「……何じゃ、あれ」
「さあ……」
「……おぞましいな」
扉から覗き見る三人。向こう側にそびえ立つ黒い肉の柱は、さて、一体何なのだろうか。
心当たりは無い。心当たりがあるメンバーはここにはいない。
そしてその柱は、深紅の目を信長達に向けた。
「我が名はグラシャ=ラボラス。魔神柱グラシャ=ラボラス。人の過去と未来を知った上でそれら全てを
黒い柱は、グラシャ=ラボラスと名乗った。
信長はアルトリア二人を見るが、心当たりは無いようで首を振った。
なら、気兼ねはいらない。
「じゃあ、取り合えず倒すか。彼奴黒幕感凄い出てるし。凄い出てるし」
「そうだな。それに関しては賛成だ……私のスティックが唸っている」
そう言って部屋に三人は飛び込んだ。信長は柱の根本にギターの刃を突き刺し、オルタはスティックを試し打ちし、そしてリリィはトランペットを構えた。
グラシャ=ラボラスは動揺する。殴りかかる訳でも魔力を練る訳でもなく……楽器?
「あっ、おい、何をする」
「何って……ライブじゃが?」
「……はい?」
呆れて動きが止まる魔神柱。信長はそれ幸いにギターを更に深く突き刺し、一つ鳴らした。そしてバンドメンバーに声をかける。
「へーい、リリィ!! チューニングは出来てるか!!」
「イェア!! 勿論です!!」
「オルタ!! 乗ってるかーい!?」
「仕方無い、行くところまで行ってやろう!!」
「へい!! それじゃあ……いくのじゃあっ!!」
───
「
ファースト・マスターの手から三組の刃が飛び出す。それは何度も黎斗の方へと飛んでいき……堕ちた。
「落ち、た?」
「……!!」
堕ちたのだ。つまり……連戦でファースト・マスターも疲れてきたという事だろうか。
その隣の信勝は、半ば呆然とした様子で壁に持たれている。
「……だんだん、弱くなってきた、のか?」
「……手加減じゃないかしら」
疑いを捨てられないブラヴァツキー。しかし、ファースト・マスターの機動力は段々低下しているように見えた。黎斗はファースト・マスターの足腰を確認する。
「いや……違う。やはりパフォーマンスが低下している」
「でも、何故で御座いましょう?」
「……まさか!!」
黎斗は、そこで察した。
何者かの介入によって、ファースト・マスターの裏にいる何者かのサポートが絶たれたのでは?
それを裏付けるように、信勝が動く。
チャキッ
「……何をするのですか、信勝」
ファースト・マスターの後ろにいた信勝が火縄を一本持ち、彼女の首筋に当てていた。
「……姉上が交戦中です。……貴女のサポーターと」
「……!?」
「僕は姉上の味方ですので、すいませんね」
その言葉で黎斗は完全に理解した。
「信長がやったか……!! 今のうちに攻め立てろ、隙を作ったら魔力のラインを何とかして辿り、信長に合流する!!」
「分かったぞ。うむ、派手にいこうではないか!!
「
「
「
彼の指示で全方位からファースト・マスターを宝具が襲う。
ビームやら触手やらの中には、確実に火縄銃も覗いていて。
「……
───
そして。土方の呼び出す無限の新撰組を前に喘いでいた地上組にも、ある変化が生じていた。
「……少しだけ、敵の出現スピードが緩まってきたな」
「ああ。おそらく黎斗が何かやってくれたんだろうよ」
そう、羽織の軍団の数が減ってきているのだ。それに気づくのに、然程時間はかからなかった。
アヴェンジャーは少しだけ余裕が出来た事もあり、イリヤの元へ舞い戻る。既に変身は解けていた。
「……気分はどうだイリヤスフィール」
「……大丈夫、です」
地面に座り込みながらそういうイリヤ。アヴェンジャーは少しだけ黙ってからガシャコンマグナムを回収し、ほとんど回復していたルビーを渡した。
「ありがとう、ございます……でも、私……」
「……気分は進まないが。ルビーをしっかり抱えておけイリヤスフィール。
疲労を訴えようとしたイリヤをマントに入れるアヴェンジャー。そして彼は全力で回復宝具を発動し。
希望の光が一筋走った。
「ルビーちゃん、完 全 復 活 ! ! 来ましたねぇ来ましたねぇ!! これはルビーちゃんの活躍が認められて、もうルビーちゃん無しではやっていけないって事でOK? ねぇOK? OK?」
真っ先にマントから飛び出るルビー。もう黒ずみは一つもない。
「部分的にはそうとも言える。いや、求めているのはイリヤスフィールの持つ破壊力の方だが。安心しろ、これが終わったらまた
「救われてないじゃないですか、やだー!!」
「……冗談だ。止めておくさ」
アヴェンジャーはそう言いながら、イリヤをマントの中から出し、立たせた。
「……アヴェンジャーさんは、大丈夫なんですか?」
「何、構わないさ。この戦いではオレはもうろくに宝具も使えないだろうが……大した差し支えはあるまいよ。お前が終わらせるんだから」
「ふぇっ?」
アヴェンジャーはそう言いながら、バグヴァイザーをイリヤに手渡す。既にルビーを持っていたイリヤはかなり動揺こそしていたが、隣のルビーは既にバグヴァイザーを解析していた。
「ええ、行けそうですね!! ガシャコンバグヴァイザーL・D・V、ルビーちゃんは今回だけ余所者のガジェットと二股かけることを許しちゃいます!!」
「二股!?」
「ええ。転身と変身を同時に行ったなら、この場を纏めて焼き払えますよ♪」
そう言いながらイリヤの手の中で蠢くルビー。アヴェンジャーはイリヤにバックルを巻いてやり、彼女に並び立った。
「本当だったなら、最後の最後まで残しておきたかったが、贅沢は言ってられんな。……さあ、変身するがいい」
「分かりました。はい……アヴェンジャーさん、お借りしますね」
「ああ」
羽織の軍団が迫ってくる。
ジークフリートやラーマやシータも、何処かに避難しているか、もしくは既に下されてしまったようだ。
心置きなく、倒してこい……アヴェンジャーはそう笑う。
『ガッチョーン』
「コンパクトフルオープン!! 鏡界回廊最大展開!!☆
『Transform Caster』
「
溢れ出た極光が周囲を焼いた。そして、次の瞬間にイリヤが立っていた所には。
「カメンライナー プリズマ☆イリヤ……!!」
新たな戦士が生まれていた。
───
黎斗のグループは、既にファースト・マスターを蹂躙し終え、震える彼女を打ち捨てて信長の元へ行こうとしていた。
「どうせ後で復活する、その前に急ぐぞ!! ブラヴァツキー、バイク貸せ!!」
「ええ。でもアルも、あとジェロニモも乗せていくわ」
「待つがよい、まだ立つ気力が残っているようだが?」
黎斗がちらりと振り替える。
穴だらけのファースト・マスターがそこに立っていて……何かを握っていた。
「そンな……いや、まダ……まだ……!!」
「……すいません、でも、死んでくださいファースト・マスター」
「いや、理不尽ヲ打ち破って……私は……!!」
震える、もしくは痙攣しているファースト・マスター。信勝は彼女に刀を抜き。
その刹那だった。
「宝石よ!! 私二……力を!!」
ファースト・マスターが握っていた数多くの、それこそ五十も百もありそうな宝石を上に投げ、その体に取り込んだのだ。
みるみるうちに体の模様が濃くなり、紫とそして金の粉を吐き出すファースト・マスター。虚ろな目は赤く塗られ、持っていた剣は歪に捻れ。
「急げ、逃げるぞ!!」
「駄目よ、何かの結界が張られたわ!!」
「抜け道は!!」
「現在捜索中!!」
無から生まれ膨れ上がる驚異。超えることは到底不可能に思われたが、それでもそうするしかあり得なかった。
宝具を使うには皆疲れすぎている。何とか逃げ道を作るには時間と余裕が無さすぎる。倒すには単純に戦力不足。
「どうすればいい……!!」
黎斗は舌打ちした。
そして、彼に剣が投げつけられ……
「私の存在を忘れていたな!!」
「誰ダ!?」
「星光の剣よ、桜とか嫁とかメイドとかもう何でも消し去るべし!! ミンナニハナイショダヨっ!!」
聞き覚えがあった。というか昨日聞いたばかりだった。
黎斗は半ば本能的に警戒の声をかける。この声の、宝具の主は……最大級の厄ネタだ。
「伏せろ!!」
「
蒼白く光る剣。何処からか現れたそれは残像すら残すスピードでファースト・マスターを切り刻み。黎斗の前には……謎のヒロインXが立っていた。
「……生きていたのか、何とかX!!」
「でも、貴女は!!」
「ふふふ……私のクラスを忘れていましたね? 普段封印していた能力で埋伏し、仲間のピンチの時に使って勝利をかっさらっていく、正にセイバー!!」
そう言って見栄を切るヒロインX。ブラヴァツキーは首を捻り、信勝は震え始める。
その後ろでは、ファースト・マスターはその場に再び膝をついている。
「……気配遮断はアサシンじゃなかったかしら」
「いや、私も封印していたんですけどね、元々私優秀ですから、気配遮断EXなんですよ。やろうと思ったらできちゃいました」
「マハトマ♀エレナを倒そうとしたときに横から『その宝具使うとか不敬だぞカリバーっ!!』って言って襲ってきた人だ……!!」
「ええ。何か?」
「……って、後ろ!! 後ろ!!」
ファースト・マスターを見てみれば、今度は金の柱になろうとしていた。もう後が無いと言うことだろう。
しかし、ヒロインXは怖じけることなく、何も見えなかった筈の天井の隅に声を投げ掛けて。
「さあ出番ですよ
「これが開拓者魂だぁーっ!!」
「バニヤン……!?」
虚空から現れたバニヤンが、チェーンソーを降り下ろして出来上がりかけていた魔神柱を縦に切り落とした。
「A@a%#a##**|a4a(<>a>$a`]`a@--3a.-a&"a!?」
そして、それが止めになったのだろう……ファースト・マスターは気絶し元の姿に戻る。最早動くことも叶うまい。
「……伐採、完了!!」
「バニヤン、無事だったのか……!!」
「うん。ただいま」
痛みも気にせずバニヤンに歩み寄るジェロニモ。色々心境の変化もあったのだろう、バニヤンの瞳は輝いていた。
「しかし、どうして彼処に?」
「
「ひいっ……」
「……まあ、何にせよ。信長と合流することにしようか。気絶したなら丁度良い、ファースト・マスターも連れていくぞ」
───
「ノブァッ!?」
「ノブゥ……」
「ちびノブが丁度よく盾になってくれるから気持ちがいいのう。ノッてるかーい!?」
「「イエーイ!!」」
その信長は、アルトリア二人と共に楽しくライブを行っていた。
いや、魔力の籠められた振動やら何やらを直に送られている上チクチクとちびノブに攻撃されているグラシャ=ラボラスにしてはたまったものではないのだが。
「それじゃあ、新曲いくのじゃあ!!
「イエーイ!!」
「イエーイ!!」
「ノッブー!!」
「ノッブー!!」
信長のテンションは最高潮、オーディエンスも大盛り上がりでノッブコールを続け、グラシャ=ラボラスもかなり弱っている。
「ぎゃああああ!?」
そして、信長の宝具が展開された。神秘のあるものを徹底的に焼き払う炎を前に、グラシャ=ラボラスは情けない悲鳴を上げる。地味にしぶといが、そう時間もかけずに倒れるだろう。
───
「んっんー……イリヤさん、アヴェンジャーさんの事どう思ってます?」
空に舞い上がりながら。眼下に倒すべき沢山のサーヴァントを視認しながら、イリヤはその問いを聞いた。
「怖かったけど……ここに来てから、色々助けてもらったし。短い間だったけど、いい人だったなって」
「うーん、そうですか……絆レベル3って所でしょうかねぇ。おっと、そこら辺でストップ。そろそろ必殺技、かましますよ♪」
おどけた調子のルビーの声。すぐとなりの空は裂けているのに、全く呑気な事だ。
イリヤはそんな事を考え、そしてここで出会ったアヴェンジャーの事を考え……マジカルルビーを真下に降り下ろした。
「もう、わたしは諦めない!!」
新撰組の刃はここには届かない。圧倒的高所からの砲撃。少しだけ心が痛むが、それを気にするよりは、せめて、決意を抱こう。
「筋系、神経系、血管系、リンパ系……疑似魔術回路変換、完了!!」
『Noble phantasm』
力が満ちる。イリヤは必殺の一撃を放ちながら、強い衝動と共に叫んだ。
「これが私の全て!!
そうして特異点は、まばゆい光で覆いつくされる。
カメンライナー プリズマ☆イリヤ
魔法少女ライダー……数を揃えればニチアサを一度に楽しめるな