Fate/Game Master   作:初手降参

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第五特異点 北米神話対戦イ・プルーリバス・ウナム She's a 仮面ライダー?
宣戦布告です、先輩!!


 

 

 

「……成る程、ゲーム病が発症したか」

 

「ゲーム病?」

 

 

目を覚ました黎斗が真っ先にロマンに聞かれたことは、何故体が透けたり歪んだりずれたりするのか、ということだった。

黎斗はほんの少し考えたあと、特に感慨もなく返答する。しかしその返答はロマンには理解の及ばない範囲で。

 

 

「ゲーム病……? ゲーム病……そんなの、聞いたことないよ」

 

「だろうな。……出てこいナーサリー」

 

「はーい」

 

 

ベッドに横たわったままの黎斗からオレンジの粒子が漏れでて、ナーサリーの形を形成する。

当然そんな現象知らないロマンは腰を抜かした。

 

 

「ええっ……サーヴァントが、体から!?」

 

「バグスターだ。今のこいつは、ナーサリー・ライム・バグスター。私に感染しているウイルスだ」

 

「……ウイルス?」

 

 

魔術的な存在であるサーヴァントと、科学や医学の範疇であるウイルス。魔術と科学は近いと聞くが、それを考慮してもそれらの関連がよく理解できず、ロマンは首を傾げる。

黎斗はそれに対してこれといったリアクションを見せることなく、簡潔に説明した。

 

 

「こいつが私に取りついている限り、私に存在やら何やらを吸われ続け、最終的には消えるだろう」

 

「じゃあ、じゃあこのサーヴァントを倒さないと……」

 

 

そこまで言ってマシュと連絡を取ろうとするロマン。しかし黎斗は、彼の手首を強く掴み、それを止めた。

 

 

「何を……」

 

「いや、それは寧ろ不味い。ゲーム病を治すにはバグスターに対応するゲームをクリアせねばならないが……ナーサリー・ライムは童歌(わらべうた)だ。まさか本を切り裂いて、それが正しい遊び方だ、なんて言わないだろう?」

 

「……じゃあ、どうすればクリアになる?」

 

「……私も、正しい童歌の遊び方等々知らん。だが、こいつの望むように遊べばクリアになる可能性は高い。私が消えないように、精々何とかしておけ……」

 

 

黎斗はそう言って立ち上がる。その姿に、危機的状況に陥ったときに彼が見せる怯えや焦りは無い。ナーサリーはその場に残されたままだ。

ロマンは黎斗の背中に声をかけた。

 

 

「ちょっ、何処に行くんだ!!」

 

「……喚ばなくちゃいけない奴がいる」

 

───

 

「……約束通り、本当に押し掛けてきたな」

 

「ああ。俺を喚んだな檀黎斗。サーヴァント、アヴェンジャー……お前を翻弄しに来たぞ」

 

 

青い光の中から、アヴェンジャーが姿を現した。本当にやってきた事に驚きと安堵を覚える黎斗。

取り合えずアヴェンジャーの現在のステータスの確認を開始する。

 

しかしそれはすぐに中断された。

 

 

「黎斗さん!!」

 

「……マシュ・キリエライトか。久しいな」

 

 

召喚室に、マシュが息を切らしながら飛び込んできていた。

そして彼女は、黎斗のバグルドライバーを奪って変身しようとした時と同じ目で黎斗を見つめ、彼に言う。

 

 

「……貴方が生きていて良かったです。そうじゃないと、人理が救えませんからね」

 

 

その言葉にありありと見てとれる棘に、アヴェンジャーは笑った。

 

 

「ハハッ、随分好き勝手やったようだな」

 

「多少の犠牲は仕方無いとも。私にはやるべき事があった」

 

 

黎斗もそう返す。別に黎斗にとっては、マシュからどう思われていようとそれは興味の無い事だった。

マシュは黎斗に対して挑戦的な視線を向け続けながら、懐に手を伸ばす。

 

 

「……黎斗さん。貴方は、強いです……黎斗さん抜きで特異点を攻略して、やっと、本当の意味で気付きました」

 

「そうか」

 

「でも、私だって……強くなったんです。()()()()()()()()()

 

 

黎斗はそれも適当にあしらおうとし……

 

……大事な事に気がついた。

 

こいつは今何と言った?

 

 

「……うん?」

 

「ほう?」

 

 

黎斗が怪訝な顔をする。アヴェンジャーは新たな事件の予感に興味を示す。

マシュは懐に伸ばしていた手を引き抜き……そして、己のドライバーを取り出した。

 

 

「それは……それは何だ!?」

 

「……ダ・ヴィンチちゃんが作ってくれたんです。バグルドライバーL・D・V。これで私も、変身出来ました」

 

「何、だと……!?」

 

 

黎斗の足から力が抜けふらつく。アヴェンジャーは彼の肩を支えながらマシュのバグヴァイザーをしっかりと目に焼き付け、大笑した。

 

 

「くははははは!! お前が眠っている間に色々と起こっていたようじゃないか!! どうする? 己の才能が汚されたぞ? 復讐するか?」

 

「いや、まさかそんな、まさかそんな事があるだと……!? いや、そんな筈はない……だって……」

 

 

アヴェンジャーが黎斗を煽る。そして黎斗は煽られるまでもなく激怒していた。

だが彼は手を出せない。今バグヴァイザーはこの場に無いから。

 

 

「……言っておきますけど」

 

 

黎斗を未だに見つめながら、マシュが口を開く。ほんの少し、優越感を覚えているようにも見えた。

 

 

「今の貴方は、バラバラ死体を糸で繋いでそれっぽく見せ掛けているだけの状態です。完全に回復するまでは変身出来ません」

 

 

……それは、黎斗も薄々感じていた事だった。

手術によって歩くことは出来るが、走ると体を一瞬痛みが駆ける……そんな体験を、彼はもう何度もしていた。

 

 

「……ちっ!!」

 

 

黎斗はアヴェンジャーを引き連れ部屋を出る。

顔には青筋を立てていて。その手は強く握られて。それでも彼は今、非常にか弱かった。

 

───

 

「レオナルド・ダ・ヴィンチィッ!!」

 

「はーい、ダ・ヴィンチちゃんの工房にようこ……げぇっ、黎斗くん!?」

 

 

黎斗はその足で、これまでろくに訪れたことの無かったダ・ヴィンチの工房に飛び込んだ。

そして彼は、出迎えてきたダ・ヴィンチの首根っこを掴んで、唾が飛ぶのも構わずに叫ぶ。

 

 

「何故私の発明を模倣したぁっ!! 何故だ、何故だぁっ!!」

 

「いや、だって凄かったし。モノがあったら改良してなんぼでしょ?」

 

「その理屈は分かる、分かるとも。だが、それをやるのは開発者たる私の仕事だ!! 君の出番では無かった筈だ!!」

 

 

激昂する。激昂する。

ダ・ヴィンチは黎斗にとって決して許せない事を行った。

 

己の才能に作品にメスを入れられたのだ、彼にとっては予想外だし、それは本来ならあり得ないことである訳で。

 

 

「……でも寝てたじゃん」

 

「待てば良かったじゃないか!!」

 

「でも起きてから話しても聞かないでしょ?」

 

「当たり前だ!!」

 

 

ダ・ヴィンチは決まり悪そうに立っていた。彼とて、悪意は……殆ど無かったのだから。

ただ、その善意が相手の逆鱗を思いきり抉っていただけで。

 

黎斗は彼を見ながら大きく溜め息をつき、一つ舌打ちをした。

 

 

「……だが、今の私はこの体だ。君に何かをすることも出来ない」

 

「……」

 

「一応質問しておく。バグヴァイザーの機能は何だ?」

 

「……装着者の体を書き換えて強化する、所謂仮面ライダーへの変身機能」

 

「後は?」

 

「……えーと、粉をパラパラーってする攻撃。あと一応チェーンソーっぽいのもあったよね。……正直使い道無さそうだったから私はオミットしたけど」

 

「……ふむ」

 

 

ダ・ヴィンチは未だキレぎみの黎斗からの質問に、割と素直に答えた。

 

黎斗はその言葉を暫く吟味し……

 

 

「……まあ仕方無い、ということに、今はしておこう。……私が治ったら、また話をつけるぞ」

 

 

そう言い、部屋を出ていった。

 

───

 

「さて、第五特異点の場所は明らかになっている。独立戦争中のアメリカだ」

 

「ほう……」

 

 

次の日。管制室にサーヴァント達(ナーサリーを除く)と黎斗はいた。第五特異点に突入するのだ。

 

黎斗の事を考えると無理をするのは得策ではないが、先日の信長の世界の聖杯による異変などのイレギュラーが起こってしまって最終的に間に合わない事を考慮すると、少しの無理は仕方無かった。

 

 

「大事なことだから何度も言うけど。……今回は檀黎斗、君は変身してはいけない。だって変身したら、君は……」

 

「またバラバラになる、だろう? 何度も聞いたとも」

 

「ああ。それにゲーム病の事もある。……昨日から夜通しイギリスの童歌を読み聞かせているけど、一向に手応えがない」

 

「そうか」

 

 

黎斗にそう報告するロマン。彼は嘘など微塵も吐いていないらしく、その目の下には隈が出来ている。

因みにナーサリーは、態々ウイルスの状態になって黎斗の部屋に忍び込み、彼の布団で寝ているらしい。

 

 

「やれやれ……私は死にたくないが、今回の死は回避できる死だ。そもそもこれは私の計画の内だったからな。頼むぞ」

 

「はいはい……」

 

 

黎斗がそう言って、コフィンへと向かおうとする。アヴェンジャーは既に準備を整えていて、黎斗の隣にはいない。

マシュがまた黎斗の前に立ちはだかった。

 

 

「何だ」

 

「……安心してください。私が、私達が、マスターのサーヴァントとして、戦います」

 

「精々努力するがいいさ」

 

 

互いに苛立ちを隠さない会話。アヴェンジャーがいたなら黎斗を小者臭いと煽りでもしただろうが、それすらも無い会話。

 

 

「これが終わって、黎斗さんが体を治したら。その時、また戦いましょう。今度こそ、負けません」

 

 

黎斗はその言葉には答えず、彼女の隣を通ってコフィンに片足を突っ込んだ。

すると彼の隣に、彼とはまだ一度も話をしてこなかったセイバーとアーチャーがいる。

 

 

「……挨拶が遅れてしまったな。セイバー、ジークフリートだ」

 

「魔神アーチャー、信長なのじゃ!!」

 

「……そうか」

 

 

……彼はそう名乗られ、しかし彼らの自己紹介を軽くあしらい、コフィンの中へと入っていった。

そして、彼はまた青い光の中へと飲まれて……

 


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