「美味いお米がどーん、どーん!!」
「……」
「……」
翌日の昼。魔法やら何やらを駆使して、ようやく西の村まで黎斗達は戻ってきていた。アグラヴェインに手酷くやられたマシュをベディヴィエールの横に寝かせ、彼らは街の少し広い所に固まっていたのだが。
突然俵藤太が立ち上がり、訳のわからない宝具を発動していた。
米だ。米が出てくるのだ。
「穀物の質量兵器か。面白い」
「いやお米だから。にしてもすごいね、お米を大量に呼び出す宝具か……あ、魚とか果物とか出てきてる。……で? どうせなら向こうのサーヴァントに声をかけないのか?」
「……そうだな。後が面倒だ」
無尽蔵に米が溢れ出てくる中で、黎斗はガシャットを取り出す。何も知らせなかったせいで拗ねられたら面倒だ、そう思っての事だった。
『ジェットコンバット!!』
「じゃ、おつかいに行ってきますよ」
『スモール プリーズ!!』
縮小して黒いゲーマに飛び乗る晴人。もう彼はこれでコンバットゲーマに乗るのは四度目にもなるから、かなり慣れた様子だった。
───
その頃。手酷くアグラヴェインにやられたマシュは、用意された小汚ない布団に寝転がり、腐りかけの天井を見上げていた。隣ではネロが寄り添っている。
「ネロさん……やっぱり、私は力不足です」
「……否定はせぬぞ、マスター。そも、マスターは残り幾ばくも無い身、無理は出来ぬ」
「……はい」
呟きを交わす二人。互いに、聞いているのかいないのかも曖昧な、どこか夢見心地のような、そんなぼんやりとした時間を過ごしていた。
「もうすぐ私は死にます。この体が限界を迎えます。……分かっています」
「だろうな……やはり、『あれ』をする気か?」
「……そうですね」
「そうしたら……もう、元には戻れぬぞ?」
そう言うネロは、何処と無く寂しそうで。
「ええ。でも、他に方法は無いのですし……私がそれを望みました」
「そうか……そうか、マスター」
ネロはゆっくりと、マシュの寝ている布団に上がり、彼女の頭を撫でる。
「うむ、うむ。そうまでして歩むか、それもまたローマ……ああ、貴様は実に美しい」
「なら……良かったです」
日はとっぷりと沈んでいた。夜明けはまだ遠い。
───
「ふぅ、やっとこっちにこれたのじゃあ!!」
「おぷっ、姉上、そのぅ、おぷっ」
「うぅ……もしかして子ブタ運転下手……?」
「そう? 俺は全然酔ってないんだけど」
戻ってきた晴人が連れてきたのは、信長と信勝、そしてエリザベートだった。残りのメンバーは東の村に残って警戒を続けるらしい。
何故かサーヴァントが飛行機酔いを起こしていたが、気にしない事にした。
「とにかく、今から炊き出しやるらしいから手伝うよエリちゃん」
「あ、はーい」
黎斗と共に去っていくエリザベート。
残された信長は、辺りを見回してマシュがいないことに気がつく。
「……マシュはどこじゃ?」
「マシュ・キリエライトは重症を負って休養中だ」
「なんじゃと!? 近ごろ人間やめかけてるなーって思ってたが、特攻しすぎたか!?」
何事でも無いように述べる黎斗とは反対に、信長は目を丸くしていた。信勝は黙って姉と黎斗を見比べている。
「……というか黎斗。もう少しマシュを心配してやったらどうじゃ? 仮にもお主のサーヴァントじゃろ?」
「関係ない。サーヴァントに入れ込むなど無駄なこと、彼女の心配は不必要だ」
「……やれやれ」
米の炊ける匂いが漂ってきた。魚や肉も調理されているだろう。
一夜限りの宴が始まる。
───
その宴は賑やかだった。人々は唄い笑い、これまでの抑圧された日々から一時だけ解放されていた。
そんな宴も深夜には終わる。翌朝には普段通りの状態に戻らざるをえない。……彼らに朝まで夢を見ている余裕は無かった。
太陽が上ると共に、西の村のサーヴァントが一同に会し計画を話し合う。
「さて。現時点でサーヴァントは、我らハサンが三人、三蔵、俵、アーラシュ、ベディヴィエール、そして黎斗の元の十人で十七人。その内、非戦闘民を匿うこの西の村の警護にあたるサーヴァントに最低一人割いて十六人ですな」
「マシュ・キリエライトとベディヴィエールは明日には回復する手筈だぞ」
「そして、今から兵を纏め上げれば明日には出陣が可能だな」
「……もしやサーヴァントの数は足りているのではないですかな?」
「そうじゃん!! 頭いいのね!!」
そして彼らは気づいた。……この場には既に、円卓を余裕をもって相手出来るだけのサーヴァントの人数が揃っていることに。
「善は急げ、と言います。ここは早めに……」
「そうですな。では、本日はなるべく休みましょう。我らが兵を準備します、明日聖都を落としましょうぞ」
「おーっ!!」
そんな風に盛り上がる一同……しかし。
こんな有利な状況で、円卓の邪魔が入らないなんてことは起こる筈がなく。
「……それは、残念ですがさせません」
ポロン
スパッ
「っ──!?」
『ディフェンド プリーズ!!』
晴人が咄嗟に発動した炎の壁に、見覚えのある傷が深々と刻まれていた。魔法陣の向こう側に、赤い髪と銀の鎧が透けていて。
「トリスタン……!!」
「オレも来てやったぜ、喜びな!!」
「モードレッドもかっ!?」
赤い髪の弓を持った騎士トリスタンと、穢れた聖剣を振りかざす騎士モードレッドが、西の村を潰しにやって来ていた。
「円卓の騎士が、二人……!?」
「また来たのか!!」
すぐさま身構え、得物を抜く一同。その反応が嬉しかったのか、モードレッドは笑顔になる。
「おう!! 来てやったぜ!! ……あ、ついでに教えてやるけどよ、東の村の位置も特定したぜ!!」
「何ですとっ!?」
笑顔になったついでと言わんばかりに発せられた情報は、一行に衝撃を与えるには十分だった。
「ランスロットの奴が襲いに行ってる。そろそろ着くんじゃねーかな!! ま、今から飛んでいけば間に合うかもだぜ?」
「……黎斗どの、晴人どの」
「分かっている」
『ジェットコンバット!!』
呪腕の頼みにあわせてコンバットゲーマを呼び出す黎斗。晴人は呪腕にスモールの指輪を手渡す。
『スモール プリーズ!!』
『スモール プリーズ!!』
そして小さくなった呪腕のハサンと黎斗は、ゲーマに乗って空へと飛び出した。
「行きますぞ黎斗どの!!」
「だから分かっている!!」
目指すは元々呪腕が守っていた東の村。あそこには……この村と同様に、まだ難民が残っている。
───
「
「
「
「
「
そしてそれと時を同じくして、東の村に残っていたメンバーは突然現れた大量の騎士を相手に交戦を繰り広げていた。
斬っても斬っても沸いてくる騎士を相手取って、だんだんと疲れ始めるメンバー達。しかも彼らは、散り散りに逃げる村人達も防衛しないといけない。
「まだ、終わらないの……!?」
「何処だ、首魁は何処にいるっ!!」
敵がどんどん沸いてくる以上、どこかに指揮官がいるはずだ。騎士を対処しながら、ジークフリートがその指揮官格の誰かを探す。
彼は騎士の隊列を辿りながら、山道を下っていき……
ザンッ
「っは……!?」
「……すまないな。こんな鎧姿だが、隠れるのは得意でね」
突然背中に鈍い衝撃を感じた彼は、己の背が斬りつけられていることに気がついた。すぐに振り返れば、何も無かった筈の空間に鎧の男……ランスロットが剣を構えて立っている。ジークフリートは反射的に剣を振り上げた。
「……これで、終わりだ」
「まだだ!!
「終わりなんだ!! ……極光よ、斬撃より湖面を映せ。
カッ
「っ……がああああああああっ……!?」
しかし、その刃がランスロットに届くことは無い。背中の傷が淡い水色に光輝き、ジークフリートを光で包み込む──
『クリティカル エンド!!』
「ふはははは!!」
ゲシッ
「っ!?」
……そこにゲンムが舞い降りた。彼は巨大化しながらランスロットの後頭部を横凪ぎに蹴り、大きく吹き飛ばす。
「マスター!! 来て、くれたのか……!!」
光の粒子に変わりながら、ジークフリートがゲンムを見上げた。ゲンムは特に彼に治療を試みるでもなく、立ち上がるランスロットに狙いを定めていて。
「少しばかり遅かったかもしれんがな。まあいい……さっさと終わらせる」
『クリティカル デッド!!』
その音声と共に、三体のゲンムが新たに現れた。ランスロットを取り囲むように並んだ彼らは、一人一人が武器を構えて。
『マイティ アクション X!!』
『タドルクエスト!!』
『バンバンシューティング!!』
『ギリギリチャンバラ!!』
「増えた……!? しかし、やることは同じ……
冷や汗を垂らしながら、ランスロットが四人全てのゲンムを斬り払う。ゲンム達は胸元を横一閃に開かれ……しかしけろりとした様子で立ち上がった。
「なっ……!?」
「ハーハハハハ!!」
「アハァ……恐ろしいだろう、これがゲンムの力!!」
「戦け、私達は何度でも蘇る!!」
「震えろ、貴様は私を倒せないぃ!!」
「「「「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」」」」
さらに全方位から煽る。ランスロットは動揺からますます冷や汗を増やし、剣を握り直した。
それを嘲笑うように、四人のゲンムがキメワザを放つ。
『マイティ『タドル『バンバン『ギリギリ クリティカル フィニッシュ!!』』』』
「さあ、とくと味わえ……!!」
「死なない程度に遊んでやろう!!」
「「ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」」
「っ……!!」
ズドン ガガガガ ガコン ズドォォォンッ
───
『ハリケーン プリーズ!! フゥ!! フゥ!! フゥフゥフゥフゥ!!』
「姿が変わった所で……!!」
ポロン
「……!?」
そしてそれと同時に、西の村でも戦闘は続いていた。現在は百貌のハサンやアーラシュ、三蔵が人々の護衛兼避難誘導を行い、トリスタンをウィザードとエリザベートと静謐のハサンが、モードレッドを信長と信勝、そして俵が担当している。
そして現在、ウィザードはハリケーンスタイルに姿を変えていた。荒れる風は、弓の音をも吹き飛ばす。
「全く、貴方は厄介だ。私の音は掻き消されかねない」
「だったら掻き消されときなさいよ!!」
「痛みを……苦しみを……甘美をあなたに」
「……弓を奪った程度で私を完封したと思うな!!」
ならば剣を抜くトリスタン。その剣は襲いかかってくるエリザベートの槍を受け流し、ハサンのダークを叩き落とす。
「……流石に弓だけじゃなかったか。でも、俺にもまだまだ手がある」
『キャモナスラッシュ シェイクハンズ!! コピー プリーズ!!』
それを見ながら、ウィザードはその剣を二本にコピーし逆手に持った。
風が吹き荒れる中で、円卓の騎士に
「これでどうじゃ、
ズドンズドン
そしてモードレッドも、四対一の状況に追い込まれて押され気味だった。信長の弾丸を全身に受け、彼女は思わず膝をつく。しかしまだ諦めてはいないようで、その聖剣を信長に向ける。
「っ……ウゼェウゼェウゼェ!! お前ら全員消えちまえ!!
「っ、メカノッブ!!」
「ノブっ!!」
「ノッブ!!」
しかし放たれた赤雷は、信勝が呼び出した数体のメカノッブに阻まれる。そして信勝自身も、日本刀に風を纏わせてモードレッドに振り上げた。
「はあっ!!」
カキン
「特にお前がウザイんだよ優男!! なんでテメェが父上の鞘を持ってる!!」
「理由を話せしていられるほど、僕に余裕はありませんっ……
「
ガンッ
容赦なく宝具を解放し続けるモードレッド。信勝が
「ウゼェウゼェウゼェウゼェ!! 父上の宝具を継ぐのは息子であるオレなんだ!!
「っ、ちびノブ!!」
「ノブァ!!」
「ノッブぅ!!」
「……死ねぇぇっ!!」
ズドォォォンッ
「「ノブァ!?」」
「ぐはぁ……!?」
再び剣が解放される。……再びちびノブを肉壁にする信勝だが、今度は耐えきれなかった。無理がたたったのだろう、吹き飛ばされて立ち上がる顔には疲れがありありと浮かんでいて。
「はっはっは!! 父上の宝具なんて使える器じゃネェんだよお前は!!」
そして信勝を嘲笑うモードレッド。……彼は気づいていない。己の後ろでアーチャー二人が宝具の準備を整えていた事には。
「うむ、時間稼ぎは十分じゃ信勝!! もう一発喰らえい!!
「南無八幡大菩薩、願わくばこの矢を届けたまえ!!
ズドンッ
四人の社長に同時に煽られる地獄
一度は見てみたい(受けたいとは言っていない)