「さて、やって来たは良いが……」
レイシフトを終えた黎斗が周囲を見渡すと、そこは青々とした草原だった。敵なんて存在は確認できず、目を凝らしても遠くに木が一本視認できるのみ。
「何が起こる……?」
「って、何か落ちてくるわよ!?」
エリザベートが突然上を指差した。
見上げてみれば……何かが炎を纏って降ってきていた。
「え、ええええ!?」
「……ロケット……チッ。厄介な事になりそうだ……!!」
いや、正確には何かではない。白と青のロケットだった。黎斗は隣にいたナーサリーに声をかける。
「……何か撃墜する手だてはあるか?」
「あるわけ無いじゃない!!」
「……そうか」
ズドンッ
そしてロケットは爆音と共に大地に突き刺さった。煙が辺りを曇らせる。
「安心してくれ、放射線も殺人ウイルスも無い」
ジークフリートがロケットに近づきながらそう言った。ロケットには別段燃える素振りも無く、割と安全そうに見える。
見えていた。だが。
「セイバー発見!! 私以外のセイバー死ね!! 星光の剣よ、赤とか白とか黒とか消し去るべし!! ミンナニハナイショダヨ!!」
「!?」
ロケットから青ジャージが飛び出してきた事で事態は一変する。それは既にジークフリートに向かって極光を纏った剣を振り上げていて。
「不味い不味い不味い、ジークフリート、宝具だ早くしろ!!」
黎斗が慌てて指示を飛ばす。ジークフリートも突然現れた敵の宝具は警戒せざるを得ず、己の宝具も発動することになった。
「
「
ガキンッ
重い金属音が響く。打ち合いが続いた結果敵の放つ光はあらぬ方向……というか敵自身のロケットを破壊していた。
「くっ……!!」
宝具を使っても攻めきれず呻くジークフリート。敵もどうやら苦戦しているらしい。
黎斗がエリザベートの背を押した。
「チッ、飛び込んで時間を稼いでこいエリザベート」
「ええ、ちょっ、無理無理無理!!」
到底その指示には従えない、と言わんばかりにブンブン首を振るエリザベート。黎斗は辺りを見回しながらまた舌打ちをし、タドルクエストを取り出した。
「分かった分かった。君にとびきりの勇気を与えてあげよう!! 神の恵みに感謝しろ!!」
『タドルクエスト!!』
「それドーピングじゃないですか、やだー!!」
暴れるエリザベート。彼女をナーサリーに無理矢理取り押さえさせ、黎斗は彼女の首筋にガシャットを突き立てた。
「エリザベート・バートリは勇気で満たされた!!」
グサッ
「アッ──!?」
あえなくそれを受け入れるエリザベート。彼女の衣服は瞬く間に所謂ビキニアーマーに書き換えられ、顔には好戦的な笑みが浮かぶ。
「ふふっ、エリザベート、出陣よ!!」
性格にまで変更がかかったのだろう、エリザベートは剣を持ち、ジークフリートと唾競り合っていた敵の背中に飛びかかった。
「先手必勝!!」
カキン
「くっ、二対一とはアサシンのような奴らめ!! ブレイブとかふざけんなセイバー死ね!!」
しかし敵の方が上手だったらしく、二本目の剣を呼び出してエリザベートの攻撃を受け止めた。そして暫く二人を相手に切りあう。
……しかし、流石に疲弊し始めてきたらしい。敵の息は荒くなり、肩で息をしている。
「くっ……こうなったら私もなりふり構ってなどいられません!! マスターを人質にして……!!」
敵はそう言ってジークフリートとエリザベートの間からフッと消え失せ、黎斗の傍らに控えていたナーサリーを蹴り飛ばして黎斗の背後へと回り込み、即座に彼の首に剣を突きつけようとした。
……突きつけようとしたのだが。
『バグル アァップ』
『デンシャラス ゾンビィ……!!』
「……ん?」
彼女は違和感に気づいてしまった。
あれ、なんかコイツいつの間にか姿変わってない?
「……全く、神に逆らうとは。やはりクラスは変われどそこは変わらないんだな」
「え"っ」
そう、黎斗はバグヴァイザーを取り出して腰につけ変身していた。ゲーム病が落ち着いているから、変身という大きな負担をかけても、まあ彼は何とかなっている。
こうして、どう考えてもやべーやつと化したゲンムに怖じ気付いたのか、敵は彼から静かに離れようとした。
「わ、私は、その、そろそろ、し、失礼しようかなー……」
ガシッ
「逃がさないぞ」
『クリティカル デッド!!』
しかしもう遅い。遅すぎる。
無数のゲンムが地面から這い出して敵にもぞもぞと覆い被さり、そして炸裂した。
───
「……で、魔法少女って何なのじゃ?」
その頃、信長は草原に座り込み小さな信勝と話していた。魔法少女になれと言われても、それが何か分からなければ何ともしようがない。
「ええと、確か……僕のような
「なんじゃそれ。……というか、ちびノブを連れてきたのはお主じゃったのか?」
「はい……」
今明かされる衝撃の真実。信長は弟に頭を抱え苦笑いした。
「すいません姉上……」
「……仕方無い奴じゃ。で、魔法少女になったら何をすれば良いのかの?」
まあ、こうなってしまえば仕方がない。取り合えずここに待機しているわけにはいかないし、どうせなら魔法少女について知っておこう……そんな事を考えながら信長は信勝に問う。
「……僕としても大変嫌なのですが。……殺しあいです。魔法少女はおともと契約するときに一つの宝石を手に入れます。その宝石は魔法少女の力その物であり、魂です」
「ほう」
「宝石を集め、集め、集めて……あのお方のお眼鏡に叶ったなら、僕たちは次のステップに進めます」
「あのお方、とは誰なのじゃ?」
「……信勝にもよく分からないのです。ですが、信勝は命をかけて姉上をお守りいたします」
非常に怪しい気がしたが、信長は身内に甘い人間だった。彼女は信勝を信用し、契約を受け入れたのだ。
こうして、魔王少女 バンバン☆ノッブが誕生する事になったのだった。
───
そして黎斗達はと言うと。
「すみませーん、解放してくださーい」
黎斗によって拘束され、現在は柱にくくりつけられていた敵がもがいていた。
黎斗は彼女を定期的に監視しながら水色のガシャットを弄り、エリザベートは衝動をもて余しているのだろうか、己の持つ剣エイティーンを素振りしていた。
「あのー、助けて下さいよー」
「正体も分からない敵を解放する程私は酔狂な奴ではない。君は誰だ」
「フッ、よくぞ聞いてくれました。私はヒロインX!! セイバーの頂点に立つセイバー!! この宇宙で唯一無二の聖剣使い、ワン・フォー・オールなセイバーさんなのです!!」
そう名乗る敵、もといヒロインX。黎斗はキーボードを叩きながら溜め息を吐く。
「ハァ……」
「……襲ったことは謝りますから解放して下さいよ。私、セイバーの中のセイバーですし、皆さんの助けになりますよ?」
「そんなの願い下げだぁっ!! 私達は今から信長を探索しに向かう、君は肉壁に過ぎないぃっ!!」
そう怒鳴り付けられては流石に誰でも引く。ヒロインXは彼を説得するのは諦め、体をもぞもぞと動かしてエリザベートの方を向いた。
「ねね、そこの勇気ガンギマリなカワイイセイバーさん」
「ん、何かしら?」
呼び止められヒロインXに近づいていくエリザベート。黎斗は彼女を見ていたが声はかけない。
ヒロインXは縛られながら、しかし自身ありげに口を開いた。
「アナタには特訓と、そして尊敬できる師が必要です!! 師が必要なのです!! 長年セイバーとして戦ってきた偉大な先輩の助けが!!」
「……?」
「ですが幸運でしたね。さすが私。何を隠そう、この私ヒロインXはセイバー教職免許一級を保持しています」
首を傾げるエリザベート。だが、彼女が今の自分に何かを教えようとしている事は理解できた。そしてエリザベートは、彼女に一番大事なことを質問する。
「アイドルは? アイドルの教職もあるの?」
「と、当然アイドル教職もです!! 何しろ看板ですから。と言うわけで、ここにドゥ・スタリオンⅡが不時着したのも運命。アナタは私が一流の、歌って踊れるセイバーにしてみせましょう!!」
「おお!!」
そこまで聞いた所で、エリザベートが何をするかは確定した。エイティーンを振り上げ、ヒロインXを縛っていた縄を切ろうとし始める。
黎斗はそれを見逃すことは出来ず、椅子から立ち上がって彼女を止めようとする。
「おい馬鹿止めろ本当に切るなんてしないよな、どう考えても罠だっただろう? というか誤魔化しとしてもお粗末すぎるだろう!?」
しかし彼は理解してもいた。
プチッ
「ありがとうエリザベート!! それでは早速修行を始める!!」
「はい、よろしくお願いします!!」
「いい返事です!! それでは、取り合えずロケットの修理をお願いします!!」
黎斗はパソコンに突っ伏した。
───
「……さて。レイシフトして黎斗の所に行こうと思っていたが」
「……ここ何処なんでしょうねラーマ様」
そして、この特異点に新たなサーヴァントがまた一組。
ラーマとシータは、黎斗達の所にレイシフトされた筈だったが、何故か森林に飛ばされていた。
「微妙に見覚えがあるような無いような……あ、まさかこれは、アメリカの植物……?」
「いや、でも、確かこの特異点は一ヶ所には定まっていないはず……」
混乱する二人。道標は見当たらず、視界は深い木々に遮られている。
そんな二人に、やはり聞き覚えがあるような無いような、そんなサーヴァントの声が聞こえた。
「いや、それは確かにアメリカの植物だ」
「その声は、ジェロニモ……!!」
ラーマが振り替える。
しかしそこにいたのは。
「……二頭身?」
「二頭身、ですね……」
ただのジェロニモではなかった。二頭身のミニマムなジェロニモだった。
「……私はジェロニモだ。一応、一応な」
「じゃあ、その姿は……?」
「……サーヴァントとして呼ばれた筈が、何故かこんな小さな、魔法少女の
そう自嘲する彼は何処か呆れているように見えて。
しかしラーマはそこに違和感を覚えた。今、絶対何かおかしな事を言われた気がする。魔法……魔法?
「待った。余は魔法少女など知らないが……というか、それは存在しない者として考えていたが。どう言うことだ?」
「……実物を見た方が早い」
ジェロニモはそう言って……上を指差した。二人はつられて上を見上げ……
「上?」
「そう言えば、ここさっきから暫く日陰ですよね……」
「「──!?」」
「アンシャンテ。私、ポール・バニヤン。魔法少女……です。なんで少女なのかなぁ……おかしいね」
魔法童女 うどん粉☆バニヤンの姿を仰ぎ見た。
特異点キメラの影響でそれぞれの特異点の設定も狂っています