てるんでしょう?両親と藤村大河が」
身体が揺れた。
――ああ、その通りだ。両親と藤村大河は似ている。
「だって貴方、藤村大河をみるとき泣きそうになってるのよ。それを無理矢理怒り、嫌悪で上書きしてごまかしてる。違う?」
「……あってるよ、その通りだ。あの人は両親と似ている。自堕落でありながら、どこかしっかりとしている。ふざけた物言いをしながら、的違いなことは言わない。ホントうちの両親とそっくりだ」
「――だったらなんで、なんで殺したの?」
どこか辛そうに問いかけてくる。お前が泣きそうになってどうするんだ。
「――魔術師ってのは、残酷なんだ。」
どこか達観したように、言葉を吐く。
「俺は、16からロンドンの時計塔――魔術師の学び舎に、魔術協会に所属していた。魔術を学ぶために入学していた。ま、嫌なヤツもいたが、総じて悪くはなかった。18になって、家に、まあ、母方の実家にだけど――」
俺は一つの告白をした。
逃れられない、罪の残火を。
***
――――――2012年 四月十二日
俺は帰路についていた。
じりじり、とやたら強い陽が差してくる。
――夏じゃないんだけどな
帰ってきたからには、親にも挨拶くらいには行かないと。
一応帰ることは、一週間前には伝えたが。
駅から公共機関を利用し少し歩けば無駄にでかく感じる言えにつく。
この家にあまりいい思い出はないが。
扉を開く。
*
居間にすわる
――今、居間にいます。
ふむ、涼しくなった。
見渡したが、特に変わったことは何もない。
良くある日本家屋。
ま、二年じゃそこまで変わらないか。
そう思っていたら、ふすまを開ける音。
「ようやく帰ったか、童」
「誰がだ、禿げジジイ」
「フンッ、西洋魔術なんぞ学びよって」
ジジイ…祖父――火々乃 胴雷は、西洋魔術、というより魔術協会じたいが気にくわないらしい。
「で、成果はあったか?」
「ま、それなりにはね」
教える気は無いが。
「ああ、そう言えばもう十八か。早いもんよ」
「で?なんで呼びつけたんだ?その話は関係してんの?あとこの辺でまた誘拐がおきたようだが――」
「あーそれもそうだな、おい!」
とジジイは何かを呼びつける。
それと同時に開く扉。二人の若い女中が女を抱えて、俺たちの目の前に放り出す。長い髪がぱさり、と落ち、拡がる
目に入るのは裸体。年齢は、報道にあった通り、高校生。顔はなかなかに端正だ。
首には無骨な人の皮膚で作られた首輪。鎖が、ジャラリ、音を立てて落ちる。
――我が家の得意とする魔術系統は『隷従』。似た魔術系統に『支配』があるが全くの別物だ。
「一つ目のプレゼントだ。活きが良かろう?お前もいい年だ、つがいが欲しくなるころだろう。ほれ、いい面構えだ、お前の好きそうな」
「――はぁ」
「それになこやつ、わしがかけた隷従に抗って見せたぞ、魔術回路も持ち合わせておるし、いい母体に――」
「殺゛してやるっ!!」
「ほう、吠えおるわ、フハハハハハッ!!」
――ジジイの隷従に抗った?
軽く解析してみるが身体の支配を奪われているようだが、意識はあるようだ。
魔術回路は起動していない。
この怒りようはまさか。
「ジジイ、こいつの目の前で何をした?」
「拘束した後で、工房を見せてやったところよ。そいつの首輪を作ってやる拍子にな。
ほれ、誘拐したのは一家、余計なモンがついてきたからな。そいつで作ったのじゃ」
「腹をギリギリとさいて、勿論意識は保ったままじゃよ、面白くないし」
クズめ。
「この男の妻もまた美人でな、いい締まり具合じゃったよ、男を加工しながら抱いたからというのもあるかも知れんがな。ほれ、そこにおるじゃろ。気に入ったら抱いてくか?使い古しだが。ああ、その娘には障っておらん、ヴァージンじゃ喰らいガイがあるぞ」
「殺゛ズッ!!!」
「――黙れ」
がきん、と歯がなる。抵抗はしているようだが無駄だ。
身体の全権はジジイにある。
「――ジジイ、そいつくれんだろ。部屋に持って行きたいだが」
「ほ、気に入ったか。さっそくしけ込む気か?」
「寝言は寝ていえ。このままじゃ話になんないだろ」
もし、受け取りを拒否すれば、その場で犯されるか、殺されるかだ。
裸にむかれた同い年の娘を連れて行く。鎖を持つだけで全権は俺に委譲される。
同時にジジイの支配も解除される。
言うよりはやく部屋に連れて行く。
ちなみに俺の部屋は二階だ。
部屋に入ったとたん、彼女は口を開いた。
「あんた、なにも――」
「黙れ」
説明する暇も惜しいので黙らせる。
「俺はアレの孫、それだけだ」
「……むぐっ」
「暴れんな」
ちっ、ジジイめ面倒なところに仕掛けやがって。
「けつをだせ」
「むぐっぐ……」
隷従に抗えるというのは本当らしい。意識が奪えない。最低限の抵抗はされてしまうようだ。
けつを出させたところで、しり穴に手を突っ込む。
そして引きずり出した。――おぞましい刻印された石、虫が入った琥珀か。
「そうにらむな」
砕く、おそらくジジイにも知られただろうが。
空は曇天、雨が降り出している。
「ココで待っていろ」
そう指示して下の階へ向った。
*
居間にもどる。
「酷いことするのう。傑作じゃったのに」
「おぞましいものを仕込むな」
「ホントに傑作なんじゃが……。工房へ行くとしよう
話はそれから、見て欲しいものがある。」
そう言って地下へと続く廊下を歩く。
*
薄暗い地下、ジジイの魔術工房である。
趣味の悪い器具が溢れている。拷問用だ。
鉄格子が並ぶ。その中に『作品』が入っている。調教部屋であり、加工部屋でもあるのだ。
そしてその奥に止まった。
そこには―――
「どうだ最高の出来だろう?」
そう問われた先にあったのは、二体の生物。
人間の内側から無理矢理虫の骨格を生やしたような、融合させたような見た目。
「最高の戦闘生物だ、ふっふふふ」
――俺には分かった。
既視感を持ったのだ。指にはめられた変形した金属の輪。
それを探っていたら、たどり着いたのはある人物に関する記憶。
――両親だ。
そこにたどり着いたとき、怒りがわき上がる――憤怒。
震える手。
「感動するのもわかる。なにせ素材は、お前の親だ」
キチッギチッと音を立てる異形が親であるのは事実らしい。
「――そうか」
「ロンドンにまた帰るのだろう?連れて行け――」
――しね
憤怒が殺意に転化した。
溢れる殺意をジジイに叩きつける。
無防備な背に呪術を叩きつけて、燃やす。
「――――グギャアァァァァア!!」
汚い悲鳴を挙げる。汚物。
両親を起動させられる前に焼き払う。
「な、なんと言うことをォ!!!」
汚物がさえずっている。懐から,銃を取り出し放つ。
魔術が通じないなら物理だ。
「お前ら私をマモッ――」
パシュッと言う音と共に、脳天に穴が開いた。
予備の命を持っているわけではないようだ。
呆気ない絶命だったな。
だが、最後の足掻きは伝わってしまったらしく。
元人間の異形が動きだす。背後、両親もだ。
こうなれば殺して止めるしかない。
「マジかよ、最悪だ」
***
「――それから両親だった物を殺して、その他、性奴隷にされてたものも全員異形になっていた。唯一人、あの娘だけは生き残ったよ。異形にならなかったんだ」
琥珀を魔術だったと言うことだけしか分からない。
なにせ工房全て焼き払ったものだから。
ジジイも念入りに殺しといたし。
「……助けた子はどうなったの?」
「今って言っていいのか分からないけど、俺の新しい家でメイドやってるよ。元気に」
*
明日に備えて寝ることした。
しゃべり疲れたのか、まぶたがすぐに落ちる。
泥のように眠りについた。
主人公はジジイに呼ばれたのもありますが、同時に殺しに行っています。
抵抗すら許さず殺すつもりでした。
尊厳を奪うのにもっとも簡単なのは性的暴力だったりします。
なのでジジイは積極的に行っていました。
もしかしたら、元の正確は...?
なんにせよ、やったことは許されませんが。