Fate/Game Master   作:初手降参

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怠惰に沈める狂人

 

 

 

 

 

マシュとダ・ヴィンチは、寝たきりの黎斗と召喚されかけの新しいサーヴァントを放置して、侵入者の対処に追われていた。

 

 

「侵入者の反応は確かにこの辺りですよねダ・ヴィンチちゃん?」

 

「うん、そうだけど……っ!! マシュ、後ろ!!」

 

「!?」

 

   ガキンッ

 

 

ダ・ヴィンチの声で、マシュが素早く振り替える。丁度、何者かが彼女に攻撃を仕掛けてきていた。

マシュはその何者かを盾で弾き返し、侵入者の正体を見る。

 

 

「ノブノブー!!」

 

「!?!?!?」

 

 

ちっちゃいヒトガタの怪生物。

というか、三頭身位にデフォルメされた4コマのキャラ。

 

 

「なぁにこれぇ」

 

 

思わずマシュは呟いた。まあ仕方あるまい。

呆けるマシュを援護しながら、ダ・ヴィンチは声をかけた。

 

 

「気を付けてよマシュ、こいつらこう見えて、戦闘力はなかなか高い。変身するんだ!!」

 

「あっ、はい!!」

 

『ガッチョーン』

 

『Transform Shielder』

 

 

腰にバグヴァイザーを装備し変身するシールダー。辺りの怪生物は一瞬怯むが、その直後にそれを物珍しそうに見つめ、そして物欲をその目に映し出した。

 

 

「ノブノブー!!」

 

「ノッブー!!」

 

「行きます!!」

 

 

シールダーは駆け出す。バグヴァイザーを奪おうとする怪生物を打ち払いながら出現元を潰しにいく。

 

向こう側に見慣れぬピンク髪と黒髪が見えた。

 

───

 

「マスター!! 起きてよマスター!!」ユッサユッサ

 

「……起きてはいるが、お前が乗っていると立てないだろう?」

 

「あっ」

 

 

その頃、監獄塔にて。三日目の朝を迎えた黎斗は、ナーサリーに馬乗りになられ唸っていた。酷い寝覚めである。

 

アヴェンジャーはそんな黎斗を一歩引いて見つめていた。

 

 

「おはようアヴェンジャー。いい朝だな」

 

「皮肉とするなら中々だな、我が仮初めのマスターよ……さて、今日は第三の裁きの間を攻略するぞ」

 

 

アヴェンジャーはそう言い、さっさと二人を連れ出す。

本来なら相手に皮肉の三つや四つでも語っていたであろう彼は、しかし黎斗相手にそうする事も出来ず、仕方がないのでこう問った。

 

 

「……怠惰を貪った事はあるか」

 

「無いな。少なくとも、私が己の神の才能を知った時からは皆無だ」

 

 

返答に面喰らうアヴェンジャー。……しかしここで彼の異常性に追従し引き下がったら復讐者の沽券に関わるというもの。彼はこう続ける。

 

 

「……成し遂げるべき数々の事を知りながら、立ち向かわず、努力せず、安寧の誘惑に溺れた経験は? 社会を構成する歯車ではなく、己が快楽を求む個として振る舞った事は?」

 

 

その質問に黎斗はやはり即答しようとし、しかし思い止まって顎に手をやった。

そして暫く唸ってから、目の前のアヴェンジャーに答える。

 

 

「ふむ……いや、ともすれば、私にもあるかもな、怠惰。私は私の才能をフル活用しようと努力しているが、それが社会に真の意味で求められる歯車か……と問われれば、私は首を横に振るだろう」

 

「成る程な。……行くならさっさと行くぞ、こうしている間にも肉体と魂の乖離が進んでいる」

 

───

 

マシュとダ・ヴィンチ、そして先程怪生物を撃退するのに協力してくれたピンク髪と黒髪……そして妙に物腰の低い見知らぬ誰かが、召喚の部屋からベビーカーに乗せて連れてきてくれた昏睡状態の黎斗が、おそらく日本であろうどこかにやって来ていた。

 

 

「レイシフト、終了ですが……ここ何処でしょう」

 

「どうやら帝都聖杯の暴走で別位相に異空間を形成してしまったようじゃな……」

 

 

そう語る長い黒髪に軍服の女性、彼女は自称魔人アーチャーと名乗っていた。服からしてドイツ系だろうか。

 

黎斗を乗せたベビーカーを弄りながら聞き耳を立てていたダ・ヴィンチが、魔人アーチャーの言葉に反応する。

 

 

「聖杯の暴走だって?」

 

「はい、私達の世界の聖杯戦争ですが、願望機である聖杯をいじくり回した結果、暴走してしまいまして……」

 

「で、巻き込まれたわしの潜在意識を形どって現実を侵食し始めた、という訳じゃ」

 

 

魔人アーチャーとはうってかわって申し訳無さげに言うピンク髪で和服の彼女は自称桜セイバー。ダ・ヴィンチは彼女の言葉を聞いて感心した様子を見せた。

 

 

「ふーむ……聖杯ってそんなこともあるのか、面白いね」

 

「ダ・ヴィンチちゃん回収した聖杯を改造しようとか思ってないですよね? ね? ……取り合えず、特異点の中心地に向かいましょうか」

 

「そうですね、なし崩し気味ですみませんが、お願いします」

 

「うむ、それでは行くぞ、いざ天下布武!!」

 

───

 

暫く歩いていた一行は突然足を止めた。

理由は言うまでもない、第三の裁きの間についたからだ。

 

 

「……さて、そろそろ第三の裁きの間だ」

 

 

アヴェンジャーはそう言って扉を開いた。

やはり、ギギと重苦しく軋む音がする。そしてその向こうには、湿っていて暗い空間が顔を覗かせていた。

 

暗闇から声が響く。

 

 

「……おお、おお!! 主よ、我が第二の主よ!!」

 

「……また会ったな、ジル・ド・レェ」

 

 

怠惰の具現は、黎斗のサーヴァントだった一人……ジル・ド・レェ。黎斗はその存在を確信すると微妙な顔をした。対するジル・ド・レェはその顔を歓喜に輝かせる。

 

 

「再び会えて嬉しいですぞ我が主!! ですが申し訳ありません──」

 

 

彼はそこまで言って、そして懐に手を伸ばしてやはりあの物体を取り出す。

 

 

「──我が演目は全て全て全て全て、全ては涜神のそれと定められているがゆえ!! 私は貴方を!! 神を!! ……涜しましょう!!」

 

『ドラゴナイト ハンター Z!!』

 

 

ファントムがそうであったように、ジル・ド・レェもまたガシャットを所持していた。

プロトドラゴナイトハンターZが彼の胸元に突き立てられ、彼を黒く染めていく。

 

 

「輝かしき我が神!! 我が冒涜の前に震え上がれ!! 我が聖なる神よ!! 我が嘲りを受け堕ちろ!!」

 

「ははっ、相変わらずじゃないかジル・ド・レェ!!」

 

 

既に穢れきった元帥。聖なる者を忘れ去った男。……彼は新たに信じた神( 檀黎斗 )にさえ、容赦なくその牙を剥き出しにしていた。

 

 

「おお、おお、祝福をここに!! 我が高鳴りは限界を突破する!! 我が第二の神よ、貴方の魂でもって、最高のCoooooooolを表現しようではありませんかっ!!」

 

「やる気全開にしか見えないわよっ!?」

 

「ははははははは!! ほざけ童女、アレこそ怠惰の極みだろう!!」

 

 

慌てるナーサリー、そして彼女を嗤うアヴェンジャー。黎斗はジル・ド・レェを見つめながら分析する。

 

 

「言いたいことは理解したぞアヴェンジャー。つまり、あれは成すべき事を成さず、全てを忘れ、快楽に溺れ魂を腐らせた奴……と、言いたいのだろう?」

 

「分かっているじゃあないか檀黎斗!!」

 

 

自らの見解を示した黎斗、それはアヴェンジャーのものとピッタリ合致していた。もう彼は既に戦闘の体勢を整えているらしく、風もないのに緑がかったカーキ色の外套がはためいている。

 

アヴェンジャーに睨まれながらも、ジル・ド・レェは黎斗の言葉に対してまた歓喜を込めて叫んだ。

 

 

「おお神よ!! お褒めにあずかり恐悦!! 宜しい、宜しい!! それでは神よ、此処に喜劇を以て貴方を嘲るといたしましょう!!」

 

「全く、相変わらず楽しい奴だジル・ド・レェ!! ゆけ、アヴェンジャー!! ナーサリー!!」

 

───

 

「よし、今夜はここで夜営しましょう。宴の準備、二秒で」

 

「ええ……」

 

「ノブゥッ!!」

 

「ノブノブ」

 

 

一方マシュ達は、サーヴァント率いる敵の大軍を見つけて息を潜めていた。どうやら、宴を始めようとしているらしい。そして当然、サーヴァントの隣には怪生物が跳ねていた。

 

 

「ふむ……どうやら、サーヴァントが例の生命体?を連れているようですね」

 

「ふーむ、聖杯がサーヴァントを使役しているのじゃろうか」

 

「多分そうなんじゃないかなー……にしては、変なのも混ざってるけどね」

 

「それはともかく、あの大軍相手にどう戦いましょうか」

 

 

そう溢すマシュ。この少人数、しかもベビーカー入りの黎斗を連れて戦闘をするのは心もとないにも程がある、そう彼女は思っていた。

 

しかし彼女はつい忘れていた。彼女も今や黎斗と同じ規格外(仮面ライダー)だと。

 

 

「何言ってるんだいマシュ、今の君は黎斗と同じ仮面ライダーだろう?」

 

「え?」

 

「ほらほら突撃するんだよほらほら」グイグイ

 

───

 

「横から攻めろアヴェンジャー!! ナーサリー、凍らせて逃がすな!!」

 

「フハハハ!!」

 

「任せてマスター!!」

 

 

黎斗が指示を出す。標的はかつての仲間、既にある程度の行動パターンは割れていた。

 

 

   ズガンッ

 

「かはあっ……!!」

 

 

アヴェンジャーに蹴りを入れられたジル・ド・レェはよろめき、凍傷になりかけの足に鞭打ちそこから素早く飛び退く。やはりガシャットで強化されたサーヴァントは手強かった。

 

 

「流石は我が主。ですが私は止められない……螺湮城教本・竜の巻(ドラゴナイト・スペルブック)!!」

 

 

そうして、切り札が掲げられた。黎斗はアヴェンジャーを退避させ、ナーサリーの背後に回らせる。

 

監獄塔のレンガ積みの壁の隙間から無数の触手、しかも竜の爪が生えたものが現れ、ナーサリーを縛り上げた。

 

 

「きゃあっ!?」

 

 

動きを封じられ、しかもダメージを受けるナーサリー。刃物は服やら肉やらを容赦なく傷つける。

 

 

「ちょっ、離し、むぐうっ……」バタバタ

 

「その悲鳴こそ最上の調べ!!」

 

 

たった二体のサーヴァント、そのうちの一体が絶体絶命の状況に置かれていた。

……しかし黎斗は慌てもせず怯えもせず。

 

 

「アヴェンジャー、宝具だ」

 

「良いのか? 人質が取られているぞ?」

 

「私の才能があればなんとでもなる」

 

 

黒い布が舞い散る中、彼は事も無げにそう言って退けた。

……既にこの会話をしている間に、幾らかの触手はアヴェンジャーに狙いをつけている。

 

 

「……ははっ、全く分からない奴だ。良いだろう、我が征くは恩讐の彼方……!! 虎よ、煌々と燃え盛れ(アンフェル・シャトー・ディフ)!!」

 

 

その言葉を聞くやいなや、触手が素早く動き出した。辺りの空気すらも巻き込むスピードで。

 

……しかし、それがアヴェンジャーのいた所に突き刺さる時には、ジル・ド・レェの螺湮城教本は吹き飛ばされていた。ドラゴナイトハンターZも奪われている。

早い話が、アヴェンジャーの宝具は超高速移動なのだ。まあこうなるのも無理もない話だった。

 

 

「遅いぞ、遅すぎる」

 

「なあっ……!?」

 

 

触手は消滅し、ジル・ド・レェが魔術を行使する術は失われた。後は無力化され愕然とする怠惰の具現を討ち果たすのみ。

 

解放されたナーサリーが、不満を露にしながら黎斗に詰め寄った。

 

 

「酷いわマスター!! 私を何だとおもっ──」

 

「今は静かにしろ。……アヴェンジャー、止めを」

 

「ああ」

 

   グチャッ

 

 

彼女を軽く受け流して、アヴェンジャーに指示する黎斗の視線はやはり冷徹で。

しかし、ジル・ド・レェはアヴェンジャーにその身を破壊されながら、黎斗を見て微笑んでいた。

 

 

「……ふふっ……やはり、神には敵いませぬか」

 

「当然だ」

 

 

胴を分断されたジル・ド・レェに歩み寄った黎斗は、腕を組ながら彼に小さく微笑み返した。

 

 

「マスター、檀黎斗……我が第二の神。貴方の才能は素晴らしい」

 

「その通りだな」

 

「ですが忘れてはなりませぬぞ、少しでも気を抜けば、貴方は才を抱えたまま一気に滑落するでしょう」

 

「……知っているとも」

 

 

そんな返事を聞いたジル・ド・レェは、監獄塔の天井に手を伸ばす。当然その指先は既に粒子に還っていて。

 

 

「……はは、は……別れですね主よ。会えて嬉しかったですぞ。……最後は、笑いましょう。はは、ははははははは……」

 

 

そうして、ジル・ド・レェも笑いながら、この監獄から消え失せた。

 

───

 

そして、カルデアでは。

 

 

「……君、置いていかれたのか」

 

「すまない……レイシフトに入れてくれ、と言えなくて本当にすまない……」

 

 

ロマンは管制室でキーボードを叩きながら苦笑いした。目の前には、先程黎斗をベビーカーに乗せてきた()()()()()()()()()()

 

 

「いや、君は悪くないよジークフリート。でも、困ったな。さっきの怪生物にやられた後にレイシフトを行ったせいか、かなり設備にガタが来てる」

 

 

彼の真名はジークフリート。カルデアの新戦力……の筈である。おいてけぼりを食らっているが。

 

 

「……すまない、本当にすまない。せめて修理を手伝おう」

 

「助かるよ」

 




さらば触手要員

セイバー枠は銀河鉄道999さんからジークフリートを採用しました
もう一体はまだ未定

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