RTAとか誰も望んでませんよ先輩!?
「黎斗さん、時間軸の確認が終わりました。1431年です」
「ほう……フランスで1431年となれば、百年戦争の休止期間の辺りか」
「ですね」
黎斗とマシュは、第一特異点であるフランスにレイシフトしていた。サーヴァントの追加召喚を黎斗が拒んだため、二人きりでの旅となってしまっている。
マシュは少し……いや、物凄く不安だったが、今は人理修復に集中すべきだと切り替えていた。
「取り合えず、霊脈を探しましょう。現地の人々との接触もしないといけませんし……あっ」
そう言うマシュの目線の先には、既にいくらかの兵士がいた。
第一特異点人発見である。
こちらを見ながら、しかし近づかず警戒している彼らに、マシュが声をかける。
「エー、エーと、エクスキューズミー?」
「ひっ……敵襲!! 敵襲!!」
兵士は返事の代わりに一斉に武器を構えて広がり、二人を囲み込んだ。その顔には強い怯えが見られる。今日まで何か心労を抱えていたのだろうか。
「……黎斗さん私何かしました?」
「……マシュ・キリエライト、ここはフランスだろう?」
そう言って、黎斗が一歩踏み出す。マシュと周囲の兵は各々の武器を構えながら、固唾を飲んで彼を見つめていた。
「
流暢なフランス語を操る黎斗。彼は自分達がここに来た旅人で、ここで起きている異変について調べに来たということを
「ああ、そう言うことだったのか……武器を構えてすまなかった、砦まで案内しよう」
「ありがとう」
敵意を霧散させた兵達は二人を受け入れ、砦まで連れていってくれると言った。どうやら単独行動は危険らしい。
「……すいません、ここで何かあったのか教えてもらえませんか?」
「構わないが……少し長くなるぞ?」
フランス兵は様々な事を語った。
先日火刑になったジャンヌ・ダルクが悪魔と取引をして蘇り、竜を操って人々を襲っていること。
容姿は違うが紛れもなくかつての聖女と同じであること。
自分達の砦も襲われ続け、今はもうボロボロであること。
「そんな……事が……」
伝えられた惨状に息を飲むマシュ。まさか、ジャンヌ・ダルクが蘇るなんて……いや、蘇り自体はもう隣の黎斗のせいで見慣れてしまったが、それでも彼女の豹変ぶりには驚きしかなかった。
「……被害が大きいのはどこですか?」
「ああ……この近所なら、ラ・シャリテだろう。……まさか行く気か?」
「はい」
そこへ行けば、この特異点の異常も理解できるだろう、マシュはそう踏んでいた。……兵士はそれを聞いたとたん顔をしかめた。
そして危ないから止めろと言う。
「……それは出来ません。私達にはやらなければならないことがあるので……ねぇ、黎斗さん?」
「神の恵みを求めているなら、答えてやるのも一興だからな」
「……そうかい。せいぜい、死なないようにな」
いつの間にか、砦についていた。兵士は最後に励ましの言葉を呟き、砦の中へ戻っていく。
目指すはラ・シャリテ。二人はそちらへ目を向け、足を進め……ない。まだ進めない。
非常に道のりが長かった。この先にラ・シャリテが有るとは言われたが……その間に森やら山やらが存在していて、二人で進むにはかなり心もとない。
「ここからラ・シャリテってどのくらいですかね?」
「それなりにあるだろうな。目算だと、歩いていたら、確実に日が暮れる……」
「そうですか……」
ほんの少し落胆の顔を浮かべるマシュ。今日は休んで、明日行くべきだろうか。
しかし、黎斗は……隠し玉を持っていた。
「だが」
「?」
「……私が足を持ってきていないとでも?」
『爆走バイク!!』
黎斗は懐から、持ってきていた
それと同時に、
「あれ、新しいガシャットですか……?」
「寧ろ此方が古い位だが……性能は保証しよう。乗るがいいマシュ・キリエライト」
バイクゲーマに股がりそう言う黎斗。マシュは彼の後ろに乗り込み、覚悟を決めた。
「……飛ばしていくぞ」
───
ラ・シャリテに到着したのは、まだ日が傾き始めた時だった。
そこは酷い有り様だった。腐乱した死体、それを貪るワイバーン。街の全体がそれだった。
「酷い……」
「……被害の中心部にいけば、元凶も見つかるだろう」
バイクの上で涙ぐむマシュ。彼女はまだ、ひ弱な16歳でしかないのだ、無理もない。
黎斗は少しだけマシュに配慮したのか、更にスピードを上げる。血、肉、骨、蝿、竜、涙……それらの全てが残像となり、マシュには全てぼやけていった。
そしてハンドルを握る黎斗は……笑っていた。
暫くして、人形の何かが五つ並んでいるのが見えた。……サーヴァントだ。
「黎斗さん止まって!!」
「分かっているとも」
キキィッ
バイクゲーマから降りた二人は、その五体に向かい合う。
黒い旗を持ったサーヴァント……恐らくジャンヌ・ダルクが、こちらに目を向けた。残りの四体の内、長髪の男と白髪の女は此方に対して身構え、金髪の騎士と青い髪の女はしばらく離れた所で待機の体制をとっている。
「……あら、ここまでやって来るとはね」
「あなたは……」
「私はジャンヌ・ダルク。蘇った救国の聖女ですよ」
「ほう?」
自らをジャンヌ・ダルクと名乗る黒いサーヴァント。その旗は既に聖なるものではなく、ひたすらに邪悪を振り撒くモノと化していた。
黎斗は一つの疑問を浴びせる。
「君達が、特異点の原因かい?」
「そうだと言ったら?」
『駄目だ撤退だ!! 撤退するんだ!!』
通信機の向こうから、ロマン悲痛な叫びが聞こえてきた。5対2なんて、正気の沙汰ではない。
……しかしそんなの、元から正気の沙汰ではない黎斗の耳には届かない。
「当然、君を倒す」
『ガッチョーン』
「変身……!!」
『バグル アァップ』
「デンジャラス ゾンビィ……!!」
電子音と共に死を纏うゲンム。彼に相対するは、竜の魔女と前衛の二体、そして後ろで待機している二体だ。
だが、ゲンムはそれぞれを相手するつもりは毛頭無かった。勿論、マシュを頼るつもりもない。
何をするか? 答えは簡単だ。
「纏めて爆ぜるが良いさ」
『クリティカル デッド!!』
ドライバーをそう操作するだけで。地面から、大量の死霊が湧き出てきた。
「きゃぁっ!?」
「っ、何よこれ!?」
「ぐっ……数が多い!!」
前衛にいた三人は、死霊に絡み付かれ悶える。抵抗しようにも体の自由が利かないのだ。
「離れ……なさい!!」
旗を振ろうにも手が重い。黒いジャンヌ・ダルクその顔を苦痛に歪め、死霊の山に沈んでいく。
「ぐっ……がぁっ……!!」
杭を出そうにも近すぎる。男はその力を万全に使うこともできず、死霊に飲み込まれていく。
「あっ……くはぁっ……!!」
鋼鉄の処女なんて使ってしまえば自分が搾り取られるだろう。白髪の女は手足の自由を奪われ、闇の中へと埋もれていく。
三人は何もできない。後ろの二体もどうするべきかとまごついている。
そして、タイムリミットは訪れた。
「え、これ……光ってる?」
「ぐっ……がっ……!!」
死霊が点滅し出す。熱を帯びる。
それらの下敷きになっている三人は逃れる術もなく……
ドガァァーンッ
爆風が辺りを揺らした。
クリティカルデッド、それの力は死霊を取り出すだけには留まらない。……それは、死霊を爆発させる必殺技。
爆発の後に生きていた敵性サーヴァントは、黒いジャンヌ・ダルクと、後ろに控えていた二体だけだった。男と白髪の女は消えてしまったらしい。
「……マシュ・キリエライト。私はジャンヌ・ダルクを殺る。後ろの二人を押さえておけ」
「はっ、はい!!」
盾を構えて突撃していくマシュ。それを横目に、ゲンムは懐から一本の
『シャカリキ スポーツ!!』
「サイクリングはお好きかい?」
その音声と共に、
「な、何よそれは……」
「竜なんかよりずっと乗り心地の良いものさ」チャリンチャリン
その言葉だけを呟いて、ゲンムはスポーツゲーマを駆る。瓦礫を飛び越え、ワイバーンをすり抜けて即座に黒いジャンヌ・ダルクに接近し……
「はあっ!!」
バンッ
「きゃあっ!?」
轢いた。自転車で彼女を撥ね飛ばした。
ジャンヌ・ダルクは抵抗むなしく何度も轢き逃げアタックを食らい続ける。
「はぁっ……もう……止めて……」
バンッ
最終的に立っていることすら儘ならなくなり、壁に凭れる黒いジャンヌ・ダルク。ゲンムはその姿を満足毛に見やり……ドライバーを操作する。
『クリティカル エンド!!』
「はああああああっ!!」
スポーツゲーマを駆るゲンムが、ジャンヌ・オルタに肉薄する。竜の魔女は、扇動の旗を振ることすら叶わず……
ズガンッ
「かはぁっ……!?」
自転車からの蹴りを鳩尾に受け、膝をつく。凭れていた壁には放射状にヒビが入っていた。
まだファフニールが残っているのに。まだジルも残っているのに。まだ、フランスを焼く手段はいくらでもあるのに。ジャンヌの中に無念が渦巻く。
野望は叶わない。死んだものは……再び呼び出されるまでは、大人しく眠るべきなのだ。
「そんな、嘘よ、きっと嘘よ……ああ、ジル……!!」
そして、ジャンヌ・オルタはそうとだけ言い残して消滅した。
ゲンムは変身を解き、ジャンヌ・オルタの存在していたそこから聖杯を拾い上げる。
『ダッシュゥー』
「……呆気ない仕事だった」
「黎斗さん!! こっちに!!」
『敵性サーヴァント反応がいくつもある!! 今のうちにレイシフトを!!』
黎斗はマシュに連れられ、光に呑まれていった。
僅か4時間の聖杯探索だった。
後には、何も残らなかった。ただ、修正されていくフランスがあるのみ──
───
「……お疲れ様二人とも。……早かったね」
ロマンは冷や汗を垂らしながら、少し怯えた様子で言った。ここまで早いのは想定外だ。
「次のレイシフト先が見つかるまで、ゆっくりと──あれ、檀黎斗は?」
「もうとっくに出ていってますよ」
「はぁ……」
本当に大丈夫なのだろうか、アレ。ロマンはまた溜め息を吐いた。
黎斗に怯えているスタッフは多い。基本的には紳士として振る舞っているが、時々壊れる瞬間が否応なく恐ろしいとのこと。因みにフォウ……カルデア内を勝手に闊歩していた特権生物は、彼が来てからずっと管制室のマシュのコフィンに隠れるようになっている。
「……まあ、マシュ。これから……頑張ってくれ」
「はい……」
たぶんこれが一番早いと思います
黎斗の中のひとメンサ会員だし、きっとフランス語も流暢に違いない