Fate/Game Master   作:初手降参

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極天の流星雨

 

 

 

「……おはよう。準備は大丈夫かい?」

 

 

翌朝。全ての運命が決まる朝、特異点に突入する一行は管制室に集まっていた。黎斗はどうやら一晩中ガシャットを弄っていたようだったが、バイタルに問題はなかった。

 

 

「当然だ。ああ、昨日のうちに君達のガシャットをアップグレードしておいた。向こうに適応するのを確認次第配布しよう」

 

「ああ、そうかい。……じゃあ、特異点でやることを確認しよう。やるべきことは三つある。」

 

 

やるべきことは、三つ。

一つは、敵領域の破壊。敵特異点の中心、敵の本拠地に殴り込むためには、そこへのルートを塞ぐ障害を破壊しなければならない。敵領域にある複数の魔術王の拠点の破壊は必須だ。

一つは、魔術王の撃破。これは分かりやすい。ただ倒してしまえばいい。

そして一つは、特異点からの生還。厄介なことに、レイシフトが出来るのはカルデア特異点の境目のみ。当然そこから魔術王の本拠地はかけ離れている。つまり、魔術王を倒したら全力でカルデアとの境界まで戻ってこなければならないわけだった。

 

 

「……やり遂げます。やり遂げてみせます、命に代えても」

 

「……それはダメだ。全員で帰ってこい。ボクらはそのためにここまでやって来たんだから」

 

 

意気込むマシュをなだめるロマン。その姿には憂いが見えた。マシュもそれを感じ取ったのか少し目を伏せ、それでも信念は曲げず。

 

 

「……善処します」

 

「……そうだね」

 

「何、私の才能をもってすれば容易い作業だ」

 

 

その二人を前にしながら平気でガシャットを調整しコフィンに詰めていく黎斗。

ロマンも毒気が抜かれたようでやれやれと溜め息をつき、そして笑った。

 

 

「……ま、そう言うよね。じゃあ……行こうか。君達なら、ソロモンになんて負けないさ」

 

 

そして、全員がコフィンに乗り込む。

これが最後のレイシフトになるのだろうか。彼らは青い光に包まれて──

 

 

 

 

 

───

 

 

 

 

 

「……久しぶりだなぁ、檀黎斗」

 

「レフ・ライノールか」

 

 

黎斗とマシュは特異点に降り立った。他のサーヴァントは魔術王の妨害で別のエリアに飛ばされてしまったらしい。一応この特異点にはいるようだが。

 

そして彼らを出迎えたのは、あのレフ・ライノールだった。

彼はさも面白そうにくつくつと笑う。マシュは顔をしかめてエクスカリバーに手をかけたが、黎斗は何もしなかった。

 

 

「君の戦いは実に不愉快だった。例えるならばそう、背筋に冷たい油を流されるようなおぞましさをもった不快感を孕んでいた」

 

 

そして語り始める。朗々と朗々と、その姿は自信に満ちていて。

 

 

「だがそれもこの瞬間までだ、檀黎斗。この瞬間までなのだマシュ・キリエライト。我々は勝利する!! 第一特異点での速攻も第二特異点での進軍も第三特異点での蹂躙も第四特異点での殺戮も第五特異点での暴走も第六特異点での決意も第七特異点での勝利も最早無意味なのだ、無意味なのだよ!!」

 

「……ふっ、よく吼える。だが私には空元気にしか見えないが?」

 

「ほざけぇっ!!」

 

 

しかし黎斗は動じない。そしてレフを煽り、激昂させる。

そして激昂したレフは……マシュに首を跳ねられた。

 

 

   ザンッ

 

「……やりました。次に行きましょう」

 

「まあ待て、マシュ・キリエライト。彼のいた場所を見てみろ」

 

 

転がり落ちた首を見ることもせず次の魔神を探そうとするマシュを黎斗が引き留める。そして彼はレフのいた大地を指差し……

 

 

   ゴゴゴゴ

 

「無駄だ、何もかも無駄だ!! 聞くがいい、我が名は魔神フラウロス!! 情報を司るもの!! 今は不覚をとったが、次も効くと思うなマシュ・キリエライト!!」

 

「そんなっ……まさか……」

 

 

そこから、レフが、いや……レフが変異した魔神柱、魔神柱フラウロスが姿を現した。

復元でも再生でもない。再誕した。再び生まれたのだ。

 

そして同時に、カルデア本体も危機に襲われる。

 

 

『おわぁっ!? ちょっ、今のはなんだ!? 揺れか!?』

 

「ドクター!?」

 

『えっとえっと……不味い、カルデア外部に八本の魔神柱だ!! っ、このままだと、圧し折られる!!』

 

 

カルデアも魔神柱に襲われていた。

ここは魔神柱で形成された魔神柱の空間。黎斗が立っている大地も、そこかしこに見える柱も全て全て魔神柱なのだ。つまり魔神柱は無尽蔵に存在しているということだ。

 

 

「ふはははは!! 無駄だ無駄だ、全てが無駄に終わるのさカルデアの諸君!! 君達の旅はここで終わる!! やってしまえ同胞よ!!」

 

「っ、黎斗さん──」

 

 

そして魔神柱の各々が、マシュがガシャットを構えるよりも素早く、一斉に黎斗へと攻撃を放ち──

 

 

 

 

 

   ガキンッ

 

「ええ、それでこそ我が()。いつも通りで何よりです」

 

 

……そこに。

いるはずのないものがいた。あの時彼の前より消え失せ、一時の再会こそあれついぞ黎斗の元には戻らなかった信奉者。

檀黎斗というマスターのサーヴァントが。

 

 

「我が主、檀黎斗の戦いは人類史を遡る長い長い旅路でしたとも。ですが彼は悲観しなかったでしょう?」

 

「貴方は──」

 

「何しろ檀黎斗は神でしたから。例えこの世界(フィールド)全てが聖杯戦争(ゲーム)の舞台だったとしても。地上が全て廃墟と化し行く末に数多の強敵(ボス)が待ち構えていても。それでも彼は動じなかった。笑い、悦び、愉しみ、己の才能でもってゲームクリアを目指した」

 

 

サーヴァントは語る。最初はフラウロスに。そして、黎斗に。その姿には何処か竜の面影があって。

 

 

「今もそれは変わらぬこと、私めは知っておりますとも……さあ、戦いを始めましょう我が主よ。これは……貴方()がゲームをクリアする、それだけの単純な、しかしとても楽しい物語です」

 

 

そしてそのサーヴァントは、そう語りながらフラウロスを吹き飛ばした。その体からは爪が伸び、触手が伸び。彼は()()()()()によって、魔神柱を相手していた。

 

 

   ザンッ

 

   ザンッ

 

「ぐあっ……何故だ何故だ何故だ!? 何故檀黎斗が消えていない!? 何故カルデアが残っている!? 何故……我々の体が崩れているのだっ──!?」

 

『魔神柱、八柱全て消滅!! あれは……!?』

 

 

カルデアの方もやはり別のサーヴァントが何とかしてくれたようだった。

天を仰ぐ。空には多数の光の筋が流れ、そこかしこの魔神柱に突き刺さっていく。

 

 

「人間の世が定まって、そして栄えて数千年が経ちました。我らは星の行く末を定め、星に碑文を刻むもの。そのために多くの知識を育て、多くの資源を作り、多くの命を流転させた」

 

「何故だ、何故──!!」

 

「人類をより永く、より確かに、より強く反映させる理……人類の航海図。これを彼らは人理と呼び、そして彼らは守り続けました」

 

 

フラウロスは消え失せる。いや、何処かへ退却したのだろう。それでもそのサーヴァントは語る。語り続ける。

 

 

『これは夢か? 計器の故障か? 特異点各地に次々と召喚術式が起動している!! 触媒も召喚者もなしに、ただ一度結んだ細い縁を辿って!!』

 

 

ロマンが驚愕と興奮の入り雑じった声で叫んだ。奇跡……奇跡と言う他ない。

 

 

「私たちは我欲にまみれた生命です。ええ、本当に……それはどこまで行っても変わりはしませんとも。ですがそんな私達でも、信頼を寄せられた人がいたのですよ。私達の多くを見て、それでも良いと笑う人が、いや……神が。その呼び声に答えずして何が英霊か!!」

 

「っ……!!」

 

「……この言葉は、本当なら聖女が言うべきなのでしょうが。私めが代弁させていただきましょう」

 

 

マシュが震えながら彼を見る。かつて聖を信じ、絶望して魔に堕ち、それでも黎斗に味方した男を。黎斗に光を見た、黎斗のサーヴァントを。

 

 

「聞きたまえ、この場に集いし一騎当千、万夫不倒の英雄達よっ!! 本来相容れぬ敵同士、本来交わらぬ時代の者であろうと、今は互いに背中を預けたまえ!!」

 

 

その男の名は。

 

 

「一重に我らが神の為、彼に報いる時が来た!! ……我が真名はジル・ド・レェ!! 神の名の元に、貴公らの腕となろう!!」

 

 

その男の名はジル・ド・レェ。黎斗のサーヴァント。彼と共に戦い、散り、それでも黎斗を忘れなかった黎斗の仲間(道具)。それが、この冠位時間神殿にやって来ていた。

いや、彼だけではない。一度でも黎斗と縁を結んだサーヴァント達が、この特異点にやって来ているのだ、空を流れる光の筋となって。

 

 

「……気の利いた出迎えだな、ジル・ド・レェ」

 

「お褒めに預かり恐縮至極……では、行きましょう我が主。七十二の魔神はそれぞれ戦わせていれば倒せます故、我らが我が主に協力し共に尽力したなら、勝てぬ道理はありませぬ」

 

『ああ、道を開け!! 最後のチャンスだ!!』

 

 

その声を聞くまでもなく、彼らは全力で走り始めた。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。溶鉱炉を司る九柱。即ち、ゼパル。ボディス。バティン。サレオス。プルソン。モラクス。イポス。アイム。我ら九柱、音を知るもの。我ら九柱、歌を編むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この灯火を消す事能わず……!!」

 

 

走って走って、辿り着くのは最初の魔神。溶鉱炉ナベリウス。黎斗の道を阻むもの。

 

しかしそこにいたのは敵だけではなく。

 

 

鮮血魔嬢(バートリ・エルジェーベト)!! Laaaa!!」

 

『キャモナシューティングシェイクハンズ!! ウォーター!! シューティング ストライク!! スィースィースィー!!』

 

「はあっ!!」

 

   ズドンッ

 

エリザベートとウィザードとがそこにいた。彼らはたった二人でナベリウスを押し留め、弱らせていく。

そして、それを眺めていた黎斗の元に懐かしい声が。

 

 

「おお、クロスティーヌ、クロスティーヌ!! 再びここで合い見える幸運に感謝を!!」

 

「……ファントムか」

 

 

ファントム・オブ・ジ・オペラ。彼こそが先程ガシャットを使用してカルデアに巻き付いていた魔神柱を吹き飛ばした張本人。黎斗のサーヴァント。

彼らがいるならこの拠点は問題ない。黎斗はそう判断し、丁度こちらを向いたエリザベートに調整を終えたガシャットとバグヴァイザーを投げ渡す。

 

 

「……よし、受け取りには成功したようだな」

 

「クロスティーヌ、我が主よ……ここは我らが引き受けますが故、先へとお進みあれ」

 

「我々は大丈夫です。何しろ我が()の才能があるのですから!!」

 

「……当然だ。私は神の才能を持っているのだからな……!! 行くぞマシュ・キリエライト。ここにはもう用はない!!」

 

「はい!!」

 

 

そして二人は背中を押されて走り出す。それを見送りながら、ジル・ド・レェとファントムはまたナベリウスを消し飛ばした。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。情報室を司る九柱。即ち、オリアス。ウァプラ。ザガン。ウァラク。アンドラス。アンドレアルフス。キマリス。アムドゥシアス。我ら九柱、文字を得るもの。我ら九柱、事象を詠むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この研鑽を消す事能わず……!!」

 

 

次に辿り着くは情報室フラウロス。核となっているのは当然レフだ。

そしてここに集ったのは、第二特異点で黎斗と共に戦ったサーヴァント達。ローマのサーヴァント達だった。

 

 

「ふはははは!! 無限に沸き出る圧政者、これ即ち絶体絶命の具現なり!! 無限、無限の戦いの向こうに光を!! 圧政者でありしかして現実に抗うものよ!! 今この一度、スパルタクスが魔神柱を制圧するゥ!!」

 

   グシャッ

 

 

スパルタクスが戦場を駆けていく。その体を暴力に溢れた肉塊に変化させながら魔神柱を捻り潰す。

そしてスパルタクスと共にいたもう一人のバーサーカーが、酷く理性的な様子で黎斗の方に振り返った。

 

 

「……久しいな、檀黎斗」

 

「ああ、カリギュラか。監獄塔ぶりだな」

 

 

ローマ第三代皇帝カリギュラ。彼もまた黎斗のサーヴァントだったもの。今回はこの第二特異点のサーヴァントとして呼び出されたらしかった。

彼は戦況を見つめる黎斗を見て、何かを察したように静かに呟く。

 

 

「……ローマだ。我が主、その生き方は紛れもなくローマである」

 

「……本当に、そう思っているのか?」

 

「当然だとも。その魂の輝きは諦めない夢への邁進であり、その歩みは魂の粘り強さを持っている。ローマ(浪漫)だ」

 

 

そこまで言った彼は、もう言うことはないと言わんばかりにプロトゲキトツロボッツを取りだし胸に突き立てる。

 

 

「ウオ、ウオオオオオッ!!」

 

『ゲキトツ ロボッツ!!』

 

 

そして突撃していく彼を見送る黎斗に、別のサーヴァントが声をかけた。

 

 

「さて、檀黎斗よ」

 

「神祖ロムルス……!!」

 

 

マシュが思わず身構える。ロムルス、彼は元々敵だったもの。しかし……ここにいて魔神柱と向き合っているのだ、敵であるはずがない。

 

 

「行け。ここは我等(ローマ)が引き受ける。」

 

 

そう言うロムルスの後ろには、カエサルが率いる無数のローマ兵がいて、勝鬨の声を上げていた。

黎斗はマシュと共に歩き始める。ここには用はない。

 

 

「フッ……神に命令するな」

 

 

その声は愉しげで。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。観測所を司る九柱。即ち、グラシャ=ラボラス。ブネ。ロノウェ。ベリト。アスタロス。フォラス。アスモダイ。ガープ。我ら九柱、時間を嗅ぐもの。我ら九柱、事象を追うもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この集成を止む事認めず……!!」

 

 

走っていく二人に次に立ちはだかるは観測所フォルネウス。二人は思わず立ち止まった。というのも、砲弾が飛んでいるから否応にも慎重にならなければいけないからだ。

砲弾の出所を見てみれば、かつて黎斗がジル・ド・レェに弄くり回させた黒髭が立つ船がある。

 

 

   ズドンッ

 

   ズドンッ

 

「撃て撃て撃てぇいっ!! あの触手どもを吹き飛ばしてやれ!! アン女王の復讐(クイーン・アンズ・リベンジ)!!」

 

 

何の因果か、名誉挽回のチャンスと見た黒髭が、野郎共を引き連れて魔神柱を相手していた。よくよく見てみれば、甲板には他のサーヴァントの姿も見える。

 

 

「うわぁ、いつになく自棄になってるね」

 

「まあ、触手でデロデロヌルヌルにされた名誉挽回のためにやって来ているのですから仕方ないですわね。さあ、行きますわよメアリー。私たちもここで良いところ見せないと」

 

「そうだね。エイリークも前線で頑張ってるし」

 

 

「血ィ、血ィ、血ィ!!」ザンッザンッ

 

 

アンとメアリー。オケアノスではあまり活躍できなかった二人は、互いに得物を構えて敵を狩る。そしてその前では、エイリークが斧を振り回していた。魔神柱を押し返している。

 

 

「……どうやら、中々やるみたいだな」

 

「ええ……ですが、あれでは次に進めません!! いや、進めますが、少しばかりは手傷を負いそうな……」

 

 

 

「それなら私の船に乗っていけばいい」

 

「っ、その声……まさか!?」

 

 

振り返る。

……そこに、イアソンがいた。アルゴ船を動かしながら彼は二人を甲板まで引き上げる。

 

 

「よっ、と」

 

「……どういうつもりだい? 君は私を憎んでいると思っていたが」

 

「お前は嫌いだ、当然だとも。だからこそ見せてやりに来たんだよ……いいか? オレのヘラクレスは最強なんだよ!!」

 

 

イアソンはそう言いながら船首の方を指差した。

ヘラクレスが、メディア・リリィとヘクトールと共に奮戦していた。その姿は堂々として逞しく、傷一つ負っていない。

 

 

「■■■■■!!」ブゥンッ

 

   ザンッ

   ザンッ

 

 

「凄い、魔神柱が細切れに……!!」

 

「な? 格好いいだろ? お前が何をどう言おうとオレにとって最強はヘラクレスなんだ!! よく目に焼き付けろ、それをお前にも教えてやる!! メディア!! ヘクトール!! お前達は引き続きヘラクレスを援護しろ、こいつらを少し送ってやるから方向はずれるが気にするな!!」

 

「■■■■■!!」

 

「りょーかいっ!!」

 

「分かりましたイアソン様ぁっ!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。管制塔を司る九柱。即ち、パイモン。ブエル。グシオン。シトリー。ベレト。レラジェ。エリゴス。カイム。我ら九柱、統括を補佐するもの。我ら九柱、末端を維持するもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この統合を止む事認めず……!!」

 

 

イアソンにヘラクレスの良いところを百ぐらい言われながら送り届けられた、そこにいたのは管制塔バルバトス。しかしここにいたのは、カルデアのサーヴァントだけだった。

 

 

虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

「「羅刹を穿つ不滅《ブラフマーストラ》!!」」

 

幻想大剣・天魔失墜(バルムンク)!!」

 

誰かのための物語(ナーサリー・ライム)!!」

 

 

五人の宝具によって消し炭になるバルバトス。しかしその姿は瞬く間に再誕し立ち塞がる。

既にガシャットを用いた戦いに慣れ始めていた彼らの動きは、少し鈍くて。

 

 

「待たせたな。配達に来たぞ」

 

「マスター!! 来てくれたのね!!」

 

 

だからこそ、檀黎斗の登場は非常に助けになるものだった。彼はアヴェンジャーにガシャット二本、ジークフリートにガシャットとバグヴァイザーNを手渡す。

 

 

「ああ、新作を渡すのを忘れていた。お前達二人用のドライバーだ」

 

 

そして黎斗はそう言いながら、ラーマとシータ各々に新型のドライバーとガシャットを差し出した。丁度そのドライバーは、ガシャットドライバー:ロストのスロットが二つに増えたような形状で。

 

 

「マスター、これは?」

 

「新型だな。ガシャットドライバー:ダブルだ。君達を一体化させ、二人で一人の仮面ライダーとして戦うことが可能になる」

 

 

カップルはそれを身に付けた。そして一人一人が手渡されたガシャットの電源を入れ、各々片方のスロットに装填する。

 

 

『ギリギリ チャンバラ!!』

 

『ときめき クライシス!!』

 

『『ガッチョーン!!』』

 

 

そして二人は、鏡に写った像のように同時にスロットを展開して。

 

 

「「変身!!」」

 

『マザルアップ!!』

 

 

刹那二人は一瞬だけバグスターのように粒子となり、融合し、そして一人の仮面ライダーへと変貌する。

 

 

『ギリ ギリ バリ バリ チャンバーラー!!』

 

『ドリーミンガール!! 恋のシミュレーション!! 乙女はいつもときめきクライシス!!』

 

 

右側は黒。左側はピンク色。

そんなカラーリングで二分された彼らは、それでも、二人で一人の仮面ライダーだった。

 

 

「これは……」

 

「私とラーマ様が、一つに……!!」

 

「なったんだな、仮面ライダーに……!!」

 

 

黎斗はそれを見届けてからまた走り始めようとする。それを、アヴェンジャーが小さな声で呼び止めた。

 

 

「……行くのか、檀黎斗」

 

「当然だ。あと少しでゲームクリアだからな」

 

「……そうか。……この恩讐に濡れた世界を、走り抜けるか。檀黎斗」

 

「──、その通りだ。私は行く、ここは任せた」

 

「……任された」

 

 

次の瞬間にはアヴェンジャーは二本のガシャットを己に突き刺し、魔神柱へと飛び込んでいく。

バルバトスがさらに粉砕される断末魔が聞こえてきた。

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。兵装舎を司る九柱。即ち、フルフル。マルコシアス。ストラス。フェニクス。マルファス。ラウム。フォカロル。ウェパル。我ら九柱、戦火を悲しむもの。我ら九柱、損害を尊ぶもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この真実を瞑る事許さず……!!」

 

 

さらに挑むは兵装舎ハルファス。それと交戦していたのは。

 

 

無敗の紫靫草(マク・ア・ルイン)!!……やれやれ、こんな戦いでは優雅さも剥ぎ取られてしまうな。しかしまあ美しさに私は輝いてしまうのだがね!!」

 

「我が君!! 今回ばかりは自重されよ!!」

 

 

かつて黎斗に芸人と言われた二人が、魔神柱を吹き飛ばしていた。遠くの方で何を思ったのかクー・フーリン・オルタとメイヴも戦っている。

 

 

「ああ、君たちもここに来たのか」

 

「フィンさん、ディルムッドさん!! 来てくれたんですね!!」

 

「はい、今回は汚名返上ということで参りました!!」

 

 

そう言いながら振り回す槍は強力で。

 

そして彼らの隣では、エジソンがエレナとカルナと共にやはり魔神柱を叩き潰していた。

 

 

「唸れフィラメント!! 吠えたてろバルブ!! W・F・D(ワールド・フェイス・ドミネーション)!!」

 

金星神・火炎天主(サナト・クマラ)!!」

 

梵天よ、地を覆え(ブラフマーストラ)!!」

 

 

神秘を一時的に剥ぎ取られた魔神柱は粉々に砕け散り、されどすぐに次の個体が再誕する。キリがない。キリがない。それでも諦めないのは、カルデアが勝たなければアメリカも滅びるから。

 

戦っていたエジソンが黎斗の方を向いた。

 

 

「何をしている!! こんな交流のようなやからには我々人間は負けはしない!! 先へと進め!!」

 

「当然だ。行くぞ、マシュ・キリエライト」

 

「……はい!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。覗覚星を司る九柱。即ち、バアル。アガレス。ウァサゴ。ガミジン。マルバス。マレファル。アロケル。オロバス。我ら九柱、論理を組むもの。我ら九柱、人理を食むもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この憤怒を却す事──」

 

五行山釈迦如来拳(ごぎょうざんしゃかにょらいけん)!!」

 

   ズドンッ

 

 

覗覚星アモンは、既に交戦の真っ只中だった。名乗り上げの最中に破壊されたアモンは再誕と共に攻撃を開始する。

それを受け流しながら、三蔵法師が黎斗とマシュに向き直った。隣では俵がアモンを射抜いている。

 

 

「はーい、そこ、暫くぶりね!! 前はなんか活躍できずに終わっちゃったけど、今回はピンチと聞いて全速力で駆けつけたわよ!!」

 

「早まるな早まるな、今回は皆であれを押し留めるのだからな」

 

「三蔵さん、俵さん!!」

 

 

そう言うマシュの後ろから声をかけるものがまた一人。

 

 

「余もいるぞ……全く、別に魔術王にもカルデアにも肩入れするつもりはなかったが、うむ……気が向いた。カルデアよ、ファラオの力は必要か?」

 

「っ、是非!!」

 

「……だ、そうだニトクリス。行くぞ」

 

「はいっ!!」

 

 

オジマンディアスもそこにいた。どうやら彼は最初はなにもするつもりは無かったようだったが、以前のマシュとの問答を思い出したのか、少しは協力してくれるようだった。

 

 

「ふ……あれならば、まあ、我らが手伝ってやっても構わぬか」

 

「足が震えておりますぞ百貌の。まあ、気持ちは分かりますが」

 

「ええ……私の毒も効きそうにありませんし」

 

 

さらに、そう言いながらハサンの三人も飛び出していく。サーヴァント全員の活躍によって、柱は生まれては殺されていく。

 

 

「いやー、大分危ないなこりゃ。俺も手伝わせてもらうぜ」

 

「アーラシュさん!! 貴方も……!!」

 

「おう、待たせたな!!」

 

 

そして最後に現れたのはアーラシュだった。彼は愉快そうに笑って、マシュと黎斗にお決まりの台詞を告げる。

 

 

「下手な台詞だけど言わせてもらうぜ? ここは俺たちに任せて先に行け!!」

 

「っ、はいっ!!」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。生命院を司る九柱。即ち、シャックス。ヴィネ。ビフロンス。ウヴァル。ハーゲンティ。クロケル。フルカス。バラム。我ら九柱、誕生を祝うもの。我ら九柱、接合を讃えるもの。七十二柱の魔神の名にかけて、我ら、この賛美を蔑む事能わず……!!」

 

 

七つ目の魔神、生命院サブナック。ここまでで、ローマ、オケアノス、アメリカ、エルサレムで出会ったサーヴァント達と合流したのだから、次に誰がいるかなんて分かりきっていて。

 

 

「ハーハッハッハ!! 今、美って言った? 美って言ったの? 魔神もどきが美って!! 賛美なんて言われたら黙ってられないわ、我こそは美と戦い、豊穣と金星の化身!! 天翔る女神イシュタル、借りを返しに来たわよ!!」

 

 

果たして予測通り、メソポタミアで出会ったイシュタルが魔神柱を射抜いていた。飛び回りながらの攻撃に魔神柱は翻弄され手出しが出来ない。

 

 

「イシュタルさん、助けてくれるんですね……!!」

 

「私も助けに来ました……その、すいませんでした。あの時は。私とは違う私のことですが」

 

「ふっ、不可抗力だ。悲しむ必要はない」

 

 

そして後ろを振り向けば、アナが臨戦態勢で立っていた。その顔は少し気恥ずかしげだったが、それでも頼もしかった。

 

 

「と、言うことは……?」

 

「イエース!! 私たちもいますヨ!! ほらゴルゴーンも!!」

 

「……私は来なくても良かったのだが、こいつが煩くてな」

 

 

さらに奥を見てみれば、ケツァル・コアトルとゴルゴーンが共に戦っている。さらにその向こうでは飛び上がっているジャガーマンも見えた。

そして、彼女らがいるのなら、当然彼らもいる。

 

 

「久しぶりですなぁ!! ランサー・レオニダス一世、参戦致しますぞ!!」

 

「武蔵坊弁慶、ここに罷り越しましたとも」

 

「ライダー・牛若丸!! 再びやって参りました!! 無事で何よりです!!」

 

「アサシン・風魔小太郎……ガシャットも携えて参戦いたします」

 

 

かつてギルガメッシュという共通の王の元に召喚されたサーヴァント。彼らは同時にカルデアとも関わり、故にここに辿り着いた者たち。

しかし、マシュはここで一番会いたかった存在を見つけられなかった。

 

 

「……マーリンさんは?」

 

「マーリンは今回不参加です。ここに歩いては来られないので。ざまあみろです」

 

「……そうですか」

 

 

少しだけ落胆する。あの手紙の意味を聞きたかったのだが。

しかしまあ、今はそれを気にしていられる暇はない。

 

 

「……先へとお進み下さい。ここは、私達が」

 

「イエース!! 試合はまだ終わっていませんからネ!!」

 

「当然だ。私たちは先へ行く、お前たちはここで戦っておけ」

 

───

 

「起動せよ。起動せよ。廃棄孔を司る九柱。即ち、ムルムル。グレモリー。オセ。アミー。ベリアル。デカラビア。セーレ。ダンタリオン。我ら九柱、欠落を埋めるもの。我ら九柱、不和を起こすもの。無念なりや、無常なりや。我ら七十二柱の魔神を以てして、この構造を閉じる事叶わず……!!」

 

 

走り抜けて、その最後にいたのは廃棄孔アンドロマリウスだった。既に黎斗とマシュは第七特異点までの縁は使い果たし……しかし、まだ全てなくなった訳ではなく。

 

 

   バァンッ

 

三千世界(さんだんうち)!! ……っ、何じゃこいつら!! わしの特効がまるで通じん!! もしや自称魔()のバッタもんか!?」

 

「これだから種子島に頼りきりの軟弱ものは……たまには刀振るったらどうです? コフッ」バタン

 

「沖田──!?」

 

 

ここに飛ばされてきたのであろう信長が、沖田、土方と共に魔神柱と戦っていた。構えた火縄銃からは容赦なく弾丸が放たれる。

 

 

「おう、立て沖田。喀血する元気があるならまだ余裕だろ」

 

「うぅ、まだ、行けますとも……!!」

 

「っ、沖田!! 上からくるぞ、気を付けろ!!」

 

 

その隣では、倒れ込んだ沖田を土方が抱き起こしていた。信長に弾丸を浴びせられた魔神柱は、それでも倒れず沖田に上から攻撃を放ち。

 

しかし。

 

 

「ノッブ!!」

 

   ガキンッ

 

「……ちびノブ?」

 

 

それはちびノブに阻まれた。

ちびノブがここにいるということは、それはつまり……

 

信長は振り替える。そして、見知った顔を見つめた。

 

 

「姉上!! お待たせしました!!」

 

「なっ──信勝!?」

 

「はい!! アサシンのサーヴァント、織田信勝!! 後れ馳せながら参上しました!!」

 

 

そこにいたのは、ティアマトを足止めして散ったはずの織田信勝。織田信勝だった。

何故彼がここにいるか? そのからくりは簡単なものだ。信勝はティアマトを足止めし、かつ彼女を殺す遠因となったことでその功績を認められ、とうとう真に英霊となった。それだけの話。

 

さらに信勝に加えて、信長にとって見知ったサーヴァントが現れる。

 

 

「私たちもいますよ!! 共にビートを掻き鳴らしましょう!!」

 

「いや、槍が戻ってきているのだが……まあいいか。付き合ってやる」

 

 

返還されたカリバーンを鞘に納めてトランペットを構えるセイバー、アルトリア・リリィ。

返還された風王結界を使うことなく、ドラムのスティックを構えたランサー、アルトリア・オルタ。

かつてあの人のいない街で信長とバンドを組んだ二人だった。

 

 

「おお!! これは頼もしい!! ならばこの格好は似合わぬな。コスチュームチェンジ!!」

 

 

信長は彼らに合わせて霊基をバーサーカーのそれに変化させ、沖田を放置してギターを構えて、そうして二人と並び立つ。彼女らは無数のちびノブの援護射撃と共に、一斉に演奏を開始した。

 

 

「……歌上手いですね姉上」

 

「……そこのもやし男」

 

「ん? 僕ですか?」

 

 

それを、ちびノブを送り出しながら聞いていた信勝の後ろに、また別のサーヴァントが立つ。信勝はその声に振り向き……そして縮み上がった。

 

 

「そこのもやし男」チャキッ

 

「ひぃっ……あの、その、風王結界(ストライク・エア)は、その、還したので許してほしいなぁっていうか……」

 

 

謎のヒロインX。あの特異点で黎斗に怯えながらセイバーを狩っていた彼女が、信勝の首筋に聖剣を添えていた。信勝は必死に弁解する。

 

 

「まあいいです。今はアサシンですし。まあ、セイバーなりかけなのでいつか殺しますが」

 

 

何とか許してもらえたようで、信勝は肩を撫で下ろした。そして内心で、お前もアサシンだろうと考えた。

 

 

「凄い、こんなに……いや、私は会ったことがありませんが……」

 

「まあ仕方のないとこだ。さて、信長にこれを届けなければならないが……」

 

 

それを傍観しながら、信長用のガシャットを弄ぶ黎斗。あとはこれを渡せば全部なので渡してしまいたいが、どうにも近寄りがたく、また魔神柱も多い。

 

 

「私達が運ぼうか」

 

「……ジェロニモさん!?」

 

 

そこに声をかけたのがジェロニモだった。その隣ではバニヤンも戦っている。

 

 

「なるほど、ハルファスの元にいなかったのはそう言う訳か。じゃあ任せた」

 

「了解した。行くぞバニヤン」

 

「任せて。驚くべき偉業(マーベラス・エクスプロイツ)!!」

 

 

そうして二人は、魔神柱を切り倒しながら進んでいく。それを見送った黎斗は少しだけ黙り、そしてまた歩き始めた。

 

 

「さて、全てのガシャットを渡し終えた。全てを終わらせに行くぞ、マシュ・キリエライト」

 

「当然です。私が、人理を救います!!」

 

 

呼応するようにマシュも走り始める。

二人が進んでいく空には、この場に集ったサーヴァント達の攻撃が光り、まるで流星群のようだった。

 




次回、いよいよあらすじの下りに突入

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