「さて、第二の裁きの間へと向かうぞ。……分からないだろうが、お前の肉体と魂がこうしている間にも乖離していっている。まだ消えたくなければ、裁きの間を越える他無いぞ」
「元からそのつもりだ。行くぞ、ついてこいナーサリー」
「はーい」
アヴェンジャーは、黎斗とナーサリーを引き連れ歩き始めた。
昨日と全く変わらぬ監獄を歩く三人。空気は湿っていてどこか鉄臭い。どこからか悲鳴も聞こえるが、それがこのシャトー・ディフなのだろう。
アヴェンジャーは歩みを進めながら、唐突にこう切り出した。
「……劣情を抱いたコトはあるか?」
「無いな」
「」
そして絶句した。予想外の返答を直ぐ様黎斗は彼に返していた。
「……一箇の人格として成立する他者に対し、肉体に触れたいと願った経験は? 理性と知性を敢えて己の外に置き、獣のごとき衝動に身を委ねた経験は?」
「無いな、無い。三次元の肉などに興味は無い。そもそも、色欲など健全なゲームの妨げにしかならないものだ。あれはプレーヤーを知性無き猿に変えてしまう」
「……」
「抜きゲーやらエロゲーなどもあるにはあるが……あんなものは邪道だ。私はあんなものに迎合するつもりはない」
こいつ、色欲を投げ棄てている……アヴェンジャーは呆れるというか寧ろ彼を変な意味で尊敬までした。
目の前でぶつくさと文句を垂れる彼は、真の意味で全く女に興味が無かったのだ。
「当然、色欲は人間……プレーヤーを増やすのには必要な欲だろう、否定はしないとも。しかし私は全く色欲を必要とはしないさ」
「……今回の敵は色欲を司る。行くぞ」
アヴェンジャーは何だか疲れてきたのでその思考を放棄して、裁きの間の扉を開けた。
───
今日も今日とて、マシュは得た力を使いこなせるように努力していた。
変身してからの基本動作は慣れたから、今日はダ・ヴィンチを相手に実践練習である。
「うん、じゃあ実践してみようか。変身して」
「はい!!」
『ガッチョーン』
『Transform Shielder』
電源一つで、マシュの体が組み替えられる。バグヴァイザーの力で彼女は変身していく。
彼女の中にあったのは、黎斗を圧倒し、そして人理を救う。それだけだった。
単純な思考回路。それは寧ろ彼女を強くする。
「……変身完了、だね。マシュ……いや、仮面ライダーシールダー」
「ですね」
「じゃあまずは、好きなように攻撃してきていいよ。そこから修正していこう」
「……はい!!」
目の前のダ・ヴィンチをしっかりと見据えながら、マシュ……いや、仮面ライダーシールダーはバグヴァイザーL・D・Sの使い方を思い出した。
まず彼女は、ドライバーの左にある赤いボタンを軽くタップし、盾を構えて飛び込んだ。
『Buster chain』
「はあああっ!!」
ガンッ ガンガンッ ガンッ ズドンッ
相変わらず主武装である盾を振り回し、質量兵器として扱う。その重みでもってダ・ヴィンチにダメージを与えようと彼女は考えた。
振り上げ、降り下ろす。押し付ける、押し潰す。一つ一つは単純な動作、しかしそれらは格段にパワーアップしていて。
効果はあったようで、ダ・ヴィンチは数歩後ずさって苦笑いを浮かべた。
「ひゅー、痛いなあ。流石私!! さあ、どんどんいくよ!!」
「望むところです!!」
───
「……ふぅ。戦闘終了、だな」
「やったわねマスター!!」
「……第二の裁きの間、簡単に乗り越えたなお前……」
「色欲など、私にとって既に排除された物だ。そんなものでは私の魂は傷つかない」
ドリルを持った色欲の具現を、黎斗は何の感慨もなく排除させた。
黎斗は仮面ライダーだったが、同時に経営者でもある……他人に効率のよい指示を出すのは割と得意だった。
「にしても、何だかすっきりしたな。一度色欲という概念を殺してみたかったんだ」
「……何故?」
「不快だからな。かつてポッピーピポパポの不埒な画像を見つけてしまった時には、うっかり書き手の名前や住所まで特定して全国に晒す位には不快感を感じた」
「……そうか」
そう語る彼は飄々としていて。
……アヴェンジャーとしては、七つの大罪に溺れ悩む姿を期待していたのだが。彼はかなり、いやアヴェンジャーの知る誰よりも非人間的だった。かの魔術王よりもだ。
「……明日は怠惰の具現が相手だ。さっさと戻るぞ」
昨日までは黎斗は実に人間的だと思っていた。でも、アヴェンジャーにはだんだん彼が理解不明を極めていくように思えた。
───
「そーれっ!!」
ガンッ
「ぐうっ……行きます!!」
ダ・ヴィンチと交戦中のシールダー。彼女はダ・ヴィンチの盾の隙間を狙っての攻撃を受けながら、しかし倒れずドライバーの右側の緑のボタンを何度も叩く。
『Quick brave chain』
「はあっ!!」
シールダーが一瞬、緑の光を纏う。そしてその光を纏ったまま、彼女はダ・ヴィンチに肉薄し、盾に重心を移して何度も蹴りを入れたり、盾を縦に回転させたり等して、素早い連撃を浴びせかけた。
「くうっ……やってくれたね!!」
ズドンッ
ダ・ヴィンチが反撃と言わんばかりにロケットパンチを撃ち込んでくる。
シールダーはそれを盾で受け止め、高く飛び上がって距離を取った。
デミ・サーヴァントであったときには、出来ない事だった。彼女は、確実に強くなっていた。
「さあ、最後のテストだ!! 」
ダ・ヴィンチはシールダーの成長に顔を興奮に輝かせながら、その手をシールダーに向かって伸ばし、言葉を紡ぐ。
「東方の三博士、北欧の大神、知恵の果実……我が叡智、我が万能は、あらゆる叡智を凌駕する」
「……!!」
「
ダ・ヴィンチから、光の弾が打ち出された。一目で、物凄いエネルギーを秘めていると見抜けた。
それに相対するシールダーは、ドライバーの右側と左側の、緑と赤のボタンを素早く叩き、その盾を大地に突き刺し握りしめた。
「防ぎます!!」
『noble phantasm』
「
光の壁が展開される。バグヴァイザーの力で強化された、人間に加工されたその宝具の名は、
その壁の前に、ダ・ヴィンチから打ち出された光の弾が激突し。
ズドォォォオオオオオオオオオオオンッ
───
「……ふぅ、お疲れ様」
「お疲れ様です……!!」
戦闘は終わった。結果は、マシュは吹き飛びながらも無傷、という物だった。
私の敵は私の才能だね、なんてダ・ヴィンチが呟く。マシュはそれに対して苦笑いを返しながら、彼と並んで歩き始めた。
「実は、サーヴァント召喚の準備が整ったんだ。一つ引いていかないかいマシュ?」
唐突に彼は切り出した。マシュは一瞬戸惑い、そして何の事かを理解する。
新しい仲間。次はきっとまともな仲間。それへの期待が、マシュの中で膨らんだ。
「いいんですか!? ……でも、黎斗さんは……」
「大丈夫大丈夫、取り合えず体があればサーヴァントは呼べるし、彼の分も取っておいてあるさ」
ダ・ヴィンチはそう言いながら、マシュを召喚用の部屋へと連れ込む。
彼は直ぐ様キーボードを叩き召喚の準備を済ませ、いつの間にか連れてきた昏睡状態の黎斗を召喚台の近くに添えて、そして召喚を開始した。」
「じゃあ、いっくよー!!」
「お願いしますお願いしますお願いします」
光が満ちる。前はさんざんなメンバーが呼ばれてしまったが、せめて今度こそ女性、いや、まともなサーヴァントが来てほしい……!!
マシュの心臓がバクバク鳴っている。下手すれば今にも割れそうだ。
光は未だに回転していて……
『悪いね二人とも!! 侵入者だ!!』
「「!?」」
『恐らく別位相からの直接の接触だ!! とにかく迎撃を!!』
「はっ、はい!!」
突然ロマンからそう通信が入った。
侵入者なんて、今までに無かった事だ。
……召喚の機械から金色の光が漏れているのが見えた。マシュは非常に後ろ髪を引かれる思いをしながらも、扉を開けようとする。
ノッブー!! ノッブノッブ
「……ん?」
「……なんか、なんか私凄くこの扉開けたくないんですけど、開けたら大変な事になりそうなんですけど」
「いや、侵入者だから。迎撃しないと不味いから」
扉を開けると、そこには──
仮面ライダーシールダー
身長 160cm
体重 49㎏
パンチ力 20t
キック力 19t
100メートル走 6秒
見た目のイメージ
仮面ライダーポッピーをサーヴァント状態のマシュっぽく塗り替えた感じ
作者は画力/zeroなため挿絵は書けません