シリアル名乗ってるのが流石に違和感出てきた
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「……では」
アルトリアがそう言うと同時に、彼女を中心に風が吹いた。金色のエクスカリバーが輝きを増す。
そして次の瞬間には、彼女はマシュの眼前で剣を振り上げていた。
ガキンッ
「速いっ……!!」
「……はあっ!!」
ブワッ
「ッ!?」
一度剣を交えるだけで吹き飛ばされるマシュ。真に聖剣を己の物としているアルトリアは、マシュとは段違いの強さだった。
マシュと入れ違うように飛び出したネロも、アルトリアの剣戟に押され気味で。
そして立ち上がったマシュは、ギャラハッドに道を塞がれていた。
「……貴方が、ギャラハッド」
「……ええ。こうして面と向かって話すのは久し振り……いえ、初めてかもしれませんね」
「……ですね」
ギャラハッドの姿は、かつてのマシュの様だった。薄いピンクブロンドの色の片目を隠す髪、黒い鎧……それは、マシュに棄てられた残りカスだからだろうか。
そして、彼の持つ円卓の盾は継ぎ接ぎだらけだった。
「……貴方は後悔していますか? 私の命を繋いだことを」
「……」
マシュはそう聞いていた。自分の決断は正しいと思っているが、それはそれとして……自分が切り捨てた
「……私の命は、貴方によって繋げられました。今私がここに立っているのは、貴方のおかげ……ありがとう。ですが……私の前に立つのなら」
「……貴女は強い人だ。貴女は尊い人だ。私が貴女に未来を託したことは間違っていなかった、私は今でもそう思っています。……でも、私はやはり、後悔していないわけではない。貴女に人類の未来を背負わせてしまった。そしてその結果、貴女は……」
ギャラハッドはそう呟く。その手は震えていた。
以前ベディヴィエールはギャラハッドのことを、強き騎士や堅き騎士、猛き騎士の集う円卓において武を誇らず、精神の在り方を示した騎士と評していた。そして、それが本来の自分の根幹になっていたのだろうとも。
少しだけ寂しく思った。でもその思いに蓋をして、マシュは明るくなっていく聖剣を握りしめる。
「……貴女は悪くありません。勝手に貴女に託し、勝手に貴女に清くあれと望んだ私が貴女を糾する権利はありません」
「……私は貴方に救われた。それでも、この命は私のものです。歩くのは私の未来です。故に……私は行きます」
そして、マシュはギャラハッドの円卓に斬りかかった。ギャラハッドはその剣を弾き、勢いのままにマシュを突き飛ばす。それでもマシュは飛び上がり、ギャラハッドを責め立てる……そんな構図が作られていく。
「……マスターも頑張っている故な、余も簡単には負けられぬ」
「私も彼女の努力は見てきました。だからこそ、彼女に話がしたいのです。
ブワッ
その横で、アルトリアとネロが斬り結んでいた。しかしネロの方が押され気味なのに変わりはなく、既にネロは傷だらけだ。
「……む。体の、限界が近いか……」
その上、彼女の体はブレ始めていた。バグスターとしての体に異常が出始めたということなのだろう。
「……これは、よくない。実によくない……むう、仕方がない。余はまた少しだけ休む。すまないなマスター」
そしてネロは、再びマシュの中に戻っていく。
「……お疲れ様ですネロさん。ハアッ!!」
「フンッ!!」
ガンッ ガキンッガキンッ ズガンッ
マシュとギャラハッドはやはり戦っていた。
盾がマシュの胴を捉え、剣がギャラハッドの腕を削り、盾がマシュの頭蓋を打ち、剣がギャラハッドの足を抉る。
そんな戦いが続いていた。
「……やりますね、マシュ」
「これまでの旅で、強くなりましたから。ハアッ!!」
ガキンッ ガンズガンッ
それは高速だった。ともすれば、光速にすら迫っていたかもしれない。そんな二人の戦いのなかに、アルトリアが強引に割り込む。
「……一度下がって下さい、ギャラハッド」
「……分かりました」
ギャラハッドに割り込むように乱入したアルトリアが、マシュに剣を向けた。そして言う。
「……私は。ある男を知っています。かつて大災害で自分だけ生き残り、それに大きな責任を感じ、そして正義の味方になってみせようと世界に魂を売った
……それは、マシュがこれから歩むかもしれない未来。マシュは、優しすぎる……アルトリアはそう思っていた。
「マシュ・キリエライト。……守護者になる他に、手段はなかったのですか? 他にも、守護者にならずとも黎斗に抵抗する手だてがあった筈です。だから……」
「だったら……だったら!! だったら私は!! どうすればよかったんですか!?」
……アルトリアの言葉を打ち切るようにしてマシュは叫んだ。そう叫んだ。残された力の限り。何故なら、いまさら諦めることなんて、出来ないから。
「誰がなんと言おうと!! 私のあのときの無力感は、私のあのときの嘆きは、私のあのときの絶望は、私のあのときの悲しみは、決して嘘なんかじゃなくて!!」
「っ……」
「マシュ……」
「
涙が止めどなく溢れる。腕が熱い。肩が熱い。体が焼けるように熱い。頭が痛い。脚が痛い。全身が軋むように痛い。視界が滲む。嗚咽が漏れる。心が割れそうなくらい辛い。
「あの涙、あの犠牲、あの痛み、そしてその中で見たあの光!! それらを……私は無駄には出来ない!! だから!!」
それでも立て。剣を持て。その剣の極光をもって、あらゆる否定を押し潰せ。止まるな。例え血の涙を流そうとも、例え腹を穿たれようとも。決して止まるな。止まるな。止まるな。
マシュの決意は曲がらない。故に、彼女を形作る全ては、人理修復のためだけに動く。
「私が救う。私が救う。あらゆるモノを私が救う。それが、私が私に見いだした、最後の、最後の!! ……存在価値なんです!!」
……マシュのエクスカリバーは、カルデアスを思わせる水色に変化しきっていた。その目映い光は、騎士王のエクスカリバーの金の光と並び立つほどの明るさで。
「……ならば、その思いの正しさを証明しろ!! その願いに先があると示せ!! 貴女の理想が真に正しきものであるならば、この盾を越えてみよ!! 真名、開帳……私は災厄の席に立つ!!」
ギャラハッドが彼女に張り合うように叫び、その盾を大地に突き立てた。
「其は全ての疵、全ての怨恨を癒す我らが故郷――顕現せよ、
城が立つ。それを囲う城壁が立つ。それは本来ならマシュが手に入れるはずだった宝具。清らかな者の手にあるかぎり決して壊れない城壁。
そして相対するマシュが、エクスカリバーを振り上げた。
「ええ、越えて見せます……!! 私が人理を救うために!!」
彼女の頭上で輝けるその剣こそは。過去を巡り絶望を知り、その中でもがき苦しんだ少女が、今際の際に掴んだ悲しくも尊き夢―――『人理修復』という名の祈りの結晶。
その意思を高々と掲げ、その信義を貫くと決意し、今、最新の守護者は高らかに、 手に執った奇跡の真名を謳う。 其は――
「完全解放ッ!! 束ねるは人の息吹、流れ行く人理の奔流!! ……打ち砕け!!
……その煌めきは、紛れもなく聖なるものだった。 その強さは、アルトリアのものに迫っていた。つまり彼女は、真に聖剣を己の物としていた。
彼女から放たれた青、いや、むしろ銀色にも近い光は、キャメロットの城壁に突き刺さり、ひび割れさせ、そして打ち砕いたのだ。
……それは、マシュにしか出来ないことだった。
かつては円卓の盾を持ち、現在はエクスカリバーを持ちながらも、円卓の騎士ではなく、己自身がマシュ・キリエライトだと断言した彼女にしか。
聖なる光は、不滅の城壁を打ち砕いた。そしてその向こうにいたギャラハッドを消し飛ばした。さらにその向こうにいるアルトリアすらも捉えていた。
「……貴女の勝ちです、マシュ・キリエライト」
アルトリアはそう言った。彼女はマシュのエクスカリバーを己のエクスカリバーで相殺していたが、それでも左手に傷を負っていた。
「……確かに、貴女の言葉にも一理はあった。私たちはただ無責任に憤慨するのではなく、新たな手段を探すべきだった……いや、今から探してみせる」
「……」
「……待っていてください、マシュ。貴女の道のその先の光は尊いものだ……でも、その他の光だって存在する。貴女にはまだ選択肢がある」
「……アルトリアさん」
「この勝負は貴女が勝った。でも、もう少し、自分のやりたいこと、自分の未来を、もう一度見直して下さい。……貴女はもう円卓の騎士ではありませんが。私は、私たちは貴女と共にありましょう」
───
「……戻って、来たんですね」
彼女は、ベッドに寝転がり天井を見上げていた。手に取ったままのガシャットを触ってみれば、ギアの故障は無くなり、スムーズに動くようになっていて。
「……私の、やりたいこと……」
時計を見る。時間は、信長と信勝が去ってから殆ど経ってはいなかった。微妙に酒の匂いが残っている。
「……あ、忘れ物」
その酒の方を見てみれば、信長が忘れていったのであろう、バグヴァイザーが置いてあった。
「やりたいこと……」
……マシュはそう呟きながら立ち上がった。かなり崩れてしまった外套を羽織なおし、カルデアスのような水色に染まったエクスカリバーを背負って、プロトガシャットギアデュアルBとバグヴァイザーL・D・Vを持って。
「やりたいこと……」
そしてマシュは部屋を出る。何をしたいか。彼女の中にまだ自分だけの為の純粋な意思というものがあるのかは彼女自身にもよく分からなかったが、一つだけ、やりたいことがあった。
「……今こそ」
約束を果たしに行こう。
マテリアル5
『
ランク:A++ 種別:対城宝具
返せなかった聖剣を受け継いだもの。盾を失ったマシュ・オルタの持つ神造兵器。
人理を乱す者に最大の威力を発揮する剣。彼女の剣はカルデアスと同じ水色に輝き、その全力をもって敵を凪ぎ払う。その果てに己が消滅しようと構わないと言わんばかりに。