「はあ、はあ……どうやら間に合ったらしいな」
「そうですね……!!」
アヴェンジャーとイリヤが、ルビーによって導き出された座標の元に辿り着く。そこには予想通り、黎斗と共に発ったジークフリートとナーサリーが立っている。
「ああ、良かった。敵だったらどうしようかと思ってたけど、貴方達なら安心ね」
「見知らぬ人もいるが……恐らく味方だろう?」
「ああ。……マスターは何処だ。オレにはエリザベートと、何故かいるネロと、黎斗をデフォルメした人形しか見えないが」
そう言うアヴェンジャー。まさか彼は、そのデフォルメした人形が黎斗本人だなど思ってはいない。思える訳がない。
しかし現にそうなっているのだ。黎斗は一つ伸びをして起き上がり、ふわふわと浮きながらアヴェンジャーに近づく。
「無事だったかアヴェンジャー。……私が檀黎斗だ」
「は?」
「ふぇっ!? いやいやいや、黎斗さんって確か……」
「ああ、ボディは生物学的には確かに人間だったんだが……いつ人間を辞めた?」
顔を見合わせるアヴェンジャーとイリヤ。ルビーは何か察しているらしくアヴェンジャーの手の中でプルプル震えたが、再び握り潰された。
「アヴェンジャー……そっちは、魔法少女か?」
「あ、はい。イリヤスフィール・フォン・アインツベルンです。……魔法少女やらされてます……」
名前を聞かれたので、イリヤは目の前の不可思議生命に取り合えず返事する。その不可思議生命は暫く唸り、そして再びアヴェンジャーに目を向けた。アヴェンジャーは黎斗に問う。
「それにしても、その格好は一体どうした? それじゃあ、まるで……」
「まるでおともだ、だろう? 実際、おともなのだよ。……そこで寝ている奴に無理矢理こうされてだな」
「……ネロか」
黎斗の返事にアヴェンジャーは苦笑いしながら、眠りこけるネロを見た。いや、魔法少女ネロ☆クラウディウスと言うべきだろうか?
「……おともと言えば、イリヤスフィールのおともは?」
黎斗が何気なくそう言う。アヴェンジャーは手を握る力を少しだけ弱めて拳を突き出して。
「……コレだ」
そう言って、アヴェンジャーは手を広げ、弱ったボウフラのように蠢く黒い棒を見せつけた。
黎斗はその凄惨な有り様に絶句し、その棒に何があったのかを軽く察して何とも言えない表情をしていた。
───
その頃。
「行くわよ行くわよ!!」
魔法少女コナハト☆メイヴを相手に、ラーマとシータ、そして二人の魔法少女四天王が交戦を続けていた。
メイヴは勢いに任せて戦車を暴走させ、敵対者達を撥ね飛ばそうとしている。
「くぅっ、存外に速いな……でも。シータ、宝具を!!」
「ええ。
ラーマの合図でシータが宝具を構えた。
弓から二体の竜が射出され、戦車で特攻を行うメイヴの戦車を貫く。
「きゃあっ!?」
「今だ!!
「
そして戦車から転げ落ちたメイヴにラーマとファントムが攻撃を浴びせ、彼女をだんだんと追い込んでいく。
戦闘開始からまだ時間は経っていない。ガシャットは、それだけ決戦力を持った兵器だった。
「くぅっ……クーちゃん助けて!!」
思わずその名を呼ぶメイヴ。しかしそのクーちゃんの方も、簡単には身動きの取れない状況で。
「ぐっ……暫く無理だ」
「
「チィッ……鬱陶しい」
ジル・ド・レェから飛び出した爪の生えた触手が、おともであるクー・フーリン・オルタを狙って降り注いでいた。
本来なら槍の一振りで全て引きちぎられていただろうそれは、おともの姿であるクー・フーリンにとっては確実に驚異で。
「
「甘いですねぇ!!」
反撃にと投げつけた槍も触手の壁に阻まれる。ジル・ド・レェはガシャットの力もあって、一人でおともを押さえつけることに成功していた。
───
「やっと観測が安定して出来るようになったと思ったら……」
ロマンは数百に渡る計算の末特異点の移動のパターンを解き明かし、漸く安定した特異点の観測を行えていた。
映っているのは、メイヴとサーヴァント達の戦闘だ。……はっきり言って順調その物だった。マシュが居なくても、このカルデアは十分人理修復が可能、という事を示していた。
「……でも、やっぱり凄いんだよな、ガシャット。……普通のサーヴァントに、もう用は無いってくらい」
そう言いながら彼はモニターから離れ、未だ眠っているマシュの元に赴く。
「なあマシュ。早く起きなよ。もうボクは君を止めないから。止められないから。だから……せめて、眠ったまま消滅ってだけは、止めてよ」
そう言ってみても返事はなく。
……仮に順調に特異点が見つかり、これまでのペースで特異点を攻略できたとしても、彼女の命は第七特異点で確実に尽きる。そして彼女が寝ていたとしても、タイムリミットは容赦なく近づいてくるのだ。
「……大丈夫かい?」
「ああ、ダ・ヴィンチ……それは?」
感傷に浸っていたロマンに、ダ・ヴィンチが声をかける。彼はその手に幾らかの道具を持っていて。
「……結局、私がガシャット関係の物を何か改良しようとする度に気絶するから……なんにも変更せずに、バグヴァイザーL・D・Vの二つ目を作った。で、余った資材でガシャットには依らない追加装備を幾らか」
そう言って手近な台にバグヴァイザーを置く。残りの見慣れぬ道具をロマンは手に取り、ついているタグを読んだ。
「……無限ガンドシステム搭載銃に? ルールブレイカーモード付きの短剣?」
「黎斗の物とは比べないでくれ、見劣りするのは分かってるから。何しろ私には材料が無かったんだ」
確かに、ガシャコンマグナムやガシャコンカリバー等と比べてしまえば見劣りする。ロマンはそう思い小さく頷く。ダ・ヴィンチは寂しそうに笑って続けた。
「……認めるよ。私がガシャットやバグヴァイザーに関われるのは、きっとここまでだ。もうこれ以上の研究をするのは危険だし、それが出来る余裕も無い。今まで何かしようとする度に気絶していたけど……多分、抑止力か何かの影響なんじゃないかな、とか思い始めたしね」
「人理焼かれてる状態で抑止力がすることがそれって言うのもおかしな話だけど……うん。出来れば、ガシャットには関わらないでくれ。きっと、抑止は君にカルデアのサポートを望んでるんだよ」
「ハハ、それならそれで……稀代の天才ダ・ヴィンチちゃんはまだ必要とされている訳だ。私の出番は黎斗に奪われてはいない訳だ」
そう言いながらロマンに背を向け歩き始めるダ・ヴィンチ。最初に彼を見たときと比べれば彼の背中は酷く小さく見えたが……ロマンはそれでも、黎斗よりはずっと頼もしく見えた。
「……じゃあ、ボクはマシュの面倒を見ながらタイミングを見計らって特異点に通信を入れてみるよ。君は、くれぐれも気絶しないように、ね」
「うん……マシュをよろしく」
───
そして、ファースト・マスターの作り上げたサーヴァントの大群は、今すぐにでも特異点の大地に舞い戻ろうと構えていた。
それぞれが武勇やら魔法で名のある英雄であるサーヴァント、その中でサーヴァント擬きである信勝も銃をとる。
「……僕が姉上を守ります。姉上の火縄と、この風の鞘で」
彼に与えられた宝具は三つ。信長の
彼はその剣を背負い、日本刀を引き抜いて構える。既に出撃の用意は整っていた。
穴が開く。ファースト・マスターの命の元、彼女に望みを叶えられたサーヴァントは、彼女の為に戦いの火蓋を切り落とす。
───
「マスター!! むこう、むこう見て!!」
「ん? ……サーヴァントが、落ちてきている、だと? しかも複数……いや、大群!?」
それは、アヴェンジャーと情報を交換していた最中の黎斗にもはっきりと見てとれた。
サーヴァントの雨。それは空から降りてきて地に足をつけ、全方位に出撃する。当然、黎斗達の方向へも。
「……どうやら、穏やかじゃない事になったようだな。おい、起きろエリザベート、ネロ」
「う、うーん……あと5分……」
「今すぐサーヴァントてしての契約を解除してあの敵軍に投げつけても良いんだぞ」
「起きまぁす!!」
黎斗の脅しで跳ね起きるエリザベート。ネロも一つ伸びをしてから起き上がり、その剣を迫り来るサーヴァント達に向ける。
「見たところ……ああ、こちらに来るのはサーヴァント五体。蹴散らせ」
「分かってるわよマスター!!」
「ああ、行くぞ……」
黎斗の声で真っ先に走り出すナーサリーとジークフリート。
「行くぞエリザベート!! 余についてこい!!」
「ええ、行くわよネロ!!」
『マジック ザ ウィザード!!』
ネロとエリザベートもキャスターとなった状態で相手に挑んでいく。
そしてアヴェンジャーはイリヤの前の地面にルビーを突き刺して言った。
「じゃあ行ってくるが……くれぐれも、ルビーには触るなよ。お前も毒される」
「はいぃ……あ、気を付けてくださいね」
「くははは、無論だ!!」
そして彼も駆け出す。
残されたイリヤに、黎斗がガシャコンマグナムを押し付けた。
「援護射撃を開始する、君も手伝え」
そう言う黎斗は浮きながらビームガンモードのバグヴァイザーを構えていて。イリヤは彼に並び立ち、トリガーを引いた。
───
「うーむ、結局壁を突き破ることは出来なかったのう……ここ、何かの結界なんじゃなかろうか」
「かもしれませんね……でも、そのギターっぽい何かで壁の厚さとか分かるんですね」
「ああ、なんか出来たようじゃったが、わしにも仕組みはよう分からん。取り合えずこれの刃を壁に突き立てて掻き鳴らしてみたら厚さが画面に表示されとった。存外ハイテクなんじゃなこれ」
信長と二人のアルトリアは、そう言いながら街の北側の壁から離れていた。残すところは見かけは割と大きな城のみ。
「だが、どうやって侵入するんだ? 壁の類いは一切の破壊が出来ないが」
「そうですよね。信長さんのギターの刃も、オルタさんのスティックの切っ先も、壁に刺さらず、刺さっても数㎝で止まってしまいます」
ここまでの探索で分かったことは、ここは狭い城下町で、物理的には建物の破壊は不可能で、そして衣食住には困らず人がいないことを除けばある種の楽園だった、という事だった。
「全く、信勝の奴め、本当に余計なことを……」
「ええと、信勝さんが信長さんをここに連れてきたおとも……でしたよね」
「ああ、本当に、あの馬鹿……何も言わずにこんなことにしおって。どうせ『これで織田の柵から解き放たれて楽しく過ごせますよ!!』……とか思っておるのだろうよ」
あまりの楽園っぷりにそう呟く信長。あまりに静かなその楽園は、彼女の目には寂しい廃墟にしか映らない。
「……真田エミ村は私達を生かすためにここに入れた。だが私にとっては、私達にとっては、ここにただ幽閉されるのは死よりも許せない。故に、私達はお前と共に行く」
スティックを回しながらオルタの方のアルトリアがそう言った。
城は近い。この空間から抜けるための戦いは、まだ始まってすらいないが……彼女らの決意は、既に固まっていた。
───
そして、メイヴとの戦闘も終わろうとしていた。
「
シュルシュル
「くっ……この、離しなさいよ!!」
戦車を失い地に転げ落ち、その果てにジル・ド・レェの触手に縛り上げられるメイヴ。既におともは力尽き消滅している。
もう躊躇うことは無い。ラーマとシータが彼女に向けて剣をつがえた。
「「
カッ
炎がメイヴを一閃する。
魔法少女は瞬く間に焼きつくされ……後には、無数の宝石だけが残された。
───
「ノッブ!!」
「ノブノブ」
ノッブUFOが空を走る。ノブ戦車が地を駆ける。
出撃して南に走った信勝は、既に幾らかの魔法少女を物量で殲滅していた。この瞬間にも、魔法少女マタ☆ハリに止めを刺している。
「止めて……お願い、殺さないで……!!」
「ごめんなさいね。貴女を殺さないと、僕の大切な人が死ぬんです。
ズドンッ
「きゃあっ……!?」
信勝に力はあまり無い。というか素の力はちびノブと同程度だ。しかし、三千世界に風王結界を纏わせて不可視の弾丸を放つことで、相手の目の前に居ながらにして奇襲を成し遂げていた。
「魔法少女、四人目……!!」
時は夕暮れ、空は茜色になっている。
その空を見上げることもせず、オレンジに光る宝石を拾い上げる信勝。
彼の目は、ただただ決意で満ちていた。
サーヴァント擬き、織田信勝
クラスは多分アサシン
☆は多分3
カッツ実装はよ