「……ここは?」
金庫の中に置いてあったガシャット……マイティアクションNEXTの中に飲み込まれたナーサリーは、気がつけば管制室の中にいた。
ただの管制室ではない……燃え盛る管制室だ。彼女の中の黎斗の記憶が、これが始めてのレイシフトを行った時の光景と瓜二つだ、と告げていた。
「もう、本を火にかけるなんてマナーが全然なってないわ!! ……マスターはどこにいるのかしら」
そう言いながら歩き始めるナーサリー。どこかに、檀黎斗は存在している。彼女はそう確信していた。
───
「……ん……あれ、ここは……オーニソプター?」
気絶していたマシュも目を覚ました。誰かがかけてくれたのであろう掛け布団から這い出てみれば……さっき黎斗がアグラヴェインから奪い取った鉄の戒めで拘束されていたランスロットと目があった。
ついでに言えば、器用にも亀甲縛りになっている。
「……」
「……」
「……なんですかこれ」
「ああっ、すみません!! 姉上が調子にのってこんな拘束にしてしまって……」
後ろから現れた信勝が申し訳無さそうにそう言う。ランスロットは恥ずかしさで顔を赤くしているようにも見えた。
しかし、マシュにとってはどんな拘束だろうとどうでもよかった。それよりも大切なことは……
「そうじゃなくて。なんでまだ倒していないんですか!?」
敵の排除。ランスロットはどう考えても敵である。降伏したとしてもいつ裏切るか分かったものではない。
「いや、鎖で無力化してあるから大丈夫な筈だが。万が一説得に成功すれば戦力が増えるしな」
「……ちゃんとルールブレイカーはしましたか?」
「当然だな。この騎士も納得はしておる」
ネロがそう説明するがやはり信用しきれないようで、マシュは何度も首を捻っていた。
ランスロットは息子(の霊基を持つ人)に変なところを見られて赤面している。
「本当に裏切りませんか?」
「……他の円卓の騎士に負けていては、最早王の騎士など名乗れまい。戦う理由はもうなくなった」
「うむ。こう言っておる……向こうも亀甲縛りにされる騎士など願い下げであろうしな!!」
「ぐはっ」
オーニソプターは既に動き出していて、砂漠に迫っていた。操縦しているのは晴人だ。マシュは赤面するランスロットを取りあえず無視して立ち上がり、行き先を問う。
「今は、新たな戦力としてあのオジマンディアスの元に向かっている最中だ」
「彼が果たして協力してくれるでしょうか」
「……どうだろうか」
晴人の答えにマシュは苦い顔をした。神殿にいたあのオジマンディアスが、協力などしてくれるものか、と。
彼は玉座に座りながら、こちらの行く末を暇潰しに見てやろうというスタンスを取っている。簡単に彼をこちら側に引きずり下ろせる訳がない。
彼を脅かすだけの力があれば……と思いながらマシュは振り向いてみたが、そこにいたのは相変わらず亀甲縛りにされて呻くランスロットだった。
「……はぁ」
「待って、待ってくれギャラハッド」
「私はマシュ・キリエライトです。それ以外の何者でもありません。……で、何ですかランスロット」
「……少し寄り道をしてくれないか。その近辺で右側に舵を取れば……私の
「お主そんなことしておったんか!?」
マシュに必死に説明するランスロットの口から出た物騒な言葉に愕然とするネロ。仕える王に黙って私営軍隊とかどう考えても反逆罪に普通に当てはまるのだが……
「軍隊は必要だろう? 私が信じられないのは理解している、だからこその申し出だ。取りあえず、行けばわかる」
「なるほど、やはりランスロットは裏切りの騎士ですね、この穀潰し」
「……!!」
マシュがランスロットを罵倒する。その言葉でランスロットは床を見つめて、ベディヴィエールがマシュの顔を見つめた。
「……やっぱり、あなたはギャラハッ──」
「違います。今のは親子であるない関係なしに、至極当然の言葉だと思いますが、違いますか?」
「……そうですか。すいませんでした」
───
「えーと……あった!! いたわ、マスターがいたわ!!」
燃え盛る管制室の中で火を避けながら探索を行っていたナーサリーは、コフィンの中で制止している黎斗をようやく発見した。
瓦礫をよけてみれば、メモが貼ってあるのを見つける。
「……何かしら、これ? ええと……カルデアスと、接続、しろ?」
その文字を見ながら、彼女はコフィンからコードを引き出し、カルデアスに歩いてみた。
辺りを探してみれば、土台の一部にコードが嵌まりそうな穴が見つかって。
「分かったわ!!」
ガチャン
『Connect』
コードを接続すると同時に、管制室に広がっていた火は全て消え失せ、青くなったカルデアス表面に文字が表示された。
振り向いてみれば、コフィンの蓋は開いていて、上半身を起こした黎斗が何かを呟いている。
「まだ……私は……!! まだ……私は……!!」
「……マスター?」
「まだ……私は……!! まだ……私は……!!」
死ぬ直前の言葉をリピートしているらしかった。そういう仕様なのだろう。
しかし、彼を起こさなければ始まらない。
ナーサリーは少しだけ逡巡して、そして黎斗の鳩尾を蹴った。
「……おはようマスター!!」ゲシッ
「ガガ……私は……私は……」
「……」ゲシゲシゲシゲシッ
「ガガ……私は、は……私は……」
「……」ゲシッ ゲシッ ゲシゲシゲシッ
「私は……私は……」
それでも黎斗は起きない。
痺れを切らしたナーサリーが、黎斗の股間を蹴りあげた。
「……そぉれっ!!」グシャッ
「不滅だぁぁぁぁぁあああああああっっっ!!」ガバッ
「きゃあっ!?」
───
「でかしたナーサリー」
「もう、驚かせないでよねマスター?」
「仕様だ、我慢しろ」
ゲーム内から帰還したナーサリーと黎斗は、呑気にもマイルームで茶を嗜んでいた。いや、黎斗はジェットコンバットやドラゴナイトハンターZの修理も行っていたが。
「で? このガシャットは何なの?」
「……マイティアクションNEXT。レイシフト先で死んでも、カルデアの魔力を消費してコンティニューが可能になるようなシステムを組み込んだガシャットだ。本来ならアルファ版に組み込んでいたシステムだが、そのガシャットはこの世界には無いからな」
「……つまり、倒されても復活できるの?」
「そういうことだ。現在のカルデアの魔力なら……38回連続でコンティニューが可能だな」
そう言いながらパソコンを操作する黎斗。何となく誇らしげなその顔は、既に人間のものではなく。
「凄いのね、これ」
「他にも機能は多いが……それを説明するのはまたの機会だ。それより、どうだナーサリー・ライム? 完全体になった気分は」
「……よく分からないわ。いつもと同じような、ちょっとだけふわふわ感が減ったような……」
対するナーサリー・ライムは黎斗の死によって完全体のバグスターとなっていたが、あまり実感が得られずにいた。
というのも、完全体のバグスターになったら何かが明確に変わる、ということは無いからだ。精々宿主の記憶を得るだけ。
「……まあ、そんなものか。……取りあえず、これらの修理を終わらせる。いいな?」
「はーい」
───
「こ……こんな場所に、野営地が……?」
「立派ね……山の民砂漠の民、聖地の人達もいる。これはもう村かしら」
「そうだなぁ、これ、村だね」
……ランスロットの言う私営軍隊のありかに辿り着いた一行は、そこに展開されていた野営地に息を飲んでいた。
「ランスロット卿……あなたは、難民たちをここに避難させて、匿っていたのですか?」
「……聖抜に選ばれなかった人々をどうするかは私の自由だ。王は処罰せよ、とは言わなかった。それに、聖都に留まらず放浪する騎士達の居場所も必要だ、故に……ある意味、これは私の私営軍隊だ」
「……ほう……」
「……凄い詭弁ね。これ反逆罪よ?」
「だがこれも良い!! 実にローマ!! マスターも何か一言あるか?」
「……人々を助けるのはそれだけで良いことだと思います。……この穀潰しを信用してもいいかもしれませんね」グッ
「ぐはっ」
マシュは平和に過ごしている人々を見て、冷静にそう判断した。ランスロットとの血縁関係云々は無視した、客観的判断だ。
ランスロットは逆に塞ぎこんだが見ないことにする。
「……とすると、後は太陽王の助力を得ねばならんな。今の戦力では獅子王には勝てぬ」
「……そうですね。では、ランスロット」
そして、マシュはランスロットを立たせて、彼に聞いた。
「貴方は獅子王に逆らって人理修復に協力しますか? もう貴方を縛るギフトはありません、今、決めてください」
「……分かった。協力しよう、ギャラ──マシュ殿」
───
「……よし、ドラゴナイトハンターZの修理が完了した」
「とうとう向こうに向かうのね? きっと貴方を見たらドクター達もビックリするわ!!」
「それは、そうだろうな……だが、もう少し待とう」
未だにマイルームに留まっている二人は、茶を啜りながらそんなことを話していた。
黎斗の発言に首を傾けるナーサリー。彼の言葉に納得がいかないらしい。
「どうして? 皆困ってるわよ?」
「ゲームマスターの私に命令するな……私抜きでマシュ・キリエライトがどう動くかが気になった、それだけのことだ」
「……ふーん」
黎斗はパソコンを弄り、管制室のモニターをハッキングして特異点での様子を観察し始める。ナーサリーも彼の膝に座って共にそれを見た。
「……なるほど。ランスロットを引き入れて、オジマンディアスの元に向かうか。そうか……もう少し暴走するかと思ったが、理性はまだあったようだな」
そう分析する彼は、やはり底無しの笑顔で。
しかしその顔には、言い様もない邪悪さが含まれていた。
この黎斗のライフはカルデアの魔力量で変化します
どこかのキャスターがカルデアに魔力を再び供給しだしたらライフが増えたり、カルデアが頑張って新規サーヴァントを呼んだら減ったりします