Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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空白Ⅲ:終

 

 目映い程、白い世界。

 かび臭い檻だった城もどき崩壊しつつある。崩壊した場所から真っ白な光が差し込んでいる。しかしより幻想的で、荘厳な場所に見える……。

 

 目の前の銀髪グラマラス美人──キャスターから事情は聞いた。一週間前の俺に無理矢理憑依してこの“余白”に押し込めたってことは十分理解した。

 

「これが、今回の件、その顛末です。理解、してくれましたか。リリスと化した彼を一時的に貴方の体を仮宿にするためのこの処置です。この“空白”に貴方の魂を保存し余計な軋みを防ぐ目的があったと言う訳で──」

 

 当然? それが必要な処置だと理解しているがね?

 俺と目が合った瞬間からびっしょりと冷や汗を出しているキャスターの肩をむんずと掴む。

 

「──おい、キャスター?」

「ひゃい!?」

 

 おやおや、肩を掴んだだけで男心くすぐる良い悲鳴を挙げるじゃないかうん。キャスターは瞳をまるで俺の目線から逃げるようにあっちこっちに動かしながら言った。

 

「ひょ、ひょっとして──怒ってます?」

「超絶な?」

「ひぃ!?」

「なんでー、女王でもある君がー、俺程度に、震えてんのかなぁ? まだ──俺に隠していることあるだろ? ほら、吐けよ。今なら優しく、してやるぜ?」

 

 喉からゆっくり、低く発声し、“自分怒ってます”アピールをしておく。彼女は今必死で、思い当たることを探して──隠そうとしているが、手に取るように俺にはわかる。しかし、問いただすのは後にしておこう。ショートケーキのイチゴは最後に食べる派だ。

 でも余りにも可愛げある震え方するからついつい、いじめたくなってしまう。

 ま、これ以上いじめるわけにもいかんか。なにぶんこいつも俺の未来に付き合わされただけだから仕方ない──なんて俺が言うと思うか?

 甘い、甘い、実に甘―い!! 超絶甘―い!(ショートケーキ味)

 キャスターがオレに協力する。それは分かる。しかし、何のメリットもなく俺に協力するハズがない。……まあ、十中八九『ロット王(オレ関係)』だろうけど。むしろそれ以外のコイツの利点が分からん。

 だが、今は現状の理解に時間を割こう。今一番気になっているのは──

 

「つーかよ。オレ、このまま目覚めたら、ぶっちゃけ死ぬよね?」

「あ、あー……そのことでしたか!」

 

 取り敢えず、目前の不安をかたづける。

 目下気になっているのはその一点だ。どうも人の体で結構な無茶をやったらしい。借りた体で起源を開くなんぞ、テメェを飲み込めって行ってるもんだ。憑依術と俺の身体はめちゃくちゃ相性が悪い。

 ──隠していることへの言及じゃないと知るや否や調子を取り戻しやがった。いらっとくる。

 

「ふふ、それについてはもう手を打っています。貴方の体の方には私の宝具『全て失われるべき妖精郷(アヴァロン)』が溶かし込んであります。しかし、回復は微々たるモノ。正当な保持者として目覚めていない貴方では精々体の傷を治す程度。

 魔術回路は──回復、することはないでしょう」

「………ふむ。」

 

 地味に重い事実だ。魔術師としての生命はここで完全に途切れたと言われたに等しい。だが、同時に──奇妙な開放感も感じる。

 余計な、枷……それが外れた気分だ。ふむ、興味深い。意識したことはなかったが、魔術師(ひとでなし)でなくなったことに安心感を抱いている、と推察できる。なんと、浅はかな。今では戦力減退の一因にしかならん。減退した。壁役も難しい。今後どうするべきか。

 ま、いいや。

 

「次の質問──俺は、もう“リリス”へ至る可能性を捨てた。以後、俺はリリスとはならない──そうだな。」

「ええ。自発的にはもうなれません。貴方から“影の月”へいたる手段は失われたといっていいでしょう。」

「俺からは、か。そいつはつまり、別の手段はあり得るわけだ。」

「ええ。未来の貴方はそれにはめられたのですから。」

「七十億を犠牲にした成果が、この無様とは。吐き気がするね。」

「吐かないですよね……?」

「魂のまんまで吐けるわけないだろ」

「吐けますよ……?」

「吐けるの!? ……そうじゃねぇ、ああクソ。そうじゃなくてな。あー、もういいや。うん、じゃ今は俺からリリスに成るルートはないんだな」

「そう申し上げています。阿呆ですか?」

 

 蔑んだ目線を向けてくるキャスター。もっと調子に乗れ。最後に赤面させてやるから。

 でもむかつく。此処で首締めて──なんか悦ぶ未来が見えたので却下。

 未来の俺、よくこのサーヴァントであの魔境みたいな聖杯戦争で生き残れたな。キャスターも大概チート染みているが英霊って基本チートの押し付け合いみたいな連中しかいないし(偏見)。

 

 ──“リリス”は俺の身体から消えた。今回の最大の戦果である、と言えよう。七十億の人間を抹殺する星の殺戮機構が生まれないというのは俺の胃痛を大きく軽減した。常に爆弾もったまま移動する気分だったからね、今まで。

 

「“リリス”が消えたということは、俺から“リリスの欠片”は消えたと見て良いのか?」

「ええ、かまいません。ですが、貴方が保持していたのは“影の月の欠片”です。質量から考えて1%より少ない。それが消えた程度で貴方の“末路(リリス化)”は消えません。」

「……“リリス化した自分(未来の俺)”はわざわざ時間逆行を利用して自身の未来を観測不能に追い込み、自身の存在ごと否定した。だが、未来の俺は自身の可能性でだけで変体した。だから否定出来たのは、自分だけの要因で“リリス”へ至る可能性のみ……てことか。しかし待て。地上にはもはや“リリス”へ至れる可能性はどこにもない。俺の欠片を除いて全てこの星に溶けたハズだ。外的要因がどこにもない以上、俺がリリスになる手段はない……で、いいはずだ」

 

 ちらり、とキャスターを見るとこちらをニヤニヤと愉悦を滲ませた顔で見ている。人が真剣に悩んでいるのに──殺意が湧きそうになるが押しとどめる。

 

「本当に、そう思ってます?」

「あ?」

 

 俺を興味深く、それでいて面白そうだとニヤニヤしている顔からは答え知っているヤツがする『ええ~? まだわからないの~?(煽り)』というメッセージを惜しみなく送ってきている。ブン殴りたい。

 しかし、紳士な俺はそんな暴力手段を使ったりしません。ホントダヨ。

 いつか泣かすことを誓っておく。

 

 それはそれ。とにかく、あのエロ女のドヤ顔をやめさせるには答え──リリスを呼び起こす外部的要因があるってことだ。冒涜的な呼び声もってそうなヤツのいる城とか浮上させても、リリスには成れないし。

 しかし、キャスターの口ぶりからすれば、『アナタが思い至っていないとは思いませんでした(煽り)』と言っているようにも聞こえる。いや聞こえた(殺意)。

 キャスターは内的要因、つまりは俺の身体に溶けていた“リリスの欠片”による変体の可能性の消去を肯定した。逆に言えば外的要因による手段が存在している、ということ。しかし、それがわからない。地上に残っている“リリス”の残滓などあるはずがない。消え去っているのは『ムーンセル・オートマトン』に接続したときに確認している。

 であれば、何故? いや、どんな手段があるというのか。

 

『ですが、アナタが保持していたのは“影の月の欠片”です。質量から考えて1%より少ない。それが消えた程度でアナタの“末路(リリス化)”は消えません。』

 

 と、彼女は言っていた。1%、程度では末路が消えない……。末路ということは、遠い未来において“火々乃晃平がリリスになる”ということが避けられないということだろう。いや、ちょっととらえ方が違う。未来の俺──リリスとなった俺が消えても……()()()()()()()()()()()という事象は残る、ということだろう。

 アーキタイプに変体できるのは俺だけだろうが……まあ、俺だけだと仮定しておこう。むしろそうじゃなかったら非常に精神に悪い。ぽんぽん、生命種の頂点が生まれてたまるか。

 俺以外の、“リリスの欠片”の保持者などいるはずがないが、いたとしたら……人間じゃなくなっているな(確信)。英霊にも……いないと信じたい。

 

 肝心なのはリリスを呼び起こせるとして、どのような手段が存在するのか。この一点が鍵になる。

 

 どこにもないのなら、何処からか補填できうるものを持ってくるものだが……例えば、ボンドのかわりにご飯粒を潰した澱粉糊とか。リリスを復活させるのに必要な補填……ドラゴンなボールよろしく、欠片を集めればいいだろうが、さっきも言った通り地上にはもはやリリスの欠片は残っていない。

 

 ──ふと、キャスターの『質量から考えて』という言葉が頭によぎった。

 

 なぜ、彼女は“質量”などと口にしたのか。引っかかる。

 

 ──さらに頭によぎる“未来の俺の記録”

 

 “空に浮かぶ黒い月”──アレが何か関わっている……? なら、どうする? いやどうやってあれだけの“質量”が? あの“質量”は何処から──そもそも、()()()()()()()

 ()()()()()()()()()()()()()

 

 ──電流が背筋に走り、悪寒が併走する。

 言葉に出来ないが……確かに思い至り、そして、その結論にあり得ないと脳が機能を停止しそうになる。だが、それ以外に魔神アウナスが、俺のリリスという存在を使った手段がない。

 

「……俺の、月は黒くない……」

 

 言葉に仕切れないイメージをかみ砕いて捉え治すために情報を整理する。声が震え、ぼそりと呟く様に出た言葉は──キャスターの耳に届らしく。『──ほう』と笑みをなお深くして、関心ありげに俺を見る。続きを促しているのだろう。

 

「俺の色──心象世界が混じる前は、まっさらだった。色のない──何処までも透き通ったガラスの砂から出来たような天体だった。“黄金”にも“白”にも“赤”にも、いやどんな色にでも染まりうる──月の名に相応しい天体だった。」

「ふむ、なかなか美しい天体であったらしい。ならばそれは、お前しかしらぬ真実であろうよ。私では──私だけではない。誰であってもその“影の月”の正体を暴くことは叶うまい。」

 

 尊大な口ぶりで、彼女は女王として俺の前で笑って言った。『もう分かっている』と確信しているようにも見えた。

 

 キャスターが言ったように──“影の月”の正体を知っているのは古今を調べても俺だけだろう。

 だから──“()()()”を空に浮かべたのは正体の知らぬ誰か──魔神アウナスが浮かべた。

 

「俺が消したのは1()()()()()()()()()()()()()()()──出来るかどうかは別にして99%の“影の月”に代替しうる何かを用意できれば──リリスは現れる。俺がリリスになる事象は消滅した以上、俺とは別の、あるいは本来の()()()()()()()()()()が現れる!」

 

 ちらりとキャスターを見れば、

 

「しかり。であれば──その手段は? リリスへたどり着く術は地上にはないぞ? 宙にも代替するものはないが?」

 

 愉しそうにこちらに問いかけるキャスター。

 

「どこにもないものを、どうやって地上に持ち込む? この特異点で? あれだけの“大質量”をッ!?」

 

 彼女らしからぬテンションの高さで威厳を周囲に響かせるように聞いてくる。興奮していることは見て分かるほどで、強い熱がビリビリと肌に伝わってくるようだ。

 

 ……なるほど。はっぱを掛けられていたのか。キャスターは“完全な答え”にはたどり着けなかったんだ。俺しか“黒い月≠影の月”という真実にたどり着けないのだから。でも、思い当たることはあって、そのもどかしさを解くために、俺を煽ったのだろう。

 

「アレは──幻想だ。虚構でも、虚像でもない。文字通り、“影の月”なんだよ。持ってこられるとしたらそれしかない。それ以外には考えつかない。

 地上に落ちた陰影、水面に映った月を抜き出したんだ!」

「……む? あまりにも突拍子がないものに聞こえるが───もしや、投影魔術(グラデーション・エア)か!? オリジナルの鏡像を、魔力で物質化させる魔術ならば──魔力は、いや、調達手段などどこにでもあるか……魔力さえあれば可能だ。だが……()鹿()()()()()、非効率にも程がある──待て」

 

 本来は失われたオリジナルを数分間だけ自分の時間軸に映し出して代用する魔術であり、外見だけのレンタルを成立させる魔術だ。

 非常に効率の悪い魔術で、投影でレプリカを作るなら、ちゃんとした材料でレプリカを作った方がよほど手軽で実用に耐える。だが、今回ケースでは材料は容易には集まらないし、作成の手間も尋常ではない。

 イメージに破綻が起きても霧散してしまう魔術だが、魔神アウナスに出来るか否かを当必要は無いだろう。時間さえあれば算出しきれてしまうだろう。

 

「時間を経れば投影したものは世界の修正により魔力に戻ってしまう……だが、この特異点では世界の修正の働きが弱く、干渉も少ない。絶好のロケーションというわけか。……貴方の魔術の師でもあっただけはありますね」

「……どっちかっていうと、俺の性格を吸収した感じだな。最初から自分のための出来レースにするあたり。ところで、もう女王は良いのか?」

「……バレているのに続ける意味はないでしょう。──“黒い月”を用意した手段が“投影魔術”ということは分かりました。」

 

 ですが、と言葉を切って続きをキャスターは言う。必要な膨大な魔力などわざわざ考えることはない。“賢者の石”を月と同質量用意しろと言われているようなものだが。

 彼女が聞きたいであろうことは──

 

「──投影した“黒い月”は確かに現れるでしょう。ですが、それは触れれば砕けるくらい繊細なものに成るはずです。月と同じサイズのガラス玉と言った所でしょう。ここには英霊がいる。宝具の一発、それこそ余波ですら崩壊しかねないと推測しますが」

 

 その“存在”の弱さだろう。あくまで“投影”は偽物である。そこに存在するはずのないものを生み出しているため、他の神秘に虚弱、それどころか現実の存在している物質には勝てない。宝具どころか、ナイフ一本投げつけても崩壊する。

 要は中身がないのだ。存在を補強する“骨子”とでも言うべきそれが、投影された“黒い月”にはない。

 

 しかし、俺は──“骨子”に値するモノを知っている。

 見ているのだ。そして俺の記憶を覗いた彼女も知っているはずだ。

 

 

 

「──テュポーン。俺は、そのおぞましさを、身をもって体感している。」

 

 

 かつて、月の聖杯戦争において戦った伝説の怪物。ギリシャ神話に通ずる何百という竜の頭をもった怪物。七体のサーヴァントとマスターの協力を得て、なんとか撃退することはできた。……怪物(試練)を仕込むように指示はしていたが──アレは予想外だった。

 

「確か、あの怪物はNPCを犠牲にして作られていました。ですが、あれは電子の海で成立するものではありませんか?」

「いや、現実でも十分成立できる。NPCという素体よりも──サーヴァントを使えば難しくない。電子の海と言ったが、アイツは虚無で満ちた情報の海を泳いでいたんだ。こっちで言う深海の圧縮に耐えながらあれだけ自由に泳いでいた。同じ製法ならば──現実にある存在にすら勝ちうるだろう。」

「っ……あの怪物は──サーヴァントを食べて存在の維持を図っていましたね……」

「そうだ!サーヴァントは理想的な“黒い月”の骨子にできる!」

 

 問題は月の骨子に何体のサーヴァントを使う気なのか……かつての聖杯戦争で──俺の倒したサーヴァントは本当に聖杯に留められていたのか……聖杯が関係ないのならば──俺が倒したサーヴァントは全て……“黒い月”の骨子にされたことになる。単に魔力に変換するのとはワケが違うのだから。

 地上の人類が死滅していく様子を、星は観測していた……取り込まれていたサーヴァントに自我があったかは俺の知るところではないが、あったとしたらその苦悩は計り知れない。

 

 そんな考察を続けていると、ぼろぼろと城もどきが崩れ始める。差し込む光は心なしか強くなってきている。

 

「……どうやら、もう時間がないようです。最後に貴方と、楽しく話せて良かった。ここにいる間、いつもしかめた顔でしたから。まあ、論題はちょっとアレでしたが……」

 

 キャスターは崩れ始めた城を見上げてそう言った。

 

「“結末は貴方の手の中に”──ここまでして振り出しに戻ってしまいましたけど、希望は残せました。キャスターの面目躍如ってとこですね。」

 

 ……未来の俺が急速にその存在を擦り減らしている。魂の圧迫が薄れ──閉じ込められていた俺の本来の魂が『空白』から抜け出そうとしているのだろう。そうなれば、風船と似たような容量で──この領域は潰れる。そこから抜け出せぬキャスターは言わずもがな。

 未来の俺は“三日”で聖杯戦争を終わらし、まるで創世記を逆回しにするように人類の存続を破綻させた。

 故に、三日以降となる今には未来の俺……リリスは観測され得ず消え失せる。

 

 ──自分を殺す。壮大な自殺計画を彼は遂行しきった。

 

「……究極の『自己否定』。我ながら抜け目ない。これで俺は──『火々乃晃平として死ねる』選択肢が生まれたわけだ」

「……………」

「──君が余計なことをしなければ、な」

 

 キャスターには感謝しなくては成らないが──だが、それとこれとは別だ。

 この女は禁忌を犯した。

 

 ──モルガン・ル・フェは、決して、対価無しに成果を残すマネはしない。

 

 悲しいまでに彼女は生粋の『魔術師』である。

 

「……やっぱり、気づいていましたか。ええ、私は貴方の推察通り──貴方に幻霊『ロット王』、いえ、ロージアンを貴方に習合させました」

 

 罰の悪そうな顔で彼女は、その事実を認めた。

 

「……理由は、問うまでもない。君が──()()()()を覗いたらなら……月の裏での全てまで見てしまったなら……モルガン、君は必ず俺とロット王をつなげる、いやそうせずにはいられなかった。」

 

 うつむくキャスターに近寄って抱き寄せ、顔を上げさせる。

 

「──俺は、似ているか……彼に。」

 

 ここで言う、彼とは──彼女の夫“ロット王”にだ。

 

「──ええ。転生を信じる質ではありませんが……信じそうになるくらい、似ている。顔を、その精神も、在り方も。矛盾に満ちた苦悩も、破綻者としての狂気も、魂の色すら何もかも似ています。」

「……誰が破綻者だ」

「ふふっ……でも、ちょっと違うところも。“貴方(ロット王)”はここまで気が利きません」

 

 言いたいことは数あるが、まずは俺に成された事について確かめよう。いや、最初にすべきことは手段を確かめることではなく、目的を確かめることだ。

 

「──幻霊『ロット王』を俺に混ぜ込んだ目的。その一つは、俺自身の強化だ。」

「……………」

「あの魔神を倒すため、どころか今回のような無茶を行った俺の魂は摩耗に破損とボロボロ。何か補強する必要が出てきた。そこで幻霊『ロット王』だ。幻霊でしかない彼ならば……いや、例え英霊であったとしても君なら上手く混合できるだろう。」

 

 根源に登録された存在などと混ぜ合えば、意識の奪い合いが発生するだろうが……俺の起源を上手く働かせれば、俺の元に出来るだろう。

 

「だが、俺の強化だけが目的じゃない。幻霊『ロット王』を、俺を利用して()()『ロット王』にする気だな」

 

 そう。言うまでもないが『ロット王』は彼の『アーサー王伝説』で伝えられるノースブリテン……現代のスコットランドに属する土地支配した、とも伝えられている王である。オーキニー諸島とかいう小さい島からよく奪えたものである。彼の記述こそ少ないが、ノルウェーの王としても描かれている──どうしてコレで幻霊になったのか?

 

「──なぜか、と問われても私にも分からないんですが……たぶん、流星関係でしょうけど」

「流星……まさか、マーリンが謳ったあの予言……?」

「ええ、ブリテンを大きくまたぐように輝いた流星。竜が二つの光線を吐いて飛び去った。強い輝きには『アーサー王がガリアを征服する』、もう一つは『私の子(モードレッド)がブリテンを継ぐ』と予言しました。

 ここでの理由は巨大な流星。アイリッシュ海、その闇夜を切り裂く巨大な流星はブリテンの地を横断しました。」

「──さあ、どこでしょうね? アイリッシュ海からブリテンを二分する、その線は……何処にたどり着くと思いますか?」

 

 それは……。キャスターの言葉から、事実を推測するが──それは、妄想、いや幻想と呼ぶべきものだ。

 

「“結末は貴方の手の中に(剣よ、ここへ。祈りよ、束ねられよ。)”」

 

 キャスターの細い腕が、体に絡みつく。 キャスターの顔は妖艶無比。 俺は蛇に全身を絡め取られたが如く、身じろぎすらできなくなる。押しつけられる柔らかい肉感。官能をそそる肉付きに心臓が強く鼓動する。

 

「どうか忘れないで。私は、貴方を好きに成ったのは──過去のことは関係無い。またロット王(貴方)を好きになっただけ。

 もう貴方は私のものです。二度と逃がさない。私だけの愛しい騎士。」

 

 ──望むところだ。俺も、君を逃がさない。

 

 口には出さず態度で答えるためにしなやかな体を強くかき抱く。

 キャスターは頬をほんのりと紅潮させ、顔をゆっくりと近づけ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 ──はい、ここでタイムストップ。

 

 『え、ひょっとしていたしちゃうの?』とあからさまな期待をした貴方に絶望をお届けします。

 まったくもって残念だが──彼女にはお仕置きをしなくてはいけない。

 彼女にはお仕置きをされるだけの非がある。

 

 そのいち! ロット化、頼んでねぇ。

 未来の俺も、果てには現時点の俺も、助けてくれとは言っていない。独断でやらかされたことである。亜種英霊(デミ・サーヴァント)って誰得!? 正確には亜種幻霊だけどな!

 

 そのに! ロット王になっても結局、人間やめる羽目になるんですけど!! ロット王が“影の月”と関わりあるかも知れないし! 最悪“リリス”になる可能性が復活するってことだよね!

 

 そのさん! ちょっとは謝れ! 謝罪がありません!

 俺が人間以外の存在であることに超コンプレックスがあることは記憶をみたなら推察できるだろうが! なんで末路が怪物から英雄になっただけじゃん!

 ああああああああああ!!!(発狂)

 

 ──以上の理由から、この淫乱キャスターにはお仕置きが必要だ!

 

 抱きしめたまま、片腕を引き抜き──キス待ちキャスターの額にロックオン!!

 

 まるで狐の影絵を作るように、中指を親指に引っ掛けるようにして──デコピンを装填する。

 

「……ん?」

 

 ぴと、と狙いに正確にするため指を頭に置いたのが分かったらしく小さく身じろぎする。違和感はあったようだが目はつむったままだ。───馬鹿めっ!!

 

 

「──ロット王式額クラッシャーァァァァア!!!」

「へ?」

 

 

 勢いよく放たれた指は──大きなうねりを伴って。

 

 ──ベチィイイイイインッッ!!

 

「へみゅ!? お、おおおぉぉぉぉぉお……………、」

「おう、目覚めたか?」

「い、痛、ちょ、尋常じゃないくらい痛いんですけど、いきなり何を……って、ひぃ!?」

「第二、装填─!!」

「ごめんなさいごめんなさいごめんなさい、ごめんなさぁいっ!!!」

 

 キャスターは必至に身をよじって、避けようとするが残念。俺が逃がさない。

 がっちりと彼女の体を抱きしめている。

 

 ──ベチィィィッィイイイインッッ!!

 

「あひゅっ!?!? う、うーん……」

 

 たった二発で気絶か。案外こらえ性のない。

 

 まあいい。その場しのぎとは言え、謝罪の言葉はもらったし、醜態も記憶できたしもう思い残すことはない。

 

「さらば、キャスター。次にあったら──お前が心ゆくまでデートしてやる。そういう約束をしただろう。精々忘れるなよ──我が妻よ」

 

 言って恥ずかしくなったので、キャスターを気絶させたのは正解だった。

 

 光が城を崩し──

 

 ──俺の視界は白く染まった。

 

 

 




「ばっちり聞こえてますよ」


***

ロージアン:Lothianと表記される。現在のスコットランドにもある街であり、かつて『アーサー王伝説』におけるロット王が支配したとされ、由来となっている。
 『ルー (Lugus) の砦の国』という意味のブリソン語から来ているとも。

 ルーって太陽神だよな...? → ロット王の息子って → 彼の聖剣の二ふりめって何処から?→ まさか...

 という流れから今作のロット王とかいう英雄像は制作されていますぞい。ルーの砦って何か光そうだよね...そんな城どっかで見たような...ハッ!?()
 
 ヒビノ君にも、太陽がどうとかありましたね()


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