Fate/Game Master   作:初手降参

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疼く衝動、響く鼓動

 

 

 

 

「ちびノブ!! ちびノブを貸しておくれ!!」

 

「ちびノブを一日、一日でいいから!!」

 

「今日も手伝ってくれないかぁっ!?」

 

「アンタの隣のでかいちびノブをお嫁に下さい!!」

 

「ちびノブ!! ちびノブ!!」

 

 

それから数日。武器の製造やら壁の補強やら櫓の建設やらに東奔西走していた信勝とちびノブ達の噂は、ウルク中に広まっていた。

 

ある男は言う、カルデアは多くの人材を持っていると。

ある男は言う、オダノブカツとやらが大量の幼女に労働させていると。

ある女は言う、彼は強力な軍事力を備えていると。

ある女は言う、彼は救世主なのだと。

 

その全ては、ある種の真実を捉えていた。

それはつまり、信勝には需要があるということだった。

だからこそ、カルデア大使館の前には人手不足に喘ぐ人々が押し寄せていたのだ。

 

 

「はいはい一列になって下さいね皆さん、ちびノブにも限りがありますから、ワンセットずつオークションにしていきますよ」

 

「より高い銀を出した物がちびノブを持っていけるぞ!!」

 

 

そしてそんな状況に直面した信勝は、信長に進められるままに長机を用意、オークションを開始した。

 

 

「という訳でまず、ノーマルちびノブ五点セット!! 麦の銀一つから受け付けますよ!!」

 

「俺麦の銀二つ出す!!」

 

「じゃ、じゃあ私は三つ!!」

 

「ええと……五つ!!」

 

 

数人が手をあげる。余程労働力が足りなかったのだろう。

 

 

「はい、じゃあ貴方で。因みに、何に使いますか?」

 

「いやー、この前カルデアから借りたお手伝いが樽は壊すわ麦酒は勝手に飲むわで使えなかったもんだから、彼らに手伝って貰おうと」

 

「なるほど……」

 

 

銀五枚を差し出した、工房のパシリであったのだろう少年は、ホクホクしながらちびノブを引き連れて工房に戻っていく。

ちびノブ一体につき麦の銀一枚……彼女らの価値は確かに存在していて。

 

 

「五つも貰ったら気が引けます。後でビール買いに行きましょうね姉上」ボソッ

 

「是非もないよね!!」ボソッ

 

 

信勝はそう囁いた。

金は回すもの、その価値観は二人の間で相違はなく。

 

 

「さーて、次!! 次はなんと、飛行能力つき、ノッブUFOの三点セット!! これも麦の銀一つから──」

 

 

……しかし。信勝はそので黙り込んだ。信勝だけではない。その場の全員が息を飲んで黙っていた。

無理もない、そこにはギルガメッシュが立っていた。

 

 

「貴方は……」

 

「オークション、か。……あまり過度な競争は市場の激化を生む、控えよ」

 

「うっ……」

 

 

その一声で、ちびノブを求めていた人々は諦めて仕事に戻っていく。

気落ちするのを隠せないー信勝の前にギルガメッシュが立ち、相変わらず冷ややかな目で彼を見ていた。しかし、その目には確かに関心があった。

 

 

「……すまなかったな、オダノブカツ」

 

「……!!」

 

「……カルデアのはあんまりにも無礼だったから思わず追い返してしまったが……中々どうして、面白い奴がいるではないか。で、例のちびノブとやらはあと幾つ出せる?」

 

 

そう問うギルガメッシュ。信勝は後30程度だと言った……ここまで何度も大盤振る舞いしてきたが、それでもそれは本当のことだった。

そも、ちびノブとは信勝自身の(ウィルス)から生み出した、いわば分霊のようなものだ。しかも一度使えば回復に時間がかかる。

 

 

「……そうか。なるほど……王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)

 

「ひいっ!?」

 

 

それを聞いた王は己の倉を開き一本の魔杖を引き抜き、突然のことに腰を抜かした信勝に押し付けた。そして彼は来た道を戻っていく。

 

 

「……これは?」

 

「それがあれば幾らかの助けにはなるだろうよ。精々励めよ? 雑種」

 

───

 

「行くわよアナ!! 今日もメルルさんの所でしょう?」

 

「そうですね、行きましょうかナーサリーさん」

 

 

その十数分後、大使館から出てきたナーサリーとアナは、ちょっとファンシー過ぎる光景を目の当たりにすることとなった。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノノブ」

 

「「「ノブ!!」」」

 

「「「「「ノッブゥ!!」」」」」

 

「やめろ、わしはちびノブじゃない!!」

 

「「「「「ノノノ、ブブブ!!」」」」」

 

 

「わぁ……小さいのが一杯です……」

 

「ガリバー旅行記のようね!! 素敵だわ!!」

 

 

そう。

ウルク民と同じくらいの数のちびノブが、労働者として闊歩していたのだ。タネは至ってシンプル、ギルガメッシュから渡された魔杖である。その杖の力は、大気中のマナを持ち主のエネルギーに変換し供給するもの。そのエネルギーで、信勝は本来の何倍ものちびノブを派遣していた。

 

 

「ふぅ、やっと戻ってこれたのじゃ……大丈夫か信勝? ひっひっふー、ひっひっふー」

 

「恥ずかしいから止めてください姉上……これもかなり慣れてきましたから」

 

「ノッブゥ!!」

 

「ノブ!!」

 

 

次々に生まれてくるちびノブ。ちびノブ。ちびノブ。

……ウルクの人手不足は、彼によって完全に解消された。

 

───

 

 

 

 

 

当然、人手不足が無くなってしまえば、与えられる仕事は一気に減少する。

ちびノブ大量排出の数日後には、シドゥリの案内で単独行動が出来るサーヴァントが再びジッグラトの中に案内されていた。

 

 

「我には時間がない、故に手早く済ませる」

 

「……」

 

「貴様らの所には大量のサーヴァントがいるが。その内、単独行動が出来るのは貴様らだけか?」

 

「うむ。わしとマシュだけじゃな。晴人が復活すればまた別じゃが。もしくは黎斗か」

 

 

待ち構えていたギルガメッシュにそう問われ、特に緊張するでなく述べる信長。ギルガメッシュは少しだけ期待はずれな顔もしたが、それでも不敵な笑みを浮かべていて。

 

 

「黎斗……あの雑種の話はするな。見所が無いとは言わぬが、無礼が過ぎる」

 

「ですよねー」

 

「だが……貴様らでも十分か」

 

 

ギルガメッシュは信長とマシュの体を軽く見てそして頷き、二人に告げた。

 

 

「……もう労働の必要はなくなり始めた。雑務すらなければ、それはそれでつまらぬだろう。貴様らに新たな任務をくれてやる。光栄に思え……貴様らにはウル市に向かってもらおう。愉快な報告を待つ」

 

───

 

 

 

 

 

「ここがウル市への道ですか……帰らずの森となった熱帯雨林なんですよね?」

 

「そうだ。あの森だ……私はもう少しのんびりしたかったが仕方がない」

 

 

ギルガメッシュから受けた王命によってウルへ向かうことになったマシュと信長、そして案内役になったマーリンは、ウルに向かうなら突破しなければならない熱帯雨林を前に絶句していた。

一歩足を踏み入れてみれば、それだけで全身から汗が吹き出す。

 

 

「……暑い……」

 

「うむ……これはバーサーカーにクラスチェンジするべきであるか」

 

 

信長はそう言ってスキルを発動、軍服からクソダサTシャツに着替え、火縄銃をエレキギターに持ち替える。

 

 

「……へぇ、よく出来ているんだね」

 

「そうじゃろ、そうじゃろ?」

 

 

 

「ふふ、なんだその水着は!! 何のアピールだ!! セクスィー・アッピールなのか!! 私だって脱いだらスゴいんだぞ!!」

 

「っ!? 何かがいます!! 木々の上を高速で動いています!!」

 

「おおっと、多分あれが帰らずの森の番人だね!!」

 

「なら油断は出来ません……変身!!」

 

『Britain warriors!!』

 

『マザル アァップ』

 

『ブリテンウォーリアーズ!!』

 

 

信長の水着に反応して、木々の間を高速飛ぶナニか。マシュは警戒心をマックスまで高め、即座に変身する。

 

 

   パァンッ パァンッ

 

「ニャははは、ははははははははは!!」

 

「っ……早い、捉えられない!!」

 

 

ガンド銃では、飛び回るナニかは撃てなかった。トリガーを引いている間にナニかは別の所に行ってしまう。

つまり、相手の動きが速すぎた。無駄に煩い高笑いもあって、ストレスが貯まることこの上ない。

 

 

「仕方ありません、信長さん!!」

 

「うむ、わしに任せよ!! 環境破壊は気持ちいいのじゃあっ!!」

 

   バリバリバリバリ

 

「ニャははははははははは……うおおおっ!?」

 

 

このままでは埒が開かないと見て、木々を飛び回るナニかを地に落とすために信長がギターで周囲の木を斬り倒した。突然足場を失い落下してきたのは……着ぐるみを纏ったようなサーヴァントだった。

 

 

   ドサッ

 

「ぬっ、誰じゃお主は!?」

 

「我が名はジャガーマン、密林の化身にして大いなる戦士たちの具現!! はーい注目ー、ここでキャッチコピー出すわ──」

 

『Noble phantasm』

 

暗黒霧都(ザ・ミスト)!! 解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!!」

 

 

落ちてきた着ぐるみのサーヴァント、ジャガーマンが自己紹介を開始した瞬間に、シールダーが宝具を発動する。霧を纏ったその斬撃は寸分なくジャガーマンを捉え、吹き飛ばし……

 

 

   ズシャッ

 

「ニャはあっ……!?」

 

「やったか!?」

 

 

 

   ピョコッ

 

「よしだいたい分かった!! オマエたちコワイ!! 特にキミはとっても恐い子!!」

 

   シュッ

 

「……逃げましたか」

 

 

しかし何事も無かったように立ち上がり、森の中に消えていった。

霧の中で解体聖母(女性特効攻撃)を真正面から受け止めて、である。あの第五特異点でのように弾かれることすらなかった、確実に臓器を捉えていたのにも関わらず、ノーダメージだったのだ。

 

 

「……ふざけた格好だったけど、女性特効宝具を受けて無傷とは末恐ろしい……」

 

「あれはギャグ補正じゃろうなぁ……あれには勝てぬ。むしろ良くわからぬ理由で返り討ちに遭うな。ま、是非もないよネ!!」

 

「もし、この森の向こうに同じような英霊(いきもの)がいたなら……そしたら……」

 

「ハハッ、本格的に不味いだろうね」

 

 

三人はそう分析する。

恐ろしきはギャグ補正、それがあるかぎり、ジャガーマンは倒せないかもしれない──それは非常に厄介だった。

 

だが、何が森の向こうで疼いているのか、進まないことにはそれすらも分からない。彼らは森の奥へとさらに足を踏み入れる。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

「ねえ、まだ晴人治らないの?」

 

「私は他の仕事で忙しい!! そのくらい見れば分かるだろう!?」カタカタ

 

 

その頃。ずっと変身し続け、開発を続けていたゲンムは、エリザベートに集られていた。

彼は作業を邪魔された怒りで数日ぶりに立ち上がり、変身を解いて適当な道具で叩こうとする。

 

しかし。

 

 

『ガッシューン』

 

「君は邪魔を……ウッ!?」

 

   バタッ

 

『Game over』

 

 

変身を解いたのがいけなかった。数日ぶりに立ち上がった彼はエコノミークラス症候群……ずっと座っていたことによって生じた血の塊が血管に詰まったことによって即座に絶命する。

 

 

「え? ……え?」

 

「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

   テッテレテッテッテー!!

 

「え? え? え?」

 

「私のライフは35から……いや、どうやら増えたようだな……私のライフは39から一つ減って、残り38……!!」

 

 

しかしすぐに土管から現れた。ドヤ顔で。

 

エリザベートは塞ぎ込んだ。それは、これまでエリザベートに酷い目に遭わされてきた黎斗にとっては、ちょっとしたストレス解消になっていた。

 

───

 

「いやー、こうしてデートするのも久しぶりだなシータ!!」

 

「そうですねラーマ様!! あ、あそこでご飯食べましょうか」

 

「うむ、僕もそうしようと思っていた!!」

 

 

その頃、仕事も無いカップルはウルクを普通に観光していた。非常に活気のある町並みはとても懐かしくて、それ故に二人はひたすらに幸せだった。

 

 

「ノッブ!!」

 

「ノブノノブ」

 

 

……その活気の半分はちびノブによる物だったが。それでも活気あることに変わりはない。

 

 

「それにしても、ここまで活気のある市だとは思っていませんでした」

 

「そうだな……ここまで発展しているのも、単にあの王の治世の賜物なのだろうな。……ここで食事したいのだが、店番はいるか?」

 

「ノッブゥ!!」

 

───

 

「櫓も出来た、槍も出来た、兵士の訓練も出来た!! 全く、ちびノブは最高ですな!! しかもあの成りでなかなか筋肉もある!!」

 

「……その通りだな。あれと戦うのはほとほとうんざりする」

 

 

兵学舎にて、レオニダスとアヴェンジャーはそう話していた。……ちびノブはウルクの防衛力を三倍にした、とはレオニダスの弁だ。

もはや、右を見ても左を見ても、上を見てもちびノブで溢れている。

物を作らせてよし、番人をさせてよし、訓練も実践もお手の物……正直信長本人より優秀にさえ思われる彼らは、ウルクの滅びを打ち消すほどで。

 

だからこそ、この状況を危機に感じてもいた。

 

 

「しかし……こうなると、割とすぐに攻め込まれそうな気もして来ますなぁ。これ以上の放置は不味い、と」

 

「……一理ある」

 

 

彼らの予想が当たるかどうかは、まだ分からない。





ビルド×FGOを考えてみたけれどサーヴァントのベストマッチがさっぱり分からなくて断念した

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