「さて。西の村が破壊された以上、向こうのサーヴァント達は移動しているだろう。だが、どこに行ったかはある程度絞りこめる」
『ゲキトツ ロボッツ!!』
『ドレミファ ビート!!』
『ジェット コンバット!!』
戦いを終え、しかし晴人がいないのでコンバットゲーマで移動する事も出来ない黎斗の一行は、取り合えず西の村のサーヴァントと合流しようと動いていた。
その道すがら、黎斗が西の村のサーヴァント達を捜索するためにゲーマを飛ばす。
「恐らく十数分で見つかるだろう。見つかり次第、座標はこちらに送られてくる」
───
その頃。
「さて。見つけたぞ、『最後の希望』」
「アグラヴェイン……!!」
体を休めていた晴人達の元に、アグラヴェインが現れていた。聖槍から逃れた晴人達を潰しに来たらしい。
晴人はあわてて指輪をドライバーにかざしてみるが。
『エラー』
「くっ……」
……音は鳴らない。どうやら、魔力はまだ回復していないらしかった。
魔力を失った彼はただの人間と同じだ。ゲーマである以上限界を超えるダメージを負わない限り消滅はしないが、今の彼は足手まといと変わらない。
アグラヴェインが剣を抜き、晴人に向けた。
「さあ、終わりの時だ。鉄の戒め!!」
「……!!」
そして黒い鎖が何本も飛んでいき……
「
「っ!!」
突然聞こえたその声に反応して、アグラヴェインは咄嗟に鉄の戒めを右腕に巻き付け、鎖帷子のようにすることで不意討ちをしかけてきたベディヴィエールの銀の腕を弾く。
ガンッ
「……ベディヴィエールか。……一応聞くが、今から円卓に戻るつもりはないか?」
「まさか……獅子王は間違っている!! さっきの柱は、あれは……ロンゴミニアドの一撃だろう?」
「当然だ。我が王はトリスタンとモードレッド共々敵サーヴァントを殲滅する作戦を敢行し、そうして彼らはここに倒れている」
「……まさか、あの二人まで、獅子王が手にかけたのか!?」
「当然だ」
そう言うアグラヴェインの顔に悲しみは無く。だからこそベディヴィエールはさらに腕に力をこめる。
「……
「行くぞ」
……そうして斬りあう二人の騎士から離れた所で、残ったサーヴァント達は晴人を守っていた。
「ぐ、あがっ……」
「ねえ、ねえ子ブタ……ねえ……!!」ユサユサ
エリザベートは半泣きになりながら、呻く晴人をゆする。
……彼女自身にも、晴人に入れ込む理由は分かっていない。ただ、何故か失ってはいけない気がする、それだけ。
なのに、なんでこんなに悔しいのだろう。
───
「……見つかった。コンバットゲーマがアグラヴェインと交戦中のベディヴィエールを観測したらしいな。その近くに操真晴人も見える」
表示されたモニターを読みながら黎斗はそう言っていた。そして彼は、ベディヴィエール達がかなり危険な状況だと判断し、すぐに救援に行こうと考える。
「……私に入れ、ナーサリー。アヴェンジャー、向こうの村まで全速力だ」
「分かったわマスター!!」
「ラーマとシータ、そして呪腕のハサンは後から追い付け。座標はここだ、いいな?」
彼はラーマに紙を手渡し、そしてナーサリーを取り込んでアヴェンジャーにつまみ上げられて。
「では、出発だ」
「良いだろう、
───
「ぜえ、はぁ……!!」
「体の限界を迎えたか?」
「まさ、か……!!」
暫く斬りあっただけで、ベディヴィエールの足取りはふらついていた。
病み上がりの身体で無理をしすぎたせいか、それとも体自体が限界なのか……とにかく、ベディヴィエールに満足に戦える力は残っていない。
そして、そんな彼を見逃していられるほどアグラヴェインに余裕は無かった。
「……終わりにしよう。鉄の戒め!!」
アグラヴェインの鎖が、ベディヴィエールを縛り上げる。ベディヴィエールは全身から汗を吹き出しながらもがくが、抜け出すことは叶わない。
「ぐ……あ……っ!!」
「……すまないが、逝ってもらうぞ」
剣を振り上げるアグラヴェイン。その刃はベディヴィエールの首を跳ねようと奔り……
「ヴ……
ガンッ
「……?」
しかし後方からエリザベートが邪魔をした。彼女の尻尾で後頭部を強打されたアグラヴェインは、振り向き様にエリザベートの前方を凪ぎ払う。
「……邪魔がまだ入ったか。全く小娘め、足が震えているのに手を出すか、中々の蛮勇だ」
「ヒッ……」
その剣に怯えたのか尻餅をつくエリザベート。アグラヴェインはベディヴィエールを拘束したまま、先に彼女の首を断とうとした。
しかしその前に、何かを感じたのかあわてて飛び退く。
ダダダダ
「ひうっ!?」
「鉄砲か!?」
それと同時に弾丸の雨が降った。見上げてみれば、コンバットゲーマがマシンガンを構えて宙に浮いている。
「黒い飛行機……敵の伏兵か。はぁっ!!」
バァンッ
直ぐ様ゲーマを鎖で破壊するアグラヴェイン。粉砕され落ちていくそれを見つめ、一先ずの危機は去ったとばかりに彼はエリザベートの元へと戻ろうとし……
『タドル クリティカル フィニッシュ!!』
「何だとっ!?」
「ハーハハハハ!! ブゥン!!」
ズジャンッ
ジャラジャラッ
振り向いた先に音もなく現れ立っていたゲンムに、思い切り斬りつけられた。咄嗟に用意した鉄の戒めも全て断ち切られている。
「黎斗か……!!」
「神の恵みを与えに来たぞ、喜べ!!」
そう言いながらゲンムは笑っていた。彼はベディヴィエールも解放し、アグラヴェインに向かい合う。
「ふざけた真似を!! くらえ、鉄の戒め!!」
「惰弱だぁっ!!」
『コッチーン!!』
『タドル クリティカル フィニッシュ!!』
アグラヴェインの手から迫り来る鎖であろうと容易く凍り付かせるゲンム。しかも彼は、その、先端を氷に固定した鎖を奪い取り、鞭のようにしてアグラヴェインを攻撃する。
「ぐ……滅茶苦茶だな……!!」
「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」ブンブン
「……ここは退散する」
そしてアグラヴェインはゲンムに嫌気が差したのだろう、すぐに撤退していった。
───
「……さて。随分と手酷くやられたな。修理してやろう」
アグラヴェインの逃亡を見送り、黎斗はマジックザウィザードのゲーマの修理を開始した。まずは失われた魔力の回復から手をつける。それと同時に、彼は現在の戦力を確認していた。
「で? 現在のメンバーは半数が戦闘不能か。とんだ欠陥パーティーだ」
満足に戦えるのは己と信長、後から追い付いてきた黎斗と共にいたサーヴァント達、そしてやはり後からやって来たネロ。……彼女と共にいたマシュはやはり戦えそうになかった。
「うむ。大分、派手にやられたな」
「うぅ……」
これでは円卓を相手取るのは不安が大きい。例えアグラヴェインだけが敵だったとしても、その後には獅子王が控えている。
力不足だ、という考えは、全員の中にあった。
「……こうなれば、あそこに行くしか」
「……静謐の、それは……しかし……」
そう切り出したのは左手の効かない静謐のハサン。彼女の切り出した言葉に呪腕のハサンは下を向く。
「……ですが私達だけでは力不足だと言うのなら、より強いお方の力を借りるしか……」
「……誰だ、それは?」
「……アズライールの廟の、初代"山の翁"ですか」
ハサンの語る「より強いお方」が思い浮かばず首を捻るアヴェンジャーの隣で、ベディヴィエールは誰の事を言っているか察した様子だった。
「……知っていましたか。ええ、はっきり言えば我々は力不足。アグラヴェインだけならまだしも、まだランスロットもいる上……まだ奥の手がある、と言っていたのでしょう?」
呪腕のハサンはそう言いながらもやはり下を向く。
力関係も曖昧で、本当に廟を訪れるべきかも判断しにくい現在、出来れば初代ハサンの力を借りたくないとも思う。が、確実な勝利を求めているのもまた事実……
「わざわざ我が廟を訪れる必要はない」
ゴーン ゴーン ゴーン
「……晩鐘!?」
しかし、その思考を続ける理由は無くなった。
辺りに鐘の音が響いている。重く苦しく、威圧的なまでの音圧。それを聞いたサーヴァント達は言いようもない不安を覚え胸を抑え、そしてハサン二人は平伏していて。
そんな鐘を、最も聞いている者は……
ゴーン ゴーン ゴーン
「ぐ……あ、まさかっ……!! 変身!!」
『バグルアァップ』
『デンジャラス ゾンビィ……!!』
耳を押さえながら作業を中断して立ち上がり、ゲンムに再び変身する黎斗。彼はガシャコンスパローを構えて、周囲全てから聞こえてくる鐘の音を警戒していた。
そして、影から鐘の音の主が現れる。
「カルデアのマスター、檀黎斗。晩鐘は今、汝を指し示した」
「──!?」
『クリティカル デッド!!』
現れたのは……巨大な髑髏の剣士。ゲンムは標的を確認するのと同時に分身、そしてその剣士に向けて何体もの分身を向かわせる。
「……温い」
スパッ
……しかし、その剣士の剣の一振りで、ゲンムの分身は斬り伏せられ……消滅した。ハサン以外のサーヴァント達は互いに顔を見合わせ、しかし何故か足が凍りついて動かない。
ゲンムは一人、剣士から逃げるように距離を取りながら矢を放つ。しかし攻撃は当たる前に外套の一振りで叩き落とされ、ますます絶望感を高めていた。
「ぁ、ああ、高レベル設定にされすぎている!! こんな……私が、まさかこんな!!」
「告死の鐘……首を断つか」
ゴーン ゴーン ゴーン
……ゲンムは。白い羽を幻視した。
それと同時に、音すらも置き去りにした剣閃が、ゲンムの首元をなぞり……
「
ズバッ
……それと共に。ゲンムはその体に違和感を覚えた。
まだ、どこも傷ついてはいない。ライフゲージも通常通り0だ。
なのに。
「……私は、死ぬのか?」
「……マスター?」
「嫌だ、まだ、死にたくない……死にたくない……!! こ、来いナーサリー!!」
ゲンムの足は震えていた。彼はナーサリーを強引に取り込んで自制心を保つが、放つ攻撃は悉く当たらなくて。
「檀黎斗。汝に再び死の概念を付与した。生ける死体は処分される時だ」
「嫌だ嫌だ嫌だぁっ……!!」
『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』
一歩また一歩、剣士はゲンムに歩み寄る。降る矢の雨を物ともせずに。
「来るな、来るな!!」
『ゲキトツ ロボッツ!!』
『ドレミファ ビート!!』
『ドラゴナイトハンター Z!!』
半狂乱になりながらゲーマを呼び出す。それらは髑髏の剣士を標的として飛び掛かり、そして容易く斬り伏せられていく。
そして。ゲンムは、とうとう追い詰められた。
「さあ……首を出せ」
「あ……ぁぁああああああああ!?」
剣士は剣を振り上げる。鐘の音が鳴り響くなか、ゲンムは情けない悲鳴を上げ続け……その体は、徐々にストレスでゲーム病を再燃させたため、半透明になっていく。
「嫌だ、まだ、私は……!!」
「黎斗さんっ……!!」
……マシュは震える体に無理を強いて、知らず知らずの内にゲンムに手を伸ばしていた。
しかし、その手は届くことはなく。
『Game over』
黎斗、死す