Fate/Game Master   作:初手降参

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英霊ギャラハッド

 

 

 

日が沈み、また昇る。ランスロット襲撃の次の朝には、起きっぱなしの黎斗の顔には分かりやすく疲労が浮かんでいた。

 

 

「……もう朝か」

 

「休んだらマスター? 運転して修理して……疲れたでしょう?」

 

「まだ、私はあの忌々しいゲーマの修理も残っている。暫くは寝れまい」

 

 

オーニソプターが揺れている。敵の反応は無いがガタガタと言っている。黎斗は運転席のジークフリートに目を向けた。

 

 

「……どうした?」

 

「すまない、クレーターだ……かなり増えてきたな」

 

「……恐らく獅子王の宝具だろう、無差別に振るっているらしい。周囲に魔力が溢れているのもそのせいだろう……知性が欠けているな。もう少し効果的な方法もあるだろうに」

 

───

 

「ねー、まだ歩くのー?」

 

「喧しいですエリザベートさん、黙ってください」

 

「うむ。可愛くないのだな」

 

「ぶー……」

 

 

エリザベートは難民を護衛しながら愚痴を漏らしていた。ちなみに、さっき鼻歌を歌っただけで半径三メートルの人々が気絶したので、マシュは既に五回彼女にガンド銃を撃ち込んでいる。

 

 

「そもそも、疲れたならあの中に行ったらいいのでは……?」

 

 

とルキウスもオーニソプターを見ながら呟く。文句を言いながらも彼女が協力する理由が、彼には、いや全員に分かっていなかった。

 

 

「もしかして、晴人さんの影響ですか?」

 

「ん? 惚れたか?」

 

「まさか!! ……ただの、気まぐれよ。ただの、ね」

 

───

 

「後は……こことここを、こうすれば……」

 

「終わったのマスター?」

 

 

ナーサリーを膝に乗せながらマジックザウィザードを弄る黎斗。その顔は未だに険しいが、これも大事な戦力だ……そのままにはしておけない。

 

 

「ああ、もう終わった」

 

「ねえマスター、彼の制限時間を伸ばせないの? もう少し長く戦えるだけで、凄く強くなりそうだけど」

 

「私の才能をなめるな……とはいえ、ガシャットの容量の問題がある。既にこのガシャットにはデータがいっぱいいっぱいだからな。……更に強くするとしたら、カルデアに戻ってハードとソフト共に大幅にアップデートするか、外付けの強化パーツを必要とする」

 

「ふーん……大変なのね」

 

 

よく理解していないナーサリー。黎斗は彼女との会話もそこそこに、ガシャットの電源を再び入れた。

 

 

『マジックザ ウィザード!!』

 

 

端子からゲーマが飛び出し、目を開く。

 

 

「……ここは、オーニソプターか? ガウェインは?」

 

「全く、勝手に自滅してくれて大変な迷惑だ。もう少し落ち着いてみたらどうだい?」

 

 

再起動したゲーマは、少しだけ考えた後に現在の状況を理解した。

 

 

「ああ……そういうことか。迷惑かけたね」

 

 

すまなそうに肩を竦め、俯く晴人。しかし後悔は無さそうだった。それが黎斗は、最も腹立たしかった。

 

突然、オーニソプターが停車する。……山の入口がすぐそこにあった。

 

 

「山に到着した。どうする檀黎斗?」

 

「……降りるぞ。ステルス機能は起動させたな? これからは山の移動だ」

 

 

そう言いながらオーニソプターを降りる黎斗。降り立つと同時に、シャカリキスポーツを起動する。

 

 

『シャカリキ スポーツ!!』

 

「ようやくまともにガシャットを使える出番が来たな。この深さなら……まあ、すぐには目的地には着けまい」

 

───

 

東の村に到着したのは深夜だった。ランスロットの追撃を恐れて、休憩も殆どせずに歩き続けた人々の疲労はかなりのものだった。

 

 

「あれが村か……大丈夫エリちゃん?」

 

「足がもうパンパンよー……」

 

 

最前列を歩いているのは、復活した晴人とエリザベート。定期的に光で相手を追い払いながらの行進だった。

 

 

「やっと、横になれるわ……」

 

「……」

 

「……どうしたの子ブタ?」

 

 

……突然黙る晴人。見てみれば、彼は周囲を見渡していて。

 

 

「……っ!! 伏せてエリちゃん!!」

 

『ディフェンド プリーズ!!』

 

   ガンッ

 

 

突然彼が展開した炎の壁に、黒い短剣が突き刺さっていた。そして次の瞬間には、山道の前方に短剣と同様に黒い男が立っていて。

 

 

「っ……!?」

 

「我らの村に何用だ、異邦人。これ見よがしに騎士など連れてきおって……最後の希望すら摘みに来たか?」

 

「待ってくれ、話を聞いてくれ」

 

 

現れた包帯と髑髏が目立つアサシン、やはりハサンであろう彼に、晴人が一歩前に出る。恐れは無い……彼は言葉を知っている。

 

 

「俺達は、ここまで難民たちを護衛してきた」

 

「ほう? 騎士と共にいるのに、か? 証拠は?」

 

「疑問はあるだろうが……ああ、煙酔のハサンって人から合言葉を教えて貰ったぞ」

 

「……煙酔ののか? ……死んだと聞いたが」

 

「死に際に、教えて貰ったんだ。東の呪腕によろしく頼むってな」

 

「……言ってみろ」

 

 

未だに疑うハサンに、晴人が合言葉……イスラムの経典、コーランの一節を告げた。

 

 

「……『願わくば我らを導いて正しき道を辿らしめ給え、汝の嘉し給う人々の道を歩ましめ給え』……だった」

 

「……ああ、確かに煙酔のの言葉よな。そうだ……前に来た難民達は、煙酔のは死に、謎の男が助けてくれた、と言っていたが……そうか。お主か」

 

「なら、アンタも信用しない訳にはいかないな?」

 

「これは……アーラシュ殿。そうですな……うむ……信用する他、ありませんな」

 

 

突然ハサンの後ろから現れた弓を持った青年のサーヴァント……アーラシュと呼ばれているらしい男が、ハサンの隣に並び立った。ハサンは彼の言葉を聞き、暫く唸ってから晴人に名を訪ねる。

 

 

「名前を聞こう、そこのマスター」

 

「あー、いや……実はさ、俺はマスターじゃないんだよね……」

 

「ん? いや、どういうことですかな?」

 

 

しかし、予想外の晴人の返答に、二人は首をかしげた。彼がサーヴァントではない以上、マスターではないのか? それともマスターとサーヴァント以外にここに誰が現れる?

……そう悩む二人目に、晴人の隣から現れた男の姿が飛び込んだ。

 

 

「……マスターは私だ。ああ、黎斗と呼ぶがいいさ」

 

「えっ……ああ、偽りなく真名かつ円卓には無き名……しかし……んー……」

 

 

何だか拒否反応を示してしまって戸惑うハサン。本当に彼を受け入れていいのだろうか。

 

 

「まあまあ、入れてやりなよ。ほら、沢山立っていても悪目立ちするだろ?」

 

「……よかろう。恩には礼で返す、村に入ることは許そう。アーラシュ殿、案内を。私は新しい同胞達の宿を手配しなければならん。しかし、ああ、五百人!! 喜ばしいがどうしたものか……」

 

 

しかし彼はそんな迷いを黙殺して、アーラシュに案内を任せ去っていった。村への門は開け放たれている。

 

 

「じゃ、着いてきな。俺はアーラシュ、見ての通りアーチャーのサーヴァントだ。村に案内するぜ、貧しいから祝杯とかは無理だがな」

 

───

 

「……いい建築だ。上手いこと山の陰に隠れるように計算がされている。流石だな」

 

 

案内されながら、黎斗は山村を見回していた。時々壁なども触って、材質を確かめているようにも見える。

いつもの事だが、黎斗は行く先々の建物に興味を持っていた。……ゲーム作りの役にでも立つのだろうか。

 

 

「でも生活は苦しそうじゃな。余裕も無いだろうに、新しく五百人……」

 

「でもこっちも、オジマンディアスさんからの食料も底をつきましたからね」

 

 

その横では信長と信勝が人々の様子を観察している。

……今回増えた難民は、五百人。前回の難民……あの赤い髪の男から逃げ切った難民は百人。合わせて六百人……それだけの数の難民が、皆この東の村にやって来ていた。飢えない筈がない。

 

 

「これは……他の村に引っ越す必要がありそうだな。仮に大量の食事を振る舞うサーヴァントがいたとしても、この人数はどうしようもないだろう。全く……あいつめ」

 

 

悪態をつく黎斗。しかし、晴人本人の前でそれを言う度胸は無かった。

 

───

 

その日の深夜。人間であるが故に睡眠を必要とするマシュは、もどかしさを感じながら寝床につこうとしていた。そこにルキウスが現れる。

 

 

「マシュ・キリエライト。少しよろしいでしょうか」

 

「何でしょうかルキウス」

 

「ん? 余のマスターに手出しするつもりか?」

 

「いえ、ただ大事な話なので」

 

 

そう言いながら、ルキウスはマシュを外へと連れ出した。

 

やって来たのは村の中でも人気の無い荒れ地。元々は家だったようだが、既に崩れた壁からは雑草が生え、穴だらけだった。

ルキウスは一呼吸おいて、マシュに話し始める。

 

 

「……マシュ・キリエライト。あなたの名は、英霊としての真名ですか?」

 

「……いいえ。私は正しいサーヴァントではありません。デミ・サーヴァント……人間と英霊の混ざりものです。だから私はまだ、ただの人間。私に融合している事になっている英霊は、何も告げずに消滅しました」

 

「……そうですか」

 

 

ルキウスは何かを言いたげだった。先日ならその言葉をそのまま飲み込んでいたかもしれなかったが……今の彼は、ある種の我慢の限界を迎えていた。

 

 

「……すいません。貴女に力を授けた英霊が語らぬ以上、私が語るべきではないとも思いましたが、流石に、貴女は『彼』から剥離し過ぎている」

 

「……彼?」

 

「あえてお教えいたしましょう。同じ()()()()()()()()

 

 

ネロがそこまで聞いて、たまらず立ち上がり剣を構える。

円卓の騎士とは即ち敵。倒さなければならない、そう思っての事だった。しかし、その行動をマシュが制止する。

 

 

「……続けてください」

 

「私の目的はアーサー王を倒すこと。何を犠牲にしてでも。その為にここまで来た。その為に今まで生きてきたのです……ランスロットも言っていましたが、私の真名はベディヴィエール。円卓の席に座っていた騎士。そして、貴女も……座っていた」

 

「何と、マスターは円卓の騎士だったのか!?」

 

「……!!」

 

 

マシュは黙って目を大きく見開いていた。自分にかつて霊基を与えた物好きなら、名前位は知りたいと思わないでもない。

ルキウス……いや、ベディヴィエールは語り続ける。

 

 

「ええ……強き騎士、堅き騎士、猛き騎士の集う円卓にて、武を誇らず、精神の在り方を示した騎士」

 

「……」

 

「……貴女の真名はギャラハッド。円卓の騎士ギャラハッド……なのに」

 

 

ベディヴィエールはそこまで言って、言葉を詰まらせた。まるで、そこから先の事を口にするのは憚られる、と思っているように。

それでも、彼は口を開いた。それだけ、その変化は大きかった。

 

 

「貴女は既にギャラハッドではありません。同胞だった騎士に殺意を向け、盾を放棄し、その精神は妄念に取りつかれている」

 

「……」

 

「一体、一体何があったのですか、レディ・マシュ。彼の騎士の姿は、もうどこにも見えない。……もし私に出来ることが、あれば……」

 

「……そこからは、どうでもいいことです」

 

 

しかしマシュは、口ごもるベディヴィエールを無視して立ち上がった。そして寝床に歩き始める。

 

 

「私がギャラハッドだったら何だと言うのでしょう。確かに名前が知れたのは嬉しかったですが……それだけ。……円卓の騎士だから人が救えるんじゃない、英霊としての強さを引き出したところで人が救えるとは確定しない。私は、私が世界を救うと望んだのです!! 無益な事を言わないでください」

 

「っ……ギャラハッド卿……」

 

「私はマシュ・キリエライトです、ベディヴィエール卿。それ以外の何者でもありません。例えこの霊基が英霊ギャラハッドの物であっても……それだけです」




新撰組やら天下統一やらのゴーストアイコンがあるなら円卓やハサンゴーストアイコンもいけるよなと思う今日このごろ

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