Fate/Game Master   作:初手降参

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私は生きます、先輩

 

 

 

 

 

「そら、もう少しで外だぞ」

 

「……」

 

 

黎斗達は刑務所から出ようとしていた。出口から光が差しているのが見える。

そしてその光は……見覚えのある二つのシルエットを浮かび上がらせていた。

 

 

「……サーヴァントか。あれは……フィン・マックールにディルムッド・オディナだな」

 

 

そう分析し、数歩下がってナイチンゲールの持っていたオーニソプターの影に隠れる黎斗。

どうやら向こうも一行に気がついたらしく、こちらに向き直ってくる。

 

 

「久しいね君達。再び会えて嬉しいよ。それじゃあ早速だが……本気でやりあおうじゃないか」

 

「貴殿方の武勇は実に素晴らしい。だが……それでも、私は王と共に戦う」

 

 

彼らはかなりやる気に溢れていたのだろう、こちらの話を聞こうとすることもなく、槍を向けてきた。

 

一行は彼らを警戒しながら刑務所から出る。黎斗達は白日の元に晒され、眼前に立つ敵を見つめた。

並んでいるのはフィンとディルムッド。ベオウルフはどこかにいったらしい

 

 

「よし……では、戦おう」

 

「不肖ディルムッド、行きます」

 

 

そう言いながら得物が掲げられる。

黎斗は己の駒を確認し、どうするかを考えた。

 

 

「……ラーマ、アヴェンジャー、出ろ」

 

 

そう指示する。ここまで何の不満も言わずに黎斗に従っていたラーマは、素早く剣を抜いて前に出た。

彼に続くように、指名された残りの二人も前に出る。

 

 

「了解した。何としてでもシータと再会する」

 

「……分かった、オレも出てやろう」

 

『ガッチョーン』

 

『Knock out fighter!!』

 

───

 

「マシュ、おいマシュ無事か!?」

 

『ドク、ター……』

 

 

カルデアの管制室にて、ロマンは画面の向こうで苦しみながら横たわるマシュを見ていることしか出来なかった。

 

 

「回復用術式もあまり機能していない、それに体が自壊しようとしている、ああどうすれば……!!」

 

『ドクター……』

 

「何だい!?」

 

 

呻くマシュを観察しながら呟くロマン。彼にはどうするべきかなどつゆ程も分からなくて。

 

 

『ドクター……』

 

「……」

 

『私……やりたいことがはっきりと分かったんです。何としてでも……私の、やり方で人理を救うって』

 

「だったら一層、今死んじゃだめだろ!!」

 

『でも……死ぬ気でやらないと、救えないから』

 

「……」

 

『……心配しないでください、ドクター。私は、死にません』

 

 

そこまで言ったところで、通信は突然切れた。ロマンは黒い砂嵐の吹く画面を前にして、やはり何も出来なかった。

 

───

 

偉大なる者の腕(ヴィシュヌ・パージュー)!!」

 

   ズシャッ

 

 

ラーマが虚空からチャクラを取り出して振り回す。ディルムッドは短槍でそれを防ごうとするが、しかし失敗して吹き飛ばされていた。

 

 

「がぁっ……!!」

 

   ミシッ

 

 

数メートル地面を抉りながら彼は転がされ、勢いが止まった時には、彼の持っていた黄色い槍にヒビが入っていた。

そして。

 

 

   バリンッ

 

「──!!」

 

 

砕けた。ゲイ・ボウは耐えられずに砕け散った。

これによって、ずっとジークフリートを苛んできた足の傷も回復する。

 

そして槍が折れた一瞬の隙をついて、フィンを抑えていたアヴェンジャーが移動し、ディルムッドを攻め立てた。

 

 

『Buster chain』

 

「ふははははは!!」

 

「くっ……!!」

 

 

拳の猛攻が降り注ぐ。

長槍を振り回し受け流そうとするディルムッドだが、ノックアウトファイターによって強化された高速の拳を避けきるなどまず不可能で。

 

 

『Buster brave chain』

 

「終わりだぁっ!!」

 

   グシャッ

 

「があっ……!? ……く、王、よ……ぐぅっ……」

 

 

アヴェンジャーに全身を破壊され、未だ戦う主を案じながら消滅した。

そしてそのフィンも、ラーマが次々に出してくる槍やら棍棒やらを相手して無事ではいられず。

 

 

「ディルムッド!?」

 

「余所見をするな!! ……もう一発!! 偉大なる者の腕(ヴィシュヌ・パージュー)!!」

 

「……はは……ここまでか。まあ仕方無い、存分に戦い尽くした。私は満足だな」

 

   ズガンッ

 

 

そして、彼は鳩尾に穴を開けた。

フィンは軽く笑い、そして光に帰っていく。

 

 

「さらばだ秩序の守り手。縁あれば、また会おう」

 

 

そう言って消え失せた彼のその姿は……黎斗は全く見ていなくて。

 

 

「……」カタカタカタカタ

 

「何をやっているのですか黎斗」

 

「君が知る必要は無い」カタカタカタカタ

 

 

彼はパソコンを叩いていた。画面にはオレンジ色の0と1が跳ね回っている。

黎斗はそれを睨み付けながら、何かを書き換えていた。

 

 

   ピピピ ピピピ

 

「……通信か。ジェロニモからだな」

 

突然振動を感じ、彼は懐で鳴ってい端末を手に取る。どうやらジェロニモかららしい。

黎斗は作業を中断し電話に出て、話を聞くこととなった。

 

 

「……どうした」

 

『不味い事になった。マシュがかなりのレベルの重傷だ』

 

「……」

 

『現在出来うる治療を行っているが、早くナイチンゲール女史に来て貰いたいところだな。なるべく早く頼む』

 

「……分かった。今どこにいる」

 

───

 

『……分かった。今どこにいる』

 

 

通話中の黎斗の声を聞きながら、ジェロニモはマシュの容態を見ていた。

肌からは血の混じった汗が出ている。髪の色は元々のピンクが青になったり灰色になったりしているという異常事態。

そして辺りに目を向ければ、助っ人によって設置された()の向こうに何人ものケルト兵が見えた。……まあ、吸われていくのだが。

 

 

「現在の位置は、ワシントンだ。ワシントンの一部を占拠している。といっても、兵に包囲されてるがな」

 

『なるほど、地獄だな』

 

「……助っ人が暫く防いでくれている。なるべく早く来てくれ」

 

『分かった、分かった。……じゃあ、今から向かってやろう』

 

「助かる」

 

 

ジェロニモはマシュの様子を見ながら、少しだけ安堵した。

彼の目の前のマシュは、カルデアと通信していた時からまた具合が悪くなり、今は意識不明の状態で譫言のように黎斗の名を呟いていた。

 

 

『で、誰を殺して、誰に逃げられた?』

 

「……インドのサーヴァント、アルジュナを撃破。ケルトのサーヴァント、クー・フーリンとメイヴに逃げられた」

 

『そうか。ああ、そうだ……石のように固いチーズを用意しておけ』

 

「?」

 

───

 

それと時を同じくして。

 

 

「……愛しき人の未来視(コンホヴォル・マイ・ラブ)

 

 

半分に磨り減ったケルト側のワシントンにて、メイヴはかつての夫から借りた宝具を利用していた。

それは一時的に未来を見る能力。この後誰がどう動くかのカンニング。

 

 

「……暫く相手は動かないみたい。どうしようかしら、クーちゃん」

 

「決まってるだろ。殺して殺して殺し尽くす、それだけだ」

 

「……そうよね」

 

 

メイヴとクー・フーリンの間に会話は無い。

……二人とも、最終決戦は近いと予感していた。

ほんの少しの戦力で、彼らはワシントンの半分を奪い取った。さらにこちら側の戦力として呼び出したスカサハは、勝手に裏切って宝具を展開しその土地を守っている。

この後更に敵は増えるだろう。その前に、攻めきらなければ。

 

───

 

「何だとぉ!?」

 

 

そして、エジソンは現地に忍び込ませていた諜報機器からの情報を見ながら吼えていた。

 

 

「どうしたの王様?」

 

「……あの不愉快なカルデアの奴が、ワシントンの半分をむしり取ったらしい」

 

「何ですって!?」

 

「しかも、同時にアルカトラズも壊滅させている」

 

「何ですってぇ!?」

 

 

飛び込んでくる偉業の数々にに驚愕するブラヴァツキーは、しかし何処かでそうなる事を予感してもいた。

 

 

「こうなれば、我々も兵を出す!! ケルトが弱っているのを叩くぞぉ!! もしカルデアが聖杯を奪ったとしても、数の力で押し潰すまで!!」

 

 

エジソンがその目を決意で燃やしながら立ち上がった。頭の中には、あの憎き黎斗の顔が浮かんでいる。

 

 

「では皆の衆、進軍せよ!! インダストリ&ドミネーション!!」

 

『『『インダストリ&ドミネーション!!』』』

 

───

 

そして、カルデアにてダ・ヴィンチは頭を捻っていた。

 

 

「うーん……」

 

 

マシュがああなった原因の一端が自分にあるように思えて、彼はバグヴァイザーの設計図を見直していたのだ。

バグヴァイザーの機能は黎斗の物を模倣してある。黎斗が無事に使っている以上、少なくとも体への害は無い筈だ。そうでなければ、いくら不死身を誇る彼でも仮初めの生を保つのは難しい。

 

 

「うーん……」

 

 

何がいけないのだろう。

武器としての機能が必要だったとは思えない。ガシャットを直挿しするよりバグヴァイザーを経て挿した方が体には良いはず……

 

 

「……バグ、スター」

 

 

ダ・ヴィンチは黎斗が言っていたその言葉を思い出した。

そう言えば、黎斗に取りついているナーサリー・ライムはバグスターだった筈だ。

 

 

「いったん観察させてもら……!?」

 

 

彼女は立ち上がろうとして……唐突に頭痛に襲われた。

全身に力が入らない。もがくことも出来ず、彼の意識は落ちていく。

 

 

「ぁ、が、ぅゎ……ぐ……!?」

 

 

何も考えられない。さっきまで何を考えていたんだっけ。痛い、痛い、とにかく痛い。

誰かが介入しているのだろうか。まさかソロモン?

 

 

「ぐ、ぁ……ぁ……!!」

 

 

ダ・ヴィンチはそんな事を考えながら、せめて今考えていることをメモに残そうとペンに手を伸ばす。

 

 

「ああ、あ、ぁ……ぁ!!」

 

 

字は歪んでいて、酷く頼りなさげで。

 

そして彼は、それを書いている途中に、とうとう動かなくなり……完全に静止した。

 




出来事と出来事の繋ぎって一番書きにくい

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