Fate/EXTRA-Lilith-   作:キクイチ

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第二回戦 三日目

第二回戦 三日目

 

 

 

上を見上げれば、空を小さな光が埋め尽くしている。満天の星空。

目線をずらせば暗闇にぶら下がるようにある、半月が目に入る。

 

でも――自身の周りには何もない。

まるで怪物の口の中。何一つ見えやしない。

獣の遠吠えが聞こえる。

恐怖に身体を震わせるだけ。

小さくなってどうか見つかりませんようにと

祈るだけ。

 

どうして。なぜ。疑問が頭を巡る。

自分は幸せだった。

偉大な父と清純な母との間に生を受けた。

 

そばにいる自身の馬の熱を感じる。生まれた頃から世話をしてきた大切な家族だ。――残された家族は少ない。

 

――奪われたのだ。

 

アッサリと奪われた。襲撃されたのだ。

偉大な父は殺され、母は連れて行かれた。今頃喘がされているだろう。

親戚からは見放された。敵討ちもままならない。

弟からは殺されかける。

 

――何が悪かったと言うのか。

――私の何が駄目だったのだ。

 

辛うじて生き残ったが、生き残ってもそこに誰もいないなら辛いだけではないか。

――偉大な父よ。何故戦わせてくれなかったのです。

――何故私を逃がしたのです。

 

 

――私に足りないのは強さ

力が無ければ、奪われる。

――女でいるから、奪われる。

女は男に組み敷かれるだけ。その逆はない。

 

――奪われたなら、奪い返せ。

誰も逆らえないほど強く。誰も離れないように強く。

敵は殺せ。

足をもいで、地を這うだけの一生にしてやればいい。

尊厳を、奪うのだ。

 

――偉大な父よ。優しき父よ。

――私は、男として生きる。

あらゆる物を利用しろ。

 

 

 

 

―――全てを奪い返してやる。

 

―――奪い尽くしてやる。

この瞳がこの世界を睨み付ける。

 

 

***

 

 

 

――目が覚めた。

………妙だな。俺が夢をみるはずがないのに。

アレは確かに夢だった。

――だが俺が見たであろう夢は俺のものではない。

そう直感した。

変な顔でもしていただろうか。

 

「コーヘイ?どうかした?」

 

夢でみた少女は確かに目の前の彼女だった。

――ひょっとしてアレはライダーの夢だったのだろうか。

 

「いや、……なんでもない。」

 

俺が見たのは――彼女が彼女たろうとする、再起の源風景。

なんとなくではあるが、聞く気にはなれなかった。

 

いつものように今日やる大まかなことを決める。

 

「あ、そうそう。」

 

と何かを思い出したようにライダーは口にした。

 

「――喜びなさい!やっと完成したわよ、アレが!」

「――アレがか。」

「――アレよ。」

 

アレとは、前にライダーに頼んだ服のことだ。

じゃーん、といって彼女は衣服をだす。

 

「おお!」

 

何処にでもある衣服――カーキ色のフードつき上着、白Tシャツ、青ジーンズ。

しかし、いつまでも学生服よりはましだ。

 

 

すぐに着替える。寸法もあっているし、生地の肌触りも良い。

これには、俺もにっこり。

 

「ありがとう、ライダー。」

「どういたしまして。」

 

 

 

 

――――――図書館

 

 

無敵性を持ちそうな英雄を探す。

と言って一通り探したが、全く見つからない。

――やはり情報が少なすぎるか。

ギリシャ神話のヘラクレスは不死の逸話をもっている。

アキレウスなども不死を持っているが、結末では死んでいる。

無敵という言葉に注目するば、無敵艦隊――スペインの艦隊――とか考えられるが、ライダーで召喚された方が自然だ。

後は、本多忠勝――日本の武将――くらいか。生涯100戦以上戦ったが負けることはなかった。傷すら負わなかったという。無敵と言っても過言ではない。

が、忠勝がよく使ったのは蜻蛉切――槍である。天下三大名槍として有名なそれを使っていたのだから、ランサーとして召喚された方が妥当である。

それに、バーサーカーは剣を使っていたはずだ。

 

――余り進展しなかった。

 

 

**

 

 

―――――――食堂 購買

 

 

――ふぅ

 

少し疲れを覚えたので、気分転換に食堂にきていた。

眼前にあるのは空の器。なかなかの味だった。

意外に品揃えがいい。

そう休憩していると――

 

「あっ」

 

声が聞こえ振り返る。

そこには、エリカがいた。気まずいという顔をしていた。

曇り顔というヤツである。

 

「よう。」

 

目が合ったので取り敢えず挨拶しておいた。

呼びかけられるとは思わなかったのか――

 

「はぇ!?」

 

とまぬけな返答を返してきた。

自分の前の席に座るように促す。

エリカは少し逡巡したが前の席に座った。

そして、しばしの沈黙。

やがて絶えきれなくなったのか――

 

「……な、何か用ですか?」

 

と口を開く。

 

「いや、特には。むしろ俺に何かようがあったんじゃないのか?ほら、前、比島の情報を教えてくれたとき、お前が協力しろっていってなかったけ?」

 

確かに言っていたように思うのだが。

 

「えっと……、この前のことじゃないんですか?」

 

この前のこと?

ああ、あれか。

 

「お前はここにいるじゃないか。戦う理由を見つけれたんじゃないのか?」

 

少し口角を上げて言う。

瞳をみれば少しのおびえ。だがその奥には揺るがない意志を感じる。

彼女は言葉にはできていない様だが。

 

「少なくとも、座して死ぬことはやめたようにみえる。」

「ええ、まあ。………なんとなくですけど。」

「願いは……決まってない様だな。」

 

ほんの少しだが顔をこわばらせた様から判断した。

するとぽつりと。

 

「ゲームだって思ってたんです。……相手の人もそう思ってたみたいです。だってそうじゃないですか。万能の聖杯なんて、何でも叶うなんてホントに存在してるなんて、電脳死があるだなんて思わなかった。」

 

――彼女らは一般からの参加者のようだった。

従来の魔術師のような黒魔術だとか生け贄を使った魔術を行使したことがない。そのため感覚が一般人に近いようだ。

この世界、地上では人口は自然災害や生物災害によって激減して今日本は政府は機能を失うほどで、都市国家としてなんとか運営しているんだとか。資源が乏しいので事実上亡国になっているらしい。なにそれ怖い。

限られた資源を長く続かせるため、巨大複合企業「西欧財閥」などもあるのだとか。

俺の記憶では全くかすりもしないのだが、もはや異世界に来てしまったといえないだろうか。薄々そうかなとは思っていたのだが。

 

ある程度、話した後。

 

「で、依頼なんだが。折り紙追加でほしい。」

「……自分で設計すればいいじゃないですか。三万枚も渡してたと思うんですけどもう使い切ったんですか。」

 

できないから頼んでいるんだが。こちらの事情はさすがに打ち明けられない。

解析は進めているが、設計、こちらで言う投影とは違うようで今一うまくいっていないし。

 

「そうですね……5000pttでどうですか?」

 

と、いたずらっぽい目。

――ふむ、格安だな。

 

「ほい。」

と、軽く出してやる。ライダーへのロールケーキぐらいしか使わないので貯まっていくいっぽうだったのだ。

 

「ええ!?そんなあっさり!?」

 

かなり良心的だった。もっと法外な金額を吹っかけてくると思ったのだが。

 

「じゃ、頼んだぞ。」

 

と席を立つが、

 

「じょ、条件があります!」

「なんだ。」

「アリーナで使えるようなトラップを下さい。私、そっち系統は苦手で。」

「トラップ?どんなのがほしい?」

「拘束系がいいです。」

 

拘束系。作れない事も無い。

ただ材料がかなり必要なだけで。

メイガスでもないエリカに使えるようにするとなると。

――ふむ、魔力は俺が封入して設置したら発動する形にするか。

 

「サーヴァントにもよるが大体三秒は拘束できるものが作れるぞ。ただし、水銀を中心に三種類それぞれ20グラム必要だ。」

「あう……そろえるのに二日は欲しいんですけど。完成するのにどれくらいかかりますか?」

「朝に渡してくれば、昼過ぎには完成する。」

「じゃあ、お願いします。」

「ああ、請け負った。」

 

素材がないことには、どうすることも出来ないが。

 

 

 

 

――――――アリーナ

 

 

エリカと話した後、アリーナにきていた。

隣にライダーが立つ。

 

「まだ、相手は来てないようね。それともすれ違ったかしら。」

「前みたいなトラップがあるかもしれない。注意して進むとしよう。」

 

探索を開始する。

 

 

 

 

「あれこの道開いてるのか。前来たときしまっていたのに。」

「いいアイテムでもあるのかしら。」

 

アイテムボックスを開いてみれば、――柿?

柿一箱とかかれたもの、おそらく柿が入っているのだろうが。

しかしなんでこんな物が。

と考えたところで頭によぎる虎の影。

たぶんあの人関係だろう、と直感した。帰り際に届けるか。

 

 

 

 

そして来るは最奥。

 

「特に何もなかったわね。」

「ま、三日目だしな。――ん?」

 

振り返って帰ろうとしたところで少しの違和感。

立ち止まった俺が気になったのか、

 

「どうかした?」

「あ、ああ。」

 

最奥の以前特殊なエネミーのいたところの隣、少しはなれた壁に魔術痕。

何があるのか、と調べるため手を置く。

すると頭の中に映像が流れた。――俺とライダーが戦っているシーンだ。ご丁寧に音声までついている。即席のビデオカメラの様な物らしい。触れることで読み取れるようだ。

映像の中には俺がサーヴァントをライダーと呼んでいる場面もある。

 

――しまった。アレはブラフか!

 

「――クラス名、知られちゃったてことね。」

「すまん、さすがに油断し過ぎた。」

「むしろクラス名だけですんでよかったわ。」

 

少し悔しい。

これ以上得られる情報もなさそうだ。

 

 

 

 

―――――――二階廊下

 

 

探していた人――藤村大河をみつける。もちろんアリーナで手に入れたアレを渡すためである。まあ、彼女のものと言う確証はないのだが。

話しかけてみれば案の定――

 

「あっコーヘイ君!ちょうどよかったわ!探してほしいものが……って、その手にあるのは!?」

 

やはり彼女のものだったようだ。

 

「ありがと~!それとついでで良かったらだけど、頼み事されてくれない?魔眼殺しのメガネを見つけたら、私のところに持ってきて!もちろんタダでとは言わないわ。持ってきてくれたらすてきな物をプレゼントするわ。どう?」

「別にかまいませんよ。」

 

依頼と言うことなら了承する。

しかし、魔眼殺しのメガネとはどういうことなのか………。

AIが必要にする意味が分からん。

 

 

 

 

――――――マイルーム

 

 

どっかりと中央に座るのはライダー。

一週間も見ていれば、慣れてくるというもの。いまや彼女がそこにいることが俺にとっての日常と化していた。

ライダーは美味しそうにロールケーキを食べている。甘党なのかもしれない。

――そんな彼女もかつては男として生きた。

あの夢はそうとしか考えさせない。

 

「なに?コーヘイ。私をじっと見て。」

 

じっとライダーを見つめていたらしい。

 

「ライダーには叶えたい夢ってあるのか?」

 

何気なしに問うてみた。何もかも奪い尽くす。

彼女はそう決意していた。

願いがあるとしたらそれに沿った物だろう。

少しライダーは考えるそぶりをみせて、

 

「別にこれといった物は特にないわね。」

 

――ないんかい!

 

「う~ん、強いて挙げるなら受肉かしら。現代の娯楽とか食べ物とか堪能してみたいし。」

 

前は出来なかったことがしてみたい、と言うことのようだ。

こちらの地上は結構殺伐しているようだが。

 

「コーヘイは、そういうことしたことあるの?」

「ああ、まあ。テレビゲームとかはよくやったぞ。グルメにはそこまで詳しくないけど。」

「遊園地みたいなところに、いったことは?」

「あるぞ。あんまジェットコースターにいい思い出はないけど。まあ楽しいところだよ。」

 

げろ吐かれたことあるし。服にぐちゃっと。

俺がやった事じゃないのに、その時からクラスメートから露骨に距離取られたな。

――俺が吐いたと吹聴した岡崎はマジ許すまじ。

 

そんな当たり障りもない雑談をした。

 

話題も尽きたところで、明日に備えて眠ることにした。

 

 

 

 

――まぶたを閉じる。

――ついに三日目

――着実に、終わりは近づいてきている。

――負ける気はないが。

――また殺さなくてはならない。

――覚悟はある。

 

 

――なにも問題は無い、はずだ。

 


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