『Drive away the enemys!! Millions of cannon!!』
「そ……その姿は……」
黎斗はその場に尻餅をついたような状態で固まり、ただシールダーを見つめていた。
驚いていたのはその姿に大してではない。ちゃんと彼女は、黎斗がプログラムした通りの姿だ。
肩や腕にはドレイクの砲門がいくつもついていて、火力のある攻撃を繰り出すことに特化している。
足にはブーディカの車輪がついていて、機動力をよくしている。
そしてそれらはジキルやバベッジによって制御され、装着者を援護する作りになっている。
辺りにはエナジーアイテムが散りばめられ、戦いに幅を出すことにも成功している。
全て黎斗の思うままの姿。その中で唯一黎斗を驚かせていたのは……
……立っているシールダーの出す、気迫だった。
「……仮面ライダーシールダー、キャノンゲーマー。……黎斗さん、見ていてください」
「……いいだろう、見ていてやる」
黎斗のその返事を聞いたかどうかは定かではないが……彼女は、その車輪でもって文字通り滑るように走り始めた。
「怯んじゃ駄目よ、撃ちなさい!!」
「イエス、ドミネーション・オーダー!!」
「空になるまで撃ち続けます!!」
ブラヴァツキーが機械化兵士をけしかける。
火薬の弾ける音と硝煙の臭いとがたちまち辺りに溢れ始め、しかしシールダーは怯むことなく。
「行きます!!」
───
それと時を同じくして。
「全く……」
荷車の見張りを殴り倒したアヴェンジャーは、いかにもすまなさそうにしているジークフリートの縄を解いていた。
「すまないな、迷惑かけてしまって」
「何、魔術的な何やらが縄に掛けられていたらしいし、そもそもお前は手負いだ、気にするな。オレは縄を炎で焼ききることが出来た、そして取り合えず復讐した……それだけのこと」
「すまない……」
そしてアヴェンジャーは彼の縄を解き終えると、大口を空けて寝ている信長の縄に取り掛かる。
「むにゃあ……ん、ミッチー? ……zzz……ほらほら飲めよ飲めよ~……わしの酒が……zzz……飲めないってかぁ~? むにゃあ……」
「……酷い寝言だな。本能寺の変の原因はアルハラだった、なんてなれば洒落にならないが」
アヴェンジャーは何だか丁寧に縄を解いてやるつもりもすっかり失せて、適当に焼ききった後彼女を蹴り起こす。
ゲシッ
「ノブッ!?」ビクンッ
「ほら起きろ。俺達が寝ている間に、大事な大事なマスターさんは城の中に連れていかれたぞ」
───
『高速化!!』
「これでぇっ!!」
高速化のエナジーアイテムを手に入れ、シールダーは更に加速する。車輪が床を削り、キュルキュルと音を立てていた。
残像を残して走るシールダーは機械化兵士には、いや、それどころかサーヴァントであるエジソンやブラヴァツキーにも見てとれない。
そして次の瞬間には、機械化兵士は全て音を立て崩れ落ちていた。どうせまた入ってくるだろうが、そうなればまた倒せばいいだけの話。
シールダーにはその力と意思があったし、事実それは可能だった。
「不味い……まさか大量生産が間に合っていない!?」
投入される筈の兵士が途絶えた事に焦るエジソン。これ以上は危険と見たカルナが彼を庇うように立つ。これ以上の戦闘続行はアメリカにとって命取り、ここでフルパワーを出して終わらせる算段だ。
マシュは、既に壁に半分めり込んでいたナイチンゲールを引っ張り出していた黎斗を庇うように立ち、ガシャットを操作する。
「黎斗さん、私の後ろに。……これで決めます」
『Kime waza』
シールダーがキメワザの準備を整えた。……ガシャットの使い方は、既に頭の中に入っていた。
そして彼女は砲門を全て開き、足を思いきり踏ん張って、己における最強の一撃を放つ。
『Britain critical blast!!』
「はあああああああああああ!!」
ズドン ズドンズドン ダダダダダダダダ
彼女はその全身から弾丸を解き放った。それらはカルナの方向へと違うこと無く飛んでいく。
相対するカルナはその槍を構え、シールダーの全力に答えるべく宝具を解放した。
「伏せろ……撃墜する、
カッ
辺りを太陽そのものの熱と光が覆い尽くす。
カルナは、本来なら上空に投擲する槍を前方に突きだして、シールダーの放ったあらゆる攻撃を、その槍に纏わせた太陽の力で焼き払おうとしていた。
辺りに言葉に出来ないほどの轟音が鳴り響く。
そして。
「……逃げられたか」
カルナは、大穴の空いた城から忽然と失せた三人の行方を案じ、空を見上げた。
因みに、黎斗はどさくさに紛れてブラヴァツキーの身ぐるみを全てひっぺがし、奪われたあらゆる物を奪い返していた。
───
「まさかカルナを抑えて自力で脱出してくるとはな……」
ナイチンゲールを抱えた状態でシールダーに抱えられ、ずっと変な体勢で運ばれていた黎斗は、アヴェンジャー達と合流した事でようやく深呼吸をする事が出来た。
その場にいたのはジークフリートと信長とアヴェンジャー、そして……今話しかけてきた見知らぬ色黒のサーヴァント。
「あなたは……」
変身を解いたマシュが彼にそう問う。男は暫く考える様子を見せ、そして答えた。
「……私は……ジェロニモ。ジェロニモと呼べ」
「アパッチ族の精霊使い……!!」
聞き覚えがあるらしく反応するマシュ。ジェロニモは彼女の顔を見ながら小さく首を振る。
「精霊使い……いや、私はただの戦士だ。大した者ではない……所で、治療したいサーヴァントがいる。君たちも恐らく行くところはあるまい、手伝って貰いたく思っていたのだが……」
「当然行きましょうとも、ええ」
そしてジェロニモがそう言うや否や、黎斗に半ば投げ捨てられるように置かれたナイチンゲールが飛び起きて答えた。
「はぁ……私だけバイクゲーマで先を行っても構わないだろうか」
「くははは、何を言っている、道が分からないだろう?」
「……やろうと思えば割と行けたりするんだがな」
───
黎斗はそんな事を何度もぼやきながら、それでも実行すること無く、大人しくジェロニモについて歩いた。
やって来たのは既に住人の失せた街。ナイチンゲールがとある空き家に案内される。
黎斗は逃げようとしたがマシュに捕まり、治療を見学するはめになってしまっていた。
「……切断しましょう。両手両足、できれば肺以外全て摘出する感じで」
「待て待て待て待て!! 切断せずに、心臓の修復のみに注力して貰いたい!!」
ナイチンゲールの言葉を聞いて焦る、治療を必要としていたサーヴァント。
黎斗は彼女を見ながら、あからさまな溜め息を吐く。
「ハァ……やはりバーサー看護婦、容赦ないな」
「そのようだな。……所で、マシュ・キリエライトが使うようになったあのガシャットは、結局何なんだ?」
「ああ……ブリテン出身のサーヴァントを大量に内包したガシャットだ。相性がいい存在を集めてみようとしただけだったが……まさか自我を持つとは予想外だった」
「くははははは!! 傲ったな檀黎斗!!」
パァンッ
「そこ!! 治療の邪魔です!!」
会話が弾み始める二人にナイチンゲールがとうとうキレて、そのボックスピストルを二人の間に撃ち込んだ。
思わず萎縮する二人の横で、様々な事実が明らかになってきている。
治療を受けているのはラーマーヤナの主人公、コサラの王ラーマ。彼を傷つけたのはアイルランドの光の御子クー・フーリン。
そしてクー・フーリンの攻撃は呪いに等しく、ナイチンゲールの力だけでラーマを救うことは出来ない、ということ。
そして彼を救うには、違う何かで存在力を強化し、クー・フーリンに付与された因果を解消しなければならない、ということ。
「面倒なクリア条件だな。で、何がこのラーマの存在力を強化できる?」
「……シータ。我が妻、シータだ」
「?」
「必ずこの世界の何処かに囚われている。余はそれを糾し、居場所を知るために彼に挑んだ。……このざまだが」
ラーマはナイチンゲールの治療を受けながら、半ばうわ言のようにそう呟いた。
……彼女を見つければ、治療も不可能ではない。彼を治せば戦力強化、シータを探さないといつ手は無かった。
───
「……そうだ、わざわざ歩かなくてもスポーツゲーマ使えば良いじゃないか。速さ調節できるからはぐれる心配も無いし、問題あるまい」
『シャカリキ スポーツ!!』
「あ、丁度いいところに車輪が。一つ貰っていきますね?」
「……何だと?」
「ラーマバッグは患者は不満らしいので、仕方がないのでラーマ一輪車を作ろうと思って」
「は?」
「それとも何ですか? 治療の邪魔をするんですか? 対価なら拳銃の弾でどうです?」チャキッ
「ヒイッ」
治療の一応の中断から大体一時間後。
荒野を進んでいるのは、スポーツゲーマをあえなく奪われた黎斗とアヴェンジャー、そしてマシュと信長にジークフリート、さらにジェロニモとナイチンゲール……後彼女の押す一輪車に乗せられたラーマ。
何時もよりかなり大所帯となった一行は荒野を歩き続けた。
途中何度か敵に襲われたが、全てラーマを押したままナイチンゲールが排除した。お陰で黎斗は戦闘に関わらずにすんだが、歩いて疲れるものは疲れる。
そして。
「ふぅ……ここまでお疲れ様。オタクらがジェロニモの言ってた援軍?」
「ええ、まぁ……貴方達が……」
「あ、ジェロニモから聞いてた? ……そうだよ、孤軍奮闘のアーチャー二人組さ。オレはロビンフッド。そして隣のこいつが……」
「ビリー・ザ・キッド、だね」
ジェロニモの仲間達が交戦を続けていた村に到着した。
ジェロニモと彼らが言葉を交わすのを無視して、黎斗はその場にうつ伏せになった。既に黎斗はボロボロであった。
「生きていてくれて何よりだ、二人とも。こちらはデミ・サーヴァントのマシュ・キリエライト。そしてこちらが……半分寝ているのが、マスターの黎斗だ」
「なるほど、やっと孤軍奮闘を脱したか」
「大変だったねー」
取り合えずジェロニモの仲間二人は一行を歓迎しているらしかった。そして一行に合流する事になり、ますますサーヴァントの数が増えていく。
「それでは現状をお伝えします……」
マシュが彼らに、現在どうなっているかと、今後どうするかを手短に説明した。
ピンチはチャンス、とはよく言うが、実際彼女は
「……なるほど、このラーマってのを治して、」
「親玉を暗殺、ねぇ……まともな手段じゃねえか」
作戦……二手に別れて、片方はケルトの親玉を暗殺、もう片方はラーマを治療するという内容のそれを伝えるのには、30秒もかからなかった。
物事は早い方がいい。一行は黎斗がボロボロなのは適当に無視してさらに歩き始める。日は傾いていたが、まだ暫く沈みそうには無かった。
「……出来れば、セイバーとランサーに追加が欲しいところだな。ジークフリートは手負いだし、ランサーはそもそもいない」
寝ぼけながら黎斗が呟く。歩きながらでは作業も出来ないので彼は起きているために、何だかんだ言いながら、風景やら味方のサーヴァントやらを把握するように努めていた。
彼の呟きに、ロビンフッドが何処か嫌そうに答えた。
「いい、とはお世辞にも言いたくないが……当てはある」
「ほう?」
───
そしてとうとう夜になった。
ロビンフッドに案内されるまま次の街に入った一行は、街を襲っていた世にも恐ろしいそれを目にする。
「……で、その当てが? これか?」
黎斗は耳栓を探しながら、隣に立つロビンフッドに唾を吐いた。
彼の眼前では。
「♪ハートがチクチク箱入りロマン、それは乙女のアイアンメイデン ♪愛しいアナタを閉じ込めて、串刺しキスの嵐としゃれこむの」
煩い。
音程がとれていない。
リズムがちぐはぐ。
テンポがぶれる。
踊りすぎて声が擦れている。
マイクを辺りにぶつけすぎていて雑音が入っている。
数を上げればきりが無いであろうレベルの音が垂れ流されていた。実に恐ろしい。それを示すかのように、彼女を襲おうとしたケルト兵はボロ雑巾みたいになって倒れている。……何よりも恐ろしいことは、それがロビンフッドに言わせれば味方候補だった、という事だったが。
結局耳栓が見つからなかった黎斗は、苦々しい顔で文句を垂れる。
「壊滅的作詞センス。圧倒的音痴。清々しいまでの恥知らず……酷いな、なんだこいつは……」
「……オタク、中々言うねぇ」
「私の方がずっとましだ。少なくとも作詞センスは……一応こいつとは初対面だが、もう胸焼けがするレベルのくどさ──」
そこまで言ったところで、彼は凍りつく。
……彼女の向こう側でも誰かの歌声が聞こえてくることに、黎斗は気づいてしまったのだ。
「ん?」
「……どうした」
「おい、質問するが……向こうには、何がいる?」
「……オタクにとっては悪いお知らせ。多分この建物の向こう側では、セイバーが歌ってます」
「嘘だろ……?」
高速(早送り)化!! ジャンプ強化(展開飛ばし)!! 縮小化(黎斗の態度が)!!
話が難産な時って時々よくあるよね