Fate/Game Master   作:初手降参

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戦いは連鎖する

 

 

 

「ふぅ……」

 

『ガッチョーン』

 

「……なんとか、倒せました……!!」

 

 

アヴェンジャーとイリヤは黒髭を焼き払い、消滅させて安堵を浮かべていた。二人は安全を確認して、共に戦闘体勢を解く。

既に粒子となり溶け消えた黒髭の場所を見てみたが、そこには何もありはしなかった。

 

 

「ふっ、何もなしか……」

 

「……あのっ、その……」

 

「……?」

 

 

ここに来ても何も得られなかったのであろう黒髭を軽く嘲笑うアヴェンジャー、その背後からイリヤが声をかけようとする。

しかし口ごもった。……彼女は彼を何と呼べばいいのかすらも分かりはしていなかったから。

 

 

「何だ」

 

「お名前……何ですか?」

 

「……アヴェンジャーだ。アヴェンジャーでいい」

 

 

そう言いながら彼は立ち去ろうとした。イリヤは暫くもごもごとしていたが、去っていく彼の裾を掴む。

 

 

「えっと、その、アヴェンジャーさん。……あの、私一人だと不安なので、着いていっても良いですか!?」

 

「……」

 

「うおー!! 言っちゃいましたね!! これはあれですか、お兄さまが増えるパティーンですゴポォ」

 

 

振り返ったアヴェンジャーは騒ぎ立てるルビーをデコピンで吹き飛ばし、イリヤの目を見て答えた。

 

 

「……オレは構わん、好きにしろ。ただし杖、お前は黙っていることだな」

 

「イテテテ……私を黙らせるなんて十年はゴポォ」

 

 

そして彼は歩き出す。つられるように、イリヤは彼の三歩後ろを歩き始めた。

ルビーは痛みを堪えていた。

 

───

 

その頃。

実は黒髭同様魔法少女四天王の一人であるディルムッドは、沖田と信長の前で正座してひたすらに大人の女恐怖症になるまでの経緯を語っていた。

 

 

「だからお願いです。何があっても、大人の女にだけはならないでください。少女には未来がある、だからこそ、大人の女になってその未来を無くしてほしくないのです……!!」

 

「はぁはぁ……ディルムッドさんも大変だったんですねー」

 

「そもそもサーヴァントにパソコン直してくれって言うのがおかしいと思うのじゃが。じゃが!!」

 

 

苦境を語る彼に流され共感する沖田と信長。しかし彼の頼み……「大人の女にならないで」は、彼女らには叶えられないのだ。

 

 

「……でも、やっぱりそれは無理な話なんですよ」

 

「……え?」

 

「何しろわしサーヴァントだし。享年49じゃからな!!」

 

「私も一応二十歳は越えてますよ。ノッブよりはずっと若いですけどね!!」

 

 

そう。サーヴァントは過去の亡霊。昔死んだ、もしくは未来に死んだ存在の残りカス。故に、それらに成長するなと言っても、なんともしようが無かったのだ。

ディルムッドはそれを聞き……血涙を流しながら踞った。

 

 

「あ、あぁ、あ……そうだ、いつもそうだ!! 俺に理解を示してくれた魔法少女は、みんな大人なんだ!!」

 

「うわぁ、血の涙を流しておるな……」

 

「余程苦労してたんでしょうねー……」

 

「なんでなんだ!! 俺の些細な望みすら、叶うことは無いのか!! おのれ神め、許せぬ、許せぬ!! この星に呪いあれ、魔法少女に呪いあれ!!」

 

 

そして一頻り泣いた後に彼は、今度は幽鬼のようにふらふらと立ち上がり槍を構える。

 

 

「ああああああああ!! いっそ殺してくれ、いや違う、俺が殺す!! 大人の女……消え去れぇっ!!」

 

 

そして黄色い短槍を信長へ降り下ろした。

 

 

「ノブッ!!」

 

「ノッブゥ!!」

 

   ズシャッ

 

 

土方と共に離れで待機していた信勝が、咄嗟にちびノブを送り込んで信長を庇う。

ゲイ・ボウに突き刺さったちびノブによって団子三兄弟ならぬちびノブ三姉妹が出来上がり、それに怯んだディルムッドの前に、信長と土方が立ちはだかった。

 

 

「姉上はまだ傷つけさせません!!」

 

「……新撰組に手を出したお前の敗けだ……!!」

 

「ぐっ、やはり増えたか……だが構わぬ、大人の女、纏めて排除してくれるぅっ!!」

 

 

猛りながら長槍を振り回すディルムッド。信勝は信長の隣に、土方は沖田の隣に移動した。

 

 

「うむ、ここが魔王少女の見せ所よな。行くぞ信勝!! ……何か出撃用の口上とか無いのかの?」

 

「そ、それは……あっ、敦盛とかどうです?」

 

「うつけ、それじゃ死亡フラグじゃろうが!!」

 

 

ちびノブと火縄銃とを呼び出しながら信勝とそう話す信長、いや、魔王少女バンバン☆ノッブ。

 

 

「今日も今日とて人を斬る!! 君も刃に突かれてみるか!! 朝から晩まで大勝利、最強無敵の桜セイバー!! 魔法剣士 人斬り☆沖田!! 参上です!!」

 

「……何やってるんだお前」

 

「名乗り口上ですよ!! たまにはやりたかったんですよコレ」

 

 

そしてその隣では、魔法剣士人斬り☆沖田が刀をディルムッドに向けていた。

 

 

「それじゃあ行きますよノッブ」

 

「ああ、出陣じゃあ!!」

 

───

 

「……チッ」

 

 

そして黎斗は、墜落したロケットから飛び降りて舌打ちした。ヒロインXのいた部分は彼女含め抉られたように消え失せている。

 

 

「師匠……!?」

 

「まさか壁にすらならなかったとは……!!」

 

「命は壊さぬ。そのロケットを粉砕する!!」

 

「……どうやらあいつは命にカウントされなかったらしいな」

 

 

にやつきながら呟く黎斗に剣を向ける白い女。エリザベートは混乱を隠すことなく半ばヒステリックに叫んだ。

 

 

「よくも師匠を……!! まず誰なのよアナタ!!」

 

 

そう言われると女は少しだけ困ったように俯いて。

 

 

「さて……私は保安官系魔法少女ワイアット☆アープ……だったが。名前を変えようか」

 

「……名前を変える?」

 

「私は国防長官系魔法少女ジェームズ☆フォレスタル!! ……おともは置いてきた」

 

 

そう言って剣を構え直した。黎斗はその名を少しかけて思いだし頷く。そして体内からナーサリーを呼び出し、サーヴァント達の後ろに下がった。

 

 

「ジェームズ・フォレスタル……鬱病で自殺した初代国防長官か。変なものをコピーするものだな」

 

「まあ、何にせよ……俺はあれを倒せばいいのだろう?」

 

「当然だ。だが今日は私は休ませて貰おう。……エリザベート、ガシャットを起動しろ」

 

「分かったわ。師匠の仇はここで討つ!!」

 

『マジック ザ ウィザード!!』

 

 

エリザベートが己の胸元にガシャットを突き立てた。

炎を放つ赤い魔方陣が彼女の左側に形成され……エリザベートを飲み込む。その炎が晴れたときには。

 

 

「……ほう?」

 

「キャスター、エリザベート・バートリー。……行くわよ」

 

 

エリザベートはオレンジ色の新衣装に変わっていた。持っていた槍はフォークに置き換わっている。

その隣でジークフリートも剣を構えた。

 

刹那の静寂の後に、三人は同時に地を駆ける。

 

───

 

そしてその頃、森を進んでいたグループの目の前に、一つの物体が飛来してきていた。それは地面に頭から突き刺さり小さく呻く。

 

 

   ズドン

 

「アイテテテ……急な方向転換なんてされたら振り落とされるに決まってるじゃん。酷いなぁ、もう」

 

 

おともだった。拳銃を持っている。……しかし、契約している筈の魔法少女の姿は何処にも見えない。野生のおともという事だろうか。

 

 

「……あなたは、だれ?」

 

「ハハッ、見ての通り使い魔(おとも)になったビリー・ザ・キッドだよ。便利屋系魔法少女 マルス☆アルテラのおともをしてる……いや、してた。振り落とされたけどね」

 

   チャキッ

 

「……!?」

 

 

そう言いながら銃を一行に向けるビリー。小さいながらも、その目は鋭くなっていて。……そして彼は、懐から幾らかの宝石を取り出した。

 

 

「一体どうして……」

 

「悪いけど、これも仕事なんだよね。()()()からの試練とでも思っておけばいいよ」

 

「……上の人とは誰だ」

 

「さあね。僕にも分かんないや。でも、魔法少女の宝石を集めれば自然と会えるだろうさ。……でもそれを考えるのは、僕を倒してからにすればいい」

 

 

そこまで言って彼はその宝石を飲み込み、唱える。

 

 

「宝石よ、力を!!」

 

 

瞬間、彼の体内に光が満ちた。その光は彼のシルエットを掻き消し、変貌させていく。

 

 

「何だこれは……!!」

 

「ビリーが……大きく……!?」

 

 

光が止んだときには、ビリーのサイズはサーヴァントと同じになり。目は光を失い、その代わりに混沌とした闇を湛え。全身に目玉のような痣が浮かび上がっていた。

 

 

「お前は、一体……」

 

「……今の僕はビリー・ザ・キッドであってそうじゃない。まあ、変なのとでも思っておけばいいさ」

 

 

ビリー本人は、そんな変化などどうでもいいと断じているようにも見えた。彼は禍々しいカラーリングとなった銃を以前の仲間に向け、引き金に指をかける。

 

 

「……じゃあ、勝負開始だ」

 

   パァンッ

 

 

弾丸が放たれた。

 

───

 

「一歩音越え、二歩無間……三歩絶刀!!」

 

破魔の紅槍(ゲイ・ジャルグ)!!」

 

無明三段突き(むみょうさんだんづき)!!」

 

 

ディルムッドと沖田の切っ先がぶつかり合った。一瞬両者は火花を散らして拮抗する。

 

 

   スパスパスパァンッ

 

「がはぁっ……!!」

 

 

しかし、すぐにディルムッドは貫かれた。膝をつく彼に、信長が弾丸の雨を浴びせかける。それと同時に無数のちびノブがディルムッドに襲いかかった。

 

 

三千世界(さんだんうち)!!」

 

「ノッブ!!」

 

「ノブァッ!!」

 

「ノッブノッブ」

 

「がはぁっ……ぐっ、え、ちょっ、来るなぁ!?」

 

 

結果的に傷だらけのディルムッドが、ちびノブに四肢拘束された状態になる。はっきり言って、既に勝負はついていた。

 

 

「くっ……俺は、魔法少女を守りたかった、だけなのに……!!」

 

「……ふざけた言い回しだな。お前は何も分かっていない」

 

 

項垂れるディルムッドの前に、刀を抜いた土方が立っていた。

彼の言葉をディルムッドは訝しむ。

 

 

「……どういうことだ」

 

「お前は何も分かっていない。……大人の女の我が儘を逆手にとって自分が相手を手玉にとる、それが一番楽しいんじゃないかよ」

 

 

一瞬ディルムッドははっとした顔をした。そして次の瞬間には、土方の一閃で消滅していた。

彼のいた場所に、彼がこれまでに倒してきたのであろう魔法少女の宝石がドロップする。土方はそれを拾い上げた。

 

 

「……4個か。ああ、上出来だ。今までの物と合計して、これだけあれば……」

 

「ええ……ついに、あのお方に会いに行けます……!!」

 




ビリーの状態
・サーヴァントとしての等身
・リヨ絵の容貌
・胴体の表面には何となく魔神柱っぽいデザイン

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