Fate/Game Master   作:初手降参

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幕間の物語 ブリテン英霊八番勝負②

 

 

 

 

 

「……オレも聞きたいことがあるからな。最も新しい守護者(正義の味方)に」

 

「ロビンさん……!!」

 

 

そこにいたのはロビンフッド……生前はシャーウッドの森に潜み圧政者に抵抗した義賊(正義の味方)。英霊となった彼が、最新の後輩に牙を剥く。

 

 

「まあ、焦らずゆっくり話し合いましょうや。ゆっくりと、な……祈りの弓(イー・バウ)!!」

 

   グサッ

 

「矢を、大地に……!?」

 

「この感じ……不味いぞマスター、この空間全体に毒が回った!!」

 

 

彼は大地に矢を突き立て、毒の空間を産み出した。彼は己のホームグラウンドの形成を確認し、そして静かに矢を構える。

 

 

「……取り合えず、こっちの主張から聞いてもらうぜ? 顔のない王(ノーフェイス・メイキング)発動……無貌の王、参る」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  二試合目、アーチャー・顔のない王》

 

 

その掛け声と同時に、ロビンフッドは姿を消した。マシュはそれがロビンフッドの宝具だということは既に十分知っていた。

マシュはネロと背中合わせになり、四方八方から突然飛んでくる矢を切り伏せる。

 

 

「む、姿を見せい!! これじゃあ勝負にならぬだろうが!!」

 

「……とは言ってもさ、今のオレのやり方が、これからそこの嬢ちゃんが行く道になるんだぜ?」

 

「ぐ……」

 

 

そしてロビンフッドは、絶えず隠れて矢を放ちながら、己の生前について語り始めた。

 

 

「……オレは元々、反骨心で動いていただけの殺人者だった。親父を看取ってもらった村人を苦しめたジョンとかいう王が気に食わなかったから倒してやろうって思っただけのな」

 

「……」

 

「でもさ、オレ一人で軍隊を相手取るなんて、到底無理だった訳よ。数が圧倒的に違った……だから、全部を欺いた」

 

 

降り注ぐ矢の雨。それら全てには毒が塗られている。

現在のマシュに対毒スキルは無い。彼女は己の中からギャラハッドを既に排除していたから。

 

 

「全部を欺いたさ。全部。当然正体は隠した。誰にもオレの顔は見せなかった。村人にもだ……当然、面と向かっての感謝なんてありえなかった」

 

 

その結果の宝具が顔のない王(ノーフェイス・メイキング)。未だにそれは発動し続け、マシュは極度の緊張の中のまま。そして彼女の隣のネロは、軽く頭痛を覚えていた。

 

 

「ぐ……毒が回り始めたか? そっちは大丈夫かマスター?」

 

「ええ、まあ……」

 

「ならいいが……気を付けるがよいぞ」

 

「ええ……」

 

「……欺くと言えば戦い方もだな。まあ知っているだろうが、オレのやり方は奇襲奇策に特化している。当たり前だがそれも生前からだ」

 

 

毒の空間を跳ね回るロビンフッド。その戦い方は騎士道には程遠い卑しいものであり、その戦い方はロビンフッド本人すら好んでいた訳ではなく。

 

 

「軍隊を相手に戦うなら正攻法なんてまずありえねぇ……待ち伏せでちくちくと数を減らし、食事に毒を盛って殺す。『せめて戦場で死なせてくれ』なんて言われたこともあったが……無視して殺した」

 

「……」

 

「いいか? アンタの行く道は地獄だ。感謝なんてまずありえねぇ。これから殺す人々に泣きつかれても蹴り飛ばし、彼らの唯一の望みすらも踏みにじる。それがアンタの行く道だ。……耐えられるか?」

 

「っ……そのくらい、勉強済みです!!」

 

 

マシュはそう言った。冷や汗を垂らしていた。ロビンフッドは姿を隠したまま畳み掛ける。

 

 

「……本当にそうか? ……アンタは、殺せるのか? 自分の前で、家族を思って大人げなく涙する父親を? もしくは、夢が叶わないと察して絶望する若者を? アンタの場合は、基本的に皆殺しだ。さっきは、せめて記録を残す、と言っていたが……それだけで、お前は罪滅ぼしを満足出来るのか?」

 

「……」

 

「どうなんだ? お前は皆殺しにして耐えられるか? 無念は無いのか? 満足なのか? ……いつまで信念を曲げずにいられる?」

 

「ぐ、う……私は、絶対……!!」フラッ

 

「っ、膝をつくなマスター!! とにかくあれを下せばいいのだろう?」

 

 

マシュは一瞬目眩を覚えた。彼女は恐らく毒のせいだと思った。

ネロが慌ててマシュを激する。彼女の腕を掴んで再び立たせ、そして剣を見えないロビンフッドに向ける。

 

 

「なら……全方位焼き払うまで!! ちょっと後々の反動が厳しいけどまあ許してもらいたいのである!! 誉れ歌う黄金劇場(ラウダレントゥム・ドムス・イルステリアス)!!」

 

 

その上で、強引に宝具を転回し空間全てを攻撃した。

フィールドが燃え上がる。否応なしに攻撃をくらい転がるロビンフッドは、さらにそこに追撃が加えられて一気に劣勢に追い込まれた。

 

 

「ぐ……」

 

「そこっ!!」

 

   

そしてさらに畳み掛けようとマシュがエクスカリバーを構えて踏み込む。ロビンフッドは懐から二本の短刀を取り出して受け止めるが、勢いの前には押されぎみで。

 

 

   ガンッ

 

「ぐ、ぐ……」

 

「があっ……!!」

 

「……もう少し耐えてくれマスター!! かなりきついが、第二波を……!!」

 

 

そしてその後ろで、息を切らしながらネロが宝具の充填を進めていた。ロビンフッドが爆発四散する未来は遠くない。

 

 

「チクショウ……何か、手は……!!」

 

「ここで、斬る!!」

 

   グググググ

 

「があっ……!!」

 

    (「すべての毒あるもの、)    (害あるものを絶ち、)    (我が力の限り、)    (人々の幸福を導かん……!!」)

「……ん? 何か言ったかマスター?」

 

「いえ、何も……!!」

 

   グググググ

 

「がはあっ……くっ……!!」

 

 

ロビンフッドの肩にエクスカリバーがめり込む。どうしようもなく、剣の重みが違っていた。

 

……しかしマシュは目の前の敵に執心する余り気づいていなかった。乱入してきた新たな敵に。

 

 

我は全て毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)!!」

 

   ズダァンッ

 

「うぉあ!? 劇場が木っ端微塵に!?」

 

「きゃあっ!?」

 

「ぅおああっ!? ……おいおい、毒まで消えちまった!!」

 

「っ……この声は、まさか……!!」

 

 

《ブリテン英霊八番勝負

  三試合目、バーサーカー・小陸軍省》

 

 

その声の方向を見てみれば。第五特異点でマシュを激励して去ったナイチンゲールが立っていた。

 

 

「ナイチンゲール……さん……」

 

「……貴女は病気に侵されていると、以前言いましたが。言いましたが……貴女、全く治す気ありませんでしたね!?」

 

 

その顔は怒りに震えていた。握り拳を作った彼女は、全速力でマシュに殴りかかる。

 

 

「はあっ!!」ブンッ

 

   グシャッ

 

「くっ……」

 

「今の貴女は、例えるならばそう、病に望んで感染し、苦しんで苦しんで……勝手に自分で抗体を作り上げて適応してしまった状態です!!」

 

「それならそれでいいだろう……?」

 

「いいや、違う!! 本来病は人の体にいるべきではないもの、病を排除するのが看護師です!! 故に!!」

 

 

そこから始まったラッシュ。その拳はマシュの鳩尾の最も防御の薄い部分を何度も抉るように殴り付ける。マシュは耐えきれずに後方に転がっていく。ネロは仕留めきれなかったロビンフッドを押さえ込むのに精一杯だ。

 

 

「いいですか、世界の崩壊を止めるなんて、一人で背負い込むべきではなかったのです。正気の沙汰ではありません、絶望的すぎる!! ……狂うしかありません。かつての私のように、今の貴女のように」

 

「狂ってる自覚なんて、十分にありますよ……!!」

 

「ええ、でもその自覚は本来不用なもの!! 努力をする必要はあった、でも重荷を背負う必要はなかったのです!! 磐石の体制を整えたとしても兵士は死に、病人は生まれてくる……だから、もう少し、気楽に決めても良かったのに!!」

 

 

ナイチンゲールの目は最大まで見開かれていた。対するマシュはおかしな所を痛め付けられたのか、片目から血涙を流す。

互いに涙目だった。そして互いに攻撃の手は休めなかった。マシュはエクスカリバーでナイチンゲールを袈裟斬りに切りつけ、ナイチンゲールはマシュの関節を逆方向にねじ曲げる。

 

 

「無理をしなければ救えないものがあるんです!! 貴女がかつて無理に無理を重ね寝たきりになってでも兵士たちを救ったように、私は精神が死んだとしても人を救い続けたい!!」

 

「それがいけないと言っているのです!!」

 

「貴女が言うなぁっ!!」

 

「っ……!!」

 

 

マシュはエクスカリバーを大きく振り抜いた。その光は緑から青緑に変化し、マシュの腕まで光で包み込む。

 

 

「私は、人々の明日を守るんです。誰かを殺したら過ちの連鎖を絶対に断ち切る、亡くした者の信念を次に繋げる、その上で人々の明日を守るんです!! そしてその果てに、人理を救うんです……!!」

 

「……私の嫌いなものは、治療を拒否する患者です。貴女の信念は正しいが病んでいる。だから私が、全力で切り落とす……!!」

 

 

ナイチンゲールが迎え撃つように姿勢を低くした。短距離の陸上選手のような、獲物を見つけた獣のような、そんな体勢。……向こうもこの一撃に全力を籠めるのだろう。

そして二人は同時に攻撃をしかける。

 

 

「はああああああああああっ!!」ダッ

 

「擬似展開・約束された勝利の剣(エクスカリバー)!!」

 

   ズバァンッ

 

 

……マシュがエクスカリバーから展開したものは、巨大な刃だった。我はすべて毒あるもの、害あるものを絶つ(ナイチンゲール・プレッジ)に勝るとも劣らぬサイズの刃だった。

そしてそれは、飛び蹴りを行ったナイチンゲールを空間から消し飛ばし、さらに直線上にいたロビンフッドまで両断して……

 

 

「……」スッ

 

「……分かりました。私の負け、ですね」

 

 

……マシュは再生したナイチンゲールの首筋にエクスカリバーを突き付け、降参させた。

 

それは勝利の宣言であり対話の拒否。

 

……彼女は、最早かつてのマシュ・キリエライトではない。英霊との会話も、己の信念に障るなら切り捨てよう、そんな考えになっていた。

 

 

「では仕方ありません。私はここで敗退しましょう……ですが忘れないで。私は貴女の治療を諦めた訳ではない……私が治療の機会を見つけ次第、私は貴女に緊急治療を施します。良いですね?」

 

「……良いでしょう。……もし、誰かを救うときに貴女が必要になったなら、貴女を頼らせて貰います」

 

「……では」

 

 

ナイチンゲールは未練がましい目をしていたが、マシュに背を向けてその場から失せた。ロビンフッドの方もネロに止めを刺されたのか退却していく。

 

マシュは全身の力が勝手に抜けていくのを感じた。否応なくその場にへたりこみ、空を見上げる。どこまでも白いガシャット内部の空を。

隣にネロも倒れていた。宝具を使った無理が祟ったのだろう、暫くは戦えそうにない。

 

 

「……次も勝ちましょう。全員に勝ちましょう」

 

「ああ……そうだ、な。だがマスター……余は、疲れた……後でまた手伝う、少し休ませろ……」

 

 

そこまで言ってネロはマシュの中に戻った。

彼女は非常に無防備だった。

 

そこに、四人目の敵がやって来る。

 

 

「……マシュ・キリエライト」

 

「っ……貴方、は……」

 

「……今は休め。起きるまで、私は待とう」

 

「……ランス、ロッ……ト……」 

 

 

そうしてマシュの意識は深く深く、どこまでも落ちていって──




マテリアル3

人間は誰しも、行動に大きな目的と小さな目的を必要とする。例えば、大きな目的が『偉大な発明をしたい』なら小さな目的に『そのためにまずは金を稼ぎたい』が来るように。
……本来のマシュの場合は大きな目的が『人理を守る』であり、小さな目的に『だからまずは大切な先輩を守る』になっていた。
……マシュ・オルタに、守りたい先輩なんていなかった。

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