Fate/Game Master   作:初手降参

75 / 173
幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負③

 

 

 

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  第四試合 セイバー・湖の騎士》

 

 

「……んっ……」

 

「……起きたか、マシュ」

 

 

マシュはやはり、白い空間の中で目を覚ました。枕元にはランスロットが傍らに剣を突き立てて静かに座っている。

マシュは起き上がり、しかし無防備なランスロットに斬りかかるのも何か気が引けて、ランスロットの前に座り直した。

 

 

「……私は戦うつもりはない。いや、君が望むのならそれはそれだが」

 

「いえ、別に……でも、どうして?」

 

「一つ質問があるだけだからな、態々剣を取るなど」

 

 

ランスロットはそう言う。剣に手をかける素振りは微塵もない。

どうやら騙し討ちではないのだろう。マシュは耳を少しだけ傾ける。まあ、いつでも斬りかかれるようにはしているが。

 

 

「……君に何があったかは何も問うまい……先程言った通り、私が聞きたいことはただ一つ。魔術王を倒して人理を救ったあと、君は、何がしたい?」

 

「っ……!?」

 

「君の理想は尊いものだ。……私はその美しさを知っている。そしてその美しさの果てにある悲しみを。だからこそ、君の未来が見たい」

 

 

ランスロットの口から出たのは、予想外の言葉だった。

人理修復の、その後。マシュは考えていなかったこと。

 

マシュの中にあったのは、人理を救うという命題だけだった。自分はもう、その為のプログラムになったのだ。それは後悔などするわけがないし、自分にはそれだけでいい。そう思っていた。

 

だが……ああ、人理修復を終えた後。

マシュにはそれが遠すぎて、全く現実味が沸かない。

 

 

「……魔術王を倒せたなら。私は、次の人理の敵を討ちに行きましょう。次の敵を討てたなら、その次を。そしてまた、その次を」

 

 

だからそう言った。それだけが彼女の価値だから。彼女自身が人理を救う、マシュ・キリエライトはそれしか望まない。

ランスロットは唇を噛んでいた。そして下を見つめ……再びマシュの目を見る。

 

 

「……これは、私の記憶だが」

 

「……」

 

「……ある少女がいた。少女は王になった。その王は、国よりも人を愛した……そして人を守るために、己の人間性を封印した。……君と同じだ」

 

「それは……その、少女は……」

 

「王の心は人々には伝わらなかった。誰も王を理解してやれなかった。……そして、一人の騎士がこう言って出奔した……『王は、人の心が分からない』と」

 

 

彼が語るものは過去。彼が抱えるものは悔恨。

ランスロットは裏切りの騎士だ。苦悩に溺れ、王を裏切り、彼女の死の遠因となったものだ。

 

 

「王はそれでも、城の中で孤立しても人を愛した。……自分は誰にも、愛されないまま。誰かが彼女を救わなければならなかったのに」

 

「その王と……私が、同じ?」

 

「ええ……かつての私は彼女を救わなければならないと思っていた。なのに、己の苦悩に溺れて狂ってしまった。……私は過ちを悔いている。裁かれたいと思っている。そして……もう同じ過ちをしたくない。だから、私は君を、何としてでも救いたい」

 

 

そして彼は、己の生前を悔いていた。そして、過ちを繰り返したくない、とも考えていた。

だからこそ彼は語る。

 

 

「……私は……私は……」

 

「……私が察するに、君は人理修復後にもすぐに戻る必要はない。少なくとも君が限界していられる限り、君は守護者として働く必要はないはずなんだ。だから……だから聞きたい」

 

 

……マシュには、彼の言葉に答えられるだけの、未来がなかった。

 

 

「何で、何でそんなことを……」

 

「……教えてくれ。君は……」

 

 

ランスロットはそう聞いて……

 

……そこで突然剣を抜き、背後に振り抜こうとした。

 

 

我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)っっ!!」

 

   ズシャッ

 

「が、あがぁっ……!?」

 

 

しかし間に合わなかった。ランスロットは突然現れたモードレッドに肩から背中にかけて深く深く傷を入れられ、たまらずその場に膝をつく。

 

 

「ぬかったなランスロット。鉄の戒め!!」

 

   ジャラジャラジャラジャラ ググググ

 

「がああああっ!!」

 

 

その上で、黒い鎖で頭蓋を締め上げられ、砕け散るようにその場に消えた。

しかも、彼は戻ってこない。ブーディカやナイチンゲールはすぐに再生したのに。

 

 

「……ランスロッ、ト……」

 

「……彼は暫くは戻るまい。そうあるように鎖を調整している」

 

「と、言うわけで……さあ、次はテメェの番だ!! オレはテメェは心底気に食わねぇ……円卓の騎士すら捨てた……盾ヤロウを切り捨てた……父上の誇りを蔑ろにした、テメェが死ぬほど気に食わねぇ!!」

 

 

ランスロットのいた場所を踏みつけて、モードレッドがマシュに迫る。マシュは素早くそこから飛び退き、戦闘体制をとった。

 

 

「っ……」

 

「……我々は対話など不用だ。ひたすらに貴様を潰そう。潰そう。我々は相容れるつもりはない、力が欲しければ……力付くで捻り潰せ!!」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  五・六試合目 

  セイバー・暴走する剣

  バーサーカー・鉄の戒め》

 

 

「……はあっ!!」

 

「甘イんだよ!!」

 

   ガキンッ

 

 

エクスカリバーを抜いたマシュが、モードレッドに斬りかかる。

……しかし彼女は、ランスロットの死で否応なしに動揺していた。力の入りきっていないエクスカリバーはクラレントに受け止められ、地面に押し付けられた上で、アグラヴェインに奪われる。

 

 

「……これは回収する。貴様が我が王の剣を使うなど反吐が出るほどおぞましい」

 

「当然だな!! 父上の剣使うなんておこがましいにも程があるぜ!!」

 

「っ……!! それならっ!!」

 

 

ガンド銃を構え、数発を放つマシュ。しかしそれらは易々とクラレントに砕かれ霧散する。

 

 

「なら……これを!!」

 

「ほう、あのルールブレイカーか。だが……その程度の短剣で何が出来る?」

 

 

次にマシュが取り出したのはルールブレイカー。しかしそのリーチは、モードレッドにら遠く及ばない。

彼女は飛んでいた鉄の戒めを斬り伏せながらモードレッドに近づこうとするが、その前に相手は充填を終えていて。

 

 

「さあ、砕け散れ!! 我が麗しき父への反逆(クラレント・ブラッドアーサー)!!」

 

「っ……!!」

 

   カッ

 

 

赤雷がマシュの視界を多い尽くした。マシュは咄嗟に眼前で腕を組み、防御の体制をとる。……しかし吹き飛ばされた。当然だ、力で敵う訳がない。

 

 

「きゃあっ……!!」

 

「ハッ!! ざまあねぇな!! ……アグラヴェイン!!」

 

「分かっている」

 

 

そしてマシュは、鉄の戒めに縛り上げられた。アグラヴェインが彼女に近づいていき、奪い取ったエクスカリバーを振り上げる。

 

 

「今度こそ終わりだ。死ね」

 

「っ……」

 

 

「それはさせないぞ、アグラヴェイン」

 

   ガンッ

 

 

それを防いだのは、蘇ったランスロットだった。彼はアグラヴェインを蹴り飛ばし、エクスカリバーを奪い取り、マシュの鎖を叩き斬る。

 

 

「ランスロット!! テメェ、出てくるのが早すぎるぞ!! おいアグラヴェインどういうことだ!!」

 

「チッ……思った以上に抵抗されたらしいな。だが、まあ。また倒せばそれだけだろう?」

 

 

怒鳴るモードレッド、舌打ちするアグラヴェイン。ランスロットは彼らを警戒しながら、マシュにエクスカリバーを返還する。

 

 

「……さあ、終わらせるぞマシュ。ここで君が終わるのは、私が悲しい」

 

「……ええ、行きましょう」

 

 

そして二人は、同時に剣を振り抜く。マシュのエクスカリバーは、青緑から深い青に変色していた。

 

 

縛鎖全断(アロンダイト)過重湖光(オーバーロード)!!」

 

「擬似展開・約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

 

……青の二本の光が、モードレッドとアグラヴェインを消し飛ばした。彼らは直ぐ様元に戻るが、それでも体の自由が効かない状態で。

 

 

「まだだ……まだ、私たちは立ち上がる……」

 

「ナメんなよ……?」

 

「何度でも相手をしよう……!! いけるな、マシュ?」

 

「ええ……!! 徹底的にっ!!」

 

 

両者再び睨み合う。全員がその剣を敵に向けて、再び一斉に走り出そうとし……

 

 

 

 

 

「止めてください、皆さん」

 

 

「っ!?」

 

「その声……父上!!」

 

 

……制止がかけられた。声のした方を見てみれば、セイバーのアルトリア・ペンドラゴンと、その傍らに立つ盾を持った騎士。

 

 

「もうその試合は終わりました。次は私たちの番です……行けますね、()()()()()()

 

「……はい、何時でも」

 

 

「ちぇっ……じゃあ、負けを認めてやるよ。帰るぞアグラヴェイン。ランスロットもだ、父上を煩わせていいなんてことは無いだろ?」

 

「……了解した」

 

「……マシュ。私は一先ず消えるが、君の未来については、一度しっかりと考えてほしい」

 

 

円卓の騎士三人はそうして空間から消え失せた。

マシュの前に立つのはアルトリアと、己が切り捨てたギャラハッドの残りカス。

 

マシュはエクスカリバーを握り直した。彼女の聖剣の深い青の光が輝きを増し、段々と明るい色に変化していく。

 

 

「……もう回復は十分ですよね、ネロさん?」

 

「うむ!! ……では、行くぞマスター?」

 

「……ええ!!」

 

 

そして彼女は、再び体内から呼び出したネロと共に並び立ち、眼前に存在する最後の試練に立ち向かう。

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  七・八試合目

  セイバー・騎士達の王

  シールダー・棄てられた者》




マテリアル4

守りたい先輩のなかった彼女は、小さな目的にも人理修復を当てはめる他なかった。それはつまり、ごく個人的な感情で世界を救うということ。……人間の身に余る行い。
彼女はその小さな体で、全人類を守る盾になろうとした。そして、どうしようもなく歪んでしまった。

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。