Fate/Game Master   作:初手降参

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何の為の力

 

 

 

ウルクに入って、それから暫くして。

 

 

「さて、追い出されてしまったな」

 

「黎斗さんがろくな挨拶もせずにずっとガシャットを弄っていたからでしょう……? 絶対ギルガメッシュ王怒ってましたけど」

 

 

……ジグラットの中でギルガメッシュに面会しすぐに追い出された一行は、何処となく黎斗に冷たい視線を浴びせながら外に出てきていた。

特に彼らの面会に語ることはない。黎斗は名前だけ言ってガシャットの修理、ギルガメッシュは黎斗を見て若干引いた様子で追い出した、それだけ。

 

 

「マスターも、もう少し言い方があっただろうに……」

 

「……そうか、ただの檀黎斗では印象が薄かったか。いっそ、新檀黎斗とでも名乗ってしまおうか」

 

「……駄目だったか」

 

 

ジークフリートが頭を抱える。分かりきってはいたが、このマスターにコミュニケーションを求めるのは無茶な要望だった。

 

 

「……まあ、私にはよく分かりませんが。取り合えず当面の生活は保証しましょう」

 

「……良いんですか? 貴女からすれば、私たちは訳の分からない異人でしょうに」

 

「良いんですよ。あれでも王は皆さんを気にかけている」

 

 

そう言うのは、先程までギルガメッシュの隣に立っていた補佐役のシドゥリ。どうやらカルデアの一行をサポートしてくれるらしい。

 

 

「……?」

 

「王は貴方たちを不要とは言いましたが、無価値、無意味とは言いませんでした。ですので、王に接近したければ功績を上げるのが近道かと」

 

「では、僕達も魔獣戦線に?」

 

「いえ、それは兵士の仕事です。貴方たちには……そうですね。このウルクで起こっている様々な仕事を見てもらいたいです。何でも屋みたいなものですね。仕事の斡旋はしますので」

 

 

シドゥリはそう言って、彼らを何処かに案内し始めた。一行は特に彼女に逆らう理由もなく、ゆっくりと歩き出す。

マーリンは何処かに行ってしまっていた。結局マシュは、彼の真意を聞き出すことは叶わなかった。

 

───

 

「こちらが、皆さんに提供する宿舎となります。皆さんの人数を鑑みれば少々狭いかもしれませんがね」

 

「元は酒場だったようですね……まさか一軒家をまるまる貸していただけるとは。ありがとうございます、シドゥリさん」

 

「ここがカルデアの大使館になるのね!! 素敵だわ、素敵だわ!?」

 

 

案内されたのは三階建ての、この時代なら十二分に立派な一軒家だった。黎斗はさっさと三階に向かい、ガシャット弄りを継続する。

シドゥリはサーヴァント達が荷物を取り合えず置いたのを見計らって、外から大量の粘土板を取り出す。

 

 

「と、言うわけで。明日こなしてほしい作業の依頼はこれだけですね」

 

   ドサッ ドサドサドサッ

 

轟音を立ててテーブルに置かれたそれは、テーブルの足を少し軋ませるくらいには大量で。

サーヴァント達が思わず一歩後ずさったのを見ているのかは特に確認せず、彼女は粘土板を読み上げ始めた。

 

 

「リマト氏からの羊の毛刈りの依頼、ドゥムジ工房からの麦酒の樽詰の依頼、兵学舎からの武器作成の依頼、レオニダス氏からの兵士の模擬戦の依頼、メルル氏からの仕入れの手伝いの依頼──」

 

「……のう。ちーとばかり、多くはないか? いや、多すぎはしないか!?」

 

「でも、そちらには人手もあるでしょう?」

 

 

特に悪びれずに粘土板を読み上げ続けるシドゥリ。

これは、長い滞在になりそうだ。彼らはそう察した。

 

───

 

 

 

 

 

「ここが……兵学舎ですか」

 

「そのようじゃな。おいそこの、わしじゃ!! カルデアの信長じゃ!!」

 

 

翌日。信長と信勝は、依頼されていた兵学舎へとやって来ていた。受付の兵士に顔を出してみれば、あれよあれよという間に学舎の中に引きずり込まれて作業台に腰掛けさせられる。

 

 

「おお、よく来たな!! 手伝ってくれるのはあんたらか!! じゃあ、よろしく!!」

 

 

隣に座っていた男にそう挨拶され、近くの箱から材料を渡された。

長い木の棒。尖った石。後は縄。それだけだった。

 

 

「やることは……この棒を整えて、これを、縄でつけるんですね?」

 

「おう!! 作業用のヤスリとかは一人一人の席にあるからな。じゃあ、なるべく沢山やってくれよ!! お二人さん!!」

 

 

信勝は辺りを見回した。静かだった。

隣の作業台はすっからかん、二十ほどの空席が見受けられる。兵士は殆どが魔獣戦線に赴いたのだろう。この仕事の人気が無いのかもしれない。

……信勝は立ち上がり、その空席の真ん中に陣取った。

 

 

「これを……こうして……こうする……」ブツブツ

 

「……おい、どうしたんだ?」

 

 

そして、その空の作業台の一部に棒を、一部にヤスリを、一部に縄を、一部に石を置く。並べていく。

元々信勝の隣にいた男が、怪訝そうな顔をした。

 

しかし次の瞬間には。

 

 

「……この作業なら、いけますね……ちびノブ!!」

 

「「「「「ノブ!!」」」」」

 

「「「「「ノッブー!!」」」」」

 

「「「「「ノッブノッブ」」」」」

 

「うおおおっ!? 増えた!?」

 

 

一気に人口密度が増加した。信勝が呼び出したちびノブで埋め尽くされた作業台の真ん中に腰掛けた信勝は、ちびノブ達の座る机ごとにどう作業するかを伝え、武器作りを開始する。

 

 

「いいですね? そこのちびノブは棒を持ってサイズ調節、そことそことそこで削って形を整えて、そことそこのちびノブで縄をかけ、そこで石をくくりつける。で、その隣のちびノブが使えるか確認してください。向こう側の列も同じです。いいですね?」

 

「「「「「「「ノッブー!!」」」」」」」

 

 

一人きりの大工場が唸りを上げる。

 

───

 

「……うぃー、ひっく」

 

「すまない、何故勝手に試飲したんだエリザベート?」

 

 

ドゥムジ工房……ウルクのビール工房では、ジークフリートとエリザベートが酒樽を持ち出す作業に駆られていた。のだが。

 

エリザベートが勝手に酒樽をあけ、少しだけ少しだけと言いながらジョッキ二杯分ほど飲んでいた。

おかしい、彼女は未成年だった気がするが……勘違いだったのだろうか。

ジークフリートはそう考え首を捻りながら酒樽を荷車に積んでいく。

 

 

「えーと、何でかな、あー……ひっく、そうよ!! 私の中のドラゴンが騒いでるのよ!!」

 

「すまない、風評被害は止めてくれないか?」

 

 

エリザベートは何とか言い訳をしてみるが当然通じない。何しろ言い訳をしている相手は同族も同族、ドラゴンである。舞い降りし最強の魔竜である。

 

 

「うぃー……うぃー……」グリグリ

 

「ストッパー……すまない、誰かストッパーはいないか!?」

 

 

しかもどうやら絡むタイプの酒癖だったらしい。エリザベートはジークフリートの背中に肘をぐりぐりする。

残念ながら晴人(ストッパー)はお休みだ。

 

───

 

「さて、今から百人組み手を行いますぞ!!」

 

「「「「「ウォー!!」」」」」

 

 

その頃。東兵舎の方では、マシュとアヴェンジャーが兵士の模擬戦をするため身構えていた。

依頼者であるレオニダス……ギルガメッシュが呼び出したサーヴァントは、新兵達に活を入れて次々に送り出していく。

 

 

「……オレ達は誰も殺してはいけない、というのが難儀だな」

 

「そうですね。ですが、気を抜きすぎるのも失礼ですし」

 

 

マシュがエクスカリバーを抜き、構えた。そして新兵の槍を打ち砕き、そのまま彼女は敵陣に突撃していく。

 

 

「……クハハハ、自ら獣の真似事をするとはな。だが……悪くない。いい洒落だ……全く」

 

 

そして彼女に続くように、アヴェンジャーも炎を纏って突進した。

 

───

 

「羊の毛刈りと言われても……」

 

「ラーマ様、まさか羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)で……?」

 

「いやいやいやいや、僕もそこまで馬鹿じゃあない」

 

 

ラーマとシータはウルク郊外にて、羊の毛刈りの手伝いにやって来ていた。傍目からはデートにしか見えなかった。

 

彼らは襲ってくる魔獣の類いを吹き飛ばしながら、和気藹々ともこもこした羊の毛を刈っていく。

 

 

   ザッ ザッ ザッ   モフッ

 

「これ凄い、凄いモフモフですよラーマ様!!」モフモフ

 

「ああモフモフだな!! 凄いモフモフであるな!!」モフモフ

 

「ブモー……」

 

「……あ、魔獣か。羅刹を穿つ不滅(ブラフマーストラ)!! それにしても……モフモフだな、シータぁ……」

 

 

……何時しか二人は毛を刈るのも忘れて、二人して同じ羊に抱き付きひたすらにモフモフしていた。半径30メートル以内に入ってきた魔獣は、ラーマが宝具で吹き飛ばしていた。

 

 

「モフモフ……」モフモフ

 

「モフモフ……」モフモフ

 

 

「めぇー……」

 

 

笑顔のラーマ(彼氏)。笑顔のシータ(彼女)。凄く迷惑そうな(被害者)

その姿には誰も近寄れない。幸せオーラを前にしては、男も女も接近は気が引ける。

 

その日最も仕事をしなかったのはこの二人だったかもしれない。

 

───

 

 

 

 

 

「イエーイ!! 仕事終わりィ!! 疲れたのう信勝、この後は歓迎の宴会のようだし、早く帰るぞ!!」

 

 

日はもうとっぷりと暮れてしまった。兵学舎の全ての資材を武器に作り替えた信勝は、疲れてテンションがおかしくなり始めた……つまり、何時もとあまり変わらない信長と共に寝床へと戻る。

 

 

「……姉上」

 

「何じゃ?」

 

 

信勝が歩きながら呟いた。彼の顔にはありありと疲労が浮かんでいるが、それと共に笑顔もあった。

 

 

「……何となく、姉上の気持ちが分かるようになってきました。……楽しいんですね、誰かに感謝されるって」

 

「……そうじゃろう? お主も漸く分かってきたか」

 

「……この力は、皆のために使えるものだったんですね。ただ戦うためじゃなくて、その向こうで誰かを幸せにすることが出来る……」

 

「……そういうことだ。ほら、早く行くぞ信勝!!」

 

 

信長はだんだん早歩きになり始めていた。余程空腹なのだろう……サーヴァントだが。

信勝は小さく笑い、姉の後を追っていく。

 

───

 

「それでは、カルデアのウルク就任を祝って、乾杯!!」

 

「「「「「かんぱーい!!」」」」」

 

 

そして宴会は始まった。……相変わらず黎斗は三階に立て籠っていたが。結局今日一階に顔を見せた時は一度、それもサーヴァントに誰がいるかを確認しただけだった。

どうやら、マジックザウィザードの他にもいくらか調整しているようだ。何か作るのだろう。

 

 

「……むう。黎斗殿に一献注いでみたかったのだが」

 

「仕事中の人間にあるこーるはよくありませぬぞ義経様。義経様自身もあまり飲み過ぎはいけないと思いますがな」

 

「ええ、酒は飲んでも飲まれるな、ほどほどで行きましょう」

 

 

そう言いながら麦酒を煽っているのは、ギルガメッシュに召喚されたサーヴァント達。それぞれ、ライダー・牛若丸、ランサー・弁慶、アサシン・風魔小太郎。見事に日本に偏っていた。ランサーのレオニダスは、兵学舎から届いた武器の山の仕分けを行っているらしい。

 

 

「これだけのサーヴァントがいれば、このウルクは守れるでしょうか」

 

 

マシュがそう言った。

しかし、油断はならない。聞けば、これ迄にも強力なサーヴァントが倒されているらしい。

 

だからこそ今日は休んで、明日からの戦いに備えよう。全員がそう思っていた。

 

───

 

「……」カタカタカタカタ

 

 

その二階上、三階の自室にて、黎斗……いや、ゲンムは全くの新作に着手していた。

 

 

「ヴゥ……」バタッ

 

 

彼の姿はデンジャラスゾンビ使用時のもの、つまりマイティアクションNEXTとデンジャラスゾンビの二本差し。

そうまでして彼が現在していることは、かつて棄てたデータの回収と復元。

 

 

「ゥゥゥ……まさか、風魔小太郎がいるとはなぁ……」カタカタカタカタ

 

 

何度も死んで甦ってを繰り返す彼の目には、『ニンニン忍者』の文字が踊る。

ゲンムは笑っていた。

 

その姿を、マーリンは千里眼を駆使して隣の部屋で観察していた。

 

 

「……やっぱりね。私の見立ては正しかった」

 

 

部屋に届く月明かりは冷たくて。マーリンはそれを見上げ、何でもない様子で部屋を出た。

 




初手降参渾身のギャグ回

……やっぱ、ヒロインを闇落ちさせて喜ぶ野郎にギャグは無理だったんだな、って

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