Fate/Game Master   作:初手降参

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喧嘩売らないで下さいよ先輩!?

 

 

 

 

 

「……黎斗さん。黎斗さん」

 

「ぐ、が……」

 

 

固い床の上で黎斗は目を覚ます。

まだ視界はぼやけているが、馬車か何かの荷車の上だと察することは出来た。

 

 

「ああ、起きましたか黎斗さん」

 

「マシュ・キリエライト、か……何があった?」

 

「……カルナと呼ばれた英霊の攻撃を受けました。私が宝具で弱めこそしましたが、力及ばず全員纏めて失神して……」

 

「……ここに連れてこられた訳か。ふん、現在は輸送中といった様子だな」

 

 

彼を起こしたのはマシュだった。というか、マシュと黎斗しかこの荷車に座っているものはいない。

 

 

「ええ。今輸送中よ。逃げてもいいけど……その体でどこまでいけるかしら」

 

「チッ……隣のやつがカルナか。恐らく、マハーバーラタの」

 

「ああ……カルナだ。よろしく、とは言えないがな」

 

 

右側からブラヴァツキーとカルナの声が聞こえた。

オカルティスト、エレナ・ブラヴァツキーとマハーバーラタの英雄カルナ。見れば見るほど変な組み合わせだなと黎斗は思うが、それを聞くのは止しておいた。

マシュが黎斗に声をかける。

 

 

「どうしましょうか黎斗さん。生憎ですが、アヴェンジャーさんやジークフリートさん、信長さんはしっかりと念入りに気絶させられています」

 

「……そのようだな。……ナイチンゲールは起きているようだが?」

 

「でもすごく丁寧に猿轡をされているので、どうにも。……私は戦えますが、残念ながらバグヴァイザーは向こうに」

 

「思い上がるな、こんな至近距離で沢山の敵がいる。お前はどうせろくに戦えない」

 

「そんなこと決めつけないでくださいよ!!」

 

 

荷車の一段下がった所に、ジークフリートと信長、アヴェンジャーが積まれていた。その隣ではナイチンゲールが後ろ手に縛られた状態で体操座りをしている。

マシュは戦闘の意思を見せたが、黎斗は却下した。マシュはさらに不満を募らせていく。

 

 

「はいはい、そっちのよく気絶する人はよく状況が見えてるわね。いい子いい子……取り合えず、こちらの王様に会って貰うわ。その上で、どちらの味方になるか決めなさい」

 

「……はぁ」

 

 

ブラヴァツキーが黎斗をふざけながら誉めた。

黎斗はため息を一つ吐いてから、時間を無駄には出来ないとガシャットの仕上げにかかろうとする。

 

しかし、ガシャットは無かった。

 

 

「……待て、私のガシャットはどこだ」

 

「ガシャット? ……もしかして、これ?」

 

 

ブラヴァツキーが胸元からガシャットを取り出して見せる。それは黎斗が後一歩の所まで作成したプロトガシャットギアデュアルそのもので。

当然黎斗は激昂し、握り拳を作ってブラヴァツキーに殴りかかろうとした。

 

 

「返せ!! 私のガシャットを返せ!! 返グプウッ」バタッ

 

「黎斗さん!?」

 

 

しかし彼は病み上がり。カルナが彼を気絶させようと立ったときには、黎斗は血を吐いて倒れ込んでいた。

 

 

「あー、やっぱ発明家から作品取るとこうもなるわよねー。王様も割と似たような反応するし。でも、仕方無いのよ、ごめんなさいね?」

 

 

そう軽く謝るブラヴァツキー。既に黎斗の意識は無い。

それを知って、それでも構わないと言わんばかりに、彼女はマシュに伝えた。

 

 

「まあ、分かっているとは思うけど。この戦いはどちらかに与しなければ勝てない。両方に挑めば、両方に滅ぼされる」

 

「……」

 

「あたしたちが戦っていなければ、もうとっくにこの国は滅びていたのよ? ……まあ、取り合えず王様に会ってみなさいよ……面白いから。多分、そこの彼みたいに」

 

「なんか悪趣味ですね」

 

「……言うわね貴女」

 

───

 

「連れてきたわよ、王様~」

 

 

黎斗とマシュ、そして猿轡を解かれたナイチンゲールは、ブラヴァツキーに連れられ応接室らしき所に入ってきた。背後にはカルナが立っているため脱出は不可能、しかも残りのサーヴァントは外の馬車に放置である。

 

 

「おおおおお!! ついにあの天使と対面するときが来たのだな!! どれほどこの時を焦がれたか!!」

 

「……悪いわね。歩きながらの独り言は治らないのよ彼」

 

「今のが独り言なのか……」

 

 

反対側の廊下から聞こえてきた大音量の独り言に黎斗は顔をしかめた。

……正直な話ハイテンションな時の黎斗も独り言が大きいが、彼はそんなことには気づいていない。

 

そして、扉が開き……大統王が現れた。

 

 

   ガチャ

 

「──率直に言って大義である!! みんな、はじめまして、おめでとう!!」

 

「……」

 

「……」

 

「……」

 

 

ライオンだった。驚きの白さのライオンだった。

黎斗は手を頭にやり項垂れる。

 

 

「驚いたでしょ。ね? ね?」

 

「……それはまあ、驚くだろうな」

 

 

ブラヴァツキーとカルナがそう言葉を交わしていた。

黎斗は二人の方に少しだけ目をやり、呟く。

 

 

「……民主主義の国で王を名乗るなど、さぞイカれた野郎だとは思っていたが。流石にこれはキャラデザがふざけすぎている。シリアスぶち壊しだ」

 

「確かに驚きましたが……私も、少しずつ慣れてきました。というか、先輩の元々のサーヴァント三体と比べれば、まあ、ええ」

 

 

あれは悪夢だった……なんて顔をしながらマシュが黎斗の隣で一人ごちた。そしてすぐに表情を切り換え大統王に問う。

 

 

「それより、その……あなたがアメリカ西部を支配する王、なのですね?」

 

「いかにも。我こそはあの野蛮なケルトを粉砕する役割を背負ったこのアメリカを統べる王……サーヴァントにしてサーヴァントを養うジェントルマン!! 大統王、トーマス・アルバ・エジソンである!!」

 

 

トーマス・エジソン。その名は現代においてあまりにも有名。思わずマシュは息をのみ……黎斗は、()()()()()()()()()()()()()

 

 

「なんだ、訴訟王か」

 

「あ"?」

 

「トーマス・アルバ・エジソン。日本では名のある発明家として扱われているが、その実は発明家というよりむしろ実業家に近い」

 

 

黎斗は水を得た魚よろしく朗々と語り始める。それは……エジソンをとことん貶めるものだった。

 

 

「いや、私としては実業家が悪いとは思わない。私が憎むのはエジソンの所業だ。彼の代名詞として扱われている電球は、彼が勝手にジョセフ・スワンの作品をパクって改良したものだ。電話機も、グラハム・ベルの作品を改造したものだ。更に言えば、映画の特許が認められなければ弁護士団と共に殴り込み、さらにジョルジュ・メリエスの『月世界旅行』を盗んだ事もある!! そして自分は盗まれないように特許を守るための会社を設立したぁっ!! 」

 

「黎斗さぁんっ!?」

 

「先を越されないためにはマフィアすらも使い、他社を失敗させるために裏方を買収するその所業!! ライオンというか、この、薄汚いこそ泥鼠が!! 敢えて言おう、天才とは一つの閃きと九十九の恥知らずな悪行で出来ている!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハハハハハハ!!」

 

 

協力できるかもしれなかった勢力に真っ向から喧嘩を売るスタイルにマシュは絶叫する。ナイチンゲールは曖昧な顔をして沈黙し、ブラヴァツキーは目を閉じて「やっちまった」的な事を考え、カルナは相変わらず真顔。そしてエジソンは……

 

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

 

吼えていた。流石ライオンである。

黎斗は続ける。笑いながら続ける。幸か不幸か、発作は起きないようだった。

 

 

「そして当然、そんな訴訟王の思考回路など神たる私にはお見通しだ。どうせ、聖杯使ってアメリカを焼却から防ぎ、全く違うところにアメリカを出現させ国を守る……とかだろう?」

 

「……不快だ!! こいつらを断罪する!!」

 

 

エジソンは立ち上がって機械化兵士達を呼び出し、黎斗にマシンガンを向けさせる。完全に粛清する心づもりであった。まあ無理もない。

しかし黎斗は怯まない。さらに煽る。煽る。

 

 

「敢えて言おう訴訟王!! 神の才能を持つ男、檀黎斗は、貴様の考えには決して乗るまい!! 聖杯は諦めろプレジデントライオぉンっ!! あとついでに言えば、私はミスター・すっとんきょうのファンだあああああ!!」

 

「貴様あああああああ!!」

 

 

しかし更なる煽りによって、エジソンの意識は最早野獣のそれに近づいていった。

もう彼は、自らの手で一発彼を殴らないと気がすまないレベルのストレスを抱えている。仮にゲーム病だったなら一瞬で蒸発するレベルだ。

 

 

「グオオオオオオオッ!!」

 

   バリンッ

 

「きゃあっ!?」

 

 

テーブルが叩き割られた。右と左に分断された木片が辺りに吹き飛ぶ。悲鳴が一つ上がった。しかし、マシュとナイチンゲール、そしてカルナは既に席を立っていて、黎斗はエジソンの向かいに座っていた為ダメージを受けない。

では誰の声か。

 

ブラヴァツキーの物だ。逃げ遅れた彼女はその鳩尾に思いきりテーブルの半分を喰らっていた。

当然ノックアウト物である。そして黎斗は彼女の体を素早く乱雑にまさぐり、己のガシャットを引き抜いた。

 

 

「取り戻したぞ……私のガシャットぉっ!!」

 

 

黒く光る太いガシャットを掲げ狂喜に近い笑みを浮かべる黎斗。そして彼は腰からマイナスドライバーを取り出して、あたふたしている機械化兵士を横目に見ながら……ガシャットをついに完成させた。

 

 

「ついに出来た……出来た、出来たぞ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

「それどころじゃありませんよ黎斗さん!? ほら、周り見てくださいよ!! 既にナイチンゲールさんがカルナさんと乱闘してますし!! 野獣と化したエジソンさんが此方に牙を剥いていますぅっ!!」

 

「問題ないさ。私の神の才能の上に、悉く平伏するがいいさぁっ!! ハーハハハハ!! ハーハハハハ!!」

 

 

猛りながら黎斗は完成したプロトガシャットギアデュアル(仮)のギアを回そうとする。

本来なら、それだけで超強力なゲーマが出現し、辺りの敵を全て焼き払う筈だった。

 

 

「……ん?」

 

 

だが。

 

ギアが回らない。確かに動くはずなのに、というか完成する直前まで問題なく動いていたのに。

 

まるでガシャットが黎斗を拒否するかのように断固として起動されてくれない。

 

 

「おい、どうした?」ガチャガチャ

 

 

弄れど弄れど、ギアは回らない。

辺りを見てみれば、機械化兵士は半死半生状態のブラヴァツキーの指示で落ち着き始め、カルナは既にナイチンゲールを吹き飛ばしていた。

 

 

「グオオオオッ!! 他人をさんざん叩いてそのざまか!! すっとんきょうにも劣るな!!」

 

 

そしてエジソンはそう狂い叫ぶ。彼はバーサーカーもかくやの暴れっぷりを披露したからか少しずつ落ち着きを取り戻し始めていて、もう辺りに混沌を撒き散らそうとはしてくれないと容易に分かった。

 

 

「くそ、動け!! 私に逆らうな!! 動け動け動け動け!!」

 

「ええい、貸してください先輩!!」

 

 

マシュが黎斗からガシャットを奪い取る。黎斗としては、壊れているものはマシュが持っても無意味だと直感的に思っていたが……

 

 

「これで!!」

 

   ガチョン

 

Britain warriors(ブリテンの戦士)!! Millions of cannon(百万の大砲)!!』

 

「何だと!?」

 

 

マシュがそれを捻ると、ガシャットからゲーム名が鳴り響いた。マシュの背後にゲームのスタート画面が表示され、大砲やら車輪やらがついたゲーマが姿を現す。

 

自分でもビックリしているマシュ、愕然としている黎斗、どよめくアメリカ陣営。

 

そしてその場は一瞬光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……ここ、は?」

 

 

……マシュが目を開けると、そこは真っ白の空間だった。所々に0と1が見え隠れする、いかにも仮想世界、といった感じの世界。

……ガシャットの内部だった。

 

 

「……久しぶりだねマシュ」

 

「!?」

 

 

辺りを見回すマシュの背後から声が聞こえた。

その声は、久し振りのような、いつも聞こえていたような、そんな声。

 

マシュは振り返る。

 

 

「その声は……ブーディカさん!?」

 

「……久しぶりだね、マシュ」

 

 

マシュが知らず知らずの内に追い求めていた存在が、そこに立っていた。

 

 

「あたしもいるよ」

 

「ドレイクさん……!?」

 

 

気づけば、かつて目の前で黎斗に殺された誇り高い海賊もいた。

二人とも、マシュをいつも突き動かしていた存在だった。

 

 

「……僕もいる。まあ、君は僕を知らないだろうけど」

 

「我も存在している」

 

 

その声の方を見れば、ロンドンで黎斗に消されていた眼鏡の青年と全身機械もいた。

つまり……ここは、黎斗にゲーム病にされて消されたサーヴァント達の空間だった。

 

 

「皆さん……」

 

「……会えて良かったよ、マシュ。頑張ったね」

 

 

ブーディカがマシュの頭を抱き寄せた。マシュは多少の息苦しさを覚え、しかしその心地よさに身を委ねる。

ブーディカはそれにやさしく微笑みながら、彼女に語りかけた。

 

 

「ここは、黎斗くんの作ったガシャットの片方。私達の今の居場所。ここから……マシュをずっと見ていた」

 

「ブーディカ……さん……」

 

「辛かったよね。無理してたよね……分かるよ。だって彼、全然話聞いてくれないし」

 

「……」

 

「でも、彼を責めないであげて。彼も一生懸命やっている事には変わり無いから。怒るのは分かるし、私だって何も言われずに殺されちゃったから当然怒ってるけど……貴女が大変な時にまたこうして会えたから、ちょっとだけ許してあげてもいいかなって思ってる」

 

 

マシュは何も言えない。自分は彼女達の思いを背負って戦っていると勝手に思っていたが……そんな事は無かったのだ。ただ、守らないといけない、そして自分にはその力があると暴走していただけ。

 

 

「あたしもね、マシュを見てたけど……中々楽しそうな冒険だったじゃないか。別に死んだあたし達に執着する必要はない。マシュ、あんたは……あんたが思うような、楽しい旅をしてほしい、ここから見てる」

 

「ドレイクさん……」

 

 

ドレイクはそこまで言って、近くにいた眼鏡の優男と機械に目を向ける。

 

 

「え、僕も……? あ、僕に気を使う必要は無いよ。寧ろハイドがもう片方のゲームにいるから、彼を気にする必要が無くて寧ろ感謝してる」

 

「我もこの在り方に異論は無し。ただガシャットを蒸気機関にするべきだ」

 

 

そう語る彼らの言葉にも、苦しみは見られなかった。

 

マシュの中での、黎斗への身勝手な対抗心が、少しだけ溶けた気がした。

 

 

「……一緒に戦おう、マシュ。きっとこうして、ブリテン生まれのサーヴァントが集まったのも、きっと黎斗が用意してくれた縁なんだよ。……でも、今は何も考えなくていい。私達は、貴女の側にいるから」

 

「……はい」

 

 

そこまで聞いた所で、マシュの視界は再び光に包まれて。

 

───

 

 

 

 

 

「……行きます!!」

 

 

意識が戻った彼女は叫んだ。

 

どうやらあの光の中での出来事は一瞬にも満たない時間の事だったらしく、辺りは未だにどよめいている。

 

そしてマシュは、プロトガシャットギアデュアルB(ブリテン)の起動スイッチを押した。

 

 

「変身!!」

 

『Dual up!! Drive away the enemys(敵を打ち払え)!! Millions of cannon(百万の大砲)!!』




プロトガシャットギアデュアルB

A面……ブリテンウォリアーズ『百万の大砲編』

イギリスを舞台に、大砲の軍隊を指揮して外敵を排除するシューティング要素とシミュレーション要素を兼ね備えたゲーム……という設定

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